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友達としかみられない  作者: ルン
幕間
7/33

邂逅の不思議

「ねぇ、何読んでるの?」


 いきなり話しかけられて、少し混乱する。

 え? 誰?

 黒髪のセミロングに、多少あどけなさが残る愛嬌のある容貌。学校指定の制服をピシッと着ていることが真面目さを印象付ける。

 見覚えがある顔だが、名前は出てこなかった。

 もちろん今まで俺と接点なんてない。


「……」

「あ、もしかして、私のこと分からない?」


 俺の不思議そうにしている顔で、考えが悟れたのだろう。小首をかしげながら聞いてくる。


「酷いなぁ……同じ図書委員だよ? 名前も覚えてない?」

「えっと、その……」


 正直同じ委員会の奴らの名前なんて全く覚えていなかった。クラスメイトだってそうなのだから。

 覚えているのは、精々クラスで自分の前の席の人と後ろの席の人くらいだ。

 ……今まで覚える必要性なんてなかった。

 話すことなんてほとんどないし、連絡事項などで話すことになっても名前なんて必要ないからだ。

「ねぇ」、とか、「あの」、とかで話しかけて必要なことを話せばそれで終わる。


「……ごめん」

「あ、いやいや、責めてるわけじゃないよ? こっちこそなんかごめんね」

「……」

「じゃあ改めて自己紹介するね。私は渡谷わたや朱莉あかり。よろしくね!」

「は、はぁ……」

「渡貫詳くんだよね?」

「う、うん。そうだけど……」

「うんうん。良かったぁ、間違ってなくて。あんなこと言っておいて自分が間違ってたら恰好つかないもんね!」


『明るい子だ』、第一印象は当然そんな感じだった。

 なぜこんな子が俺なんかに声をかけてきたんだろう?


「じゃあこれからは、詳って呼んで良いかな?」


 家族でもない人にまともに名前を呼ばれたのは初めてだったので、少し動揺した。

 いや、冷静に考えれば高校の先生たちにも『渡貫くん』と呼ばれていたのだから、動揺したのは下の名前で呼び捨てされたからだろうか?


「う、うん……良いよ……」

「良かった! なら、詳も私のこと名前で呼び捨てて良いからね!」

「え? いや、それはちょっと……」

「いいからね!」


 雰囲気に似合わず強引だった。気弱な俺は断れなかった。


「え、えっと、朱莉……?」


 人のことを名前で呼んだのはこの時が初めてだった。

 少し照れ臭かったのを覚えている。

 思えば、朱莉は最初から強引な人だった。


「うんうん。それでOK! で、何読んでるの?」


 ここで最初の質問に戻る。

 そんなこと聞かれても、大して興味もない適当な本を読みもせず眺めていただけなんだけど……


「えっと……『ABC殺人事件』? え! 君、アガサ・クリスティーが好きなの?」


 爛々と輝く瞳に向かって、『いいえ、違います』とは言えなかった。

 それが間違いの始まりだったのかもしれない。


「ま、まぁ、うん……」

「やった! 実は周りに好きな人いなくて、同士を探してたんだ! これで私達同士だね!」

「え? う、うん……」


 いつの間にかこの子のペースに飲まれていた。

「なぜ俺に絡んできたのか?」という疑問は忘れてしまって、渡谷朱莉と名乗った少女に言われるがまま談笑する。不思議な感覚だった。

 いつもなら、人と関わるのは億劫で早々に嫌になるのだが、この子と過ごす時間は嫌ではなかったんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大宮です。この度は自主企画に応募いただきありがとうございました。 切りよく一章まで読ませていただきました。 中々ありそうで無い、日常の謎解きですね。 大学生探偵ありだなーと思います。貴理さ…
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