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面倒事はいつでもやって来る   作者: TO~KU
第一章 突然の異世界召喚
2/26

02 交渉と追加依頼

読んでくださりありがとうございますm(__)m


強烈な光に、目をつむった未和はまた身体が浮くような感覚に襲われ、荷物を抱き寄せた。

気が付けば、またもや不思議空間に放り出された未和。


だだっ広い真っ白な部屋にポツンと立ちすくんでいた。

だが、さっきと違うのは、足元に直径5メートルの円形の魔法陣らしきものが描かれている。

興味が引かれたのか、未和は下を向いてジロジロと魔法陣らしきものを見ていた。


『『『助けて頂いてありがとうございます』』』


声にびっくりして顔を上げると、未和の前にはお辞儀をした3人の人が居た。


「あ~……三柱って皆さんの事ですかね?」


亀裂を修理した途端誰かに丸投げする発言をし、姿をくらました創造神ファイに呆れつつ、丸投げ先であろう「三柱」であるのか、未和は聞いてみた。


間違っていたら恥ずかしいし、「三柱」という数え方が確か神様の数え方ではなかったかと思い出し、訊くことにしたのだ。


『はい。私達の事です。私は人族の神です』

『僕は精霊族の神だよ』

『俺は魔動族の神だ』


顔を上げた三柱は……絶世の美男美女であった。


人族の神は女性で、ハ二―ブラウンの艶っ艶なふんわりロングの髪に、ボンキュッボンの抜群なスタイル、少し垂れ目で金色の瞳に高すぎない小ぶりな鼻、プルンと瑞々しい唇をしており、ほんわか甘いオーラを纏っていた。


精霊族の神は、鶯色のストレートロングの髪に、細身の身体つきで、ぱっちり二重に透き通った薄いブルーの瞳、通った鼻筋と薄くも厚くもない唇をしていて中性的に見える。が、微笑をたたえた口元と纏っている神々しいオーラが、彼を男性に見せていた。


魔動族の神は男性で、漆黒の短髪に褐色の肌、がっちりとした体格で一番背が高く、切れ長の目に漆黒の瞳、薄い唇に無表情で固いオーラを纏っているが、瞳から優しさがにじみ出ていた。


