12 争奪戦
本当に恋愛小説なのか自信がなくなりつつあります。
「連絡事項は以上だ。今日はこれで終わり。気をつけて帰れよ。」
一日の終わりのショートホームルームでマシンガンが如く、必要事項を伝え終わると黒木はサッサと教室を後にした。
帰り支度をする者。クラブの入部申請を記入する者。クラスメートと雑談している者など、教室内は雑然としていた。
そんな教室内を秋庭美雪が歩いている。彼女に気づいたC組生徒達は、何故彼女が此処に居るのかと不思議そうにしていた。
美雪のクラスはA組だったからである。
美雪は帰り支度をしていた翔悟の所へとやってきた。
帰ろうとして立ち上がった美乃梨も、気になって立ち止まった。美雪が居る事を不思議に思い、悪いとは思いながら聞き耳を立てる。
「早川君。この前はありがとうございました。」
美雪はペコリと頭を下げた。
「ん?あー、秋庭かぁ。別に気にする事あらへんで。」
翔悟は右手をヒラヒラと振った。
「気にします!私はお咎めなしだったのに、早川君は停学処分…」
「そりゃ、しゃぁないわ。怪我させてしもぅたし。」
「でも…」
「本人がええって言うてるんやから、気にすな。」
「それでは私の気持ちが収まりません。あ、そうだ。この後、ご予定はありますか?」
「帰るだけやけど?」
「一緒に帰りませんか?お詫びと言っては何ですが、何か奢らせて下さい。」
悪いとは思いながら聞き耳を立てていた美乃梨に、お声がかかる。
「美乃梨〜帰るよ〜!」
沙也加が美乃梨の方を向きながら教室を出ようとしてドン!と何かにぶつかり、弾き飛ばされて尻餅をついた。
「沙也加。大丈夫?」
美乃梨は声をかけながら沙也加の元に駆け寄る。
「イテててて…」
沙也加は顔を顰めてぶつかった物体を見上げた。
「大変申し訳ない。大丈夫かな?」
出入り口に立っていた男子生徒が、沙也加に右手を差し出した。沙也加がその手を掴むとグイッとひっぱり、沙也加を立ち上がらせた。
「ちゃんと前を見なさいよ!」
立ち上がった沙也加はお尻をさすりながら文句を言った。余所見していてぶつかったのは沙也加の方である。沙也加が文句をつけるのはお門違いだが、それが沙也加スペックなのだから仕方がない。
しかしこの男子生徒は、この理不尽な扱いにも柔順であった。
「本当に申し訳ない。ところで早川翔悟は居るかな?」
美乃梨は男子生徒のを観察した。ネクタイの色から三年生とわかる。がたいはガッシリしていて首がやけに太い。
「早川君なら彼処に座っています。」
「ありがとう。」
美乃梨が手で示す席を確認すると礼を言い、翔悟の席までノシノシと歩みを進めた。翔悟の前に来て、男子生徒の威圧感が高まった。美雪は威圧に押されて体が少し硬直した。
「柔道部の斎藤だ。早川翔悟。柔道部へ勧誘に来た!」
「え?俺、柔道やる気ありませんけど。」
「何を言ってる。元西日本中学チャンプが。お前は柔道を続けるべきだ!」
「ちょっと待った!」
どこぞのお見合いテレビ番組張りの文句が教室内に響き渡った。
「悪いが早川君は庭球部がもらい受ける事になっている。」
そんな事、誰が決めたんだよ?と早川は思ったが口にしなかった。
眼鏡をかけた爽やか系イケメンが、早川の所へとやってくる。
「庭球部部長の小林です。中学生硬式テニス全国ベスト16の腕を、我が庭球部でも発揮しませんか?」
「ちょっと待ったぁ!」
え?またですか?
「陸上部キャプテンの遠藤だ。走り高跳び中学生記録保持者の早川君は、陸上部に入るのが一番相応しい。」
「遠藤!お前は二年なんだから、ここは譲れ。」
「斎藤さん。勧誘に学年は関係ないですよ?」
「斎藤。人に譲れと言う前に君が譲りたまえ。」
「小林!その気取った物言いが気にくわん!」
「早川は居るか?水泳部だ!」
「茶道部です。裏万家師範の早川様は〜」
「三科展佳作入賞の早川君、是非美術部に…」
「卓球部なんだが〜」
「弓道部…」
「山岳部…」
「スキー部…」
「帰宅部…」
「臀部…」
「ちくわぶ…」
…
…
翔悟の周りはクラブ勧誘の人だかりとなり、カオスとなっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あの子、見た目はそうでも無さそうだけど、ハイスペックなのね。」
背後から聞こえてきた声に美雪は振り返った。
「女子バスケットボール部主将の香山よ。中学生全国大会総得点一位の秋庭美雪さん。貴女をスカウトに来ました。」
「え?」
「A組の教室に行ったらいなかったので、B組、C組と探してきたのよ。それはそうと貴女、特待生じゃなかったのね。どうかしら。入部してもらえると嬉しいんだけど。」
「バスケットはもうやらないと決めましたので。」
「何故?」
「お話しする程の事でもありませんので。」
「そう。惜しいわ。今年は全国優勝できると喜んでたんだけどね。」
「お力になれず、すいません。」
「気にしないで。」
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