8years ago… 1
初めての投稿です。
ご都合設定っていい言葉ですよね。
のんびり投稿していきます。
この声は、あなたに、届きますか。
それはほんの気まぐれだった。
普段なら放っておくが、作業をしようとメイドのお仕着せをまとう悠理はどうせ庭に出るついでだと、招かれざる客を阻まんと魔力が蠢く場所を見に行くことにした。
「なにやら騒がしいと思ってきてみれば、お前、ここがどこだか知って…」
目の前で起きている予想外の事態に、侵入者への嘲笑を含んだ言葉が詰まるほど驚く。
本来であれば、彼女の許しなくこの場所へ足を踏み入れた者は庭の草木に四肢を絡め取られ、少しだけ痛い目を見てもらってから彼らの気分次第で適当なところへ放り出されるのに、悠理の声にビクリと肩を揺らした少年の手足は自由であるどころか、彼女が自らの魔力を注いで丹精込めて育てた植物達は、まるでそこに立ちすくみ俯く彼を気遣うようにその周りに侍っているではないか。
「ご、ごめんなさい…あの…、迷ってしまって…」
白い小さな手で目元をこすりながら顔をあげた少年を見て、悠理はさらに息を飲んだ。
サラリと流れた黒髪。
透けるように白い肌と、影をつくるほど長いまつ毛には、泣いていたであろう跡が残っている。
何より彼女を惹き付けたのは、少し長い前髪からのぞく、燃えるように煌めく橙を混ぜた赤い瞳。
(アンタレスみたいね…)
「は?顔と声がいいな?天使か??」
悠理の本来もつ性格そのままの感想が口から出た。
しかも比べるまでもなく隠しておきたかった方。
「えっ」
「あっ」
すぐさま我に帰るが、流れる空気が気まずい。
誤魔化すように指を動かし植物達を少年の足元から遠ざける指示を出す。
ひとりでに動く植物に彼の意識が逸れたのを見計らって、老齢な魔女っぽさを感じさせる、悠理の見た目にそぐわない普段の話し方で再び声をかけた。
「迷ったって、王宮の敷地内でかい?…お前、名前は?」
悠理の庭が広がるのは、言葉の通り王宮の敷地内だ。
もちろん庭というだけあって、すぐ傍に住んでいる家も在る。
彼女曰くの“こんなところ”に、悠理は実に100年以上も、姿を変えずに生き続けている。
老齢というのは、あながち間違ってはいないのだ。
「あの…嘘じゃないんですっ…、僕、本当に迷ってしまって…」
「ふぅん?」
涙を溜めた瞳を見る。
どうやら嘘ではなさそうだが、それなら余計に、何故彼がこんなところにいるのかわからない。
この少年には覚えがある。
確か10年程前に、名前を贈った第二王子。
目にしたのは少年が生まれてまだまもない頃とはいえ、ここまで黒い髪はこの世界では珍しいし、母親に似たのであろう、彼には知った女の面影がある、恐らく間違っていない。
(……近くで他の人間をとらえたような魔力の動きはない…、本当に一人できた…?だとしたら、護衛はなにをしているんだ?)
敷地内とはいえ、“ただの人間”が住む区域はそんなに近くない。
子供が、まして王族が一人で迷い込むような場所に、魔女の生活圏は作られていないのだから。
「あの…、…えと、追いかけっこ…そう、追いかけっこをしてたら、夢中になってしまって、それで、ここまで…」
微かな嘘を感じた。
夢中で走ったことで迷い込んだのが事実だとしても、貴族である友人等とそんな遊び方を居住区の外でするのは、許されるだろうか?
よく見れば、第二王子というには余りにも粗雑な服をまとっているし、美しく流れる黒髪だって王族ならばもっとツヤツヤしていてもいいはずだ。
口調や態度も、幼い頃から培われていくべき傲慢にも似た鷹揚さなど感じられず、第二王子やその母親を知っていなければ、彼が使用人の子供だと言われても信じるだろう。
なにかがおかしい、釈然としない。
しかし少年は、ここにいる理由を話したくはないらしい。
ならば、彼より長く生きている大人らしく、誘導していくしかないだろう。
この庭を所有する者として、知る権利は当然ある。
「追いかけっこ、ねぇ?で、名前は?」
「…………リオ、です」
悠理がかつて与えたものとは、似ているが違う。
「…リオ?」
訝しげに反復すれば、リオと名乗った少年は僅かに視線を泳がせて躊躇いがちに頷いた。
滑舌が悪いわけでも、悠理の耳が捉え損ねたわけでもなさそうである。
「…では、リオ、ここがどこかわかっているか?」
「…わかりません…、最初は魔女の箱庭かと思ったけど、聞いてたみたいにはならないし、その…魔女は一人で住んでるっていうのも聞いたから、あなたみたいな可憐で美しい人がいるってことは、ここは違うってことでしょう…?」
(……なんて?????)
数十年畏怖以外の目を向けられなかった悠理は、このまま成長すれば好みドストライクであろう少年に可憐で美しいなどと上目遣いで言われて動揺するも、そこは年の功、笑顔を貼り付け答える。
「いいや、お前さんの言う通り、ここは聖魔女ルシフェルの箱庭さ。うちの可愛い子達がどうして反応しなかったかはわからないがね、いつもなら勝手に入った奴には痛い目見てお帰りいただいてるねぇ。そしてどんな姿を想像していたのか知らないが、この庭の主、聖魔女ルシフェルは私だよ。」




