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#2 【アリサ】屋形に導かれた女

こんにちは〜

毎日頑張っていきましょう!

学校だるお


 アリサは目を覚ました。


カーテンの隙間から、目覚まし時計の代わりと言っていいほどの光が差し込んでいた。


今日は休日だったが、珍しく午前中のうちに起きた。朝起きたばかりのアリサの行動は、テキパキと無駄のない動きだった。


洗面台に行き、歯を磨き、顔を洗う。


顔の水滴をタオルで拭き、化粧水を付けた。服を着替え、簡単な化粧をする。


髪をアイロンで整える。


ショルダーバックに、財布とスマホを入れる。


他の必需品は、いつもそのままにショルダーバックの中に入っている。


これで、準備は万端だ。


 いつもはしないが、洗面台の鏡に向かい、ニッと広角を上げて見せた。


相変わらず、笑顔が似合わないと、アリサは思った。だが、仕方ない。これが私だ。と言い聞かせた。


これでも、アリサはよく男に言い寄られることが多かった。


自分ではどうして、こんな女に男が寄ってくるのか、よくわからなかった。


アリサは今日が二十歳の誕生日だった。


二十歳になったアリサは、とても大人でキレイになっていた。


どことなく、昔の面影はあるが、言われなければ気付かない人のほうが多いはずだ。


この前も、大学でいじめっ子の1人だった男に声をかけられた。


その男は、彼女が、あのアリサだと知らず、連絡先を聞いてきた。


彼女が、あのいじめられていたアリサだと言うと、いじめっ子の男は、驚いていた。


そして、アリサに子供の頃のことを謝った。アリサは何も言わず、その場を立ち去った。ということがあったくらいだ。


 そのことがあり、大人になり、キレイになったことで、そいつらを見返せた気持ちになり、嬉しかった。


だからと言って、自分がキレイだとは、アリサ自身あまり思わなかった。


 今日誕生日に支度をしたのは、行かなければいけないところがあったからだ。


強制ではないし、約束があるわけでもない。いや、約束はあるかもしれない。


とりあえず、アリサは行かなければいけないと思った。



 電車で1時間半の距離を移動して、タクヤと別れた、あの河川敷の椅子にアリサは座った。


ワクワク感と悲しい気持ちとドキドキする気持ちが、アリサの心の中に混在していた。


できるなら、ワクワク感だけを残したかったが、そう思うほど、嫌な気持ちが増していく。


 今日、この場所に来たのはタクヤと約束していたからではない。


いや漠然とは約束はしている。


あと小学5年生の時に、二十歳にまた会うという、約束は確かにした。


でも、今日この日にこの場所で会うとは、誰も言っていない。


ただ、二十歳に会うと約束していたから、アリサは約束を果たす時が来たのだと、心に決め、ここまで来たのだ。



 アリサはこの日を心待ちにしていた。


言い寄られる男たちを含め、タクヤ以外の男を好きになることはできなかった。


だから、二十歳まで、誰とも付き合うことはなかった。


タクヤはどうなのだろう。


もう、アリサを忘れ、他の女性と付き合っているのだろうか。


気になり、探してみたいとは思った。


しかし、インターネットやSNSはしているが、アリサは使うのが苦手だった。


だから、もうアナログなやり方だが、こうやって思い出の場所でタクヤを待つことしかできなかった。



 夕方になってもタクヤは現れなかった。


アリサは椅子からたちあがり、あの河川敷の橋の下に行った。


ここで、アリサはタクヤの胸で泣いたのだ。


あの時の気持ちを思い出して、アリサは涙が出た。


ふと、涙の先に夕日に照らされ、光っているものがあった。


金色の鍵だ。


アリサはその鍵を拾いあげた。


顔くらいの大きい鍵で、よく宝探しなどでイメージするような鍵だった。


手にした瞬間に、この鍵の鍵穴までの道中が頭の中に過った。


この鍵はどうやら、古い屋形の鍵のようだ。アリサは、足をその屋形へと進めた。


なぜか行かなければという思いに至った。


河川敷から離れ、住宅街を越えて、高いビルが立ち並ぶ、駅前の通りを越えて、また住宅街を越えて、怪しげな森までたどり着いた。


陽はもう沈んでおり、なおさら森の怪しさは際立っていた。


しかし、アリサの足が止まることはなかった。


迷いなど一切なく、最短距離で屋形に向かった。


森を10分歩いた頃だろう。


頭に浮かんだ、古い屋形が見えた。


あまり大きいわけではない。


二階建てくらいの高さと、少し、横長の作りになっていた。


屋敷といっても、洋風の作りになっていて、木の根のようなものが、建物にまで伸びていた。


魔法にでもかけられたかのように。



