8 お披露目
短めです。
大した内容では無いので、軽く流して下さい。
四月十二日、火曜日。
「いってきます。」
美乃梨は朝食を終えると眼鏡店で購入したレイバンをかけた。ティアドロップにするかスクエアカットにするか迷ったが、学校にもかけていくので無難にスクエアカットにした。青い瞳が透けるか透けないか程度の濃紺色レンズにした。
「本当にサングラスかけて行くの?」
美代子が心配して尋ねた。
「うん。」
「そうしたいのなら反対しないけどね。気をつけて行くのよ。」
「はーい。」
「いってらっしゃい。」
駅まで歩く。すれ違う人からチラリと見られるが、目を覗き込む様な視線は感じない。心の中でサムズアップを決めた。
駅に着くと改札口の前で沙也加が待っていた。沙也加は美乃梨を見て口に手を当てプププと吹き出し笑いした。
「おはよう。何で笑うかな?」
「おはよー。って言うか何?どうしたの?」
「だって仕方がないじゃ無い?」
「ま、必然的にそうなるか…」
目の色が青色になった事は日曜日にメッセージアプリで伝えていた。写真も撮って送っている。
電車に乗ると沙也加が言った。
「サングラス外してみてよ。実物を見てないし。」
「ちょっとだけだよ。」
そう言って美乃梨はサングラスを外した。
「うっ…これはヤバい…」
沙也加の頬がほんのりと赤くなった。元々、美乃梨の顔は女である沙也加でもうっとり見惚れてしまう美形であった上に碧眼となると、破壊力は増していた。漆黒の黒髪に碧眼。エキゾチックな色気が漂う。透き通った青い瞳に己の全てを吸い込まれそうな錯覚を覚えた。
「これは惚れてまうやろ〜」
「何をバカな事言ってるのよ。」
美乃梨は茶化す様に答えたが、沙也加は本気で言っている様だった。
車内の男性達も美乃梨がサングラスを外した時から、ソワソワと落ち着きが無くなっていた。
新聞を読むフリをしながらチラチラ覗き見るサラリーマン。
顔を赤くして参考書を逆さまに持っている男子生徒。
彼女が彼の頬を往復ビンタしているカップル。
美乃梨は居た堪れなくなり、サングラスをかけた。
電車を降り学校へ向かって歩く。周りは同じく登校する生徒達なのだが、サングラスをかけている事による注目度は高い。
「美人は大変だよね。」
沙也加が今更ながら同情した。そう言う彼女はと言うと、沙也加も美乃梨に引けを取らない美貌の持ち主だ。中学では男子生徒が美乃梨派と沙也加派に別れ、覇権争いをしていた。何を制覇しようとしていたのかは、今となっては知り様も無いのだが。
校門で風紀指導に立っていた教師に止められたが、昨日サングラスを購入した後、黒木にサングラスをつけて登校する旨を告げて許可を得ていたので問題になる事はなかった。
沙也加に職員室まで一緒に来てもらい、黒木を捕まえて目を見せながら昨日までの事を簡単に説明した。授業中だけはサングラスを外す様に言われた。
「おはよう!」
大きな声で挨拶しながら教室に入った。騒がしかった教室内が静まり返る。
美乃梨は気にする事なく自分の席に着くと着座した。沙也加も鞄を置くと美乃梨の所へやってくる。
赤城、南條、白崎の三人も美乃梨の所へ集まってきた。
「桧山さん、どうしたの?」
「なんでサングラス?」
「芸能人が変装してるみたい。」
三人が間髪を入れずに言いたい事を発言した。美乃梨は苦笑いをした。他のクラスメートは遠巻きに美乃梨を注視している。
「美乃梨、魅せてあげなよ。」
沙也加が言った。漢字は間違えていないはずと沙也加は自信たっぷりである。
美乃梨はサングラスを外した。
「「「はぁぁぁ〜」」」
三人は一斉にため息を吐く様な声を出して頬を赤く染めた。
「目が離せない。」
「私の中のナニかが壊れそう。」
「私を下僕にして!(意味不)」
「あはは…やっぱりそうなるよね〜。」
沙也加は三人の様子を見て笑った。
他のクラスメート達、特に男子生徒が美乃梨の青い目を目の当たりにして挙動不審に陥った。
額を机にガンガン打ち付ける者。
ワーと叫びながら廊下を駆けて行く者。
我が人生に悔いなしと言い、窓から飛び降りしようとしている者まで。
流石にまずいので周りの者が体をガッチリ掴んで引き留めてはいたが。
8時45分になり始業チャイムが鳴った。
黒木がホームルームで美乃梨の目の事、サングラス装着を許可している事を簡単に説明した。
慣れてもらう意味を込めて美乃梨に前に出てきて目を見せる様に言った。サングラスを外し、改めてクラスメート達に目を見てもらった。
1限目が授業にならなかったのは言うまでもない。




