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面倒事はいつでもやって来る   作者: TO~KU
第二章 召喚した国―――リオン国―――
8/26

番外編 side ????(榊)   02

案内役だろう。

また、騎士に囲まれて階段を上り廊下を歩いて行くと、さっきよりも一回り小さな扉の前に連れて来られた。

中は見たことが無いくらい広い部屋だった。


「わ~、すごい」

「ほぁ~、すげえな」

「うわー、凄すぎないか?」


歓声を上げながら部屋の中をキョロキョロ見渡す制服三人組。

女に続いて中に入れば足元の絨毯の柔らかさに驚く。


「うわっ、すっげ」


と口からこぼれるのも仕方ないだろう。

こんな豪華な部屋、今まで使った事ないぞ?

三人組が部屋の探検を始めたが、女が入り口付近で止まっていたので、俺もその近くで部屋を見渡していた。


「あの、後ほどメイドがお茶をお持ちします。食事もこちらの部屋でお取りください」


ズボンの男が声を掛けてきて、ハッとする。

忘れてた。居たんだコイツ。

女が対応し、食事の時間を聞いたついでに、この世界の月日や時間の数え方を質問していた。

抜け目ねぇな。

ズボンの男はトイレの説明をすると去って行った。


「はあぁぁぁ~~~~~」


大きなため息をつき、女は三人掛けのソファーにドサリと腰を下ろす。

そして、両手で顔を覆って、背凭れに頭を乗せ、ぐったりと脱力していた。

さっきまで、あんなに凛としていたのに今は物凄くダルそうだ。

やっぱ緊張してたのか?

さっきの様子といい、偽名を勧める事といい、興味が惹かれる。

この女は、なんでそこまで頭が回るんだ?

三人組の声が部屋の奥の方でしていたので、女の隣に座り質問してみる。


「何で偽名っすか?」


一瞬なにか感じたがよく分からないので、じっと女を見つめて返事を促す。


「ん~、用心の為」


だからなんで用心が必要なんだ?

不思議に思っていると、


「君、神様……ええと女神様に逢ったでしょ?」

「―――っ!! 何でそれをっ!」


思ってもみなかった事を言われた。

息を飲んでいると、女も神に逢ったが三人組は逢っていないと言う。

そして、事情を一番知っているのは自分だと、顔を隠したまま女は続ける。

なぜそんな事を知っているのか、どういう事を知っているのか、気になって仕方がない。

だが、時間と盗聴を心配して今は話せないと言う。

ぐぐぐぐぐ。気になる。

女を凝視するが口を開かない。


「とりあえず、あの子達にもステータスの開示を控えて」

「わかった」

「私、結界スキル持ってるから夜にでも話そうか」

「……ああ」


この女、結界スキル持ってんのか。

じゃあ、さっきの変な感じ……今もしたな。

結界張ってたのか……マジで盗聴されてんのか?


眉にしわを寄せて考えていると、女が制服三人組を呼び寄せて、向かいのソファーを勧めた。

興奮している三人組を微笑ましそうに見ながら、話をする女。

だが、茶髪の自己紹介らしき言葉を遮り、


「初めまして。自己紹介だけど、誰が聴いてるか解らないから、そこの所よく考えて言おうね」


と忠告する。

息を飲む三人組だが、さっきは結界を張っていたのに今は感じない。

どういう事だ?

こんだけ警戒してるんだ。なんか根拠があるんだろう。

なのに、今は結界を張らないのは何故だ?

不思議に思ったが、女が自己紹介をしたので真似をして言う。


「……俺は、榊だ。二十代で、会社員」


もちろん偽名だ。年は二十五だがぼかした。

女は小畠で三十代……三十代?!

結構年上だな。あんだけ王様に言い返せる度胸があんだからおかしくはないが、俺と同い年に見えるんだが……。名前は恐らく偽名だな。

三人組は、全員高二で徳田・高橋・森本か。

高橋は俺より背が高かったな。


「早速なんだけど、明日また話し合いするって王様が言ってたからこっちもしようか?」


この女……いやこの人が話を切り出して、王様に言っていた拉致誘拐の賠償について話し合う事になった。

話し合う理由や決める事を簡潔に説明すると、各個人の要望を聞き出し妥協点や改善点を全員で話し合う。

この人が意見を言うのはほとんどなく、俺等の要望や気持ちを優先して話を纏めていく。この人が間違いなく中心になって話しているのに、自分の希望はあまり言わない事に少し違和感を覚えた。


