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面倒事はいつでもやって来る   作者: TO~KU
第二章 召喚した国―――リオン国―――
3/26

01 召喚先は厄介

読んでくださりありがとうございます。

ステータスについて、『こんなもんかな?』と詳しい知識のないまま書いていますので、おかしい箇所があるかと思います。

そこら辺は気にしないでサラッと流して下さると有り難いです。

激痛が薄れ、身体の感覚が戻ってくると、足の裏に床を感じる。

そして、キーンと鳴っていた耳鳴りが止むと、


「**********?! *******?」

「*****。******!」

「***!」


聴いたことのない言語が聴こえてくる。

目は、さっきの赤い光で少しぼやけて良く見えない。


だけどきっと今私は、異世界人召喚をした国の召喚陣の上に立っている。

そして、聴こえてくる言葉は、この国の言語だろう。

ならば、私の他に召喚された四人が居るはずである。


そう思って、シパシパする目を擦って周りを見ると、斜め右前に制服姿が三人、左斜め前にツナギ姿が一人立っていた。


制服姿の三人は、女の子一人、男の子二人で、体格から恐らく高校生だろう。

女の子は、茶髪のポニーテールでスレンダーな身体つきで、私よりも背が高い。

……私が低いんじゃない。最近の子が高いのよ!


男の子は、茶髪のふんわりパーマで身体がひょろっとしていて顔がイケメンの子と、黒髪の短髪で背が一番高くがっしりした体格の仏頂面の子だった。


『なになになに! 何なの?』

『なんだ?! 何が起こった?!』

『どういうことだ?!』

「******! ******」

「**************。*********」


その制服姿の三人が混乱して叫んでいるのを聞き流し、仲が良さそうな様子から神様達が言っていた現地人が召喚したのはこの子達だと判断した。


そのまま前方に視線を動かすと、白色のローブを着ている男と、金の刺繍が入った白色貫頭衣に青色ロングガウンを着た灰髪藍眼で顔が煌びやかな男が、何やらこちらを覗いながら喋っているのが見えた。


百九十センチを超えていそうな現地人二人から見下ろされ、値踏みするような視線にちょっとムカつく。


制服姿の三人が現地人召喚の対象なら、ツナギ姿の男の子が恐らく【本来の召喚されし子】だろう、と今度は左に視線を動かす。


彼は、黒髪のショートで細くも太くも無いバランスのいい身体つきで、巻くってある袖から見える上腕二頭筋のうっすらとした盛り上がりからきっと細マッチだろうと思う。


制服姿の短髪の男の子より背は低いが、茶髪の男の子より高いので、175センチはあるだろう。

そのツナギの子は、制服姿の子達を見つつも、沈黙してチラリと周囲にも視線を向けていた。


同じように私も周囲をチラ見してみた。


私達が立っていた場所は予想通り召喚魔法陣の上で、現地人達が魔法陣を遠巻きにして立っていた。


足元の魔法陣は直径五メートル程ありそうな円形で、ここが壁や床が石で出来ている部屋であることが見て取れた。


また、現地人達は話している二人とは別に、茶色のローブを着ている人、皮鎧や鎧を着ている人などが居て、部屋の四隅と出入り口であろう扉の前、煌びやかな顔の男の側に立っていた。


たぶん、煌びやかな顔の男がこの国の王族で、白色のローブを着ている男が召喚を実施した人じゃないかと思う。


だって、煌びやかな顔の男、偉そうな態度なんだもの。

彼等が話している内容を聞き取ろうと神経を集中させると、スキルが働いたのか何を言っているのか理解できた。


「どういう事だ? なぜ五人も居るのだ! 本来召喚されてくるのは一人のはずだろう?!」

「それが……私にも解りません。しかし、五人も居らっしゃることは僥倖ではないでしょうか」

「それはそうだが……」

「ならば、五人とも我が国の召喚異世界人とすれば良いではないですか」

「だが、本来一人であるなら、この五人の中で本物も一人という事はないか?」

「それは……」


なんとも胸糞悪い会話だろうか。

本物じゃない者はどういう扱いをされるのやら。


この時点で、この国に対する好感度はマイナスである。

というか、私達が聴いていると思っていないのだろうか?


