不滅の子供達
「おい、空!! 起きろって!」
自分を起こす子供の声が聞こえる。自分はこの声をよく知っている。
とても懐かしい声のはずだ。空は飛び起きるように眠りから覚めた。
「いって!!」
勢いよく飛び起きたのが原因で空は寝ていたベンチから転がり落ちた。
そんな空を心配そうに見ている少年の目が合う。
「大丈夫か? お前は本当にそそっかしいな」
空が無事なのを確認して呆れたようにため息をつくその少年は空の幼稚園の頃からの親友である鈴山陸だ。
「悪い悪い、ちょっと眠くて……」
どうやら公園で話し合いをしていた最中に空は寝てしまったらしい。
地べたから起き上がると眠たい目を擦った。
「本当に空って脳天気だよね〜。私も人のことは言えないけど」
隣のベンチに腰をかけていたアリスは空の妹である瑠花をあやしながら、陸と同様に呆れた目になる。
「悪かったって、どこまで話したっけ?」
寝ていた影響もあるのか記憶が曖昧だ。頭はぼんやりとしていていつも通りに働かない。周りを見渡すと沢山の子供達が遊具で遊んでいる。
今日は学校がある日だというのにみんな学校に行く気配がない。
「さっきも話しただろ! 大人達がいなくなったって話だよ!」
「あぁ、その話か。でも大人がいないってこと学校へ行く必要がないから楽だよな〜」
話を忘れてしまった空に対し、陸は食い気味に状況を説明してくれる。
そう、朝起きたら街から大人が一人残らず消えていたのだ。
陸はこの状況にかなり焦っているようだが、空から見れば口うるさい大人がいなくなって清清としている。
実際、焦っている子供は陸以外は見られない。
公園には子供の楽しそうな声が響く。公園の近くに住んでいる頑固な老人からうるさいと言われることもないし、一日中遊び放題だ。
「でも学校は大事だろ!? 空だって学校を楽しんでる感じだったじゃないか!?」
「行けって言われてたから仕方なく行ってただけさ。行かなくていいなら殆どの人が学校なんて行きたくないだろ」
「……。アリスはどう思う!?」
熱弁したのにも関わらず、空から同調を得られなかった陸はアリスにも意見を求める。
「んー、私はどっちの意見も分かるって感じかなー」
アリスは元々脳天気な性格なこともあり、空と同じでそこまでこの事態をやばいと捉えてはいないらしい。
「うぅ……」
アリスからも確かな同意が得られなかった陸はかなり落ち込んだ様子を見せる。
元々、陸は精神的に弱いたちだった。半年前に両親を事故で亡くしてからはずっとその様子だ。
空気を読むことがとことん出来ない空でも流石に悪いことをした気になる。
「まあまあ、僕とアリスも兄さん探しを一緒に手伝うからさ、元気出せよ」
両親がいない陸は兄と同居していた。唯一の肉親である兄がいきなりいなくなり、不安なのだろう。
なんだかんだで陸が三人組の中で一番幼い。
「私も一緒に手伝うから、瑠花ちゃんも探してあげてね!」
「うぅー!」
アリスは膝の上に乗せていた瑠花に話しかける。まだ一才なので言葉を理解し切れていないとは思うが、奇跡的に返事をしたような形となる。
それを聞いた陸の今にも泣き出しそうな表情に笑顔が戻る。
「ありがとう三人とも! きっとみんなどこかに隠れてるだけだよ!」
陸はすっかり元気を取り戻し、公園から走り去っていってしまう。
恐らく、町中を回って兄を見つける気なのだろう。
「陸はああ言ってるけど、空はどう思う?」
「全員でいきなりかくれんぼなんてあり得ないよ。陸も馬鹿じゃないんだからそれぐらい分かってるんじゃないかな」
アリスの不安そうな質問に空は正直に思っていることを口にした。
不安を増幅させるような返し方ではあったが、現実から目を背け続けても仕方がない話だ。
「そうだよね。でも……気づいた?」
「なにに?」
アリスは周りで遊んでいる子供達を見ていて何かに気づいたようだが、空は何のことなのかさっぱりだ。
「街にいる子のみんなが十二歳以下ってこと」
「……!」
空は指摘されたことで改めて街の至る所に目を凝らした。確かに家から公園まで来る道中に、中学生や高校生の年齢は見られない。
「小学生までが子供認定ってことかな? だとしたら陸の兄さんがいないのも納得がいくね」
記憶が正しければ陸の兄は高校二年生だったはずだ。中学生から大人として扱われるのならば、陸の兄がいなくなった理由は理解出来る。
「大人達はどうして急に姿を消したのかな? お母さんはどこにいったんだろう?」
「ウゥ……ァ」
アリスは膝の上にちょこんと座っている瑠花を強く抱きしめる。
あまりの力の強さに瑠花がアリスの方を見上げる。アリスも口に出さないだけで不安ではあったらしい。
「空は不安じゃないの? 寂しくないの?」
「今んとこは」
空にはアリスや陸みたいに不安や寂しさというのは全くない。
これからそういった感情が溢れてくる可能性はなくはないが、ほぼあり得ないだろう。
むしろ解放感に溢れているといった方がいいのかもしれない。
「そっか、空はいつも通りだね。なんか安心するよ……」
空の平常運転ぶりにアリスは少し元気を取り戻す。
「ダメダメ! こんな姿、母さんに見られたら笑われちゃう!」
アリスは自分の頬を両手で強く叩くと、ベンチから立ち上がった。
「行こう! 大人達を探さないと!」
「待て、なんか聞こえる!」
「えっ!」
走り出そうとするアリスの手を掴み、空は遠くから聞こえる音に耳を傾けた。
幼い頃から空の耳は普通の人より優れていた。今は機械音のようなものが聞こえた。
これは市役所の放送がある数秒前に聞こえる音だ。
『こんにちは、皆さん!! 僕はこの街の新しい統率者になった影だ!! 君達には今から簡単なゲームをしてもらう! それは街中を利用した盛大な鬼ごっこだ!! 捕まれば死あるのみ! それが嫌なら東京タワーの最上階まで辿り着いてみろ! 見事辿り着けた暁には願いをひとつだけ叶えてやる! じゃあ、せいぜい楽しめよ、クソガキども!!』
街を利用した大規模な鬼ごっこが今、開かれようとしていた。




