表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

オーディション

とりあえず、上げて見ます。続くと思いますが、なかなか先に進まないと思います。

恋愛要素入れるつもりですが、薄いかもです。

どういう展開か、まだはっきりしません。

 雨上がりの空みたいな顔で、君は何を思うのだろう。

 伸ばした手を、つかめない手を、ただただ見つめていた。

 好きだと言えれば先に進めるなんて、そんな簡単なことじゃなくて。

 諦められず、進めない。そんな僕はどうすればいい?

 太陽のように笑う君のその笑顔を塗りつぶしたくなる。そうだな、真っ黒なクレヨンで。

 そんな僕を許さなくていいから、愛してほしいなんて。身勝手だね、僕は。

 君が笑うその先の笑顔なんて見たくないから。

 雨が降ればいいなと思う。例えばね。例えばの話。


 ギターの弦から手を放し、陽菜はゆっくり息を吐いた。まっすぐ目の前の男を見つめ、頭を下げる。男は陽菜を一瞥しただけで、すぐに視線を手元の紙に移した。拍手はない。けれどそれはオーディションではよくある光景だったため、陽菜は何も思わない。

『新人歌手発掘オーディション!』

 部屋に飾られた鮮やかな横断幕。それに比べ、狭い部屋の中は異様な空気が流れていた。肌が痛くなるほどピリピリした空気に、けれど陽菜はどこか穏やかな心地すら感じる。みんな真剣だった。自分の歌を聞いてほしい。それがわかるから陽菜はただ、一生懸命歌った。受かる、とは正直思っていない。

 歌が上手いと思っていた。けれど、ここ数十分で痛いほど自分は「普通」だと思い知らされた。陽菜は隣にいる自分と同い年の女性を軽く盗み見る。自分の一つ前に歌を披露した長谷川優奈の声は綺麗だった。どこか発展途上で、けれど澄んでいるその声は格が違った。

「それでは全員の歌の披露が終わったようなので、もう帰っていいです。合格者のみに一週間以内に連絡します。…あ、それと2番と3番は少し、この場に残ってください」

 どこかけだるそうに男は言った。名札には浜田と書かれている。

 陽菜は隣の優奈を見た。優奈が2番で陽菜が3番である。オーディションに参加することは今まで何回もあった。けれど、残されることなど初めてで、陽菜は動揺した。けれど、優奈は凛と立っている。オーディションは終わっていない。そう思い陽菜も動揺を必死で隠すことにした。

 陽菜と優奈以外が出て行った。残された2人を一瞥していく。そこにはどこか嫉妬が見え隠れした。何を言われるのかはわからない。けれど、そのまま帰される人たちよりは、未来があった。

「君たちさ、その歌、自分で作詞作曲?」

 浜田はまたしてもけだるそうにそう聞いた。優菜は頷き、陽菜は「はい」と答える。

「2番のえっと…長谷川さん?…君、さっき、作詞作曲をしていきたいとか言ってたよね?」

「はい」

「それで、3番の中山さんは歌うことが好きなんだっけ?」

「はい」

 緊張した面持ちで陽菜は応えた。たった二文字に声が震える。

「…それを我慢できるなら、デビューの話進めてもいいけど…どうする?」

「え?」

 思わず声が漏れたのは陽菜だった。優奈は怪訝そうな顔で浜田を見る。2人の表情が予想どおりだったのか、浜田は少しだけ口角を上げた。

「あ、意味わかんない?あのね、2番の君に作詞作曲の才能はなくて、3番の君に歌の才能がないんだよ」

「…」

 言われた言葉がすぐに頭に入ってこなかった。

「えっと…」

 思わず陽菜の口から零れる言葉を遮るように浜田が言う。

「だから、3番が作った曲と詩で2番が歌うなら、デビューさせてあげてもいいって言ってるの」

「私の詩は、どこがだめだったのでしょうか?」

 どこか震える声で優菜が聞いた。

「あ、やっと理解した?」

「…」

「どこがって、全部。歌詞と曲調が合ってないし、そもそも歌詞が幼稚。あと、多分聞かれるから先に言うけど、中山の歌も全部だめ。長谷川も中山も世間一般からしたら上手いのかもしれないけど、ここ、世間じゃないから。その程度じゃ、話にならない」

 陽菜は反射的に口を動かそうとした。けれど、言葉が出てこない。隣に立つ優菜の歌声を聞いた後では、頷くよりほかになかった。

「で?」

「え?」

「だから、どうするわけ?」

「…中山さんがつくった曲と詩で私が歌う、ということでしょうか?」

「そう。長谷川、理解が早いな」

 優菜と浜田のやり取りを陽菜は他人事のように聞いていた。別の言語を聞いているようなそんな感覚。話していることは分かるのに、内容が分からない。けれども、話はどんどん進んでいく。

 横を向くと優菜が唇を噛んでいるのが見えた。悔しいのは自分だけじゃない、陽菜はそう思った。歌いたかった。多くの人の前で、そしてその歌がその人たちの心に残れば、それ以上に幸せなことなんてないと思った。自分のつくった歌詞でなくてもいい。自分がいいと思ったものを声に乗せて届けたいと思っていた。けれど、人に届けるためには、歌うことをあきらめなくてはならず、歌い続けるためには、人に届けることをあきらめなくてはならないなんて。それでも陽菜は決断した。それは優菜と同じ決断だった。

「歌います」

 優菜が言った。

「作ります」

 陽菜も続くようにそう言った。2人の言葉に浜田はにやりと笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