呆れた視線を話している男二人に向けるが、短髪長身の男の子に半分身体が隠れているので、向こうからは見えないかもしれない。


それに、制服姿の三人が、やれ「ここは何処だ?」「どういう事だ!」「なんで剣なんか持っているんだ!」と騒いでいたので、声が聞こえるとは思っていなかったのかもしれない。


少しの間騒いでいた制服姿の三人だが、この部屋の中で最も偉そうに見える白ローブの男と煌びやかな顔の男に気が付くと、茶髪の男の子が声をかけた。


「僕等はどうしてここに居るんだ? なんでここに居るんだ?」


さっきまで日本語で叫んでいたが、スキルが働いたのだろう、現地の言語を話した。

だが、彼の言葉に、帯剣している―――恐らく護衛か騎士だろう―――人達がザッと剣を抜こうと構えた。


それに制服姿の三人はビクつく。

おいおい、何にも説明受けてないんだから、いきなりバッサリはイカンだろう。


ある程度は予想がつくけど、私等異世界人なんだから、あんた等がどういう立場で、どんな役職かなんて、知るはずないじゃん。


そう呆れていると、煌びやかな顔の男が右手を挙げて騎士の構えを解かせ、口を開いた。


「僕はリオン国王太子、アーセル・リオンだ。古来から続いている勇者召喚を行い、君達をここへ召喚した」

「えええ~~~?!」

「はああああ?!」

「マジか?!」


制服姿三人の絶叫に、騎士の人達の右手がピクリと反応していたが、今度は構えることはなかった。


だがしかし、私の心は王太子に剣を構えている。

神様達は【異世界人召喚】と言っていた。なのに王太子は【勇者召喚】と言った。

この齟齬は見過ごせない。厄介な匂いがプンプンする。


「驚いていると思うが、説明のために場所を代えたいと思うので、僕について来てほしい」


そう言って王太子は唖然としている制服姿三人の中の女の子に手を差し伸べた。

イケメンの微笑みを間近で見た女の子は、ポッと顔を染めると熱に浮かされた様に手を差し出された手に重ねる。


……ちょっと。ここにも女が居るんですけど。エスコートするなら私もでしょうよ!


と白いローブの男を見るが、奴は王太子の後ろにいる騎士と話をしており、結局私をエスコートするために手を差し伸べる人は居なかった。



そのまま、騎士、白いローブの男、王太子と女の子、制服姿の男の子二人、私とツナギ君、騎士の順で部屋を移動させられた。


まあ、私は年ですから。エスコートするなら若い女の子の方がそりゃあ良いわよね。

隣に並んで歩くツナギ君、気の毒そうに私を見るな。


ああ、王太子のこの対応は、今後の王城生活に影響を及ぼしそうで、ため息が出そうになる。


普通に考えて、この国からすると私達五人はまだ誰が【本物】か判明していない。

そう、全員が勇者候補のはず。


同じ候補なのに、五人の中で優劣を付けるような行為は、私達の心証を悪くする。

だって、のちに誰が勇者か判明した時、不満やしこりとして関係性に溝を作るきっかけに十分なり得るもの。


せめて説明をするとか、つけるなら全ての女にエスコート役をつけるとか、誰にもエスコート役をつけないとかしないと。


今の王太子を傍から見たら、王太子が女の子を気に入っていると受け取られてもおかしくないのだ。


それぐらい、解らないのだろうかと思ったが、どうせ私はここを出ていくつもりなので、ぜひとも利用させてもらおう。


……今のうちにステータス確認しとくか。

神様に色々と希望スキルを何やらかんやらお願いしたし、あの激痛の中『珍しいスキルは人に知られたくない! 隠れろ!』って念じたんだけど、どうなってるのか確かめてみよう。

ステータスが見たい、そう思ったら頭の中に出てきた。


**********


【名前】 丹羽未和

【年齢】 35   【性別】 女

【種族】 純人?


【Lv】  1

【HP】  1000/1000

【MP】  2000/2000

【筋力】  500

【防御力】 500

【精神力】 700

【敏捷力】 300


【スキル】

言語理解LvMax アイテムボックスLvMax


【固有スキル】

(メニュー) (マップ) (ファイの知恵袋) 

(武技の極) (魔導の極) (製造の極)

(生産の極) (真贋の極) (商人の極)

(神の息吹)

ツボ術 (召喚術)

完璧(パーフェクト)身体(ボディ)

(スキル譲渡)


【称号】

巻き込まれた異世界人 (世界の救世主) (****)

ファイの寵愛 ネウリピュアの恩寵 ゾントスの恩寵 ルラノスの恩寵


**********


おい、こら!

