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 空は周りを警戒しながら、ボロボロのマンションの扉をノックした。

しばらくすると中から返事が返ってくる。


「誰だ!?」


「僕だよ。空だ」


「空?」


 緊張しながら名前を名乗ると、中から声の主が姿を表す。

 赤色のツンツンとした髪にそれと同色の目を持つ少年だ。年は空達より少し上で8歳ほどだと思われる。名前は確か赤月とかいう名前だった。変わった名前なので良く覚えている。


「お前ら生きてたのか。二週間も姿を見せねぇから俺はてっきり……」


「俺達が死ぬわけないだろ!? さっさと中に入れろよ!」


「ちょっと陸! そんな言い方……」


「ハハ、いいってんの。子供は元気が一番だ」


人によってはキレられても文句が言えないほどの暴言だったが、赤月は言動の割には器が大きい。滅多なことではキレないので、空からしたらだいぶ好印象な人物だ。


「まぁ、入れよ。団長もきっと喜ぶぜ」


赤月はドアを開くと、空達を歓迎してくれている。空達は一度、入団を断ってしまった身だ。歓迎されないと思っていたので、彼の気遣いはありがたい。


「酷い有様だね。ここ……」


 中に入って辺りを見渡していたアリスはその惨状に感想をこぼした。

 中の様子はそう言ってしまっても仕方のないぐらいの様子だった。

 

 入り口付近は負傷者で溢れており、その大半がまだ幼い子供だ。空達よりも幼い子供もたくさん存在しており、いたいたしい光景である。


「幼い子供の方が狙われやすいんだ。瑠花ならあっちの部屋で寝てると思うぜ」


キョロキョロとしていたアリスの意図を察したのか、赤月は入り口から一番離れた位置にある部屋を指し示した。


「行ってきていいよ。僕は団長に会いに行ってくる」


「うん、空も後で必ずきてね。お兄ちゃんなんだから」


「分かってる。陸、一緒に行ってやって」


陸は団長を凄く毛嫌いしている。というか年長者そのものを嫌っているのだ。空はあまり陸と団長を合わせたくはなかった。

 瑠花が寝かされている部屋は年少者の部屋のはずなので、陸がストレスを感じることもないだろう。


「了解。あいつ一人じゃ危なかしいもんな」


空としては気を遣ったつもりなのだが、陸は全くそれに気づいていないらしい。 


「うん、お願い」


去っていくアリスとそれ追いかける陸を見送ると、空はなんだかホッとする。親友である二人だが、最近は陸の方はピリピリしていてアリスは落ち込み気味だ。

 この二週間、なんだかんだで気を遣い過ぎた毎日だった。


「あいからわずだな。空はあいつらのリーダーみたいだ」


団長の部屋へと案内されながらも赤月は空の行動を評価してくれている。


「僕、柄じゃないんだよな。こういうの」


「それは団長だって同じだ。真のリーダーは自分からなるもんじゃなくて、自然に仕切ってるやつがなるんだ」


「団長はなんでこんなことしてるんだろ?」


逃げ遅れた子供を無条件で助け、食料も分け与える。見返りも一切求めない。一種の慈善活動だ。それ自体は素晴らしいことだが、善良過ぎると逆に疑念を抱いてしまう。


「団長は根っからのお人好しなのよ。昔からそうだぜ」


「ふーん」


団長は12歳で赤月は8歳ほど。年は離れているが、幼い頃から育った二人は幼馴染のような関係らしい。故に彼がいうのなら団長は単にお人好しの善人なのだろう。


「ほら、着いたぜ。じゃあ俺は見張りがあるからこれで失礼するぜ」


赤月は案内を済ませると、すぐさま来た道を猛ダッシュしていく。赤月の姿はあっという間に見えなくなり、人混みの中に紛れてしまう。


「……。失礼します」


空は扉を軽く叩き、ノックをする。


「入っていいよ。空」


空は許可をもらうと、ドアをゆっくりと開いた。中にいたのは比較的綺麗な椅子に腰をかけている団長だ。ストレートな黒髪に藍色の目。


 顔はかなり整っており、白と黒のタキシードのような服を見に纏っている。同じ子供ながらどこか上品な雰囲気を感じる子供だ。


「……」


椅子の横にはオレンジ色の長い髪をポニーテールにした女の子が立っている。

 入った瞬間、かなり鋭い目で睨みつけられ、険悪な空気が流れる。


 団長の入団の誘いに断ったのがかなり気に触れたのか、空を目の敵にしている。

 温和な団長とは違い、彼女は真逆の性格だ。こういうタイプはなんとなく苦手である。


「息災だったかな?」


「ええ、まあ。団長もお元気でなによりです」


「あいにく、隠れんぼは得意でね。ここにはしばらく滞在するのかい?」


「はい。しばらくはそのつもりです」


空は背負っているリュックの紐をギュッと握った。中には昨日、影から奪い取った銃が入っている。もしバレたら取られてしまうかもしれない。これは空達のだ。誰にも渡すわけにはいかない。


「分かった、けどその前に一箇所着いてきて欲しいところがあるんだ」


「まさか!? 団長、あれを!?」


今までずっと口を挟まずに黙っていた少女が予想外の団長の言葉に驚愕している。

 空には何のことかちっとも分からない。団長は意志を変えるつもりはないらしく、椅子から立ち上がると部屋の奥にある小部屋に向かって歩き出した。


 着いてこいということだろう。一体何事かと思いながら、空は団長の後をついていく。


 部屋の中に入ると驚くことにまたドアがあった。団長はベルトにつけていた鍵でその扉を開ける。


 開けるとまた違う扉があり、団長はさっきとは違う鍵を使うことで扉を開けていく。鍵ひとつ持っているだけでは辿り着けない部屋。この部屋の最奥には余程見せたくないものが入っているのだろう。空はドキドキしながら団長の後をついていく。


 今度の扉は真っ赤な色だ。今までの扉が茶色だったことからこの扉が最後の扉であることが予想される。


「ここだよ」


予想通り最後の部屋であった。部屋はそこまで広くはない。奥にはひとつベットがあり、そこに人が寝かされてる。団長に誘導されるように空はベットに向かって歩み寄っていく。


「なんだこれ?」


 ベットに寝かされているのは一人の人間だ。その人間の見た目を見て空は驚きで息をつめる。


 驚いた原因はその見た目だ。体はまるで水が与えられていない植物のように乾燥しており、目は虚で意識がない感じだ。髪は真っ白く、これではまるで老人だ。生きてはいるようだが、これではいつ死んでもおかしくないだろう。


「団長、これは……?」


「……。どうやら老化に近い現象のようだ。信じられないだろうが、数日前までその子は12歳だったんだよ。今までの症例から見て僕らの寿命は13歳までと言ったところだろうね」


 団長は涼やかな表情で残酷な真実を言い放ったのだった。

 

 





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