こんな今まで見たことがない美しさをもつ三人の顔を、福眼とばかりに未和は凝視した。


『『『……』』』


自分たちの顔を獲物であるかのようにじっと凝視され、困惑する三柱。

その、困惑した顔も「ご馳走様です」と未和は見続けた。


『……あの……』


人族の神から声がかかってやっと我に返った未和は、後頭部を掻きながら涎を垂らさんばかりの凝視をやめた。


「あ、すみません。美男美女の皆さんの顔に見惚れてしまいました。私は、丹羽未和と申します。さっきまでファイ様と居たんですが……」

『あ、それね、僕らが君の願い事を詳しく訊くように言われたんだ』


未和はてっきりファイ様が聞いてくれるものと思っていたが、説明を受けて納得した。


創造神【ファイ】はあくまで異世界【ファイ】を守る存在であり、何万何十万といる生物の管理まで手が回らないため、その管理を種族別に彼ら三柱が行っている。


そして、スキルなども彼らが管理しているため、三柱が話を訊かなければ願いが叶えられないのだった。


種族というのがこれまた問題をはらんでいるのだが、三柱はその説明を未和にすることは無かった。


「へえ~。では、ファイ様と交渉した内容はご存知ですか?」

『『『知っている(よ)(わ)』』』


三柱揃って返事をされ、未和はクスッと笑いをこぼした。

侮蔑の眼差しやピリピリした雰囲気が無く、むしろ好意的な態度の三柱に、未和の警戒心もほぐされた。


「あの、どこまで許されるのか範囲が解らないんですが……」

『それは、私達の出来る限りを尽くすように言われているから、貴女からドンドン言ってもらえるとありがたいの』

『そうだね。君がファイ様に言った願い事も曖昧な部分があるから、詳しく言ってもらえるとありがたいね。僕の管轄の所もありそうだし』

『それに、俺達も君にお詫びとお礼をしなくてはならない』

「ほえ?」


魔動族の神に追加でお詫びとお礼をもらえることに、何でだろう? と未和は呆けた返事を返してしまった。

三柱の彼等からすると、自分たちの管理不足のせいで起こった世界崩壊の危機。

それをたった一人で修正してくれた未和に、感謝と謝罪の意を表そうとしたのだ。


今回の異世界人召喚を行ったのは人族の国。

人族の神は、管理不足を深く反省し、未和に多大な申し訳なさを抱いていた。


また、三柱とも、尻拭いを押し付けてしまった事や関係のない世界の危機を救ってもらった事への後ろめたさを持っていた。


人族の神が眉を下げて切々とお礼とお詫びの説明をしたが、未和にとっては棚から牡丹餅。

理由がしっかりしている『貰える物』は貰ってしまう主義なので、顔では申し訳なさそうにしながらも、心でガッツポーズしていた。


『えっと、私達のお詫びとお礼なのだけど、ファイ様の分に上乗せという形でもいいかしら?』

「ええ、構いません」


思ってもみなかった【牡丹餅】に、未和は文句を言う気は一切無かった。


『じゃあ、【ファイ】での種族から決めていこうか?』

「え? 変えられるんですか?」

『うん。管理者である僕等が全員ここに居るから、選び放題だよ』


にっこりと笑う精霊族の神に、未和は見惚れそうになりながら考えた。


その間に座布団らしき物とお盆に乗った飲み物らしき器をどこからか取り出し、いそいそとセッティングをする人族の神。

床に直座りになるのだが、魔動族の神も気にする様子はない。


それを視界の端に映しながら考える未和だが、どんな種族がいるのか解らない。いや、解るはずもない。知らないのだから。


結局、未和は存在する種族を彼らに訊いて「このままの人族がいい」と決めた。


異世界ファイには、人族以外にエルフ、ドワーフ、魔人、獣人等の理性を持っている人型生物がいると教えてもらったが、未和は種族を替えて生活スタイルに支障をきたしてはまずいと考えたのだ。


また、【理性ある人型】と限定した言い方に、「理性の無い人型が居るのか?」と質問をすれば、ゴブリンやオーク、オーガといったゲームに馴染みのある名前が出てくる。


まあ、三柱の彼等が【人族】【精霊族】【魔動族】と自己紹介した時点で、おかしいなと感じていた未和だが、異世界だからそんな事もあるよね、とその時はスル―してしまっていたのだが。


「えっと、今更なんですが、【ファイ】ってどんな世界なんですかね? どうやら私の世界とは全く文化や生物が違う気がしてきたんですけど……」

『アッ。ごめんなさい。説明してなかったわ。』

『あ……そうだね』

『……すまん』


彼等は我先にと異世界の事について教えてくれようとするが、創成期の世界の成り立ちから話し出す魔動族の神、かいつまんで創成期からの歴史を話し出す精霊族の神、人族の歴史を話し出す人族の神、それぞれが同時に話し出すものだから、ガチャガチャと騒音にしか聞こえない。


