14 応援団
『私立星城学園高等学校 生徒会応援団』
〔沿革〕
応援団の歴史は古く、学園創立時に野球部と同時に設立された。
元々は他のクラブ活動と同様に独立していたが、学生運動が盛んだった頃に影響を受けた団員が学内ストライキの先鋒を担いだという暗い歴史があり、その後は学園への生徒からの交渉窓口である生徒会に帰属、管理下に置かれる事となった。
〔服装〕
星城学園の学生服は、共学校化に男女とも上着がブレザーとなったが、応援団の歴史と対外的・視覚的などの様々な要因により、応援団団員のみ男子校時代の詰め襟(学ラン)の常時着用が校則で認められている。
右襟には校章のピンバッチ。左襟には学年識別のピンバッチを着ける事になっている。学年識別のピンバッチはベースが学年別の色の七宝焼きで、一年生は緑に「Ⅰ」、二年生は濃紺に「II」、三年生は赤に「Ⅲ」とローマ数字があしらわれている。
四年前からは、女子であっても応援団団員として入団した者は詰め襟着用を内規として義務付けている。
〔下部組織〕
共学校化により応援の手法を広げる目的として、チアリーディング部を応援団配下に創部。
チアリーディング部は十年前からチアリーディング全国大会常連校となっている。NFLで活躍するOGも排出している。
部員構成は女子生徒のみ。だがアクロバティックな演技を下支えする為には男手が必要であり、男子応援団員がその役を担っている。
なお、チアリーディング部に籍をおく女子生徒の学生服はブレザーである。
引用 ウィ○ペディア(に載ってません)
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体育館の横に四階建てのクラブ棟が建っていた。
一階には、野球部、サッカー部、ラグビー部、陸上部などのグラウンドを利用するクラブの部室がある。
二階は庭球部、ゴルフ部、山岳部などの部室。
三階は、バスケットボール部、バレーボール部、バトミントン部など。三階の廊下は渡り廊下で体育館とつながっているので、体育館を使用するクラブの部室が居並ぶのも当然と言えば当然か。
四階には、トレーニングマシンのあるジムとシャワールーム。そして応援団とチアリーディング部が居を構えていた。
応援団の部室の間取りは、出入り口を入ってすぐに四十畳ほどの広間があり、団員の会議室となっている。会議室左側には用具室と書かれた扉があり、中に大太鼓などが収納されている。右側に団長室の扉がある。団長室は二十畳くらい。中央にドンと応接用のソファが置いてある。三人掛けソファが細長いローテーブルを挟んで向き合うように二脚あり、ローテーブルのお誕生日席に一人掛けソファが配置されている。
団長の洋輔がお誕生日席に座していた。洋輔から見て右手のソファに美乃梨、沙也加、美雪。左手のソファに翔悟、冴島、チアリーディング部長が座っていた。
「さっきのは流石に強引すぎたわよ?」
冴島がため息混じりに言った。
「そうか?あれくらいでないと収集つかなかっただろ。」
「それもそうね。最後は私が出るつもりではいたけれど。」
「あのぉ…」
美乃梨がおずおずと右手を少し挙げて発言権を求めた。
「私、入団するとは言ってませんが。」
「ほぉ。入団する意思は無いと?」
洋輔が美乃梨に問いかけた。
「他にやりたいクラブでもあったのかな?」
「いえ、別にありません。」
「では問題ないな。」
「だから何故、私が入団しなければならないんですか?」
「それは翔悟がそれを望んだから。」
美乃梨は翔悟を見た。
「早川君。なんで私を条件にしたの?」
「美乃梨と一緒にいたかっただけやで?」
美雪の表情が少し歪んだ。沙也加は横目で見て口角が上がった。
