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面倒事はいつでもやって来る   作者: TO~KU
第二章 召喚した国―――リオン国―――
20/26

番外編 side ????(榊)   06


「どうされました? 城内は供を付けずに出歩かれませんよう……」


止めに入る騎士の脇をこの人はすり抜ける。

後ろにも一人騎士が居るが、捕まらないように俺もこの人の反対側からすり抜け、廊下を疾走する。


後ろから、「お待ちください」やら「誰かー誰かー」と叫ぶ声が聴こえるが、足はもちろん止めない。

この人の半歩斜め後ろを走り、ついて行く。


左へ曲がったり右へ曲がったり、部屋の中を通り抜けたりして、人気のない所を進んでいく。

この人道分かってんのか?

少し不安に思うが、瞳に迷いはないので、腹を括ってついて行くことに専念する。


途中、正面から騎士五人が走り寄って来ていたのが見え、思わず拳を握り戦闘態勢を取る。

しかし、俺等と三メートル程の距離まで近づくと、何かに当たったように跳ね返されていく。

……おい。結界張ってんならそう言えや。


緊張とこの人について行くことに夢中で、結界が張られていた事に気付かなかった。

たが、一言あってもいいんじゃねぇか?

問いかける視線をこの人に向けるが無視される。

チッ。


「……怪我したら面倒じゃん」


ボソリとこの人が呟く。


「……俺のやる気を返せ」

「そのやる気は召喚陣破壊につぎ込んで。それより、鎧を着てる人がポーンと跳ね返っていくの、シュールじゃない?」


ちょっと楽しそうに人を撥ねていくこの人に、戦慄が走る。


「……あんたを怒らせることはしないようにする」


この人怒らせたら、どんだけ怖ぇんだ?!

今は邪魔だから跳ね飛ばしているが、これに感情が混じったら捻り潰されるんじゃねぇか?!

恐々とする俺に、のほほんとこの人は言う。


「ん? たぶん滅多な事じゃ怒らないと思うけど……」


いや、滅多な事ってどんな事だ?!

必死に捕まえようとする騎士を跳ね飛ばし、俺等は会話をしながら城内を疾走する。

内心、この人の怒りのスイッチに恐々としながら。

のほほんと会話をする結界内と、必死で追いかけてくる騎士達の温度差がスゲェ……。


俺等は特に息切れをすることも無く、疲れもしない。

この人も平気な顔をして走り続けている。

色々と障害物をなぎ倒しながら、あちこちを曲がって、結構な距離を走ったところで階段が目の前に見えてきた。

そこをこの人が駆け下りていくので、俺も続く。


だが、ふと思う。

あれだけグネグネ曲がったり部屋の中を通ったりする必要があったのか?