彼等のそんな様子に、未和はため息を吐いて止めさせ、知りたい情報を質問していった。


そして、知り得た情報を纏めると「異世界ファイはゲームのような世界」という事。

中世ヨーロッパに似た文化発展に、魔物や魔法が存在し、ファンタジー感満載の世界。


命の価値が低く、身の危険が身近ではありそうだが、そこは神様達になんとか回避できる手段をもらえばいいだけの話。


三柱の説明を聞きながら未和は、異世界で今後生活していくために必要な事を、頭の中で計算し始めた。


なにせ、現代人のひ弱さを舐めてはいけない。

高校卒業からほとんど運動をしていない未和は、体力が最低値、運動神経も衰えているはずである。


しかも、お肌だけでなく健康も下り坂の三十代。

便利なコンビニも無ければ、自動車も無い。

異世界で生きていく上で、衣食住&医療の確保は絶対なのだ。


しばらく考え込んだ未和は、すっきりした顔で願い事を切り出した。


「あの、賠償にあたる事からお願いしてもいいですか?」

『『『もちろん(だ)(よ)』』』

「じゃあ、出来ない事があったり、過分な事があったりしたら、止めて下さいね」


どんとこい! と返事をしてくれた三柱に気を良くして、未和はにっこりと話し出した。


あーだこーだと自分の欲ぼ……希望を機関銃のように喋り出す未和に、引きつりながらも応える三柱。


かなり我儘とも取れる願い事も、この際言ってみるのはタダだからと、口にする未和。

段々とお互いに遠慮がなくなり、最後にはため口になりながら、話し合いは大いに盛り上がった。


『ふふふ。貴女、結構遠慮が無いのね』

「ええ。理由のある貰い物は受け取って構わない物だと思っていますから。今回は特に【お詫び】と【お礼】で貰う物ですし、【賠償】と【報酬】は当たり前ですからね」

『ははは。君の言っていることは間違いじゃないんだけど、僕等にここまで遠慮が無いのは新鮮だよ』

『まあ、俺達が悪いのだから当たり前だ』

「んと、なんかすみません?」

『ふふふふふ』

『ははははは』

『くくくくく』


よりいい物を獲得しようと食いついてくる未和に、タジタジになりながら応戦した三柱はぐったりしながらも、変な爽快感を味わっていた。


彼女が求めたものは、決して無理難題な物でも過分な物でもなかった。

創造神に提示した願い事を掘り下げて、詳細な条件を付けただけ。


それとは別に、「こんな物があったら嬉しい」「こんな事が出来たらありがたい」と叶えてもらえる範囲いっぱいまで、願い事を言っただけ。


範囲内に願い事をきっちりと収めつつ、最大限の条件を付けようと、あの手この手で説得を試みる未和に、世界の均衡を保ちつつ世界の危険に繋がらないように反論する三柱は、連帯感や共感が生まれていた。


そうして、未和が望んだものはほぼ叶えられた。


賠償と称して、

・今まで地球で培った能力・記憶・姿かたちをそのままにする事。

・地球に置いてきた私財をこちらの世界の金銭や物に変換する事。

・異世界ファイや種族の歴史・魔物・植物・製法加工技術等の知識。


お詫びと称して、

・今持っている私物に役立つ加工をしてもらう事。

・役立つ加工付きの旅道具と装備、そして食料と医療品。


報酬と称して、

・武術や魔法、生産、製造等のスキル

・旅のお供(もふもふ動物)


お礼は創造神や三柱に【おまかせ】で、

・【神の守護】という称号

・各々が考えて贈る


という内容になった。


ただ、世界の崩壊を止めてもらった創造神や三柱の【おまかせ】は、未和の想像を遥かに超えた事だったと後で思い知る事になる。


神達は空間に漂う未和の心地良い魂氣を気に入り、かなり本気で未和の願い事を叶えようとしていた。

このことを知らない未和は、頭を抱えることになるだろう。


『ふぅ……楽しかったわ』

『『そうだね(な)』』

「ははっ。失礼な事をしていたら、すみません」

『そんな事無かったわ』

『うん。大丈夫だよ』

『無かったぞ』


満足げな表情の未和に、温かい笑みを浮かべる三柱。

そして、人族の神が一瞬じっと未和を見た後、精霊族の神と魔動族の神に目配せをした。

それに気付いた二柱は、コクリと頷く。


先程とは打って変わって真剣な表情になった三柱は、佇まいを直して未和を見つめた。


『本当にありがとう』

『『ありがとう』』

『……こんな事に巻き込んでしまった事、本当にごめんなさい』

『ごめんなさい』

『すまなかった』

『……本当に心苦しいのだけど……』


人族の神が音頭を取って、お辞儀をしながら再度感謝とお詫びの言葉を未和に伝えるが、すぐに眉間にしわを寄せ、言いにくそうに表情を歪めた。


『……貴女にお願いがあるの……』

「はあ?!」

『ごめん!』

『すまん!』


まさかのお願いに呆気にとられる未和。

三柱は座布団らしき物を蹴り飛ばし、額を床にこすりつける様にしてジャンピング土下座をした。


―――世界救ってもらっといて、まだお願い事するわけぇ!!


心の中で吼える未和。

人を使い潰そうとするかのような行為に、未和の怒りがプスプスと燻る。


『ああああの、まずは話を!』

『そう! 話を聞いてくれないかな!』

『頼む! 聞いてくれ!』


土下座のまま顔を上げ必死の形相で叫ぶ三柱だが、未和の表情は抜け落ち、瞳に攻撃的な色が宿る。


『ダダダダンジョンを踏破して欲しいの!』


―――なんっで!!


『魔力循環が年々滞ってて、神託を授けても無理なんだ!』

『魔力循環を良くするために、長年踏破されておらぬダンジョンを無くして欲しい!』


―――魔力循環って何! ダンジョンと何の関係があんの!


