はじまり
なかなか進まないですね。恋愛につなげたいと思っていますが、…つながらないかもしれない。
亀のスピードで進んでいきます!
「でも」なんて「だって」なんて、そんな言葉が聞きたいわけじゃない。
ただ、欲しい言葉を言ってほしいだけ。
欲しいのは、あなたが言わないその言葉。
「嘘」でいいなんて、そんなこと。嘘でだって言いたくないのに。
嘘でしかくれないから。
だから私は笑うんだ。嘘みたいに、完璧な顔で。
「今度、テレビ番組のオーディションがある。だから、中山はすぐに曲を作れ」
事務所に呼ばれたと思えば、浜田はすぐにそう言った。その表情はどこかぶすっとしているようで、けれどこれが素の表情なのだなと陽菜は思った。
「…テーマはありますか?」
「切ない恋愛ソング、でどうだ?」
「わかりました」
陽菜の反応も浜田に合わせるようになってしまう。けれどそれは仕方がないことだと思った。だって、自分は歌えない。
「私も一緒に作ってはいけませんか?」
「だめだ」
優菜の言葉に原田は即答する。
「…どうしてか理由を聞いてもいいでしょうか?」
「センスがないから」
バッサリ切ったその言葉に優菜は続ける言葉を持たなかった。自分も「歌いたい」といえば、今のような反応が返ってくるのだなと陽菜は思う。
「中山、一人で作れよ」
「…わかりました」
歌えない、作れない。それがしたくてこの世界を目指したというのに。それでも、誰かに聞いてもらうためには、そうしなければいけないのだ。
陽菜は優菜の様子を盗み見た。どこか落胆したようなその表情に同じ17歳だったなと実感する。
「長谷川、お前はレッスンだ」
「え?」
「お前、いい声してるのに、音域が狭い。そこをなんとかしろ。お前が音域広がれば、歌のバリエーションももっと広がる」
「はい!」
「あ、一応言っとくけど、中山に使うレッスン代はないからな」
「……はい」
振りかざされた言葉の切れ味は鋭く、胸が痛くなる。練習することさえ許されない。
「わかったらすぐに動け。中山、曲作りに必要なものがあれば言え。大抵のものは用意してやる。長谷川、レッスンはこのビルの12Fの部屋に講師を呼んである。お前の他にも数名レッスンを受けるから、競って来い」
「わかりました」
2人の声が重なった。どこか低いその声は現状を把握しながらも納得していない。きっと浜田は気づいている。気づかない人間が人材の発掘なんてしないだろう。気づきながらも無視しているのだ。どうすることもできないし、どうする気もないから。
「中山さん、一緒に頑張りましょうね」
差し出された手に陽菜は自分の手を差し出した。
「同い年だし、陽菜でいいよ。私も優菜って呼ばせてもらうから」
「うん。わかった」
「私、優菜に歌ってよかったって思える曲を作るよ」
「私も、陽菜に歌ってもらってよかったって思ってもらえるように頑張る」
若干17歳。2人の挑戦が幕を開けた。