話の途中、メイドがお茶を持ってきたが、メイドを見て身分制度とか階級社会という単語が頭に浮かんでくる。

三人組がメイドにはしゃいでいたが、俺は奴隷とかスラムとかあるんじゃねぇかとふと思った。

それぞれ思い思いの行動をしていたが、この人が逸れた気を戻させ、話し合いを続行する。

手慣れてるよなぁ……。


結局、賠償・魔族領までの移動手段確保は、『常識を学ぶための教育一か月』『賠償金』『旅費並びに護衛』という確実に目に見える形になった。


「ふう。次は勇者の報酬・待遇なんだけど……。皆は自分のステータス確認できない?」


ステータスの確認? そう思った瞬間、頭ン中に自分のステータスが出てきた。


**********


【名前】 河本賢哉

【年齢】 25  【性別】 男

【種族】 純人


【Lv】  1

【HP】  600/600

【MP】  300/300

【筋力】  200

【防御力】 300

【精神力】 200

【敏捷力】 300


【スキル】

剣術Lv1 格闘術Lv1 

火魔法Lv1

木工Lv1 石工Lv1 調理Lv1 

気配感知Lv1 HP上昇Lv1 筋力上昇Lv1

言語理解Lv1 アイテムボックスLv1 


【固有スキル】

滅消回帰魔法

身体頑丈


【称号】

巻き込まれた異世界人 

ネウリピュアの守護


**********


「……出来るな」

「出来ます。僕、小畠さんが王様に話してる時に確かめてみました」

「私も」

「俺も」


コイツ等知ってたのか。つうか、この人も知ってるんだな、こりゃ。

分からなかったのは俺だけか……。

そう思いながらステータスを確認する。


身体能力は地球よりアップしてるはずだか、基準が分からんからなんとも言えないな。

だがスキル欄に、【剣術】の他に【格闘術】【木工】【石工】【調理】【気配感知】【HP上昇】【筋力上昇】があった。これらは今まで俺が持ってた技能ってやつだろうな。

【言語理解】【アイテムボックス】【火魔法】もきちんとあったが、【滅消回帰魔法】と【身体頑丈】が【固有スキル】になっていた。

【身体頑丈】ってなんだ? そりゃあ、少々じゃ風邪をひかないし身体が頑丈と言われればそうだと思うが……。

【固有】っていうくらいだ。他の奴は持ってない……持てないスキルか?

まあいい。それよりも【神託】が見当たらない。

引き換えに、【称号】の所に、【巻き込まれた異世界人】【ネウリピュアの守護】ってのがある。

【巻き込まれた異世界人】は解る。【ネウリピュアの守護】も女神様の守護だろう。

ステータスそっちのけで色々考えていると、


「じゃあ、なんで勇者じゃない可能性を話したかわかる?」


と意味深な言葉を吐いた。

まさか?! と目を見開く。


「そう、私は【称号】に【巻き込まれた異世界人】とあるけど、【勇者】は無いの」


この人が勇者だろうと思っていたので、まさか俺と同じだとは考えてなかった。

苦笑いしながら言ったが、瞳に嘘は感じられない。

マジか……。


「……俺もだ」


ぼそりと言うと、三人組の視線が激しく俺とこの人を往復する。

この様子じゃ、コイツ等は勇者の称号があったんだな。

だが、この人が驚いている様子はない。

……やっぱり何かしらの『事情』を知ってるからか?


「だからね、勇者の報酬・待遇は勇者の【称号】がある人で話し合って、勇者でなかった場合の待遇は【称号】の無い人で話し合った方が良いと思う」

「え? でも僕達よく解らないから……」

「そうよ。私達じゃ……」

「俺達だけじゃ、無理です……」

「申し訳ないけど、一緒に話をする事は出来ない。だって、私は勇者じゃないから。私と榊君は、この国の人達に【不良品】として放り出される可能性だって十分あり得る。だから、自分で自分を守るために私は榊君と相談したい。貴方達も自分を守るために、勇者になるのかならないのか、勇者になるならどれだけの給料やどんな衣食住が良いのかを話し合って欲しい。そして、お互い話が纏まった後に意見交換したらいいと思うんだけど」


そう言って、この人は三人組と俺等を分けて話し合いするように持ち込んだ。

三人組は納得していない様子で文句を言っていたが、この人は気にする素振りはない。

はっきりした物言いに、納得せざるを得ない理由付き。逆らえる訳がない。

さっきまで、和気あいあいと話し合っていたのに、突然突き放すような態度。

だが、シカトする訳でもなく……見守ってる感じか?