『ままま魔力は、世界に満ちてるもので』


―――だからどうしたっ!


『ダンジョンは魔力の塊みたいなものなんだ!』

『それが踏破されて大気に還元されぬと、世界に満ちている魔力量が低減する!』

『いいい今、魔力循環率が六十%くらいなの!』

『それで、僕等が管理している生物の出生率や寿命が、昔に比べて減っているんだ!』

『だから』

『『『君(貴女)のその能力でダンジョンを踏破してくれ! (ないか!)(下さい!)』』』

「……」


腕を組み、こいつ等どうしてやろうかと、虫けらを見るような冷たい視線を三柱に向ける未和。


涙目になりながら視線を外さない人族の神、目で懇願する精霊族の神、申し訳なさそうに見つめる魔動族の神、を順番に見回し、未和は大きなため息をついた。


思ったほど無理難題な事ではなかったが、戦闘行為は命を削る行為であるため、おいそれと返事が出来るはずもない。


だが、異世界で生きていくために必要とされるスキルをこれでもか! と未和が願ったので、彼女なら未踏破ダンジョンを踏破出来ると考えてもおかしくは無かった。


「なんで追加のお願い事なんですかね? 理由は? 報酬は? 私のメリットは?」


目を据わらせて低い声で訊く未和に、ブルッと震えながら三柱が弁明をした。


彼等によると、魔力循環率が悪くなると世界が荒れるため今後の安全確保に繋がり、能力的に問題無いので異世界生活での楽しみの一つにしてくれないか、というものだった。


しかし、それに納得できない、どこか引っかかる、と未和は思っていた。

そんな未和の様子に、おずおずと人族の神が口を開いた。


『……ぁ……の、さっき私が居なくなったでしょう?』


そう、確かに、お詫びや報酬の激論を繰り広げていた時、三十秒か一分か解らないが、人族の神は少し席を外していた。


『あの時、今回の召喚された子の一人と逢っていたの……』

「ああん?」

『――っ。実は今回の召喚で巻き込まれたというか、本来ならその子のはずで……あの……』

「はっきり簡潔に!」


しどろもどろで話す人族の神にイラッとした未和は、初めからシャキッと話せ! と喝を入れる。

その突っ込みに、ビクンと身体を硬直させる人族の神。

これ、話せないんじゃない? と未和がため息をつきかけた時、


『あー、僕等が話すよ……』


と精霊族の神が言った。


『えっと、本来【魂だけ】の異世界人を一人召喚するはずが、手順改造で今回【魂を含む生身】の異世界人を召喚したんだ。しかも三人』

「!! 三人?!」

『そうだ。だから世界に亀裂が入る程の衝撃が起こった』


魔動族の神が神妙に頷きながら会話に参加する。


未和は、精霊族の神の言った召喚人数にあ然とする。

まさか、三人も召喚されていたとは思わなかった。


『それでね。ここの神界は【魂だけ】であるか【死んでいる状態】でないと存在できないんだ』

『今回召喚された三人は【魂を含む生身】だからここへは来られなかった。だが、同時に本来の召喚も従来通り発動していた。その本来の召喚されし者が先程ここへ来たために、彼女が話し合いから抜けた』


そう言われれば、ここで他の召喚者に会わないのもおかしいなと未和は思っていた。


そして、魔動族の神の【本来の召喚されし者】という単語が気になった。

つまり、本来召喚されるはずの者と手順改造による召喚された者三人の、四人以上がこの世界に召喚されているという事だ。


訝し気に見ても、精霊族と魔動族の神の顔は真剣で、嘘を言っている様子は見られない。

だがそれでもまだ納得できない未和は表情を変えない。


「で?」


人族の神を見つめて話しの続きを促す未和。


『……あ……。そ、それで、ここに来た子にダンジョン攻略をお願いしようと思っていたけど、こんな世界を壊すような召喚を何度もされる訳にはいかないから、その子には召喚陣の破壊を優先してお願いしたの』

