第5話 前途
いつぶりに異性の部屋に入っただろうか緊張する。なんて話しかけていいかわからない。ここで何を聞いても裏目に出そうな気がする、とりあえずは謝ろう。
「ごめん、無神経だった」
「別にいいよ」
話が終わってしまった、次になんて話しかければいいんだろう。そうだ同じ小学校だし日奈子の所にも手紙が届いたんだろうか?
「なぁ将来の自分宛の手紙届いたか?」
「届いたよ」
「なんて書いてあった?」
「普通のこと」
「そうだよな普通のことだよな…」
沈黙が痛い数秒が何時間にも感じる、帰りたいけど帰れる雰囲気でもない。
「あなたのことが書いてあったわ」
「俺もお前のこと書いてあったよ」
「私の名前覚えてないの?」
「覚えてるよ日奈子…さん」
「昔みたいに呼び捨てでいいよ」
「そっか日奈子ひとつ聞いていいか」
「答えるかは別だけど」
日奈子は触れてほしくないであろう自殺の原因を聞いてみようと決心する。
「なぁなんであんなことしたんだ」
「あなたには関係ないでしょ」
「俺の名前覚えてないの?」
「覚えてないわよあなたのことなんて」
不公平だ。
「嘘よ、私の初恋の相手」
「からかうなよ…少しづつゆっくり聴き出すよ」
「私に明日があるなんて思わないで」
「死なないで普通に過ごしてれば明日は来るよ」
「明日が来ても意味がないもの」
日奈子は明日が来ることが怖いんだ、今日を怠惰に過ごせば明日も明後日も死ぬまでずっとこんな絶望の積み重ねになるのが怖いんだ。
「日奈子、死ぬ前に何かやりたいことはないのか無茶なことでも小さいことでもなんでもいい」
「特にないわよ」
「なんでもいいんだ」
「まぁ私も20歳になったしお酒を飲んでみたい」
「それじゃ来週の日曜日一緒にお酒を飲もう」
「なんであんたなんかと」
「深い意味はないよただなんとなく」
「何を考えているかはわからないけどその誘いに乗ってあげる」
「ありがと次に会う約束もできたし今日は帰るよ」
「次で最後よ」
「わかってるよまた来週」
一週間は日奈子の命を繋ぐことができた。
1日を刻んでいこう。