種族に『?』がついてるのはどういうことだ?!


お? ()がついてるのは・・・


**********


【隠蔽】行使中

ステータス、スキル、称号を他人に見られないように隠す。

()内が本来のステータス値、スキル、称号。


**********


おお! 破れかぶれのヤケクソだったんだけど、どうやらスキルが発動してたみたい。

火事場のクソ力って出るもんだね♪


って!! 【固有スキル】のほとんどが隠れてる?! 数が多すぎないか?!

『珍しいスキル隠れろ』って念じたんだから、隠れてるやつは珍しいスキルなんだよね?!

頼んでたスキルが見当たらないんだけど?!


噴き出しそうになるけどぐっと堪える。

とりあえず、あの激痛の中スキルを発動させることが出来ていた自分を誉めよう。

ただ、これじゃちょっと変に思われないか?

だって、見えてるスキル、3つだよ3つ。


人生経験というか、生活する中で身に付いている技能はスキルとして表れるって、神様達言ってたんだけど。

どこに行ったのよ、私の生活能力と仕事能力。ついでに頼んだスキルも。

・・・まあ、隠されてるスキルがそうなんだろうけど・・・。

とりあえず、これ等のスキルがどんなものなのかサラッと調べて、ついでに見られても不審に思われないようにもう少しつつきますか。


なんか、レベルがあるのと無いのがある。

なんでだろう? そういうもんだと思っておくのが普通なのかな?


詳しい説明出ろ~と、効果がよく分からないものに意識を向けてみた。

便利だなぁ。この機能。


**********


【メニュー】 

ステータス・スキル・知識等を管理する。半透明の液晶面化可能。その際他人は不可視。許可があれば見る事が出来る。


【マップ】 

ファイ全土の土地・ダンジョン・建物・人・魔物等を映す地図。現在地表示、拡大縮小、マッピング、検索も出来る。


【ファイの知恵袋】 

歴史・生物(魔物含む)・植物・スキル・製法・加工技術等の異世界ファイに関するあらゆる知識を知る。


**********


うん、この三つはレベルがないから、持ってれば使えるスキルなのか?

なら、他の【固有スキル】もレベルが無いのはそういうことなのか?

まあ、レベルが無いのがよく分からんが、使えるならそれでいいか。


……ふふふふ。

『極』が付いている【固有スキル】は見せられない……。

それぞれに関する技術がMaxレベルだった……。


【武技の極】は、剣術・短剣術・杖術・槍術・斧術・盾術・弓術・投擲術・格闘術・軟体・軽業・隠密・気配操作・動作補正。


【魔導の極】は、光・黒・火・水・風・土・氷・雷・重力・時空・結界・回復・付与・支援・生活・無詠唱・魔力操作・行使補正。 


【製造の極】は、調薬・調理・錬金・裁縫・石工・木工・革工・鍛冶・魔工。 

 

【生産の極】は、耕作・栽培・土壌加工・従魔術・畜産・解体・伐採・採集・採掘・釣り・捕獲・養殖。


【真贋の極】は、隠蔽・偽装・鑑定・解析・心眼・気配感知・魔力感知。 


【商人の極】は、算術・相場術・交渉術・礼儀作法。


こんだけスキルが詰まってるんなんて……唖然。

私自身の能力も含まれてると思うし、神様達に頼んだスキルもあるんだけど……頼んでない役立ちそうなスキルもあるんですが……?

・・・うん、報酬だし、世界救ったらしいし、いいよね……? 気にすまい。


ただねぇ・・・絶対ぜぇ~ったい知られたら困るのがあった!! 

【神の息吹】だ!

これは『聖浄魔法・聖消魔法(滅消回帰魔法含む)・聖育魔法・神眼・眷属化』って事だけど、効果これだよ?!


