芽生え
「おい、空!? どういうことだ! 内緒にしておくじゃなかったのかよ」
隣にいた陸は空に対して信じられないというように声を上げる。陸は空が団長に話したと思っているのだろう。しかし空は自身がしてきた事を何一つ口外してはいない。
だが団長は恐らく、空がしていたことを知っている。どういうことか分からず、混乱していると団長と目が合う。団長がさせようとしていることは察せられる。ここで嘘をついたら許さないという強い意図を感じる。
空はため息をつくと、隠す事を諦めた。どうせ嘘をついたところですぐにバレる。
皆の視線が空に集まってる。空はリュックサックを背中から下ろすと、リュックの中から"それ"を取り出した。
「な、銃!?」
「影が持ってた銃と同じ銃じゃない!?」
「じゃあ、あいつも影なのか!」
空が銃を見せた途端、辺りにざわめきが広がっていく。それの殆どは否定的なもので肯定の言葉は上がらない。彼らにとって銃とは影の象徴なのだ。しかしその騒ぎを団長はさらに大きな声で制する。
「静粛にしろ!! 空は影ではない! 空は巧みな戦術を使う事で影から銃を奪い取ったのだ!」
「奴らから銃を!?」
「それは本当なのですか!!」
団長が事の経緯を説明すると、周りの否定的な意見は徐々に消えていく。代わりに肯定的な意見や驚きの声が辺りに広がっていく。
「空、話してあげるといい。君は影に僕達が勝てると思っているかい?」
団長は空が考えている事を空自身の口から話させるつもりだ。何故、団長が空のしてきた事を知っているのかは分からない。しかしもはや言い逃れは出来ないだろう。
「ぼ、僕はあいつらは僕達と変わらない子供だと思ってます。銃を持っていなければ、単なる子供です。だから奪えば無力化出来ると考えました。僕らが勝てない筈ありません」
「なるほどね。では、具体的にはどうするつもりなのだね?」
「あいつらは自分達が最強だと思ってます。だから必ず単独で行動してる。だから僕は数の有利を利用すべきだと思いました。影の人数はそこまで多くありません。僕達は数で勝っています。三、四人ほどで影を翻弄し、罠にかける事が出来れば、銃を奪う事は容易な筈です」
空がそう言い切ると同時に周りから喝采が起きる。驚いて辺りを見渡すと皆の士気は絶好調になっていた。中には4歳程の子供まで部屋から出てきて作戦に参加すると意気込んでいる。
「ま、待ってくれ。僕は奴らと戦う気は……」
空は基本的に争いが好きな性格ではない。銃を奪ったのは影を殺すためではなく無力化するためだ。その過程にもし殺しをしなければならなくとも、殺しを最大目標として行動したくはない。
「こんな風に皆を調子に乗らせる為じゃ……」
空が何を言っても最早周りには聞こえる事はない。それだけ皆、影と戦う話に夢中になっているのだ。周りの反応を見てみると、歳が幼ければ幼い程、戦う事に積極的な様子だ。
「もう手遅れだよ。俺らまんまと嵌められたんだ」
止めようとする空に対し、陸は肩を掴んで首を振る。その言葉に空は諦めて足を止めた。これは団長の作戦だったのだ。影の襲来から皆は落ち込んでいた。それこそ生きる希望を失っている者もいたぐらいだ。
そんな中、影を倒し銃を奪い取る事に成功した空が来ればどうなるのか、団長には分かっていたのだ。
「けど、なんで団長は私達のしてきた事が分かったんだろ?」
陸と空の会話を隣で黙って聞いていたアリスは不思議そうに首を傾げる。その事なら空も疑問点だった。それに関して陸は思い当たる節があるようで、自分なりの考えを話す。
「つけられていた可能性は否定出来ない」
「だったら誰が僕達をつけてたんだ? 気付かないなんて事あり得るのか?」
もし本当につけられていたとして、何故それに誰も気付かないのか。
「まさか!?」
空はリュックサックの内側を手で探った。確かここら辺を二週間前に団長に触られた筈だ。細かく探っているとそれらしきものを手が捉える。
「あった!」
「なに、それ?」
空はリュックからとても小さな機械を見つけた。これは盗聴器だ。団長はこれでずっと空達を監視していたのだ。
「好き勝手やってくれるな」
空の目と団長の目が交差する。計画通りに事を進められた事で団長は満足気といった感じだ。こうして緊急会議は幕を閉じたのだった。
* * *
「なぁ、銃を奪った時の話聞かせてくれよ!」
「大変だった!? どうやって奪ったの!」
食堂で夕食を食べている間、空達は質問攻めにされた。達と言っても主に質問攻めにされたのは空だ。聞いてくるのは自分より幼い子供達だ。中には空よりも年上の人もいるが、基本的には幼い子供が多い。
口に夕食を運びながら、空はちらっと隣の年上の人が集まっているテーブルを見た。中にはこちらを睨んでる人もいてこちらにいい感情を持っていないらしい。自分達よりも年下なのにも関わらず、チヤホヤされている空の事が気に食わないのだろう。
「ほらほら、空君疲れてるんだから質問なら明日にしろ」
絶え間ない質問攻めに空が困っていると食堂をきりもっている女性から声が掛かる。年齢は12歳ほどでエプロン姿に三角巾で長いピンク髪をまとめている。
(12歳か……)
「ちぇ〜〜」
怒られて不貞腐れた子供達は素直にゆう事を聞き、自分達の席に着く。
「大変だっただろ? 子供達もテンションが上がっているみたいでな」
「いえ、別に気にしませんよ。あの、不躾な事を聞くようですけど、誕生日はいつですか?」
「ん? 私の誕生日は九月六日だけど、それがどうかしたか?」
「いえ、単に気になっただけです」
現在が七月三日なのであと三ヶ月余りといったところだろう。空は言葉を濁しながら、食べる事に意識を集中させた。
「しんどいなこれ……」
* * *
電気もともっていない部屋の中、一人の少年が寝たきりになっている”少年"を見ていた。呼吸はしているが、それは彼自身がしているものではない。機械が呼吸をさせているのだ。何度か苦しそうな顔をしている気がする。手を握っても昔のように握り返してはくれない。
そんな中、ベットに寝ている彼と初めて目が合う。それは苦しいと辛いと訴えている目だった。
「……」
少年は意を決したように救命維持装置を彼から外した。徐々に寝たきりの"少年"の息は弱まっていく。
「あ……がと……う」
それが寝たきりの"少年"が最後に発した言葉だった。それを最後に彼の呼吸は止まる。死んだのだ。
「しんどいな。これ……」
少年は空虚な目で天井を見つめた。