「!」

『も、もちろん、ダンジョンの踏破もお願いしているんだ。よね?』

『っええ』


未和の瞳がギロリと光った所で、精霊族の神のフォローが入る。


『だけどね、そいつの優先順位は召喚陣破壊が先なんだ。能力的にも君の方が上だから、君にもお願いしたい』

『そうなの。強制ではないのだけど、出来ればお願いしたいの。ここに来る貴女と同じ異世界の人は、ダンジョンって聞くと快く返事をしてくれるから、貴女も大丈夫かと……』

「……はぁぁぁぁぁぁ」


未和は深いため息をつき上を見上げた。

高さがどれほどあるのか解らない真っ白な上空を見て、目を瞑って考え込む。


確かに、今回のような異世界人召喚を毎度毎度されたら、この世界は崩壊するだろう。

ならば、確かに召喚陣破壊が優先されて当たり前である。


だが、『神託を授けてもダンジョン攻略が進まない』というのは、未和には関係のない事だ。

神託を受けた現地人たちが頑張るべき事である。


それに、ダンジョンという単語に地球人が惹かれるのも確かに事実。

本来の召喚されし者も、興味で引き受けたのだろう。

……人族の神に丸め込まれたのかもしれないが。


そんな事を思いながら、未和は三柱の『今後の安全確保』『異世界生活での楽しみ』そして『強制でない』という言葉に、溜飲を下げてひとまず理解を示すことにした。


「納得はしてないけど、理解はしたわ。要は、ここに都合の良い存在、私が居るから頼んじゃえってことでしょ?」


未和がズバッと切り込むと三柱はカチンと固まった。

悪意が含まれた言い方だが、三柱の様子からあながち間違いではない事が解る。


「理由は解ったわ。で、報酬は? 私のメリットなんてはっきり言って無いと思うけど」


三柱は額に汗をにじませるが、未和の顔が怒っていなかったので慌てて口を開く。


『ほほほ報酬と、メメメメリットね……』

『報酬はダンジョンの規模によって好きなスキルを選べられるようにする!』

「すでに結構な数のスキルを持ってるのに?」

『う……』


精霊族の神が撃沈する。


『生活していたら、欲しくなるスキルがあるかもしれないぞ。スキルでなくとも、物でもよい』

「ふ~ん……。確かにそうかもしれないね……」

『メリットは無いかもしれぬが、マップとやらにダンジョンの場所が解るようにしよう』

『そうそう! それに、メニュー機能だっけ? それをいじれるようにしよう! それがメリット!』


魔動族の神の言う事も一理あると考える未和。

しかし、精霊族の神のメリット発言には、ピキリと青筋を立てる。


この神界へ召喚された直後、創造神に詐欺されそうになった未和は、警戒心バリバリなのだ。

未和にとっては、お願い事=厄介事と脳内変換される。

そして今、先払い報酬=強制労働という受け取り方をした。


「ねえ、それって、メニューやマップの機能をいじれるようにするからダンジョン攻略絶対してねってこと?」

『いやいやいやいや! そうじゃなくて!』


黒いオーラを出し始めた未和に、焦る精霊族の神。


『お詫びってことで!』

『……そう! そうしましょう! 報酬はダンジョン踏破時に、ダンジョンの規模によって願い事を叶えるという事で! お願い!』


眉を下げて必死に懇願してくる人族の神の姿に、未和の心に「もういいか」と諦めが湧いてきた。


「……はぁ。確認しとくわ。メニューをカスタマイズ出来るのはお詫びだから、ダンジョンを踏破しようがしまいが関係ないって事ね。で、ダンジョン踏破報酬は願い事を叶える。そして、ダンジョン攻略するのは強制じゃないから、私の気が向いた時で構わないって事で、いい?」

『いいわ! ありがとう!』

『『ありがとう』』


投げやりな様子で言う未和に、人族の神は満面の笑みになり、精霊族と魔動族の神はホッとした様子で肩の力を抜いた。

三柱が一気に和やかな雰囲気になったが、未和には気になる事が残っていた。


「ねえ、訊いてみるんだけど……」

『『『何かしら(だ)?』』』

「そもそも、なんで異世界人召喚するの?」

『それはね、――――――――――』


人族の神曰く、

『文明の発達している異世界人から技術や文化を教えてもらって、異世界【ファイ】の文明促進を図っている』

『召喚の代償として、元の世界の輪廻からあぶれたり弾かれたりした魂を受け入れ、浄化をしている』


という事で、ゲームのような【魔王】といった、ラスボスがファイに居る訳ではなかった。


また、【浄化】は欲等の穢れを魂からそぎ落とす事で、ファイで生活していれば大概勝手に浄化されるのだ。


しかし、ラスボスは居ないが、穢れを取り込みすぎると魔物が暴走するという、異世界ならではの仕組みがあるのだが、人族の神は詳しくは説明しなかった。


そんな説明を聞きながら、へえ~と異世界の法則に感心していた未和。

その時、精霊族の神がポツリとこぼした。


『今回は緊急事態が発生しすぎて、同時期に召喚された君たち五人は、同じ所へ飛ばされてしまうんだ』


―――なぁ~にぃ~?! ってか五人?!


