11 初出?
つなぎ的なセクションで短めです。
恋愛要素が無く、申し訳ありません。
四月十八日 月曜日。
美乃梨はいつも通り、沙也加と最寄駅で落ち合うと、一緒に陶工した。
校門に立つ風紀指導は輪番制で、今日の担当は美術教師であった。美乃梨と沙也加は持参した自作陶器を美術教師に見せると、「○○万円で譲って欲しい!」と懇願された。美術的価値が高いみたいだ。
「おはよう!」
「おはよー。」
朝の挨拶をしながら教室に入るのが二人の日課となりつつある。
「「「おはよ!」」」
と例の三人組が挨拶に応じるのも定型化となり、五人が美乃梨の席周りに群がるのは朝の情景となっていた。沙也加はいつもの様に美乃梨の隣の席の椅子に座っていた。
見慣れない男子生徒が静かに教室に入ってきた。
出入り口付近に屯していた女子生徒達が、
「今の誰?」
「このクラスにいたっけ?知ってる?」
「知らな〜い。陰気臭かったね。」
などと口々にした。
男子生徒は無言のまま、教室の奥、窓側の方へと歩みを進め、沙也加の座る席の机の上に鞄を置いた。
それまでワイワイと賑やかに話していた五人は、男子生徒に気がついて会話を止め男子生徒を注視した。
蓬髪で前髪は鼻頭が隠れるくらい長く、目を覆い隠している。冴えない風貌であった。
「そこ、退いてくれへんかな。」
「あぁ、ごめんなさい。」
沙也加が慌てて席を立った。男子生徒は椅子に座ると、右手で机に頬杖をついて、窓の外に視線を向けた。
美乃梨が自己紹介した。
「おはようございます。早川君だよね。桧山美乃梨と言います。宜しくね。」
美乃梨に続けてそれぞれ自己紹介をしていく。
「私は池上沙也加。ヨロ〜。」
「赤城千恵です。宜しく。」
「南條明美です。宜しくね。」
「白崎佳奈と言います。宜しく!」
早川は外を眺めていた顔を五人に向けると
「ああ。」
とだけ返事をして、また窓の外を眺め始めた。
会話が続かない。微妙な空気が辺りを支配した。
「じゃ、また後でね。」
いたたまれなくなった沙也加が、いち早く逃走した。赤城・南條・白崎もそれに倣った。
キーンコーンカーンコーン…
始業チャイムが鳴り終わるか終わらぬかのタイミングで、黒木が教室に入ってきた。出席簿で出席確認を取るとホームルームを開始した。
「ホームルーム始めるぞ。今日から停学明けで、早川翔悟が登校してきてる。早川、簡単に自己紹介してくれ。」
黒木に指名され早川が立ち上がった。
「早川翔悟です。宜しくお願いします。」
早川が座ろうとして黒木からダメ出しをもらった。
「おいおい、もう少し言う事はないのか?」
「えーと…関西出身です。宜しく。」
「それだけか?」
「はい…」
「仕方が無いな。早川、座っていいぞ。わからない事があったら隣の桧山に訊いてくれ。桧山、頼むな。」
早川が着席した。美乃梨は「はい。」と返事した。黒木は次の連絡を伝えた。
「今日からクラブの入部届けの受付が開始となる。入部申請様式は職員室にあるから、必要な者は取りに来てくれ。以上だ。」
そう言うと黒木は職員室へ戻っていった。
美乃梨はレイバンを外して机に置いた。鞄から収納ケースを取り出そうとして手が滑り、ケースを落としてしまった。ケースは床の上をツツツーと滑り、早川の足元で止まった。
美乃梨が取ろうとして体を乗り出し、手を伸ばした。早川の手がスッと降りてきて、先にケースを拾い上げた。ケースが美乃梨の前に差し出される。
「ほら。」
「ありがとう。」
美乃梨は俯いた体勢から体を起こすとケースを受け取り、早川の顔を見て謝意を述べた。早川は小声で呟く。
「あや……」
早川はハッとなり、右手で自分の口を押さえた。
「早川君、何か言った?」
「いや、何も。」
早川は視線を外すと、窓の外へと戻した。
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