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面倒事はいつでもやって来る   作者: TO~KU
第二章 召喚した国―――リオン国―――
5/26

番外編 side ????(榊)   01

別視点です。

今日はちょっと寒ぃな。

そう思ってジャケットに首を埋め、イヤホンから流れる音楽を聴きながら出勤していた。

町工場の作業員として働いて七年。

いつも通り、電車から降りて歩道を歩いていた。


朝の通勤ラッシュで車が混雑しているが、工場までは徒歩だから俺には関係ぇねぇ。

だが信号に引っかかり、舌打ちをして待つ。

ポケットに両手を突っ込み、信号が変わった途端に歩き出す。

音楽に紛れてブレーキ音がしたかと思ったら、身体がふっ飛ばされ俺の意識は飛んだ。



……ン……なんだ?

気が付くと、どこもかしこも真っ白な変な所に居た。

そういやぁ……俺、ふっ飛ばされたんだよな?

……死んだか?

だが、ここは何処だ?

混乱していると、前方が光りだし絵画から抜け出てきたような女神? が立っていた。


『初めまして。私は【ファイ】の人族の神、ネウリピュアと言います。大変申し訳ないのですが、貴方はこの世界の召喚に巻き込まれてしまったようです』


女特有の柔らかい声で綺麗な笑みを浮かべて女神が言った。

あぁ? どういうことだ?


『ここは地球とは異なる世界で【ファイ】と言います。剣や魔法、魔物が居る世界

と言ったら解りやすいでしょうか?』


はあ? 異世界?

何言ってんだ?


『【ファイ】では召喚を行う事が出来るのですが、貴方はそれに巻き込まれる形でこの世界にやって来てしまいました。貴方は、ここへ来る前の記憶がありますか?』


巻き込まれたぁ? ……はぁ……。

最後の記憶は、トラックか車にふっ飛ばされた。

だからまあ、死んだんだと思う。


『そうですね。この神界へ来られるのは貴方のように死んだ方だけです。ですから、貴方は地球で亡くなっています。そして、魂だけがこちらへと来ている状態です。申し訳ないのですが、すでに地球の輪廻から弾かれていますので、こちらの世界で生きて頂くしかありません』


生きるも何も、俺死んでるんだろう?


『はい。ですが、巻き込まれたお詫びに身体を再構築しますので、【ファイ】で生き直されませんか?』


生き直す?

女神が言っている事に頭がついて来ない。

要は、死んだけど異世界で生きてみないか? って事だよな?


『はい。こちらの不手際で【ファイ】へと来てしまったのですから、新しい人生を新しい世界で送りませんか? 地球での才能と記憶を引き継いで、お詫びとして【ファイ】で生きやすいように、特典を付けます』


特典?


『はい。それと一つお願いが……』


お願いって?


『貴方のように巻き込まれる方が今後無いように、召喚陣を破壊していただきたいのです』


破壊だ?