逃げ道はこの人に任せる事になっているので、口は挟まないが若干不安がある。

まあ、大丈夫だろう。

【防御インナー】と防具着けてりゃ、この国の騎士の攻撃に十分耐えられるって言ってたからな。


階段を下りると一段と人気のない廊下が伸びていた。

迷いなく走っていくこの人の後を追っていると、後ろの方から声が聴こえた。


「なんだってええ?!!! 本当か?!!!」


絶叫と言ってもいいくらいの大きな叫び声だった。

振り返ると、騎士達は立ち止まる者と追ってくる者に分かれた。

横を見ると、この人の口元がニヤリとしたので、何か仕掛けでもしたのかと思ったが、よくよく考えれば、三人組が行動を起こしたんだろうと考えついた。


追手の足音がさっきよりも少ない感じがするので、人数が先程より減っているのだろう。

それは、三人組を追うために騎士達が二手に分かれた証拠でもある。

まあ頑張れよと心の中で三人組に気の無いエールを送っていると、


「ここの部屋に入って」


と飾り気のない重厚な扉の前で言われた。

扉に手をかけ開こうとしたが、この人がクルッと方向転換して元の道を逆走していく。

唖然として、ついて行こうかと思ったが、この人はここへ入れと指示した。

だが、誰が居るか分かんねぇし、結界がねえのもどうかと思い、この人が帰ってくるのを扉の前で待っていた。


この人は、逆走しながら騎士達に突っ込んでいき、ポンポン跳ね飛ばしていく。

こんなに人がふっ飛んでいくのを見るのは初めてだぜ。

……ちょっと楽しそうなこの人の様子に、顔が引きつる。


飛んできた騎士に後続の騎士達がぶつかり倒れていく。

それを見て、そのまた後続の騎士達は躊躇してこちらへ来ようとはしなくなった。

畏怖と呆れを含ませた瞳でこの人の行動を眺めていると、騎士達の足が止まった瞬間にまたクルリと方向転換して、俺の方へ戻って来た。


「あれ? 入らなかったの?」


とキョトンとした顔で言われるが、誰が居るかも分かんねぇし結界があった方が安心だから待っていた事を伝えると、


「え? 今、榊君の周りにも結界張ってるよ?」


と言われた。


「おい。それを早く言えよ」


一気に疲れが出てきた。

俺が心配していたのはなんだったんだ?!

ぶすくれた顔で部屋に入ると、インクの匂いと古い紙の香りが漂う真っ暗な図書館だった。


電球のような丸い灯りを作って浮かせたこの人は、本棚の奥へと進んでいく。

あれ? この人灯りに関する魔法って教えてくれてないよな?

……ホント、どんだけスキル持ってんだ?!


呆れて後をついて行くが、本棚に阻まれて右へ左へと複雑に曲がり、然程奥に進めていない感じがする。

その時、扉の向こうからはくぐもった声で、


「出入り口はここだけだから、ここをしっかり守れ」


という言葉と、駆け寄ってくる沢山の足音が聞こえてきた。

この人も聞こえたようで、チラリと入り口の方を一瞥すると本棚の上に飛び乗った。


俺も慌てて本棚に飛び乗ると、今度はジャンプを繰り返しながら本棚の上を疾走する。

……俺、忍者になれんじゃねぇか?


一方向に向かって疾走すると図書館の一番左奥の壁に到達した。

そこでこの人が本棚から飛び降りたので、俺も飛び降りる。

周りを見ても本棚だけ。扉も違う部屋に行けるような通路も見当たらず逃げ場がない。


「なあ、さっき後ろで出入り口は一つだって言ってたよな」


もしかして逃げられねぇんじゃねぇだろうな?

と疑いの眼差しを向けるが、この人は気に留めずに一つの本棚を調べ始めた。

俺の事は無視か……。


ため息をついてこの人が調べている本棚を見るが、何の変哲もないただの本棚だった。

……なにしてんだよ……。

腕を組んでイライラしながらこの人のする事を見ていると、一つの本を指先でツーっとなぞった。


「それが何だよ?」

「……こうするんだよ」


この人が自信満々に本の背表紙を手前に倒す。

期待を込めた目でじっと成り行きを見守る。

……何にも起こらねぇじゃねぇかっ!!!

ギッと睨み付けると、この人は笑いながら本を棚から引き抜いた。


すると、音も無く本棚が後ろへ一メートルほど沈んだ。

なんだこれ? すげぇな!


目を丸くしていると、この人が沈んだ本棚の左に出来た隙間に入り込んだ。

そんな所に通路が?


追っていくと、本棚の後ろ側には三×三メートル程の空間があり、階段らしき物が右壁にあった。

……これ、どうやってこの人は知ったんだ?

称賛と疑いの気持ちが入り混じり、何とも言えない気分になる。

だが、今はそれよりもここを出る事が先だ。


本棚の後ろを通り階段の方へ足を向けていると、背板が無い箇所があった。

自然とこの人が持っている本に視線が向く。

……きっとこれだよな?

この人も同時に気付いたようで、手に持っていた本をそこへ差し込む。


すると、音も無く本棚が元の位置へ戻って行った。

その時のこの人の顔が、興味津々でキラキラした目をしていたのを訝しんだ。

……この人について行って本当に出れるのか?

