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白夜に愛をうたう星  作者: おジョー
4/63

8years ago… 4




「………なにを…言って…?」


悠理の発言を頭の中で何度反芻しても、理解ができない。

単語それぞれの意味自体は知っている。

だが少年の目の前に立つのは、かつて大戦でこの国を救った魔女だ。


そんな存在の、弟子になる?

不義の子と蔑まれ、母親にすら存在を疎まれ、この国で誰にも必要とされない自分が?


もう一度、悠理の言葉を考えてみる。




やはり少年には理解ができない。



「お嫌かね?」


悠理は思い出したように年寄りぶった口調で問いかけてみた。


「っ!とんでもないっ!!」

大袈裟なまでに首を振る。

「ふふふっ、よかった。まぁ、嫌だなんて言わせないけどね!」

「っ…!」

ニッと笑ってパチリとウィンクなどされてしまい、少年の心が跳ねた。


「さて、それじゃ、することも色々あるし、とりあえずここから離れようか」


肩から離した手を少年に差し出す。

悠理の手をとってもよいものか悩んでいるんだろう、もう何度目になるか、俯いた少年の瞳が揺れているのが見えた。




「…レオンハルト」


名前を呼んでみれば、弾かれたように顔を上げた少年と目が合う。

戸惑い、不安、恐れ、諦め。

多くの後ろ向きな感情を映す瞳。

そこに僅かに灯った希望を悠理は見逃さない。


(大丈夫だよ)


言葉にはしないが、きっと彼には伝わるだろう。


「レオンハルト」


もう一度、名前を呼ぶ。


「……はい、ルシフェル様」


大きくはないが確かに聞こえる声で返事があり、まだ幼く柔らかい手が重ねられた。


「いい子ね」


目を細めて白く細い指先を優しく握る。


「ようこそ、魔女の棲家へ」


悠理が言うと、庭の隅にいたはずの二人はログハウスのような可愛らしい建物の前に立っていた。

無詠唱による転移魔法など、当然レオンハルトは初めての経験である。


「!?」

「驚いた?今日からしばらくは、ここがきみの家だよ!」


悪戯が成功した子供のように笑う悠理。

大変に長生きだが、見た目は10代後半なので許される、と、思いたい。


繋いだままの手を引いて、二人で扉をくぐった。


「…ここが…、えっ、僕も住むんですか!?」

「うん、帰すの嫌だからさ!諸連絡は任せておいて、適当にしておく!今日からこの家に入る時の挨拶は、ただいま、だよ!」

「………ただいま?」

「おかえり、レオ!」

悠理にとっても、久しぶりと言うには空いた時間が長すぎるほどの懐かしいやり取りに、心がじわりと熱を持った。


「…レオ……」


レオンハルトは初めて交わした挨拶の後に呼ばれた名を確かめるように呟く。


「そう、自分でつけといてなんだけど、レオンハルトって長いからさ、私はこれからきみのことをレオと呼ぶよ、拒否権は…んー、いい代案があればないこともない」


「…いいえ、とても…、とても嬉しいです、ルシフェル様」


レオンハルトが出会って初めて見せた笑顔に、悠理は目を見開いた。


(!!!!!!かっわ……!?)


これ程までに可愛く美しいものが今まであっただろうか?いや、ない(反語)。


子供のあどけなさ、

母親に似た顔立ちの放つ若干の儚さ、

橙を孕んだ赤色の大きな瞳、

少し下げられた形のいい眉、

照れているのだろうか、ほんのり染まった頬、

弧を描いた大きすぎず厚すぎない唇、

その奥にちらりと見える白い歯。

全てのバランスが完璧に取れていて、永遠に眺めていても飽きないのでは?と思わせる。


「…ルシフェル様?」


脳裏に焼き付けんと目を開いたまま固まった悠理に、ことりと首を傾げながらレオンハルトが声をかける。


(首の角度までが最高かよ…!!!)


悶絶寸前の悠理。

今目の前にレオンハルトがいなければ、両手で顔を覆って転げ回っていただろう。


「んんっ…!いや、なんでもないよ、それより、ルシフェル様って言いにくいよね、そのうち舌噛みそう」

私がつけたわけじゃないけど、気軽に人と呼び合うのなんかここ数十年ないからなぁーと零し、人差し指で顎をトントンと叩きながら考え出す。


「うーん…、……師匠…は、ムサイな…、おねーちゃなんでもないです…お師様…は噛みやすさで言えば今と同等では…、ねえさまいやなんでもないです」

欲望が一切隠れていない。

ブツブツと独りごちながらチラリと視線を動かすと、少し傾いたままの赤い瞳とかち合った。


「……悠理」

「?ユーリ??」

「ルシフェルと呼ばれる前の、私が持ってた本当の名前ですね!」

「!?!?」


魔女の本当の名前を聞くなど。

レオンハルトは今日だけで一体何度驚けば許されるのだろう。

といっても、実は悠理という名は別に秘匿されるようなものでもない。

知られたところで、名前(それ)を必要とする呪いも魔術も今の悠理なら大体のものを防げる、若しくはより強力にして跳ね返せるのだから。

ただ単に、聖魔女ルシフェルの名を賜ってから出会った人には呼ばれなかったというだけだ。

もちろんこの世界に来た当初はユーリと呼ばれていたが、100年以上経過した現在、この国で彼女の名前を知るのは王宮の禁書庫に眠る本だけかもしれない。

クソガキもとい、現国王陛下でさえ恐らく知らない、というか興味すらないだろう。


深い意味などない。

気まぐれで出会った少年に、気まぐれで呼ばせてみたくなったのだ。


「聞かれないから教えないだけで隠すようなもんでもないんだよね、というわけでレオ、リピートアフターミー、悠理」


沈黙するレオンハルト。

表情からは困惑がありありと見て取れる。


「レオ、りぴーとあふたーみー。悠理。」


「………ユーリ、様」


か細い声で繰り返されて、悠理は満足気に頷く。


「うん、改めて、これからよろしくね、レオ」


「よろしくお願いします、…ユーリ様」


暮らしと共に慣れるだろう。

そんな事を考えながら、悠理はレオンハルトの頭を撫で、離れた手を繋ぎ直してリビングへと向かった。

既にストックが切れているので(早)、

書け次第投稿していきます_(:3>∠)_

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