2 ダンジョンで町1番の美少女パーティーと会ったけど、そんなことより、「神々の納豆」を閃いた!
翌日、朝納豆を食べ終えた俺は、町の近くの初心者用ダンジョンに向かった。
ここは、Fランク冒険者が最初に向かうダンジョンだ。
ただのコウモリくらいしか、敵がでてこないダンジョンだ。
ダンジョンというのは、謎の古代遺跡のことで、各地に点在し、この町の周辺には、複数ある。
ダンジョンには、神々と巨人族の最終決戦「ラグナロク」以前、まだ神々が存在した時代の遺物が、残されている。冒険者の多くは、そういった秘宝を求めて、ダンジョンを探索する。
実際には、秘宝と呼べるようなものは、めったに見つからないから、モンスターを討伐したり、ダンジョンから古代文明が残した素材を持ち帰ることで、生業をたてているわけだけど。
でも、この初心者用ダンジョンは、小さくて、自然に侵食されていて、ダンジョンらしさはあまりない。古代文明の遺物なんて、見つかるわけもない。ただの洞窟みたいな場所だ。
だが、今の俺がひとりで入れるダンジョンは、ここくらいしかない。
パーティーはCランクに上がったところだったけど。俺の戦闘力自体はEランク、って言われているからな。
「なんとか、金になる鉱石かコウモリ素材を集めないとな」
昔は、何年も、このダンジョンばかりに通っていたので、俺は、内部をよく知っている。
ところが、この日、ダンジョンに入ると。最初の分岐点近くの壁に、俺が見たことのない通路があった。
「あれ? こんなところに道なんてあったかな。昔はなかったけどな。まぁ、入ってみるか」
俺は、見たことのない通路を進んで行った。
通路はどんどんと地下深くに向っているようだった。
敵は出てこない。初心者用ダンジョンだから、こんなものだけど。
俺は、どんどんと先に進んで行った。
しばらくすると、大きな地下の大空洞に出た。草木が生え、池がある。
「ぜったいに、こんな場所、なかったぞ?」
この大空洞に生えている植物を、俺は見たことがない。
そして、奥にある池の先には、光が見える。ここは、地下深くのはずなのに。
さらに広大な空間が、あの先に広がっているようだ。
俺が、大空洞の野原のようなところを歩き出そうとした、その時。
「危ない!」
その叫び声で、俺は気がついた。
俺の左側で、鎧を着た不死者が立ち上がり、剣を振り上げている。
「うおっ!」
俺は、叫んで、身構えたけど、どうしようもない。
なぜなら、俺は、武器をもっていないのだ。
いや、持ってはいる。
サイバシという名の、納豆をかき混ぜるための武器を、予備も含めて10セットほど。
だが、サイバシの攻撃力は、基本的にゼロだ。
でも、俺は、箸以外の武器は、持たない主義だ。いや、より正確には、納豆の役に立たない武器は持たない主義なのだ。
俺がサイバシを握りしめて立っていると。
「たぁっ!」
骸骨の不死者は、ガラガラと崩れ落ちた。ただの屍に戻った不死者には、光り輝く矢が刺さっている。邪を封じる聖属性の矢だ。
「だいじょうぶですか?」
十代後半くらいの少女たちが、駆け寄ってきた。黒髪のアーチャーの少女と、赤髪の格闘家らしき少女だ。
「ありがとう。助かったよ」
俺は、礼を言った。ちなみに、年下に助けられるとか、俺くらいになると、いつものことなので、全然気にならない。
はっきり言って、十代の冒険者の内、9割が、確実に俺より強い。
ちなみに、俺より弱い1割は、ギルドマスターから、冒険者になるのをあきらめるよう、通告される子たちだ。俺と仲間たちも、かつて、通告された。でも、あきらめないで、続けてきたんだけどな。
だから、十代の、まともな冒険者は、みんな、俺より強い。
しかも、彼らは伸びしろもあって、これから成長しまくるときた。
うらやましぃなぁ。
まぁ、俺には、納豆があるからいいんだけど。
「あなたは、見たところ、Eランク相当の実力ですが。なぜ、こんなところに?」
弓矢を持った黒髪の少女が、俺にそう言った。この少女は、赤と白の不思議な服を着ている。弓矢も、町で売っているものとは、ちょっと形が違う。東方のもののようだ。
とても、納豆が似合いそうだ。
「え? ここは、FランクからOKな初心者用ダンジョンだよ?」
俺がそう言うと、黒髪の少女は、首を横に振って言った。
「ここは違います。それに、今のモンスターは、Aランクです」
「え? Aランク?」
俺が、まちがいなく瞬殺されるレベルだな。
「ここは、最近発見された隠しダンジョンです。ギルドから特別に依頼を受けた冒険者のみが……まさか!」