逃げ道を任せている以上、口を挟む気は無かったがつい訊いてしまった。


「……あんたを疑う訳じゃあないが、これで外へ出られるのか? つうか、あんた何でこんな仕掛けがあるって知ってるんだ?」

「ごめん。たぶん外に出られる。仕掛けを知っていた訳じゃない。空間があるっていう事だけ分かってたのよ。ほら話した【マップ】スキル。マッピングだけじゃなくて、建物の構造とか道も表してくれるの。その代わり、椅子とか机とか障害物は私が認識しないと反映されないけど」

「はぁぁぁぁぁ。あんたホンっと便利なスキル持ってんな」


少し気まずそうな顔をしてこの人は説明した。

つうか、【マップ】の機能を端折り過ぎじゃねぇ?!

そりゃあ、全部は言わないって前提で教えて貰ってんだから文句は言えねぇけど、それならそうと事前に言ってもいいんじゃねぇか?!

……警戒するにもほどがあるだろうが!

もう、この人の秘密主義、常時警戒に諦めがついた……。


階段を下りていくこの人の背中に呆れた視線を向けながら、俺も続いて降りていく。

石造りの階段は右に左に何度か曲がっていた。

しばらく降りると、直線の通路になりコツコツと足音を立てて歩いて行く。

この通路の先にはまた階段があり、ゆっくりと上まで上った。


そこには、木製の片手ドア。

この人がドアに耳を付け、中の様子を窺う。

俺も【気配感知】で人の気配を探るが何もない。


この人がゆっくりとドアを開けると、埃の溜まった二×三メートルの空間が現れた。

……狭ぇ……それに、ドアがねぇ……。

全て石で囲われているこの空間には、出入り出来るようなドアも窓も通気口も無かった。


「……出れねぇじゃねぇか」


ドスの効いた低い声が出た。

そんな俺に、この人は苦笑いしながら言う。


「……いや、この壁の向こうはちゃんと外なんだよ。ちょっと失礼」


灯りを壁に近づけ、じっくり見分し出すこの人。

左右前の壁を調べ終わると、この人はため息を一つ吐いて前にある壁に手をかざした。

その時、結界を張ってもらった時と同じ感覚がした。

何かの魔法を発動させているのかもしれない。


何が起こるのか壁を見つめていると、……壁が無くなったぁ?!

はあ?! 壁どこ行ったんだ?!

唖然としていると、この人に外へ出ろと促される。


口を開けたまま外へ出ると、壁は上方へスライドされていた。

俺が外へ出た途端、壁が元の位置に戻る。


あんぐりとしたまま、この人何でも出来るんじゃねぇか?! と凝視しようとした時、視界の端に城が映った。

ああ、城から出れたんだな……。

……アイツ等もうまく出れてるといいがな……。

感慨深く見つめてしまった。

この人が横で同じように城を見る仕草で我に返り、自分がどこに居るのか周囲を見渡す。


ここは城壁の外で、背後に山があり小高い丘、もしくは山すそを開拓した場所のようだった。

そして、俺等が出てきた石の箱? と同じ物が周囲に沢山並んでいて、眼下には立て板が地面に無数に突き刺してあった。

……墓場か?

いつの間にしたのか知らねぇが、さっきよりも灯りの光源が暗くてよく見えねぇ。


辺りを見渡していると、「行くよ?」と声を掛けてきたこの人について行く。

人が踏みしめた跡のような坂道を小走りで下っていく。

石の箱はこの丘の天辺にあったようで、坂を下るほど密集して立て板が刺さっていた。


坂を下りきると、丘との境―――山すそ―――で背の高い木が横に広がっていて、前方には尻の高さの木があちこちに生え、ふくらはぎの高さの草が地面を覆っている平地になった。

そして、遠目には城壁らしき壁があるのが見えた。


が、門が閉まっていて、壁の周りにはテントとたき火が並んでいるのも見えた。

……? 城の周りで野宿はしねぇよな? 警備上。

アッ! もしかして、城壁じゃなくて都市を守ってる壁の方か?!


勢いよく振り返ってこの人を見ると、この人も驚きの表情を浮かべて俺を見上げた。

だよな?! 城からじゃなくて、都市から出ちまったんだよな?!