「意味がわからないんだけど。と言うか、なんで呼び捨て?しかも名前。」
「美乃梨は美乃梨やろ?他に名前あるんか?」
「そう言う事じゃなくて。」
美雪の顔が赤くなってきた。眉間に皺が寄っている。沙也加はさらに口角を上げる。クククと笑いそうになるのを堪えた。
「とにかく、俺は美乃梨と一緒にいたい。それだけの事や。他に理由なんかあらへん。」
翔悟がそう言うと洋輔も頷く。洋輔も翔悟が固執する理由を知っている様だ。
「まぁ、翔悟の事は置いておくとして。君は亜矢子先輩の妹君だ。」
「はい、そうですが。」
美乃梨は洋輔の言わんとする事がつかめない。洋輔は立ち上がると壁に作り込まれたクローゼットの扉を開けた。中から一着の詰め襟を取り出す。
「これは亜矢子先輩が着ていた学ランになる。」
男子生徒が着るには一回りほど小さい学ランがハンガーに吊られていた。
「へっ?」
「亜矢子先輩は第九十一代団長を勤められた。しかも歴代で初の女性団長だ。」
「えええ!」
姉は高校時代、何をやらかしたのだろうと思っていたが、どうやら美乃梨の考えの斜め上をいっていたらしい。
「この学ランを君に引き継いで貰えればと俺は思っている。」
「そうね。それも良いかもしれない。」
洋輔の提案に冴島も同意した。冴島的にアレを期待しての同意だが。
美乃梨はいっぱいいっぱいで、何も考えられなくなっていた。
「桧山さん。袖を通してみて。」
冴島がそう言うと洋輔は詰め襟をハンガーから外し、美乃梨に渡した。
美乃梨は立ち上がるとソファの後ろに回り、リボンタイを外しブレザーを脱ぐ。詰め襟に袖を通した。美乃梨と亜矢子の身長はさほど変わらないので、着丈に問題は無い。問題が発生したのは前見頃であった。第二ボタンが閉められない。美乃梨の女の武器がその破壊力を誇示したのである。
「あらあら、うふふ」と冴島は微笑み、「これは困ったなぁ」と洋輔は唸る。
美雪は自分の胸を両手で押さえると悔しそうな表情になっている。
沙也加は笑いを堪えるのに必死だ。
翔悟は表情を変える事なく美乃梨を見ていた。
美乃梨は詰め襟を脱ぐと、ブレザーを羽織った。
「私には無理そうですね。」
「残念だわ。」
冴島は心底残念がった。美乃梨のアレ…学ラン姿を見たかったからである。
「着れないのなら仕方がないか…」
洋輔は美乃梨から脱いだ詰め襟を受け取るとハンガーにかけてクローゼットに直した。
「桧山に亜矢子先輩の後を継いでもらう話は置いておくとして…」
洋輔は美乃梨、沙也加、美雪の三人に向かって言った。
「君達、チアリーディング部に入ると言うのはどうだろうか。応援団とチア部は合同練習なども多いぞ。合宿も一緒に行っている。」
「(早川君と一緒に活動できるので有れば)私はそれでかまいません。」
美雪は即答した。
「私もチアリーディング部に入ります。」
沙也加も迷わずに答えた。
「美乃梨も入ろうよ。一緒に青春しようよ。私は美乃梨と一緒にクラブ活動したい。」
沙也加の誘いはあくまでも自分の楽しみ優先である。一緒にクラブをするのは建前で、本音は別にあるのだが。
「沙也加がそう言うのなら…」
沙也加とは幼稚園以来の付き合いである。沙也加が中学でいろいろなクラブ活動を掛け持ちしていた理由も知っている。その沙也加が一択してきたのである。美乃梨は今まで沙也加に世話になりっぱなしだったので、このくらいの我儘に付き合ってあげるのも吝かではない。
「では決まりだな。藤堂、後を頼む。」
「はい。私はチアリーディング部部長の藤堂茜といいます。」
洋輔の後を受けて、今まで黙って控えていた藤堂が、チアリーディング部について説明を始めた。