黒髪の少女は、口に手を当てた。
赤いショートヘアの少女が、口をはさんだ。
「隠し扉、閉めてたっけ?」
「忘れていたかもしれません!」
「あいてたよ」
と、俺は言っといた。
「大変です。早く戻って扉を閉めないと」
少女たちは、俺が通ってきた通路に向って、急いで去って行く。
俺も、こんな危険地帯にいるわけにはいかないので、急いで戻ろうとした。
ところが、その時、俺の背後で唸り声が聞こえた。
俺が振り返ると、そこには、巨大なドラゴンがいた。
「アースドラゴン!?」
俺は、ドラゴンなんて、はじめてみた。
もちろん、アースドラゴンは、Aランク以上、たしか、Sランク相当のモンスターだったような。
Aだろうが、Sだろうが、もうその辺のモンスターは、俺の冒険者人生に無縁だから、おぼえていない。
アーチャーの少女が、俺の後ろから、弓をはなった。でも、アースドラゴンは、弓矢の一撃で倒せるような相手じゃない。
そして、ドラゴンは、一番近くにいる俺にむかって、攻撃をくりだそうとしている。
1撃でも攻撃をくらえば、俺は、確実に、殺される。
「これでも、くらえ!」
俺は、やぶれかぶれに、手元にあった唯一の武器、サイバシをドラゴンの目に向かって投げつけた。これでひるませて、逃げるための時間かせぎをする計画だった。
サイバシは、ドラゴンの目をはずれて、目と目の間に突き刺さった。
そして、ドラゴンの巨体は、その一撃で、崩れ落ちた。
土煙をあげて、ドラゴンが、倒れた。
ドラゴンは、なぜか、死んだようだ。
「え? 何が、おこったんだ? 心臓発作?」
俺が、ドラゴンの死体を見て、首をひねっていると。
背後から、赤い髪の少女が叫んだ。
「今のは、サイバシの急所攻撃! 拳法を極めた者だけが、放つことができるっていう。最高師範レベルでも、成功確率は1%くらいだっていうのに。おっさん、実はすごい拳法家だったのか?」
「いや、俺は、ただの納豆を愛するEラン冒険者……」
俺は、格闘技なんて、習ったこともない。
いつも納豆をかきまぜているから、サイバシの熟練度は、MAXだけど。
そもそも、サイバシが急所攻撃できるとか、俺は、知らなかったのだ。
よくわからないけど、ものすごく奇跡的な偶然が起こったようだ。
倒れたドラゴンの向こうから、草原を、銀色の鎧を着た青い髪の剣士の少女と、大きな帽子をかぶった魔法使いらしき少女が歩いてきた。
「おーい。スルー! ミスト!」
赤い髪の少女が呼びかけた。
どうやら、この子たちは、4人組パーティーだったらしい。
「フロック。相変わらず騒々しいですね」
「スルーズ、ミスト。無事、合流できてよかったです」
黒髪の少女は、ほっとしたように、そう言った。
青い髪の剣士の少女が、俺を鋭い目で見た。
「そこの冒険者は?」
「たまたま迷い込んでしまった冒険者です。実は、封印の扉を閉め忘れていたらしくて……」
「でも、このおっさん、こう見えて、すごいんだぜ」
フロックと呼ばれた赤い髪の少女がそう言うと、魔法使いの少女は、冷静な声で言った。
「見ていました。ルーンの力が発動していましたよ。おそらく、あのルーンの効果です。見たことのないルーンです。テュールのルーンに似ていますが……」
魔法使いの少女は、俺をじーっと見ている。
だけど、その時、俺は俺で、別の少女を見ていた。
俺が見ていたのは、剣士の少女の方だ。
この少女が誰だか、俺は知っている。というか、町の人間は、誰でも知っている。
剣姫スルーズとか呼ばれている少女だ。
そして、町で一番強い有名パーティー『ヴァルキリー』を率いている少女だ。
どうやら、この4人組の少女たちは、『ヴァルキリー』らしい。
ちなみに、『ヴァルキリー』が有名なのは、強さだけではなく、全員、かなりかわいい美少女だからだそうだ。
だけど、俺が少女を見ていたのは、そんな理由からではない。
「な、なんだ?」
俺の視線を不審に感じ、剣士の少女は、たじろいでいる。
俺は、じーっと、見ながら、青い髪の少女に近づいた。
「な、なぜ、私を見ている? なにかおかしいか……?」
俺は、少女に手をのばした。顔の近くに。
「な、なにを……」
そして、俺は、少女の服の襟にくっついていたトゲトゲした実を取った。
「うーん。見たことのない豆だ……。これは……」
俺の中で、インスピレーションが閃いた。
「これはぁ……!」
俺の中で、大きな力がうごめいた。この瞬間、俺は、新たなスキルを得たのだ。
「神々の納豆」生成、という新たなスキルを!