嬉しさで、顔を合わせたまま表情が緩む。


さあ、これからどうするかだよな。

この人と初めのダンジョンまでは一緒だ。

追手が来なきゃいいんだがな……。

まあ、神から報酬ブン獲ったチートなこの人が一緒なら、心配なんて要らねぇだろう。

自己責任と言うくせに、アドバイスやら選別やらの手助けをしてやる太っ腹な人だ。

それに、厳しいくせに優しいしな。ナンダカンダ言って、俺の事も考えて行動してくれるだろう。

なら、行き先を任せるのも楽しいかもな。

ダンジョン踏破後は俺一人で旅しなけりゃいけねぇしな。


「これ、逃げれたんだよな?」

「一応ね」

「……追手が来ると思うか?」

「……あの子達が捕まってなけりゃね……ただ、指名手配されたら黒目黒髪だからバレ易いかも……」

「……これからどうする?」

「ん? 初めのダンジョンまでは私に任せてくれるの?」

「ああ。あんたのやり方を見て勉強するさ。今後の為に」

「そう。じゃあ、神様お薦めのダンジョンが南西方向にあるからそこに行こうか」

「は? ……分かった」


ワクワクした様子で都市を守ってる壁に背を向けて歩き出すこの人。

神様勧めってどういう事だよ?

南西って、さっき降りてきた墓場の奥じゃねぇか?


そう思いながら、この人の横を歩く。

【マップ】を持ってない俺には、道が解らない。

この人に任せる事になるが、この人の案内で城から出られた今、不安はほとんどない。

それよりも、街道とか道路じゃねぇ所を歩いている方が気になる。


「なあ、ちゃんとした道通るんじゃねぇのか?」

「……追手が来ると面倒じゃない。どうせならレベル上げしながら行った方が楽しくない?」


キラキラした目で言われれば、ダメだと言えなくなる。

一応理由……建前もあるしな。

まあ、レベルも上げておいて損はない。


了承すると、楽しそうにキョロキョロと辺りを見渡しながら足を進めるこの人。

……この人、ピリピリしてなきゃ、結構面白い人か?

城での様子と全く違う一面に、笑いがこみ上げる。

肩を震わせていると、キョトンとした顔をされた。


「くくくくく。なあ、あんたの名前、そろそろ教えろよ。知ってるだろうが、俺は河本(こうもと)(けん)()だ。二十五歳、町工場で木製品加工をしていた」

「ああ、私は丹羽(にわ)未和(みわ)。三十五で、病院の受付事務員」

「あー、あんた」

「ねえ、あんたはちょっと……教えたんだから名前にしてよ」


ムッとして言われた。

それもそうか。

この人は「未和さん」、俺の方は「(けん)()」で呼び捨てにしてもらった。

年下だしな。


「あー、未和さんは目的地までどんなプランで行こうと思ってんだ? レベル上げは解った。だが、俺は食料の手持ちがねぇ。旅道具も。それに身分証明証がどうとか、あの国の奴が言ってただろう? それもあった方がいいんじゃねぇか?」

「そうね……。プランだけど、わたしね、実は事務の他にも掛け持ちでバイトしてて、仕事とお金が趣味みたいになってたのよねー。でも、あまりにも侘しいから旅行にでも行こうと思った矢先に召喚されたの。だから、旅行気分で色んな街を冷やかしながら楽しみたいんだけど、どう?」

「……いいな。俺も一度死んだからな。楽しい方がいい」

「食料は採取とか街とかで手に入れればいいし、一応私持ってるし。旅道具も持ってるから、賢哉は追々揃えていけばいいんじゃない?」

「……ホント用意がいいよな……」

「まあね。なら、これから行くところだけど――――――――――」


周りに警戒しながら、あーでもねぇこうでもねぇと旅のプランを練っていく。

城から出られた開放感から、俺も未和さんも興奮気味に言葉を重ねる。

とりあえずここから十キロ程西に街があるようで、一旦そこを目指す事になった。


つうか、【マップ】ってそこまで分かるんだな。

今更目の前にある都市に早朝入門してとっ捕まってもしゃーねえぇし、歩きゃあ四、五時間で着くしな。

それに、追手が待ち受けている可能性だってあり得る。

王城に居た奴らの動向を知るためにも、道中様子を見ながら行く事にした。

ダメそうなら他の街に行きゃいいんだ。

俺等は自由だからな。


……ああ、楽しい旅になりそうだ。


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