**********


【聖浄魔法】 

穢れを浄化できる


【聖消魔法】(滅消回帰魔法含む) 

人や物を消し、魔力を世界に帰すことが出来る


【聖育魔法】 

生物を成長させることが出来る


【神眼】 

人や魔物の心情が分かる


【眷属化】 

配下になる


**********


人間が持ってたらアカンスキルじゃない?!

『神』や『聖』がついてるから崇められそうだし、内容がかなり凶悪な気がする!


これ私が頼んだやつではないので、神様達がくれたスキルだと思う。

……ヤバイ気がする……。

絶対知られないようにする!


【ツボ術】は、まあ分かる。民間資格を持ってるし。

【召喚術】は『契約した従魔を異空間から出し入れ出来る』だから、報酬の『旅のお供(もふもふ動物)』のためのスキルなんじゃないかな。

なら、もふもふは……


**********


<召喚獣>

眷属神獣【小仔助|≪おこじょ≫】

眷属精霊獣【聖虎】


**********


見たい!! すげぇー見たい!!

【小仔助】って、あれか?! あのちっさなフェレットみたいなやつ!

【聖虎】はどれくらいの大きさなんだろう。


もふもふのフワフワでしょ?! 触りた~い!!!

けど、こんな所で出したら騒ぎになるよね……ぐ……が、我慢……。


**********


【完璧身体】 

全耐性を持ち、劣化しない


【スキル譲渡】 

他人に自分のスキルを譲渡できる


**********


これもなに? こんなのあったらいいな~とは言ったけど頼んではない。

まあいいか。


それよりも、称号の『****』ってなんだろう。

説明も出ない。すごく気になる……。

……なんだろう、頭の中で警戒の鐘が鳴っている気がする。

でも、どうしようもないんだよね……つつけないし。


はあ……。どんなものか判明するまで放置か……。

後は、逢った神様達から約束通り贈られた称号だろうし、身に覚えのある事なので気にしない事にしよう。


取りあえず、周囲の皆のステータスでも覗き見して不審がられない、平均より下になるような能力に【隠蔽】【偽装】してみますかね……。


**********


【名前】 小畠華菜(丹羽未和)

【年齢】 35   【性別】 女

【種族】 純人(?)


【Lv】  1

【HP】  400(1000)/400(1000)

【MP】  500(2000)/500(2000)

【筋力】  100(500)

【防御力】 100(500)

【精神力】 200(700)

【敏捷力】 100(300)


【スキル】

短剣術Lv1 

調理Lv1 裁縫Lv1 革工Lv1 

言語理解Lv1(Max) アイテムボックスLv1(Max)


【固有スキル】

(メニュー) (マップ) (ファイの知恵袋) 

(武技の極) (魔導の極) (製造の極)

(生産の極) (真贋の極) (商人の極) 

(神の息吹)

ツボ術 (召喚術)

(完璧身体) (スキル譲渡)


【称号】

巻き込まれた異世界人 (世界の救世主) (****)

(ファイの寵愛) ネウリピュアの加護(恩寵) (ゾントスの恩寵) (ルラノスの恩寵)


**********


こんなもんでいいかな。

報酬交渉の時、神様に他人からステータスを隠せるスキルも頼んでおいて、本当に良かった。

結構ホイホイと希望を言ったから、『スキルの数が多いんじゃないか』『隠さないとマズイ気がする』と考えた私正解だった。

ついでに、身体の構築と一緒にスキルを取り込む事になるから、その後じゃないとスキルは発動しないと説明を受けてたけども、同時進行ーーー取り込み最中に【隠蔽】を発動させるという荒業を仕出かしてた自分スゲエ。

何より、神様達を相手に色々ともぎ取っ・・・交渉した自分、よくやった!


さてと・・・。

名前も知られたく無いから偽名にして、あんまりスキルを持ち過ぎてると目立つだろうし、何も無くても不思議に思われるだろうしね。


ってか、身体能力値が異様に高いんだけど私。

これ、絶対神様がいじってるよね?