『あわわっ。言ってなかった?』

「聞いてない! ってか、訊くの忘れてたわ!」

『そうか、ごめん。君、人族を選んだし、召喚した国も人族の国だから、問題ないと思うよ』

「問題あるわー!! そこの国が召喚したのは三人でしょ?! 本来の召喚されし子と私は対象じゃないでしょ?! それがバレたら、私達要らない物じゃないの?!」

『『『あ……』』』


揃って絶句する三柱に、頭を抱える未和。


本来の召喚されし子は、召喚者からすれば対象では無かったが召喚されてしまっている。

それは、今回に限っては【巻き込まれ】と言うやつにあたる。


未和にしても、召喚者・召喚理由が確実に違う。

そう、本来の召喚されし子と未和は、召喚によって引き起こされた事態に【巻き込まれた者】なのだ。


それなら、森なり草原なり、人の居ない場所に降り立った方が面倒ごとに巻き込まれる確率は格段に少なくなる。命の危険度は高いが。


しかし、異世界人召喚に一緒に降り立ってしまえば、【巻き込まれ】とはいえその国と召喚された他の人達と関係を持たなくてはいけなくなる。


そうなれば、創造神や三柱がしたように、都合の良い駒扱いされる可能性だって大いにあり得る。


というか、余計な物扱いで駒にされる未来しか思い浮かばない未和は、生物の頂点にいる三柱から言質を取ることにした。


「召喚した国がどうなろうと構わないわよね?! 世界に亀裂を入れた奴らだし、私の人生潰した原因だもの! 召喚された他の四人も、私は別件で召喚されてるから関係ないわよね?! その人達がどうなろうと私は関知しないわ!」

『『『……は、はい』』』


未和の勢いに押された三柱はつい返事をした。


『……あの……』

「何?!」

『……えと、本来の召喚されし子は結構いい子だったの……』

「だから?!」

『……いえ、貴女の気が向けばだけど、お友達になれるんじゃ……』

「……」


人族の神が恐る恐る口にした言葉に、無言になる未和。

この後盛大な突っ込みがくると構えた三柱は、ギュッと目を閉じる。


が、未和からの発言は無く、三柱は恐る恐る目を開いた。

そこには、右手で眉間を押さえる未和が居た。


「……確かに、同郷の友達っていいと思う。だけど、同郷を理由に縋られたり面倒事に巻き込まれたりするのは御免なのよ。ただでさえ、私は沢山のスキルや道具をもらったし。その本来召喚されし子より私の方が能力高いのよね?」

『……ええ……』

「それに、召喚された人達の中で私が一番年上な気がするのよね。そうしたら、年下の子達は無条件で助けてくれるものだと勘違いしそうだし。迷惑事を押し付けてくる赤の他人の面倒を見る事ほど、面倒くさいものはないわ」

