町に蔓延る影
高層ビルの上階で銃声が止まなく鳴り響き続けている。
まさに一歩間違えば、死んでしまう状況だ。しかしこの作戦が成功すれば自分達にとって大きな前進になることは一目瞭然だ。
「いって!!」
今まで上手く交わし続けてきたが、銃弾が一つ足を掠めていた。
上手く走れなくなった空は相手が来る前に荷物置き場の中に身を潜めた。
足からは少量の出血をしており、安心することに致命傷ではない。
「流石に無事ってわけにもいかないか……」
肉が削れた部位にハンカチを結びつけ、出血を抑える。
打ち合わせてた場所まであともう一歩なのだ。諦めるのはまだ早い。
「さっさと出てこいよ! クソガキ!」
今回の影は少しばかり幼い。恐らく、9歳ほどなのではないかと思う。
お陰で誘導がしやすい。子供ぽい性格やえ、挑発に弱いのだ。
「こっちだ!! この凶悪サイコパス!」
空はいちにのさんで荷物置き場から姿を見せると、やつを挑発した。
銃弾を喰らわないように、挑発した直後すぐに走り出した。後ろを振り返らなくても銃弾でついてきているのが分かる。
もう既に目的地の場所まできていた。
「今だ!! やれー!」
空の合図と共に影の上にあった天井が凄まじい音を立てて崩れた。
「な!?」
これは影も予想外のことだっただろう。獲物が抵抗してくることなど、考えてもいなかったのだ。
幼い影はすぐさま逃げようとするが、気づいた時にはもう手遅れだ。影はあっという間にペシャンコになった。
「死んだのか……?」
影は首から下が埋まっており、身体もピクリとも動かない。
死亡を確認しようと、彼のそばに行き脈を見ようとしたその時だ。
「ばーか、死んでねーよ!」
死んだふりをしていた影は唯一動く左腕で空の胸元を打ってきた。
あまりに突然のことだったため避けることは出来ない。目を瞑り、死を覚悟した。
「危ない!」
横から誰かに押し倒され、銃弾は当たらなかった。
「いてて、ありがとうアリス」
「無茶ばかりするんだから! ほんとに見てられない!」
アリスはかなり心配しているのか少し怒っている。しかしこちらだって目的遂行のために頑張って行動していたのだから、少しぐらいよくやったと褒めて欲しいぐらいだ。
「よし、奪い取ったぞ!」
地面に転がっている二人にそう言ったのは建物の天井を崩す役を担ってくれた陸だ。手には黒く光る銃を持っており、埋まっている影から奪い取ったのだろう。
「くそ、集団で攻めるなんて汚いぞ!」
「それをお前らが言うのか!?」
影は最後にそんな言葉を吐き捨てるが、そもそも最初に集団で襲いかかってきたのは影だ。どの口でいっているのかと、怒鳴りたくなるのは空も同じだ。
「目的は達成だな。こいつはどうする?」
陸は銃を持ちながら倒れている影を指差す。自分達が生き残りたいのなら迷うことなく殺すべきだ。少なくとも陸はそう思っているだろう。
「いや、置いていこう。もたもたしてたら他の影が来るかもしれない。それに僕達が手をかけなくてもそのうち死ぬよ」
人殺しだとしても人の命を直接奪うことはやっぱり気が引ける。
「分かった。行こうぜ」
陸は銃を空に預けると先に行ってしまう。高層ビルにいる影は今仕留めた一人だけだとは思うのだが、単独行動は危険だ。
空とアリスは急いで陸を追いかけた。
* * *
空は集めてきた木の束を地面に置いた。それをアリスが慎重に重ね合わせ、石の摩擦を使うことで火をつけることに成功する。
よくテレビなどで火をつけるシーンを真似してみたのが最初だが、見ている時は簡単だと思っていたことが予想以上に難しいということを思い知らされた出来事だ。
しかしこれで何十回目の焚き火にもなると、すぐに火がつけられるようになった。
陸は取ってきた魚に棒を刺し、焚き火を利用することで魚を焼く。なんの魚かは分からないが、前に食べて大丈夫だったので今回も食べて平気なものだろう。
魚が焼けるのを待っている間、空は銃の汚れを拭いていた。使い古されているのか、やけに汚れている。
しかし点検してみたところ、まだ利用はできるようです銃弾も数発ほど残っている。
「それ、どうするつもりだ?」
空が整備しているのを見ていた陸は不思議そうに尋ねた。
元々、銃を奪うのは空の作戦だった。奪った銃をどうするのかは仲間には詳しく説明してはいない。
「僕的には護身用には使えるかなって思ってる。その勇気があればだけど……」
何度か警察官の父に銃を見せてもらったことがある。打ち方も知識も普通の人よりかは詳しいつもりだ。
銃というのは使い方によってはかなりの人の命を奪える道具だ。そんな道具を積極的に使いたくはないが、命を守るためならやるしかないという考えも確かに存在する。
「それ、やっぱり光に届けた方が良いんじゃないかな?」
アリスは火の様子を見ながら、不安そうに提案する。光というのは影への対抗策として生まれた年長者の集団だ。
11〜12歳ほどの年齢で構成されており、残虐な影とは違い、逃げ遅れた子供を助けたり、食糧を分け与えるなど良心的な集団だ。
「やめろよ、アリス。年長者は信用ならないよ」
陸は間髪入れず、アリスの提案を否定した。陸は影の一件からすっかり年長者に対して疑心暗鬼になってしまった。
気持ちは分かるが、仲間には当たらないでほしいと切実に願う。
「僕もそう思う。光にももしかしたら影のような考えを持つ人がいるかもしれないだろ? その場合、僕達が持っていた方が安全だ。光に遭遇しても、銃を持っていることは内緒だからな?」
「……。うん、分かった。二人の判断を信じるよ」
アリスは瑠花がいなくなってからというものずっと寂しそうだ。瑠花はあまりに幼すぎるため光に預けてきたのだ。
信用していない人に妹を預けるのは気が引けたが、自分達といてはあまりに危険すぎる。
「あれから三週間か……」
「長いようで短かったよな」
空は陸と一緒に今までのことに思いを馳せる。光への入団を拒否し、三人で今まで生き残ってきた。
こんな小さな自分達でも意外になんとかなるものだ。
「明日はどうするの?」
「うーん、一度光の住んでる三番街に行ってみるっていうのは?」
「理由は?」
陸はおもむろに嫌そうな表情を見せる。予想外の反応だ。しかしこれにはちゃんとして理由がある。
「困った時はいつでも来ていいって言ってたろ? それに僕達は今日の出来事で影に目をつけられた。今、三人で行動するのは危険すぎる。それに……」
「……。瑠花ちゃんのことが気にならんだろ? だったらそう言えば、俺だって反論しないっての」
「私も賛成! そのためにも今日は焚き火を消して、早く寝ましょう」
アリスは有無も言わせず、焚き火の火を消してしまう。
三人は身を寄せ合うように眠りについた。