表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒事はいつでもやって来る   作者: TO~KU
第二章 召喚した国―――リオン国―――
7/26

番外編 side 高橋正也(たかはしまさや)   02

その後、連れて行かれたのは、スイートルームみたいな何部屋も個室がある、広い部屋だった。

リビングも二つあり、テーブルやソファーがいくつも置いてあった。

初めてこんなすげぇ部屋を見て、


「わ~、すごい」

「ほぁ~、すげえな」

「うわー、凄すぎないか?」


と感動してしまった。

キョロキョロと絨毯やソファー、壁の装飾などを見ていると、森本が「もっと奥まで見よう♪」と翔馬の手を引く。

それについて行き、あちこちの扉を開けて中を覗くが、どの部屋もキンピカしていて高級感溢れていた。

しばらくすると女の人に呼ばれたので、感嘆のため息をつきながら戻り、感想をつい口走ってしまう。


「そうなの? 良かったわね」


と、女の人はにっこりして答えてくれ、トイレと食事時間、それにこの国の月日・時間の数え方を教えてくれた。

何時の間に? と思ったが、案内してくれた人に訊いたらしい。

有り難いと思っていると、翔馬がさっきの王様とのやり取りのお礼と自己紹介をしようとして遮られる。

曰く、「誰が聴いているか分からない」という事だった。

まさか?!! と思ったが、翔馬達と顔を合わせて、確かにあり得ない事じゃないと思いなおした。


「私は、小畠(こばたけ)と言います。三十代です。会社員でした」


とお手本のように女の人が言うと、その横に座っていた作業着の人が、


「……俺は、(さかき)だ。二十代で、会社員」


と言うので、俺達も言葉を選んで自己紹介をした。

名字と高校〇年だったら、この人たちは解るけど、リオン国の人は解らないだろう。

小畠さんが三十代と言った事に驚いたけど、雰囲気が『出来る大人の人』だったので納得した。

ただ、榊さんの方が年上に見えるのはなんでだろう?


そう思っていると、自己紹介も早々に、小畠さんはテキパキと賠償・魔族領までの移動手段確保についての話し合いを始めた。

とにかく、丸め込まれて不利な状況にならないようにするためらしい。

俺達にはよく解らなかったけど、小畠さんに尋ねられるまま自分達の気持ちを答えた。


その話の途中、生メイドがやってきて、ついはしゃいでしまった。

だって、生メイドだぞ?

だけど、翔馬の方がはしゃぎっぷりが酷かったので、若干我に返った部分もあったが。


そんな俺達を叱ることなく、小畠さんは話し合いの続きを促してくれ、『常識を学ぶための教育一か月』『賠償金』『旅費並びに護衛』という事になった。

そして、勇者の報酬・待遇についての話を始めた時、


「私は【称号】に【巻き込まれた異世界人】とあるけど、【勇者】は無いの」


と小畠さんは苦笑いしながらキッパリと言った。

もしかしたら……と思っていた部分もあったが、まさかな……と否定的な思いもあったので、本人からキッパリと事実を言われ衝撃が走る。

愕然とした表情で小畠さんを見つめていると、その隣の榊さんも【巻き込まれた異世界人】だと言った。

俺達が勇者で、この人たち勇者じゃないのか?


そう思った瞬間、小さな優越感が生まれた。

しかし、小畠さんから、


「だからね、勇者の報酬・待遇は勇者の【称号】がある人で話し合って、勇者でなかった場合の待遇は【称号】の無い人で話し合った方が良いと思う」


と言われると、小畠さんのように言い負かせられるような事が俺達に考えられる訳がないと、不安になる。

しかし、小畠さんは何度お願いしても俺達と話し合う事は出来ないと断った。

訊けば、【勇者】じゃないからと言われ、意見交換はしてくれると言うので納得するしかなかった。


実は、納得する一方で、俺は密かに優越感で満たされていた。

それを見せないように、不安で小畠さんと一緒に話したいと言い募る森本を宥め、俺達は奥のリビングに移動して話し合いを始めた。


俺はいきなりこんな所へ連れて来られ、何がなんでも早く日本に帰りたい。

何をやらされるか分からないし。

だけど、翔太が「【勇者】なんて日本じゃあり得ないからやってみたくないか?」とちょっと得意気な顔で言ってくる。

森本も、「この国を【勇者】が守らないといけないなら、少しだけ【勇者】して帰ってもいいんじゃない?」と言い出す。


二人とも「ゲームのような世界だろうから死なないよ」とあっけらかんとしていた。

「小説じゃ、奇跡の力を持っていて色んな人を救い英雄になるんだ」と、興奮し出す翔馬に、「そうそう、私達【勇者】なんだから一番偉いはずよ」と森本も乗っかっていく。


だが、翔馬に押し付けられた小説には、呼び出した国が【勇者】を騙していた話もあったはずだ。

思い出作りにしてもいいんじゃないか、セレブな生活が出来るんじゃないか、と能天気に【勇者】がしてみたいと言う二人に、「だがな」と反論していると、小畠さんと榊さんが俺達の居る奥のリビングに歩いてきた。


二人は俺達に声を掛けることなく部屋の中を見学し出して、もう終わったのかと焦った。

この人達、話し合うの早すぎないか?

まだ全然話し合いが進んでない事にアワアワしていると、「気にせずしっかりと話し合え」と言って、個室の方へ行った。


それを横目に、優越感を載せた瞳で俺達は話し合いを続ける。

だが、報酬とか待遇とか言われても、俺達にはピンと来ない。

アルバイトはしているがバイト代では少なすぎるだろうし、仕事に就いたことが無いのでどれぐらい稼げるのか分からない。

あれがいい、これがいい、と話しながら、俺達は自分達がどんな立場で、どんな事を求められていて、そしてその代わりにどんな代償を支払わなくてはいけないのか全く考えずに、ただ【勇者】という響きに酔っていた。


話し合っていると、『カーンカーンカーン』と昼食を知らせる鐘の音が聞こえてきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