 鍵を使い、アリサは中に入った。


中は洋式の作りで、とてもキレイだった。


仮面武道会にでも来たかのようだった。


しかし、そんなに大きい部屋なわけではない。


天井は普通の部屋より高いが、10畳くらいの部屋だ。


そこには、目の前に扉と部屋の真ん中には分厚い、高級そうな本が一冊あった。


「ようこそ。Aの屋形へ」入って右に、自分より小さい老人が立っていた。アリサはびっくりして、少しビクッとなった。着ているものから察するに、執事のような格好だ。


「どうも」とアリサは返した。


「ここは入ったら最後。出口を探さない限り、出られない不思議な屋形です」


「出られない?不思議な屋形?」


「はい。まずこの屋形に入った時点で、肉体は離れています。今のあなたの体はこの屋形の世界の体です」


「え?」アリサは自分の体を見渡した。


確かに、何かいつもと違った。


まず身長が高かった。


屋形の中が異様だったから、そこに目を取られていて自分のことに気付かなかった。


元々身長は大きいほうなのだが、さらに数センチ大きくなっているようだった。それに胸も、Bカップだったがツーサイズくらい大きくなっている気がした。


「どうぞ。こちらに鏡がございますので、確かめていただいて結構です。これがアリサ様のこの世界での体です。元の世界の体とは、全く別なものになります」得意そうに、執事が説明した。


 アリサは、横にある大きな鏡で全身を写した。


モデルのような美しい顔立ち、透き通った白く、艶やかな肌。九頭身くらいの顔の小ささと、長い脚。


完璧という言葉が似合うような女性だった。


これが、自分だということにアリサは信じられなかった。


常に冷静なアリサでも、この状況はうまく飲み込むことができなかった。


しかし、今日は不思議なことが起こりそうな気がしていた。


というか、起こってほしいと願っていたくらいだ。それは、タクヤに会いたいという願いに繋がってはくるが。


「そして、体が変わったことで身体能力も幾分高くなったと思われます。そして、この屋形の中は元の世界ではありえないようなことが、たくさんありえます。例えばと言われた、たくさんあり過ぎて、どれを持ってきたらいいか迷いますが。例えば、この目の前の大きな本がありますね。この本を読むと、この本の中の世界にワープします。ワープというのは具体的に言えば、体が分子に分かれて、さらに原子まで分かれ、この本の中に吸い込まれます。そして、中の世界で元の形に原子たちが集まり、元通りという仕掛けになっております。まあこんな感じです。あとは、魔法が使えたり、火を吐いたりとかです。ほら、不思議でしょう」また得意そうに、ニヤッと執事が笑った。


「確かに不思議です。まず、体が変わった時点で、不思議でしたので、不思議なところだということはわかりました。では、わたしはなぜここに来たのでしょうか。それが知りたいです。鍵を拾った時から、わたしの意思とはほぼ関係なく、ここまで辿り着きました。なぜ、わたしはここに来たのでしょうか」


 またニヤッと執事が笑った。


「それはあなたが1番わかっているのではないでしょうか。この屋形でしなければならないことをお伝えしましょう。目の前に扉がありますね? その扉を開けるには鍵が必要です。先程の鍵のような、大きい鍵です。それを手に入れるためには、この大きな本の中にワープして鍵を探してこなければなりませなりません。そして鍵を使い、扉を開けていただきます。部屋は合計で5つあります。しかし、すべてあなたが本の中から鍵を手に入れなければいけないわけではありません。向こうの5つ目の部屋から、あなたが会いたいと思っているタクヤ様も同じように扉を開けて参ります。そして、途中であなた方は再会することができるでしょう」


 アリサはそれを聞いて、広角が上がるのを抑えられなかった。


向こうからタクヤも再会するために向かっている。


そう知ったからには、なんとしてでも、鍵を手に入れ、扉の先で再会したい。


「わかったわ。この本の中で鍵を取ってこればいいのね。でもどこに鍵はあるの? ヒントとかはないの?」


「鍵は、その本の中の世界の誰かが持っています。それしか、お伝えできません。あとヒントとしては、それぞれの世界に『言い伝え』があります。その『言い伝え』の通りに動くといいかもしれません。鍵はその世界でやるべき事をやらないと手に入れれません。わたくしから言えるのはこれくらいです」



 漠然としていて、不安が残る説明だった。


が、もうアリサの気持ちは決まっていた。


本の中に入り、鍵を取ってくる。


それだけだ。


"行こう"


アリサは心を決め、本の前に立った。

見ていただきありがとうございました〜

続きも見てください!

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