真実
「この人が13歳?」
体もしわくちゃでどう見てもおじいちゃんの見た目だ。にわかには信じがたい事である。
「事実だよ。誕生日を迎えた今朝からずっとこんなか感じさ。なんとか、救命維持装置で意識を保たせているけれど、次期に死ぬだろうね。もう既に二人ほど犠牲者が出てる」
見た目の衝撃につい意識を持ってかれていたが、彼の体には病院でよく見る点滴や巧妙な装置なのが、沢山取り付けられている。
「なんでこれを僕に……」
受け入れがたい事実だが団長が空に嘘をつく理由がない。だとしたら今、聞かされたことは真実なのだろう。
しかし何故、これを空に見せたのかが分からない。見せるのなら信頼できる年長者にするのではないだろうか。
「君にはね見せるべきだと判断したんだ。現段階でこれを知っているのは僕と君とそれから副団長だけだね」
「僕に見せるべき?」
「第六感というべきかな。なんとなくそう思ったんだ。意味は分かるかな?」
「第六感……。言葉では説明できない六個目の能力」
かなり難しい言葉だが、国語は得意だったこともあり言葉への知識はそれなりにあるつもりだ。団長はそれを聞いて感心したように目を細める。
「そうだよ。よく知ってるね。君は賢い子だ。僕が次、何を言うのか分かるかな?」
「えっと、このことは多言するなとか?」
テレビなどでよく見たことがある。秘密を教えられた主人公は高確率でこの言葉を相手から言われるだろう。
「言う必要はないみたいだね。シェルターの子はこのことを知らない。知ったらパニックが起きるだろ?」
「隠せるのも時間の問題だと思いますけど……」
一人の人間がいきなり姿を消して、子供達が不思議に思わないわけがない。遅かれ早かれこのことを確実に皆に知れ渡るはずだ。
「その通りだよ。けど、隠せるまでは隠すつもりだ。それにこのシェルターにはもうすぐ13歳になる子も多い。年長者がパニックを起こせば、下の子がそれに感化されることも避けられない事態だろうからね」
空は年長者が13歳が寿命だと伝えられた時の反応を予想した。確かに多くの者が精神に異常をきたすだろう。もし空が7歳で死ぬと言われれば、恐怖で暴れ出すかもしれない。
「団長は今、12歳ですよね? どうしてそんなに冷静でいられるんですか?」
「……。簡単な話さ、僕は死ぬことを信じていない」
「信じていない?」
「僕はね、これは病気に近い現象だと思うんだ。病気というのは治せる。ただ、治し方が分からないだけなんだ」
団長の無感情な瞳に初めて感情が宿る。それはあるいの熱意だ。好きなこと、夢中になっていることを語るような子供に似ている。
「この人は間に合うんですか?」
空はベットに寝たきりになっている"少年"を見た。呼吸はこの数分間の間でかなり弱まってしまったように感じる。目はこちらを認識しているのか怪しいぐらいで、光がともっていない。空には老衰に近い現象のように思われる。出来れば助かって欲しいと切実に思った。
「悩ましい質問だね。しかし嘘をついても仕方がない。間に合わないよ。病気の治し方はとても時間がかかるんだ。勿論、努力はするけどね」
団長は嘘をつく気はないらしく、厳しい現実を語る。とてもとはどれくらいなのだろうか。空が13歳になる頃は治し方が判明するのだろうか?謎ばかり残り、頭がモヤモヤする。
「そろそろ行こうか。ここにいても仕方がない」
団長は扉を開け、部屋から出て行ってしまう。空は名残惜しさを覚えながら"少年"の手を話した。
* * *
「よっ、空!! 遅かったな、何してたんだよ!?」
年少者が集まる部屋に入ると、真っ先に声をかけてきたのは陸だ。黒くて真っ直ぐだった髪は年下の子にいじくり回されたのかぐちゃぐちゃになっている。
「ごめんごめん。話が長びいちゃってさ、大した事じゃないから気にしなくていいよ」
陸になんの話だったのかを訊かれる前に空は言う必要がないことだと念を押しておく。
何をしてきたかなんて訊かれても教えるわけはいかない。幸い、陸も散策はするつもりがないようだ。
「それより見ろよこれ!? ちびっ子達に引っ掻きまわされたんだ!」
「ハハ、確かにボサボサだもんな。でも子供達がはしゃげるってことはいいことだろ?」
「それもそうだな。この部屋の子供は凄く楽しそうだ」
陸の目線の先は部屋の奥の方で遊んでいる幼い子供達に向けられる。遊んでいる子は3〜5歳ほどの子供達だ。かき集められたオモチャを使って遊んでおり、その様子はどこか微笑ましい者がある。
子供の面倒を率先して見ているのはアリスだ。面倒見がいい彼女は、年下の扱い方が上手い。そのそばには瑠花もいる。4歳ほどの子供が面倒を見ているようで、楽しそうだ。
兄である空の視線に気づいたのか、瑠花の藍色の目と目が合う。空はなんとなく気まずくなり、すぐに目を逸らした。それを隣で見ていた陸は訝しげに顔を顰めた。
「お前、まだ……」
「6歳以上の者は広場に集合しろ!! 団長からのご指示だ!!」
「うわ!? なんだ!!」
突然、大きな声が響き渡る。恐らく、放送を利用したのだろう。何やら大事な話があるらしい。突然のことだったため、陸が驚きの声を上げる。
空は真っ先に部屋から出ると、広場の方に足を早めた。出来るだけ情報は手に入れておいた方がいい。
アリスと陸も走り出した空に後ろからついてきた。
広場に集まると、周りは沢山の子供でゴタゴタしていた。その数、およそ数百人だ。こんなに子供がいたのかと軽く驚かされる。
「よく集まってくれたね。長話も嫌だろうし、簡潔に話を終わらせようと思うよ」
団長は子供達が集まったのを確認すると、敷台の上から話をし始める。
「僕達はこれから影に対して反撃を撃とうと思う。これは理不尽に殺された子供達の仇を討つためだ! 君達の兄弟、友達沢山の大事な人達の命があやつらによって奪われただろう! 君達は奪われたままでいいのか!?」
普段は大人しく、大声を張り上げることのない団長は珍しく熱くなっている。最初は影と聞き、怯えていた子供達だが、団長の激励を聞かされ子供達の中から次々と声が上がる。
「いいわけがない!! 俺の弟はあいつらに殺されたんだ!」
「お姉ちゃんは私を庇って死んだ!! やり返したい!」
「僕だって親友を殺されたんだ!!」
数人の子供が声を上げただけで僕も私もと次々に声が上がる。
「凄い。流石団長だ……」
感情が昂る子供達を見て、空は感心した。彼は人の感情というものをよく分かっている。まさに上に立つものにふさわしい人格だ。
団長は子供達の感情が最高点に達したのを確認すると、腕を上げた。それは静粛にとの合図だ。それを見て子供達は一気に静かになる。そして団長はある一点を指差した。子供達の目が指を指された一点に集まる。
「え!? 僕……!」
そう、団長が指差したのは空だ。予想外の団長の言葉につい素の反応が出てしまう。
「このものこそ、あの影にはむかった勇敢なもの! 今こそ僕らの反撃の時だ!」