ま、死に難くなるってことだし、いいか。

これから説明受けるみたいだし、どうにか早くこの城から出れるようにしないとね。


そう画策していると、石の階段が前方に現れ、それを上って廊下に出た。


そこは、大理石のようなピカピカな床で、腰のあたりまで木で覆われた壁が左右に広がっており、落ち着いたセンスの良い廊下だった。


きっと、このまま謁見の間とか、王様の前とかに連れて行かれるんだろうなぁ。

なにせ【勇者】だし(笑)


なら、ちょっとしたアドバイスをするべく、ツナギ君に囁いた。


「名前は偽名で」


目線だけ私に寄越した気配がするが、他の人に気付かれる訳にはいかないので、前を向いて歩く。

すると、今まで当たらなかったツナギ君の手が、トンっと一度私の手に当ったので、了承の合図だろう。


その後、彼は何事もなかったかのように、無言で歩いていた。私の手に当たることなく。


しばらくして、鎧姿の騎士が両脇を固め、豪華な彫刻が施された大きな扉の前に着いた。

私達が揃うと、扉の両脇に立っていた鎧騎士が扉を開く。


その中は、ピカピカの灰色の床に金や銀の装飾が眩しく、タペストリーのような綺麗な模様の入った布が壁に飾られていて、天井がドーム状になっていた。


また、シャンデリアに似たものが天井からぶら下がっているが、クリスタル等の飾りは無く、小ぶりな丸い物が光っていた。


横幅十メートル・奥行三十メートルはありそうな、このゴージャスな部屋のど真ん中には、扉から奥に向かって赤い絨毯が敷かれていた。


その奥は、階段が五段あり床が高くなっていて、そこにこれまたキンキラしたゴージャスな椅子に、金の刺繍入り白色貫頭衣、クリーム色ベスト、銀の刺繍入り青色ロングガウンを重ね着し、王冠を被ったおじ様が座っていた。


うん、この人王様だよね。


そして、階段前の通路の両脇には、赤色や緑色、クリーム色、白色等のカラフルな服のおじ様達が並んで立っていた。


うわあ、これって、この国の重役勢揃いじゃない?

キョロキョロと視線だけを動かして、そう思っていると、いつの間にか王様の正面の階段下に着いた。


両サイドの人達がざわつき、王様の顔が一瞬引きつった気がしたが、私達を一列横隊にした白ローブの男と王太子が両脇を固め、騎士たちが私達の後ろに立った。


すると、案内してくれた現地人全員が、揃って王様に膝間づいて礼を取ったので、びっくりする。


私はそんな礼儀作法は知らないので、最敬礼のお辞儀をしておいた。

不敬罪とか言われたくないから。


私につられたように、制服三人とツナギ君もお辞儀をした。


「よくぞ来てくださった。勇者の皆様」


王様が声を発すると、白ローブの男も王太子も立ち上がったので、私達もお辞儀を止めた。

正面を見ると、椅子に座った王様は微笑をたたえ、穏やかな表情で口を開く。


「ここはリオン国王城で、私はリオン国国王ユーベント・リオンじゃ。我が国に来てくださった勇者の皆様を歓迎いたす。古来から、勇者様は国の守り神とされておる。我等を守ってくださる勇者の皆様を厚くもてなし、この国を守ってくださる事に感謝の意を表す」


王様がそう言うと、盛大な拍手が起こる。


「え?」

「は?」

「あ?」


呆気に取られる制服三人。

こらこらこらこら。いやいやいやいや。

有無を言わせず、丸め込もうとしてないか? これ。

……なんかデジャブ……。


誘拐しておいて、国を守ってくれって、バカじゃないの?

説明が一つも無い! 説明が!


胡乱な眼差しをつい王様に向けてしまう。


バカバカしいデモンストレーションだと思っていると、ツナギ君の肩が前に出そうになっていたので、発言しようとしているのかと思って、不自然に見えないように腕で抑えた。


すると、力がかからなくなったので「発言するな」の合図は気付いてもらえたもよう。


さて、どう切り込んでいこうかな、と考えていると、


「あの! 私達、いきなりここへ連れて来られて、国の守り神とか意味解んないんですけど!」

「無理やり召喚しておいて、国を守れとか言う事がおかしくないか?!」

「俺達は学生だ。国を守る力なんてあるわけない!」


焦った様子で制服三人が王様に反論する。

彼女たちの言っている事は至極まともで安心した。不敬罪に引っかかりそうだけど。

その反論を受けても王様の表情は変わらなかった。


「我が国は間違いなく勇者召喚を実施した。その召喚陣から現れた皆様は、間違いなく勇者である。勇者であるからこそ皆様は召喚されたのじゃ。召喚された勇者様は、昔から我等の世界の人間よりも優れた能力や知識が必ず持っておる。その力で、歴代の勇者様達はこの国を、いや世界を守ってくださった。ですから、皆様も同じように守ってくださればよいのじゃ」