『そうです。そのための力は授けます。特典とは別ですよ?』


……少し物騒だが、神からの頼まれ事だし断らないのが無難か。

力を授けてくれるって言ってるし、特典も付けるって言ってるからな。

まあ、死んだのに生き返らせてもらえるのは正直嬉しいな。

しかも、異世界だしな。

おもしれぇ。いいぜ。


『ありがとうございます。では、――――――――――』


さっきよりも高いキーで嬉しそうに女神は説明し始めた。

【ファイ】は、地球からすると中世時代の文化発展に似ていて、魔法・魔物が存在し、所謂ゲームに似たような世界らしい。


基本的に、身体は地球と同じだが少し身体能力がアップし、今までの記憶と技能を引き継ぐ。

また、召喚陣破壊のために、目的地を知るための【神託】受諾、召喚陣消滅用の魔法【滅消回帰魔法】を授けてくれた。

【神託】は文字通り神からのお告げが聞こえるスキル。

【滅消回帰魔法】は召喚陣の存在を消し魔力を世界に帰す魔法で、召喚陣破壊にしか使えない。専用の詠唱が必要で『召喚陣滅消』と言わなければ発動しないとの事。


他の魔法は、イメージが十分なら無詠唱、詠唱による強制発動があり、ここに来るヤツは大体無詠唱でイケたらしい。

俺も、無詠唱でイケるかもしんねぇな。

……ちょっとたぎるぜ……。


特典は、【言語理解】と【アイテムボックス】のスキルと、武技・魔法を各一つ選択可能、着替え、武具・防具、お金で、選んだスキルは【剣術】と【火魔法】。

【剣術】も【火魔法】も攻撃力が強ぇんじゃないかと思ったからな。

……スキルとかマジでゲームみてぇだな。


『これでよろしいですか? では、召喚先へと送ります。破壊する召喚陣はこちらから教えますので、どうぞよろしくお願いしますね』


女神は一段とにっこりして俺に手をかざした。

すると、一瞬で光に包まれた。

美人だよな、女神。

目の保養になったぜ。

第二の人生貰ったんだ。お願い事の召喚陣破壊頑張るさ。

じゃあな。




***




眩しさが取れて、地に足がついている感覚がして目を開ける。


「成功したのか?! どうなんだ?」

「成功です。間違いなく成功です!」

「そうか!」


直径五メートルの円形の魔法陣? のような物の上に立っていた。

これが召喚陣か……。これも破壊するのか?

喋っている声の方をチラリと見ると、マントのようなローブを着ている男とキラキラした服を着ている男が居た。

こいつ等でけぇな。俺でも178センチあるのに。


『なになになに! 何なの?』

『なんだ?! 何が起こった?!』

『どういうことだ?!』

「おかしいぞ! 言葉が通じていない」

「手順に則ってきちんと行いました。間違いなく勇者の皆様です」


横に制服を着た三人組が居て、斜め後ろに女が一人居た。

パニックになっているのか、三人組がギャーギャーと騒ぐ。

うるせぇなとイラッとしながら、周りを観察する。

ゲームみたいな世界と言っていたが、まさにその通りだな。

帯剣しているまんま騎士みたいな奴が召喚陣を囲っている。

俺は召喚に巻き込まれたからここに居るが、神との約束があるからさっさとここを出たいんだが、今はマズいだろうな。


「どういう事だ? なぜ五人も居るのだ! 本来召喚されてくるのは一人のはずだろう?!」

「それが……私にも解りません。しかし、五人も居らっしゃることは僥倖ではないでしょうか」

「それはそうだが……」

「ならば、五人とも我が国の召喚異世界人とすれば良いではないですか」

「だが、本来一人であるなら、この五人の中で本物も一人という事はないか?」

「それは……」


一人? 勇者召喚?

笑えるぜ。俺が勇者召喚に巻き込まれるなんてな。

人生何が起こるか分かんねぇな。

……一人なら、後ろの女が本命か?

視線だけを動かして見てみると、肩までのストレートヘアーに可もなく不可もない普通の顔。身長がこの中で一番低いな。

ただ背筋が伸びていて凛とした雰囲気を纏い、冷静な様子が勇者なんじゃないかと思わせる。

片や制服の三人組は、「ここは何処だ?」「どういう事だ!」「なんで剣なんか持っているんだ!」と騒いでいるのが耳障りだ。

ムッとした顔で三人組を見ていると、茶髪がキラキラした服を着ている男に声をかけた。


「僕等はどうしてここに居るんだ? なんでここに居るんだ?」


すると騎士達が剣を抜こうと構える。

こりゃあ、マズい事口走ったら斬られるな。

言った茶髪もビビッて固まってるし。

キラキラした服を着ている男が右手を挙げると、騎士達が構えを解いた。

コイツがお偉いさんだな。


「僕はリオン国王太子、アーセル・リオンだ。古来から続いている勇者召喚を行い、君達をここへ召喚した」

「えええ~~~?!」

「はああああ?!」

「マジか?!」


制服三人組の絶叫に、眉が寄る。

だが、納得した。コイツ王太子か。そりゃあ、偉いわな。


「驚いていると思うが、説明のために場所を代えたいと思うので、僕について来てほしい」


そう言って王太子は唖然としている制服三人組の中の女に手を差し伸べた。

説明か……。めんどくせぇな。

だが、不審な動きをして騎士に斬られるのもな……。

言われるがままについて行くと、女が隣になった。

そういやあ、こっちも女だよな。

なんで王太子は制服の方にしたんだ?

あっちに付けるなら、普通こっちにもつけるよな?

エスコートが常識なら。

それに、勇者が一人なら、普通この女か俺がそうだと思うんじゃねぇか?


なんとなしに女をチラチラ見ていると、一瞬女の眉にしわが寄った。

見られるのが嫌だったか?