優し気な表情はしているが完全に俺等を受け入れている感じはしない。

ああ、さっき感じた違和感はこれか。

気にはするが、助けてやらねぇ……身内みたいに守らねぇ感じか。

まあ、所詮他人だ。助ける義理も義務も無い。


「くくく。あんた厳しいんだか、優しいんだか、解んねえな」

「そうかな? まあ、優しくないかもしれないけど厳しくもないと思うけど」

「あいつ等にはもっと解らんだろうな。だが、自分達で決めさせるのは俺も賛成だ。ただ、あんたがまさか【巻き込まれた異世界人】とはね……」

「……それは後で話すわ。先に今後の事だけど、私は教育一か月の後すぐに城を出たい。なんなら、利用される前に、明日にでも出たいくらい」

「奇遇だな。俺もだ。だが少しくらいはこの世界の知識が無いと路頭に迷いそうだからな。何もなければ教育を受けた方がいいと思う」

「そうだね。じゃあ、城を出る事は決定で。時期は一か月後か、この国の対応次第ね。その時に何か貰う?」

「何かとは?」

「迷惑料。間違えて召喚したんだもの。それくらいは許されるんじゃないかと思うけど」

「賠償とかとは別にか?」

「そう」

「……貰えるか? 無理そうな気がする」

「じゃあ、交渉してみて、無理そうだったら無しね」

「ああ」

「あ、あと、部屋とか一か月間の生活水準だけど、――――――――――」


いや~、この人ホント逞しいな。

きっちり貰える物は貰う主義らしく、迷惑料か……。

まあ、あんだけ王様と交渉したんだ。もぎ取りそうだな。

それに、要点だけを喋って要らない話が全く出てこない。特に感情が。

基本的に、サバサバした性格なんだろうな。口の悪ぃ俺に怒りもしないし……。


そのおかげで、サクサク話が進んで、数十分で話し合いが終わってしまった。

この部屋は【勇者】用じゃないか? と言われて同意すると、借りを作りたくないから移動しようとか、高待遇で見返りを求められないように使用人待遇にしてもらおうとか、よく考えつくよな。


「はあ。暇だし、ちょっと部屋みてくる」


俺がこの人の頭の回転に感心していると、ソファーから立ち上がった。

そういえば見てなかったなと、俺も後をついて行くとこの人はチラリと視線を寄越すが何も言わなかった。

まあ、ついて行っていいんだろう。

そうして三人組が居るリビングに行くと、焦った様子で話し合いが終わってない事をこの人にアピールしていた。


「私達は話し合う内容が少なかっただけだから、早かったの。だから、貴方達が焦る必要はないわ。三人が納得するまで話し合って」


この人は笑顔でそう言って、壁にある扉を一つ一つ開けて見て廻った。

どの部屋も、ドデカいベッドと応接セット、トイレ、お風呂が完備されていて、広さも十分。


「……マジですげぇな」


思わずこぼれるほど、豪華な部屋だった。

三人組がスウィートルームだと言っていたが、納得。

この人も、目を丸くしながら「うわ~」とか「すご~」とか小声で言っていた。

案外、可愛らしい所もあるんだな。


だが、部屋を移動すると段々と顔が引きつりだし、「あー」「うー」と呻きだした。

この人が何を見てそんなに呻いているのか確認すると、ベッドの彫刻やソファーの触り心地、調度品の数々を見ては呻いていたのだ。


俺もよく見てみると、繊細で細かい彫刻や小さな宝石があしらってある事が解り、呻いている原因に思い至った。

これ一つ、いくらすんだ?

そう思ったら、呻く気持ちも理解した。

壊したら弁償なんて出来るのか?

俺の顔もきっと引きつっている事だろう。


お部屋探索が終わると、また三人掛けのソファーに戻って来た。

歩いたのと気分が乱高下したので疲れたのか、この人はお茶を手に取って飲み始めた。

……三人組の話が終わらなけりゃ、する事がないんだよな……。

それに気付くと、この人の知っている『事情』ってなんだ? という気持ちがふつふつと湧いてくる。

それに、こんなに色々考えを巡らせていんだ。

この人は、ここを出てからどうするつもりなんだ?

俺は、召喚陣破壊の役目があるからな。

この人も同じように何か役目があるのか?

……気になる。


「なあ、あんたここを出てどうする?」

「ん? ……とりあえず仕事見つける」

「……そうか」

「お金稼がないと路銀が尽きたらアウトでしょ」

「……まあ、そうだな」

「……」

「……」

「おかわりいる?」

「……ああ」


質問しても、差しさわりの無い答えしか返ってこない。

そういやあ、盗聴されてるって言ってたな。忘れてた。

だから詳しく答えないのか?

だが、俺に質問を返してこないのは何故だ?

やっぱり、『事情』が関係しているのか?

悶々としながら、この人に話しかけていく。


「どんな仕事を探すんだ?」と訊けば、「あんまり危なくない仕事」と言われる。

「危なくない仕事って?」と言えば、「製造業?」と返ってくる。

完全に盗聴を気にしてはっきりと答えない。

だがそんな中でも、生活設計をキチンと立てていて自律心があり、自立している人だという事が解る。

とぎれとぎれで話をしていると、鐘の音が三回聞こえてきた。

ああ、昼食の時間か。


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