わ~お。王様、誘拐した事実を認めてない~。

ついでに、どんな方法で勇者が国を守るか明言せず曖昧な言葉にして、守るのが当たり前的な雰囲気にもっていってるし。


そんな曖昧な言い回しで返されて、制服三人が口を閉じ、考え込む様子を見せる。

このまま、彼等が丸め込まれて是の返事をしてしまうと私が困るので、ここで切り込んでみる事にする。


「発言してよろしいですか?」


考え込んでいる制服三人を見ていた王様や両サイドの人達が、私に視線を向けてくる。

制服三人とツナギ君も私の方に視線を寄越す。


「うむ」

「私達は、元の世界でそれぞれ人生を送っておりました。ですが、この国の皆様の勝手な都合で、無理やり、召喚されました。はっきり申し上げて誘拐です。そして、縁もゆかりも関係も全くないこの国を守れとおっしゃるのは、孤立無援の私達に対する脅迫です。それを踏まえて、おっしゃっているのでしょうか?」

「無礼だそ!!」


さあ来い! と心で闘争心を燃やしつつ、無表情でキッパリと言い切ると、サイドから怒鳴り声が上がった。

―――なら、反論してみろや!


「それは、申し訳ありませんでした。私は私の国の礼儀を尽くしてお話ししておりますが、なにぶんこの国のマナーなど習っておりませんので、ご容赦ください。無礼だとおっしゃった方はきっと、知らない文化の礼儀作法を知らないのにもかかわらず出来るのでしょうね」

「なっ!!」

「よい。やめよ」

「はっ」


発言した人が王様に窘められて引き下がった。

あの人は要注意だな。

気を取り直して、王様をじっと見つめると、


「儂は王じゃ。王に意見するか」


と目を細めて言われた。

いや、さっきこの国のマナーなんて知りませんよって言ったばっかりじゃん。


「意見に聞こえておりましたら大変申し訳ありません。私は、どなたでもよいのでこの国の方に、ただ確認したかったのです」

「……」


探るような瞳で私を見る王様に、しっかり目を合わせる。


「両脇に立っていらっしゃる方々にお答えいただいても構いません。皆様は、今いきなり縁もゆかりも関係も無い国に飛ばされたら、どう思われますか? その理由が、縁もゆかりも関係も家族も味方も無い国を守るためだと言われて、ご納得されますか?」


ザワッと両サイドが騒めき、王様は眉間にしわを寄せた。

おら、答えてみろよ! と心で突っ込みながら両サイドを見渡し、最後に王様を見る。

だけど、一向に返事がない。


サイドを見た時、顔が青ざめていた人がいたので、「納得する」と言ったら私に飛ばされるとか思ってるのかな。

それとも、私達の気持ちを慮ってくれたのだろうか。


まあ、リオン国側からすると、騒がない、王に意見する、どんな能力を持っているか解らない、堂々としている、志向性が解らない、という私は、何を仕出かすか解らないびっくり箱みたいなものか。


「……」

「……」


王様とにらめっこ状態になるが、私から視線を外すなんてもちろんしません。

だけど心の中では、どう答えてくれるのかワクワクしてます。


むしろ、答えてくれないならもういっちょ質問しちゃうぞ♪ と思っていると、王様が一瞬苦い表情をした。


「それは……」

「お言葉を遮るようで申し訳ありませんが、もし、誘拐でないとおっしゃるなら、今すぐに私達を元の世界に戻せなければ意味はありません。私達を今すぐ元の世界に帰せますか?」

「……」


王様はより一層眉をギュッと眉間に寄せた。

そこへ、王太子が割り込んできた。


「元の世界に帰る方法はきちんとある」

「それは、今すぐにでしょうか?」

「すぐではないが、魔族領にある」

「その魔族領は何処にあるのですか? まさか、帰す方法があるから誘拐ではないとおっしゃいませんよね?」

「ぐ……」

「まず、私達の意思を無視している時点で拉致にあたります。そして、無理やりこの国に連れてきた時点で誘拐です。それは、帰る方法の有無にかかわらずです。そして今ここですぐに帰せないのなら、孤立無援の私達には帰る算段がつくまで言う事を聞け、と脅迫されているようにしか聞こえません。違うとおっしゃるなら私達が理解できるように教えて頂けませんか?」