そう思って視線を外し、周囲に気を配る事にした。


石造りの部屋から出て石畳の廊下を歩き、石の階段を上る。

すると、今までとは違った磨かれた床で、内装が施してある廊下に出てきた。

そこから右へ曲がり、また歩く。


視線だけを動かしてここが一階で、召喚された部屋が地下だという事が分かった。

情報収集をしていると、隣の女が囁いた。


「名前は偽名で」


どういうことだ?

なんで偽名にする必要がある?

視線を向けるが女はこちらを見ていない。

さっきの言葉も俺にしか聴こえていないようだ。

気になるが、訊くなというオーラを感じたので黙っておく。

この女が偽名を使うんなら、俺も使ったっていいだろう。

俺が困る訳じゃないしな。

口に出して返事をすべきじゃないと考えて、女の手に一度自分の手を当てておいた。

まあ、返事だと分かるかどうかは知らないが。

そのまま女に話しかけることも無く、無言でキラキラした服を着ている男の後をついて行く。


しばらくすると、騎士が守っている扉の前に着いた。

ああ、なんだか『王の間』みたいな感じだな。

促されるまま中に入ると、どっかの宮殿みたいで煌びやかな内装に目を丸くする。

マジですげえな。

どんだけ豪華なんだ?

通路の真ん中に敷いてある赤い絨毯の上を歩かされる。

通路の両脇には数十人のおっさんが立ち並び、正面の段が高くなっている所に椅子に座った王様が居た。

王冠なんて初めて見たぞ。アレ、いくらすんだ?


王様の前に着くと、一列に並ばされた。

その直後、俺等の両端に陣取っていた王太子とローブを着ている男、後ろに整列した騎士達が一斉に膝をついた。

うおっ。なんだ? びっくりさせんなよ。

驚いていると隣の女が頭を下げたので、俺も一応頭を下げておいた。

王様が歓迎の挨拶? を言うと、膝をついていた奴ら皆が立ち上がったので頭を上げる。


「ここはリオン国王城で、私はリオン国国王ユーベント・リオンじゃ。我が国に来てくださった勇者の皆様を歓迎いたす。古来から、勇者様は国の守り神とされておる。我等を守ってくださる勇者の皆様を厚くもてなし、この国を守ってくださる事に感謝の意を表す」

「え?」

「は?」

「あ?」


王様の芝居じみた言葉に両脇から盛大な拍手が起こり、制服三人組が呆けた返事をしていた。

勇者を歓迎するって言ってるが、俺は『巻き込まれ』だからな。

勇者じゃねえんだよ。

国を守れってどういうことだよ?

流されそうな雰囲気がいただけねぇな。

そう言ってやろうと思ったら、隣の女に腕を抑えられた。

なんだよ? 言うなってか?

っていうか、なんでこいつに従わなきゃいけねぇんだ?


イラッとして舌打ちが出そうになっていると、制服三人組が王様に反論した。

そうだよ。国の守り神っておかしいよなぁ。

俺等違う世界から来てるのによぉ。

だが、王様は、


「我が国は間違いなく勇者召喚を実施した。その召喚陣から現れた皆様は、間違いなく勇者である。勇者であるからこそ皆様は召喚されたのじゃ。召喚された勇者様は、昔から我等の世界の人間よりも優れた能力や知識が必ず持っておる。その力で、歴代の勇者様達はこの国を、いや世界を守ってくださった。ですから、皆様も同じように守ってくださればよいのじゃ」


と俺まで勇者だと言い出した。

しかも、昔からの習わしだから習わし通りに国を守れと。

知らねえよ、そんな習わし。俺には関係ねぇし。

上から目線の「つべこべ言わずにやれ」っていうニュアンスに、ムカッとした。

眉間にしわを寄せて王様を見ていると、隣の女が声を上げた。


「発言してよろしいですか?」


焦りも気負いも感じられない冷静な口調に思わず横を見る。

まっすぐに王様を見上げ、口元に微笑をたたえ怯む様子など一つも無い。


「私達は、元の世界でそれぞれ人生を送っておりました。ですが、この国の皆様の勝手な都合で、無理やり、召喚されました。はっきり申し上げて誘拐です。そして、縁もゆかりも関係も全くないこの国を守れとおっしゃるのは、孤立無援の私達に対する脅迫です。それを踏まえて、おっしゃっているのでしょうか?」


