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003: 『原始精霊オリジン』

 原始精霊オリジン

 テイランド王国は数百年も続く王政の歴史の中で一度たりとも軍隊を持ったことがない国として有名だ

 より正確には騎士団や冒険者を多く抱えている国ではあるので、自衛以外での外諸国へ侵攻に用いる兵力を持たないという意味である。


 そのような国が未だに大国として君臨し、他国の支配下になく自由に発展できているのは、この精霊オリジンの存在が大きい


 あらゆる精霊の源流であり、世界で最も発展した技術『魔法』の原型を人に伝えたのも彼女らしい

 純粋に人との存在強度の格が違うのだ。例えが悪いが戦車相手にラジコンで突撃ようなもので、分かっているからこそテイランド王国に手を出そうとする者はまずいない



『色々事情があるのよねぇ、私自身としてもこの国を守ろうとして守ってる訳じゃないのよ』



 呆気にとられたままの母に簡単な事情を話した俺は、オリジンにつれられ普段彼女が腰を落ち着けている宮殿へと向かっていた。

 無論、我が家の時のように実体化されたままでは大変面倒なことになるだろうと予想されたため、出来ると言うから霊体化してもらっている。

 お陰で一見は10歳前後の少女が1人で歩いているようにしか見えないはずだ



「お母さんには『そっくりさん!!そっくりさんの友達なんだよね!!』ってめちゃくちゃ無理やり納得してもらったけど、貴女がアイツの言ってた補填であってる?」

『ええ、といっても私はその補填の1つでしかないはずよ。だからもう少し詳しく貴方を見てみて、どんな補填が与えられてるのか確かめる必要があると思うわ。というか私が気になるもの』



 曰く、オリジンとの契約は俺が正しく目覚めたことのアラームらしく、ゲームで言うところのログインボーナスと同じ扱いになっているそうだ

 初心者応援に環境トップのキャラクターを配布する神ゲーだと解釈すればいいだろう。


 それ故にオリジンは自身以外の補填については何も知らないとのことで、その辺りを調べるのに宮殿が都合がいいらしい



「デイトナとしての記憶しかないけれど、国1つ守るだけの力を持った守護神様がいれば他はいらないように思えるけど」

『嬉しい評価ね、そりゃあ余程のことがない限りは私1人で充分だけど、なにが貴方の助けになるかはわからないもの』

「……それは、まあ確かに? ところでオリジンって守護神なんて言われてるわけだし、アイツと同じくらいの存在って話?」

『んー。貴方が会ったのは紛れもなく純粋な神格存在よ、この世界を作り、そして私を創造した。ある意味は親のような存在ね。それと比べたら私の神格は遥かに落ちるから、その質問にはいいえというのが答えね』



 それでもただの人間程度には負けないけどね。自慢気にオリジンは笑う

 具体的に彼女がどのような能力を持つのかは俺にもわからないが、真横にいるだけで周囲の空気の流れや、重力がねじ曲るかのような未知のエネルギーの波をひしひしと全身に感じる。


 恐らく、これが魔力というエネルギーなのだろう。信じていなかったが霊感やオーラを読めるという人間はこういった波動を感じられるのかもしれない

 体感できるようになってみて、相当な違和感を感じる

 元々そんな器官を持たない俺がすぐに感じ取れる程だ、素人目にみても凄いプレーというのがスポーツにはあったりするが、感触としてそこに近い



「これ、本当に隠せてるのかしら……」

『完全には抑えられないのもあるんだけど。私と貴方は契約で繋がってるから特に分かっちゃうのよ、こればっかりは頑張ってこれなの、慣れてくれると助かるわ』



 徐々に周囲の風景が建物が密集した街並みから、一つ一つの土地面積が広い西洋風の豪邸が複数立ち並ぶ景観へと変化していく、同時に自分へ向けられる視線が増えてきたことにも気づいた

