プロローグ 『デッド・ワールド』
はじめまして。
腹音鳴らしと申します。
このたび、『小説家になろう』サイト様での初投稿となりました。
WEB掲載初挑戦になりますので、改行・空行等、読みにくい部分など
ありましたら、参考になりますのでお教え願います。
これから多くの読者様に読んで頂ければ、幸いです。
それでは、お楽しみください。
プロローグ 『デッド・ワールド』
どこにも、誰もいなかった。
ガレキの積み重なった廃墟の隅で、雑草が空しく風に揺られている。
路地裏にひそむ鼠の足音も、それを追いかける猫の息遣いも、苛立つ野良犬の鳴き声さえ、ない。
当然、それらを覆うべき人々の喧噪など聞こえるはずもなく、朽ち果てた建材の切れ端が、地面の砂と混じり合うばかりだ。
……世界は死んでいた。
太陽はなおも街を鞭打つように、物騒な陽光を降り注ぐ。
そんな中、灼熱の大通りから逃げ出した『とある影』が、廃墟の一角でぺちゃぺちゃ、と音を立てていた。
影は、この世界の“神”であった。
事実だけを描写すると、神は地面に溜まった泥水をすすっていた。
まるで権力者へ平伏するように、それは無様な格好で両手を突き、一心不乱に泥の上に浮いた水面を舐めていた。
国籍不明な衣服からは、枯れ木のように痩せ細った手足がはみ出している。それは時折、死が間近に迫った虫か何かのように、カサカサと身を震わせているのだった。
アルビノと思わしき、病的に白い肌。痩せ細り、頬骨も浮いているが、目鼻立ちは整っていた。肉付きが良ければ、尋常ならざる美貌を発揮する事だろう。
それでも、額から垂れた長い銀髪の隙間には、紅く怜悧な瞳が、何かを決意したように揺れている。
「……、た、“種”は……蒔いた。……あ、諦めて…なる、もの………か」
爪の間に入り込む泥と砂利を気にも留めず、水を求めて、ただひたすらに地面を掘る。
もはや、己の惨めさに涙を流す体力も残してはいないようにみえた。
やがて喉の渇きを潤した神は、輝く銀髪が泥土で汚れるのも構わず、その場に転がって天を仰いだ。
世界の頂点に立つべき者を嘲笑うように、絶望の晴天に浮いた雲は、今日も不統一に飛んでいく。
皮肉なことに、それはいつか見た故郷の空と、同じようにみえた。
届くはずもない空に手を伸ばし、その者は絶叫した。
「――〈蛇〉め、今に見ておれ。……必ず、必ず出し抜いてやるぞッッッ」
虚空に拡散する声の波紋は、観客不在の世界に空しくこだました。
だが、『彼女』の物語が始まるには――――、
――――、ここからさらに、一万年以上もの時間を必要とした。
プロローグ 終