と、スパンと事実を突きつけた。

この女、すげぇ。

感心していると、無礼だと横やりが入る。

それにも冷静に対応し、結局言い負かした。


はっきりと事実を突きつける度胸、簡潔に事を纏めて言う頭の回転の速さ、それでいて失礼のないよう配慮までするって、俺には無理だな。

横目で女を観察していると、王様が威圧的なオーラを出してきた。


「儂は王じゃ。王に意見するか」

「意見に聞こえておりましたら大変申し訳ありません。私は、どなたでもよいのでこの国の方に、ただ確認したかったのです。両脇に立っていらっしゃる方々にお答えいただいても構いません。皆様は、今いきなり縁もゆかりも関係も無い国に飛ばされたら、どう思われますか? その理由が、縁もゆかりも関係も家族も味方も無い国を守るためだと言われて、ご納得されますか?」


表情を一つも変えずに瞳に少し挑発的な色を乗せて、女は王様のみならず、両脇に居るおっさん達も巻き込んで質問しやがった。

これ、「納得する」って言やあ、「ならすぐに敵国に行って証明してみせろ」って言われてもおかしくないぞ。

両脇のおっさん達もそう思っているのか、騒めくものの言い返さない。

王様も眉間にしわを寄せて、黙っている。

なんだか見ていて爽快だな。

人を説き伏せるって。


「それは……」

「お言葉を遮るようで申し訳ありませんが、もし、誘拐でないとおっしゃるなら、今すぐに私達を元の世界に戻せなければ意味はありません。私達を今すぐ元の世界に帰せますか?」


いや、訂正する。

真実ほど人を黙らせる力があんだな。

女の言っていることは全て事実だ。

王様が言っていたこともきっと事実だろう。

だが、王様は王様側の、女は女側の言い分があって、そこに事実を乗せれば自ずと真実に近づく。

だからこそ、王様も反論できないんだろう。

そこへ、王太子が割り込んできた。

が、即刻論破された。

それに笑いそうになる。


帰る方法があるっていうのは、俺以外の奴には吉報だろう。

だが、魔族領ってゲームじゃラスボス面だよな?

そんな所に行かなきゃ帰れないのか?

マジで脅迫じゃねぇか。

げんなりしていると、王太子が王様に窘められて引き下がった。

そして、再び王様と女のバトルが始まる。


「貴殿は何が言いたいのだ」

「皆様がされた勇者召喚は、私達にとっては拉致・誘拐・脅迫なのです。それがお判りいただけたでしょうか?」

「……」

「いただけたでしょうか?!」

「……うむ」


マジこの女、強ぇ。


「でしたら、拉致・誘拐については【賠償】と【魔族領までの移動手段確保】、脅迫については【私達の意思を尊重する事】をしていただければ私達も皆様の言葉に耳を傾けようという気になります。一方的に要求を突きつけられれば、耳を塞いで(かたく)なになるのも当然ではないでしょうか」

「……ふむ」

「ですから、私達が耳を傾けたくなるようにしていただきたいのです。私達は、突然召喚されて混乱している最中ですので、明日以降もう一度お話ししていただけませんでしょうか。皆様も【賠償】や【魔族領までの移動手段確保】について話し合いをされたいでしょう。それに、国を守るという【勇者】は私からすると役職のように聞こえます。その【勇者】という役職に対する報酬や待遇なども、私達は知りませんからご説明いただきたいですし、皆様も話し合われたいのではないでしょうか」

「……む」。


女は無下に却下できない提案をし、否定できない王様の眉間にしわが寄って行く。

それを見て、吹き出しそうになるが我慢する。

そして、女は心なしか首を傾げて不思議そうに、俺等全員が本当に【勇者】なのか王様に尋ねた。

王様はローブの男に確認するが、女は、


「でも、王太子様と貴方様が、おっしゃっていたではありませんか。本来【勇者】は一人だと」


の一言で一蹴する。

そして、


「そもそも、私は一緒に召喚された他の四人よりも年上です。年増の私が【勇者】であるとどうしても思えません。ですから、私達を【勇者】だとおっしゃるなら、その証明もしていただけますでしょうか」


と理由を言って、【勇者】の証明をしろと当然のように口にした。

これ以上は不利になると思ったのか、王様は女の要求を受け入れ、明日もう一度話し合う事を約束した。

そこへ、追加で【勇者】でなかった場合の事も話し合えと言い、最後には、全員同じ部屋になるようにしろと言った。

ホント、この女スゲェ。

こんな勇者だったら、そりゃあ欲しくなるだろうぜ。


王様が右手を振ると、ズボンの男が近づいてきて、部屋に案内すると言った。


読んでくださりありがとうございます(* ̄∇ ̄*)


次は、主人公の視点です。

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