 その両方の変化は、明確に貴族街に存在する宮殿が近づいてきていることを意味している。


 見慣れない風景に知らず知らずのうちにあちこちへと視点が振れる

 なにせこちとら元々普通の社会人だし、転生後も普通の家庭に生まれてるしで貴族街の富裕層な雰囲気は遺伝子レベルで苦手なのだ



「ちゃっちゃと済ませて帰りたいわ……」

『大丈夫よ、私がいる限りは貴族だって貴方には近づこうとしないから』

「ほんとぉ~? めちゃくちゃ見られてない?」



 テイランド王国内で貴族街に平民が入ってはならないというような規則はないが、それでも平民の女の子が1人でのこのこ入ってくれば浮いているのは事実か……

 貴族間の関係だって常に綺麗なわけではないし、下手な憶測だってあれこれ浮かぶことだろう

 控えめにみても注目を集める状態なのは客観的にみて間違いない



「ちょっと貴女?」

「ひゃ、ひゃい!!!」



 少しでも見られないようにと顔をうつむき気味でコソコソ行こうと思った矢先、進行方向から思い切り同年代だろう令嬢に声をかけられてしまった

 予測不可能回避不可能だ、こうなったら答えないと失礼に当たる。


 近づこうとしないというオリジンの自信は一体なんだったのか



「な、なんでしょうか」

「いえ、先程からどうも挙動が怪しいと言いますか……はっ!! 貴女もしかして(わたくし)バートリー家の家宝を狙っ────」



 明らかに誤解溢れる容疑をかけられていると、弁解しようとした瞬間、その令嬢の口は後ろから突然現れた執事によっておさえられ、体を羽交い締めにされる

 その姿が執事だから大きな声を出す案件に発展しなかったが、これが全く身分を保証できない服装なら間違いなく誘拐にしか見えない迅速さだ


 腕のなかでもがく少女を気にする素振りなどなく、執事は頭を下げる



「むっ、ぐ、んーーーっ!!! は、むなさいソラっ!!! わたく、し」

「大変失礼いたしました。お嬢様も悪気があったわけではございませんので、なにとぞ寛大な心でお許しいただけますと幸いです」

「え、えっと。どういう」

『気にしてないわ。そのくらいの年齢じゃまだ見えてなくても不思議じゃないもの』

「あ、えっと」

「尊大な裁定感謝いたします」



 再び深く頭を下げると、まだ暴れるご令嬢を抱え執事がすぐ近くの豪邸の門をくぐっていく



『テイランド王国の貴族は精霊と密接な関係にあるのよ。だから頑張って抑えてる私から漏れだした力も見えているの』

「あーっと、それはえっと、霊体化してもらってる意味が」

「そっ、無いのよね。貴族街限定では」

「うわっ。びっくりした!?」



 さもそこに始めからいましたというような風貌でオリジンが横に並ぶ

 周囲が分かりやすくどよめきたつのが見えた



「うんうん。ここまでくる間に、器の方にも馴染んできたようだしひと安心ね」



 俺をみてオリジンはそう独り言を溢すと、いつの間にやら宮殿の前まで来ていたようで、これまで見てきたどの邸宅と比較しても一際大きな門へと手を振れる。

 すると、門の形はそのままに、構成していた物体が立体感のある文字列の集合体へと一瞬で変化を遂げる


 どうやら現世とは別の世界を繋ぐための門らしく、宮殿は人の世界とは別空間に建造されたものらしい



「……ってあれ。なんで分かるのかしら」

「ささ、入って入って」



 促されるまま、門の内側へと進む

 一歩、足を踏み入れた途端気づく。外観の広さもそれなりのものだったが、それを明らかに超えた面積が広がっていることに

 それに周囲を軽く見渡しても、目の前に続く整備された道以外に建物らしきものはなく、ましてや先程まで見ていた場所は振り返った門の先にしか見えていなかった


 なるほど、これがオリジンの持つ力の1つなのか

 そう理解するのに時間は必要なかった、街を歩いているときにオリジンの魔力を感じ取っていたあの感覚に似ていたからだ

 

 慌てるように見回す私が何かのツボに入ったのか、くすくす笑いながら俺の手を引く



「ここは私の世界よ、取って食われるわけじゃないから落ち着きなさい?」

「ちょっと、ほんのちょっぴりびっくりしただけよ」



 言い訳がましい俺の発言をスルーするように、奥へ見える立派な宮殿へ向き直り歩き出す。

 大した距離ではなかったが、ゲームのリセマラをするような気分だ。俺には他にどんな補填があるのか楽しみである



 


 

 

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