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4 銀髪の美少女が密接してきたけど、そんなことより、納豆犬は納豆のおかげでふさふさだ!

 『ヴァルキリー』の少女たちと別れた後、俺は、ふたたび、町はずれの路上に戻った。

 結局、ダンジョンから金になるものは、なにひとつ持ち帰ってこれなかったから、俺は、あいかわらずの、無一文路上生活者だ。


 だけど、今の俺は、ハッピーだ。

 なぜなら……俺は、ついに、前人未到の神の領域である「神々の納豆」のレシピを習得してしまったからだ!

 いや、俺が生成する納豆は、すべてが前人未到の納豆ではある。

 でも、なんとなく、この納豆は、次元が違うもののような気がする。

 スルーズにくっついていた、あの豆を見た時に、俺は、感じたのだ。

 この豆は、そして、この豆から作る納豆は、きっと、神の領域に属するものだと。


 俺は、精神を集中して、「神々の納豆」を生成した。

 約2時間後。


「はぁ、はぁ……。ついに、ついに、できたぞ!」


 町はずれで、俺は、輝くお椀を掲げた。

 「神々の納豆」は、光り輝いていた。やはり、これは、ただの納豆ではなさそうだ。

 この納豆を作り終えた時、俺は、瀕死に近くなっていた。

 どうやら、「神々の納豆」生成には、魔力だけではなく、生命力も必要となるらしい。

 だが、これで、最高の納豆を味わうことができる。


 ところが、その時、荒い息をしていたのは、俺だけじゃなかった。

 ハァハァ荒い息をし、よだれを流しながら、昨日の白い大きな犬が、いつのまにか、俺の横にすわっている。


「さぁ。くれ! くれ!」

「ふぅ。しかたがないな。納豆犬よ。では、この「神々の納豆」を、おまえにも半分やろう……」


と、言いながら、俺がお椀を下におろしたところで、この犬は、いきなりお椀の中に鼻をつっこんで、ものすごい勢いで、納豆を完食してしまった。


「あぁ、「神々の納豆」が……」


 俺が、空のお椀を見て、がっかりしていると。

 突然、納豆を食べた犬が遠吠えのように、鳴きだした。


「あ、あぅーーーー!」


「な? どうした、納豆犬!?」


 激しい光が、一瞬、あたりを包んだ。

 光が消えた時には、白銀の大型犬の姿は消えていた。光にびっくりして、逃げていったのかもしれない。

 さっきまで犬がいた場所には、かわりに、銀髪で目つきの悪い少女が座っていた。

 目つきの悪い銀髪の少女は、無表情な顔で言った。


「なんてことだ。あの臭いネバネバによって、新たな姿にめざめるとは。我が幾万年の生の中でも、はじめてのことだ」


 この少女、見たところ十代前半だからな。こういう時期もあるよな。俺も、そうだったよ。14歳の時には、自称1400歳だったよ。と、思いながら、俺はやさしくたずねた。


「君はどこから来たの? もう日が暮れているから、早く帰った方がいいよ?」


 銀髪の少女は、座りこんだまま、手をさしだした。


「おぬし、臭いネバネバを、もっとくれ」

「臭いネバネバ? 納豆のことか? 納豆はもうないんだよ。さっき、納豆犬にぜんぶ食べられちゃったから。今日は魔力をつかいはたしちゃったから、もう作れないし」


 銀髪の少女は、俺の方へ、身をのりだした。俺の顔に少女の息がかかるくらいの密接っぷりだ。すばらしく納豆臭い、息だった。


「明日になれば、また作れるのだな? 臭いネバネバを」

「まぁ、高級納豆くらいなら、1日に何杯かは、作れるな」

「よし。では、わしは、おぬしとともに行こう」

「え? いや、君は、早く帰らないと。俺は、誘拐犯とまちがわれたくないから」


 俺は、十代の少女に興味はない。特に、こんな、ただの子ども体形の子どもに対しては、「たくさん納豆食べて大きくなれよ」以外の感想はない。

 でも、俺がなんと言おうと、他の人達は別の見方をするかもしれないからな。

 人気のない町はずれで、薄汚いおっさんが、年端もいかぬ女の子と妙に密な距離でいたら、あらぬ嫌疑をかけられそうだ。

 青少年は、ちゃんと、この町の条例で保護されているのだ。

 保護者とかに見られて、要らぬ誤解をされて、通報されたりしたら、俺が逮捕されて投獄されてしまう。

 ただでさえ、人生詰んでる感じなのに。完全に、詰んでしまう。


 銀髪の少女は、俺の心配も知らずに、真剣なまなざしで言った。


「さっきの話だが。おぬしは、魔力が足りなくて、臭いネバネバがつくれないのだな? つまり、魔力があれば、今すぐに、もっと臭いネバネバをくれるのだな?」

「あ、うん。でも、ほら、ちゃんと納豆って言ってくれないかな? おじさん、想像力豊かな人に変な誤解されて、逮捕されたくないからさ」

「納豆、だな。よし、わかったぞ。では、おぬし、これを持て」


 銀髪の少女は、首輪のついたロープを取り出した。犬の散歩用リードのようだ。


「え? いや、俺、そういう趣味はないけど、そういう誤解をされるような物は……」


 とまどう俺を無視し、銀髪の少女は、俺に首輪とリードを押し付けた。


「これは、グレイプニルという。かつて、憎き神々が、我が力を封じ、制御するために、ドワーフどもに作らせたものだ。だが、わしは、この前、ちょいと、これに加工をさせた。これを持てば、おぬしは、我が魔力の一部を使うことができるぞ」


 やはり、この少女、そういうお年頃のようだ。でも、そういうお年頃な設定を除いて考えると、要点はこうだ。


「つまり、魔力が回復できるアイテムってことか?」

「いかにも。魔力を回復すれば、もっとたくさん、納豆が作れるのだろう?」

「そのとおり……。納豆の役にたつというならば、ありがたく、いただいておこう!」


 銀髪の少女は、俺にリードを持たせ、自分で首輪をつけた。

 この状況、誰かに見られたら、一発アウトな気がする。

 でも、たしかに、そのリードを持っていると、俺の魔力が少し回復した。

 首輪をした銀髪の少女は、期待した表情で俺を見た。


「どうだ? 今のわしは魔力をほとんど失っておるから、たいした量ではないが。回復したか?」

「よし。高級納豆くらいなら、作れそうだぞ」

「さぁ、作れ。納豆を作れ」


 銀髪の少女は、ハァハァしている。

 俺は、さっそく、納豆を生成した。


 さて、10分くらい後。

 俺が納豆を作り終え、目を開いた時、銀髪の少女は、いつのまにか、いなくなっていた。

 俺のそばには、白銀のふさふさ毛並みの納豆犬がいるだけだ。


 納豆犬は首輪をつけている。

 どうやら、俺が精神集中して納豆を生成している間に、少女は、納豆犬に首輪をあげて、家に帰ったようだ。

 俺は、納豆生成中は、周囲の様子が、ほとんどわからなくなるからな。


「納豆犬。いつのまに戻ってきてたんだ? まぁ、いいや。納豆、食べるか?」

「もちろんだ」


 食後も、納豆犬は、俺のそばから離れなかったので、俺は、ちょっとでも寒さをしのごうと、ふさふさの毛にくっついて眠った。納豆で毛並みがよくなった納豆犬の毛は、それは、それは、ふさふさだった。

 さすが、納豆。


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