3話 タイトルがいいとなんとなく見ないといけない気がする
それから数年がたった。
僕は変わらず画面をスクロールしていたが、横井さんはなおも話していた。
「私は今、すごい体験をしているのかもしれないね。本来なら理解できない事柄を君を通して理解できるんだもん!」
ここまでくると横井さんはもはや学問少女である。これほどまでに高潔な存在がいていいものか。
僕は感動のあまり涙が止まらなくなった。
「つまり君はライトノベルをある意味本能的な刺激を得るために使っているんだね。キャラクターを使って。」
「まあ、そう」
僕たちはある意味でワンちゃんなのである。その場で満足できればそれでいい、快楽という餌さえくれれば喜んで尻尾を振るのだ。
ちなみに僕は横井さんの犬ならば餌がなくても喜んでなれる。
「でもそれがWEB小説と何の関係があるの?」
「どういうこと?」
「どうしてWEB小説の制作とジャンルに関係してくるの?」
「あーーーー」
そういえば横井さんはWEB小説について何も知らないのだった。
あまりに長いこと話していたため、すっかり忘れていた。
「WEB小説は誰でも簡単に投稿できる場所なんだよ。」
「……それは君でも?」
「そうだね」
「つまり、WEB小説はより本能的な刺激を得られるってこと?」
「そう。だから、WEB小説は小説じゃないんだ。」
ようやく僕たちは確信の部分に行けたらしい。
WEB小説にはストーリーがない。
いやないわけではないが、それよりも重要視されるのはキャラクターの良さだ。チートだ。
「でもなんで異世界転生をジャンルとして答えたの?」
「僕たちにとってジャンルとは一つのキャラの在り方だからね。たぶんそういうことだ。」
「…なるほどね。」
なにがなるほどなんだろうか。
自分が言っててなんだが、よくわかんないんだが。
「ジャンルとは作品の表現様式を表すわけだけど、小説においてはそれが、推理なのか、恋愛なのか、SFなのかといった分け方だった。だけど、君たちはキャラクターの在り方によって作品の表現様式を表している。…例えばキャラクターが「異世界転生」するか否かで。」
「…なるほど」
正直よくわからなかったが、とりあえず納得しておいた。
それからざっと数十年。
「僕ら」の主人公が大人になるのに充分な時間が過ぎた頃。
「ねね。ちなみにさ。」
横井さんは僕に語り掛けてくる。
「もし仮にこの話をWEB小説にしたらどうなるんだろうね。」
「…うーん。」
僕はいろいろ考えた。
「僕らは結局めんどくさがりなんだ。いつだって単純な理解を求めてる。だから、わざわざweb小説を複雑に見ようとする人はいないんじゃないかな?」
そもそもジャンルもよくわからないし。
横井さんはそんな僕の消極的な意見を楽しそうに聞きながら反論した。
「私はそうは思わないよ。君たちはよくも悪くも自分に正直なんだよ。自分たちが根源的に求めていることに忠実なんだ。それは自分たちが大好きだってことでもあるよね。だから私は見ると思うな。大好きな自分たちを改めて知るために。」
横井さんは思った以上に自信家だった。
そんなわけで僕と彼女の談義は公開されることになったのである。