表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白夜に愛をうたう星  作者: おジョー
7/63

8years ago… 7

昨日結局寝落ちましてこんな時間に投稿と相成りました(´∩ω∩`)




「今から随分昔の公爵殿…その時の国王陛下のお兄さんが、レオと同じ、黒い髪に赤系の瞳だったのよね」


というか、レイチェル嬢の面影を差し引いたらきみはその人にそっくりだな、と、両手の親指と人差し指で枠を作って片目を瞑りながら悠理は笑った。

今初めて気づいたように話しているが、ひと目見た時から思っている。

彼を見て驚いたのは、レオンハルトが美しいからだけではない、悠理が初めて愛されたいと思った人に、とてもよく似ていたからだ。

外見も、魔力の質も。

彼の持つ魔力を説明する前に、まずレオンハルトに確認しなくてはならない。


「レオ、自分の魔力はどうやって知ったの?」


これまでの彼の扱いを聞いただけも、きちんと測定したわけではないだろうと踏んでいる。


「えと…、わかりません、そうなのだと言われました」


魔力の属性や量は人によって異なる。

測定の魔法がかかった水晶に手をかざし魔力を流したり、或いは神官など、魔力を視る力を持った者に直接聞いたりすることが多いが、生活の中で実践して知る者も多い。

属性の違う魔法は上手く扱えないか、そもそも発動しないので、自分で出せた魔法イコール、自分の属性とわかるのだ。

魔力量の最大値をそうやって知ろうとする者は流石に少ないが。

魔力が枯渇するとそれはそれはしんどいのだ、死んだりはしないが。


「だろうと思った…」


思わず溜め息が漏れた。

恐らくレオンハルトにそう言った者は、彼の髪と瞳の色で想像したにすぎないのだろう。

もしかしたらそう言ったことすらもう覚えていないかもしれない。

子供だから本気にしないだろうと。

これくらいなら蔑みにはあたらないだろうと。

彼がその根拠の無い嘘をどれほど重く感じていたかなんて、知ろうとさえしないのだろう。


(…本当に、ダメな大人ばっかだな…)


再び大きな溜息をつくと、レオンハルトが困惑した表情で身を固くするのがわかった。


「あぁ、ごめんごめん、今の溜息はね、どうしよもない大人達に対してだよ、レオは何も悪くない」


腕を伸ばして頭を撫でてやりながら続ける。


「まともな大人がまともな方法で測定してたなら、どうにかしてレオを囲いこもうとしてたと思うよ、きみの出自がどんなものだろうとね」


悠理はとても目がいい。

見たいと強く思えば存在するものならなんでも見える。

つまり、魔力を視ることもできる、水晶より正確に。

しかしレオンハルトだけでなく、第一王子の時も測定の依頼はなかったので気にしていなかった。

あの国王のことだ、本当は名付けすらも嫌だったろうから、それ以外で接触したがるとも思えない。


レオンハルトからカップを預かり、正面に座り直す。


「聖魔女ルシフェルが視るに、レオンハルト・アルテイアの魔力属性は火と光、そしてその魔力量は、私が育てれば恐らくこの国で五本の指に入るだろうね」


まだまだ成長途中の今ですら、その辺の大人を凌ぐ量の魔力をその身に宿している少年が気になったのはそこではないらしい。


「ひかり…でも、僕は誰も癒したりできない…!」


力なく首を振るレオンハルト。


「試したことがあるの?」


「……あり…ます…、僕についていてくれた侍女が…誰かに怪我させられて…痛そうで…なんとかしたくて…でも…」


ぎゅうっとタマゴを抱える腕に力が入る。


怪我「させられて」。

侍女の口からそう言ったわけではないだろうから、子供が見てもわかってしまうほど稚拙なやり方で傷つけたのだろう。

隠すつもりもなかったのかもしれないが。

ここは魔窟にも程がある。


(ほんと、城の人間一回全部消すか…?)


「…その侍女は?」


「……わかりません、兄以外に僕に優しくしてくれる唯一の人でしたが、ある日突然、こなくなって…」


「食事のマナーや立ち居振る舞いは、その人から?」


「はい、ただ一人だけ、僕に向かって貴方は王族なのだから、と……マリア…その侍女にも、僕は光の魔法が使えると言われてたんです、でも、できなかった…」


(不遇の第二王子に優しくて、魔力も視える…いや、慰めるために言っていただけってのもあるか、どっちにしろこのままじゃ寝覚めが悪いし、調べてみよう。まだ生きてて彼女にその気があるならこの部屋専属の侍女にしようかな)