片眉をツイっと上げて参戦した王太子に、さあ説明してみろ! と首を傾けて訊いてみた。


この王太子のおかげで、帰る手段が解ってホッとしている制服三人だが、はっきり言って確証はない。

本当に魔族領にあるのか疑問だ。


それに、私は存在自体が地球から消えているし、ツナギの子は地球では死んでいるはずなので、どうでもいい事だ。

……ツナギの子が地球に帰りたいと思っていなければいいが。


「僕達は君達を脅そうとしていない。むしろ歓迎しているではないか」

「いえ、いくら歓迎をされようとも、拉致・誘拐の事実は消えませんし、私達の意思を無視し了承を一つも得てはいない時点で、私達には歓迎ではなく無理やり押し付けられたものですよ」

「……もうよい。アーセル」


言うことを聞かない私にイラつきながら話す王太子を、小さくため息をついて王様が止めた。

そして、王様は目を眇めて私を見た。


「貴殿は何が言いたいのだ」


警戒されたようだが、ここで引くと後が大変になる。

何事も最初の一歩、最初の交渉が大事だ。


「皆様がされた勇者召喚は、私達にとっては拉致・誘拐・脅迫なのです。それがお判りいただけたでしょうか?」

「……」

「いただけたでしょうか?!」

「……うむ」

「でしたら、拉致・誘拐については【賠償】と【魔族領までの移動手段確保】、脅迫については【私達の意思を尊重する事】をしていただければ私達も皆様の言葉に耳を傾けようという気になります。一方的に要求を突きつけられれば、耳を塞いで(かたく)なになるのも当然ではないでしょうか」

「……ふむ」

「ですから、私達が耳を傾けたくなるようにして頂きたいのです。私達は、突然召喚されて混乱している最中ですので、明日以降もう一度お話しして頂けませんでしょうか。皆様も【賠償】や【魔族領までの移動手段確保】について話し合いをされたいでしょう。それに、国を守るという【勇者】は私からすると役職のように聞こえます。その【勇者】という役職に対する報酬や待遇そして仕事内容なども、私達は知りませんからご説明いただきたいですし、皆様も話し合われたいのではないでしょうか」

「……む」


私が喋れば喋る程、王様の眉にしわが寄り表情が渋くなる。

そして、サイドの人達も私の言い分にざわざわし始める。


だがしかし! 手は緩めんぞ! 楽しい異世界旅行のためだ!


「それから、ずっと引っかかっているのですが、私達全員が本当に【勇者】なのでしょうか?」

「む?」


なに? と王様は白ローブの男に視線を向ける。


「皆様召喚陣から現れました」

「でも、王太子様と貴方様が、おっしゃっていたではありませんか。本来【勇者】は一人だと」


聴かれていたと思わなかったのだろう。

王太子と白ローブの男がバッと私の方を振り向いた。


「そもそも、私は一緒に召喚された他の四人よりも年上です。年増の私が【勇者】であるとどうしても思えません。ですから、私達を【勇者】だとおっしゃるなら、その証明もしていただけますでしょうか」

「「……」」


王太子と白ローブの男は見分するように私の顔を見た。

ナンだよ! 年増で悪かったな!


「そ、それは身分証明で」

「よい。控えろ」


白ローブの男が口を開いたが、王様が口を挟んだ。


「では、貴殿の言うように、明日もう一度話をしようではないか」

「ありがとうございます。もし、【勇者】でなかった場合の事も皆様でお話し合い下さいませ」

「……」

「故郷から引き離されて心細いですし、私達も皆で話し合いたいと思いますので、ぜひ全員一緒の部屋にしていただきますようお願いいたします」

「……あい、わかった」


右手を振って退室を促した王様は、ため息を吐きながら横を向いた。

その瞳には、ドロリとした欲望が渦巻いているように見えた。

読んでくださりありがとうございます(* ̄∇ ̄*)

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