『……』

「尻拭いさせられて、ダンジョン踏破をお願いされて、今度は国や同郷の子達の面倒事に巻き込まれるなんて、やってられないわ」

『『『……』』』


静かに憤る未和に、かける言葉が見つからない三柱。


「……はぁぁぁぁぁぁ……目立たず、有力者に目を付けられず、気ままな異世界旅行がしたかったのに……。いきなり王城ですか……」

『……ごめんなさい……』

『……ごめん……』

『……すまん……』


未和は召喚陣のある場所が、国の中枢である王城と予想して言ったのだが、三柱から否定が返ってこなかったので、内心うんざりしていた。


未和の頭に浮かぶのは権力の亡者や金の亡者。

そんな魔物と大差ない、いやむしろ欲望塗れの化物の巣窟に放り込まれることに、面倒この上ないと未和は苦虫を噛み潰したような渋~い顔をした。


「……しょうがない事だろうから、我慢するわ。ただ、その国の情報とかもちゃんともらえるのよね?」

『あ、それは大丈夫。ある程度の常識とかと一緒に、賠償に含まれているわ』

「ならいいわ。で、いつそこに送られるの?」

『それは君が良いって言ったら送るよ』

『他に気になる事はないか?』

「……本来の召喚されし子は召喚陣破壊のために世界を旅するのよね?」

『ええ、そうよ』

「なら、今回の事態を引き起こした人族に、罰は与えないの?」

『……それは……』

『言ってもいいんじゃないかな』

『そうだな。彼女にも訊く権利はある』

『…罰ね、与えるわ。人族領内で教会がある国の召喚陣を一気に無くすの。ただ、教会が無かったり大昔に廃れた国だったりする所や、遺跡は私の力が及ばないの。その辺りを召喚されし子に破壊してもらうの』

「ふ~ん」

『納得してくれたかな? 他にはない?』

「ん~、大体いいかな。まあ、後でも訊けるスキル貰ったから、その時にどうにかするわ」


気を取り直してすっきりとした表情の未和に、三柱は一安心した。


『じゃあ、貴女を地上に送っていいかしら?』

「はあ~。良くないけど、いいよ」


面倒だとため息が出るが、未和はどうにかしようと腹を括った。


未和が返事をすると、座布団らしき物やお盆に乗った器らしき物が一瞬にして消える。

それに驚いている未和を微笑ましく見ながら、三柱は立ち上がり魔法陣の外へ移動した。


未和もその場に立ち上がると、魔法陣の外からこちらに向いた三柱が掌を下に向けブツブツと何かを唱える。


すると、未和の足元の魔法陣が赤い光を放ち始めた。

その時、三柱は再度頭を深く下げ、未和に言った。


『『『ありがとう』』』

『潔い精神と慈愛の心を持つ貴方なら、きっと楽しい旅を送れると思うわ』

『そうそう。君はこの世界に合っているかもね』

『面倒な事があるやも知れぬが、君ならきっと大丈夫だろう』

『『『どうか、楽しい異世界旅行を』』』


赤い光に包まれていく未和は、三柱の言葉に口元を二ヤリとさせた。


―――この際だから大いに楽しんでやるわ!!


頼もしいようなやる気に満ちた未和の顔に、三柱は苦笑いを浮かべた。

そして、未和の姿は赤い光と共に消えた。




『はあ~』

『ふう~』

『は~』


未和が消えた途端、三柱は汗を拭いながら床に崩れ落ちていた。


『もうっ! ファイ様が彼女に頼んだらって言うから言ったのに! あんなに怒らせると思わなかったわ!』

『うん。結構迫力あって僕等も威圧されたよね』

『だが、結局了承してくれたではないか』

『まあ、そうなのよね』

『彼女、キツイ言い方してたけど僕等の言い分を聞いてくれたもんね』

『そうだな。筋を通して交渉すれば、理解はしてくれた』

『……彼女へのお礼、私、奮発するわ。こちらの事情に巻き込みすぎて、本当に申し訳ないもの……』

『……僕もそうする……』

『……俺も……』


三柱はノソノソと動き出し、それぞれの仕事場がある空間へ移動していった。


この三柱の【お礼】、各自が考えて贈るのだが、それぞれが役立つようにと厳選したスキルと物品にしたため、未和のステータスは今でさえかなりチートだが、さらに化物級に近づいてしまった。


そして、未和を気に入っている創造神も、異世界を楽しんでもらえるようにと魔改造を施したため、未和のステータスが大変な事になっているのだが、未和はまだ知らない。




一方、赤い光に包まれた未和は、身体の違和感に襲われていた。


押しつぶされるような引きちぎられるような、なんとも言えない激痛が未和を襲う。


悶え苦しみ、その痛みで時間の感覚が曖昧になる中で、未和は身体が異世界用に造り替えられ、知識やスキルを吸収しているのだと本能で感じ取っていた。


だが、このままのステータスを他人に見られると監禁・飼い殺しに一直線。

そんなのは御免だと、火事場のアラフォー力を捻り出し、ステータスの隠匿を図った。

恐るべき精神力である。


そうして異世界旅行が遂行出来るように、面倒事から遠ざかれるように対策を講じる未和だった。


第1章はこれで終わります。

続きは召喚した国になります。

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