「なるほどね…」


今にも泣き出しそうなレオンハルトを見て、悠理の胸が詰まる。

ほんの10歳の少年が、ここまで追い詰められなくてはならないなんて。


「マリアさんの言う通り、レオには光の魔法が使えるはずなんだけどね」


王族に多く出ると言われる魔力属性の光。

それらは治癒魔法として使われることが多い。

だからきっと、レオンハルトもやってみようとしたのだろう。

自分に良くしてくれた人の言葉を信じて。

でも彼にはできなかった。


「きみはとても珍しいね。レオの持つ光の魔力は、裁きと導きのものなんだよ」


それもそのはずで、レオンハルトの光の魔力は攻撃に全振りされている。


「でも、癒す力もあるよ」


世間一般のイメージとして、火と光を並べたら、多くの人が攻撃魔法としての炎と、治癒魔法としての光を思い浮かべるだろう。


レオンハルトは逆だ。


彼の中で未だ眠っている光は苛烈なまでに眩しく、闇を薙ぎ、その存在を抹消する強さを秘めている。

対して彼の中に灯る炎は、全てを灰燼に帰す為だけのものではなくて、暖かく包み込み、痛みと傷だけを焼き払うことができる。


「まぁぶっちゃけこれだけだと王族である証拠になるかって言われたら微妙なんだけど、さっきも言ったようにレオの魔力量は絶大だし、その質も珍しいし、使いこなせるようになれば国ひとつ滅ぼすことも出来る魔法使いになれる人間を、放っておくなんてできないと思うんだよね」


疑いを持たれた護衛がかつての公爵の縁戚でなければここまで似た人間はよっぽど生まれてこないとは思うが。


国ひとつ滅ぼすことができる。

自分の中にある力の強大さを簡単に例えられて、レオンハルトが更に固くなる。

カラフルタマゴちゃんはそろそろねじ切れそうなくらいキツく抱きしめられていて、ちょっと可哀想だ。

力を込めすぎて更に白くなっているその手を包むように触れる。


「私が師となって、その力を正しく振るえるようにするよ。そうなったら、レオがどうしたいか、その時によく考えて決めればいい。それまでには出自の証拠も揃えられるから、第二王子として生きることもできるだろうし、レオがこの国にいたくないなら爪を隠したまま外へ出てもいい、協力する」


握りしめていた指が弛緩するのがわかった。


少しの沈黙の後、レオンハルトは抱えていたタマゴを離して、姿勢を正し、しっかりと悠理の目を見る。


「ありがとうございます、どうかユーリ様の下で、学ばせてください」


「ん、いい子だ」


頭を撫でようとまた手を伸ばすと、完全に懐かれたのだろう、猫のように目を細め、その手に擦り寄ってきた。


(…は…かわ…かわい…死ぬ…かわ……)


「……お茶、冷めちゃったね、少しあたためようか」


気持ちを落ち着けようとカップを手に取れば、撫でていたそれがなくなったことに気づいて残念そうなレオンハルトが見えてしまい全く落ち着けない。


軽く魔力を流してやり再び湯気のあがるカップを渡して、自分の分も温め直して一口飲む。


(はぁー…ようやく落ち着いた…、自分に懐いた美少年てこんな可愛いのか…)


おねショタ勢の気持ちがわかってしまいそうで怖い。


「…ユーリ様」


開けてはいけない扉を見つけてしまい遠い目をしていると、こちらもひと心地ついたであろうレオンハルトがおずおずと口を開いた。


「ん?」


「ユーリ様は…その…、なぜ、僕のことをこんなに気にかけてくださるんでしょう」


名を贈った子供が不当に虐げられているのが面白くない。

それはもちろんあるだろう。

だが悠理はレオンハルトを育てると言う。

魔力操作は一朝一夕で身につくことではないし、その後もレオンハルトの未来を案じて選択肢を用意すると言った。

100年を生きる魔女からしてみれば、彼を育てるたかだか数年など気まぐれの一言で済む時間かもしれないが、余りにもメリットがなさすぎる。

レオンハルトは明確な理由が見えないことを怖がっている、ただの気まぐれではいつ不要になるかわからないから。

いっそのこと、ペットにするだとか、自分専用の兵器にするだとか言われた方が安心できるのではないかと思える程に。


「理由かぁ。いくつかあるけど、まずひとつは、自分も含めて、今のレオを取り巻く環境に腹が立ったから」


知ろうとすれば、もっと早くに知れた。

それをしなかったのは偏に現国王が悠理を遠ざけようとするからなのだが、自分から近づいていれば防げたことがありすぎて、今更仕方の無いことではあるが動かなかった自分に苛立つ。


「それからふたつ目に、珍しくて強大なレオの魔力に興味があるし、みすみす暴走を促すようなことはできない」


魔力は感情に大きく左右される。

正しい扱い方を知らないまま今の環境に送り返せば、そう遠くない未来に暴走したレオンハルトの魔力が王都くらいは余裕吹き飛ばすことが容易に想像できる。


「私としては城の人達が消える分にはざまぁみろって感じだけど、多分レオの魔力じゃ城下に住む無関係な人まで傷つけちゃうし、そんなことはレオもしたくないでしょ?これでも一応、知略の魔女として名前(ルシフェル)を賜ってるからね、王宮の誰よりも知識はあるし、ちょっと特別な魔力を持つレオの師としては適任だと思う」


属性が判別できても、使い方を正しく教えられるのはこの城には悠理以外にいないだろう。


「そんでもうひとつ…、これはなんか、言い方によっては如何にも魔女っぽくてちょっと危ない感じが漂いそうだし、結局感情論だからレオが納得できるかわからないけど」


苦笑しながらレオンハルトの頬に手を寄せ、目尻を親指でなぞる。


見た瞬間に心を奪われた、橙を孕む美しい赤。


「一等星に似たそのキレイな瞳が曇るのを、見たくなかったんだよねぇ」

やっと!

やっとタイトル回収出来そうな!気配が!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