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面倒事はいつでもやって来る   作者: TO~KU
第二章 召喚した国―――リオン国―――
15/26

05 話し合いは決裂


「はあ~~~~~~~」

「……お疲れさん……」

「ホント疲れたわ。今すぐにでも城を出たいわ」

「……」

「だから嫌だったのよ。話すの」

「……あいつ等大丈夫か?」

「……さあね? 一応フォローもするけど、聴く耳を持ってるかな?」

「……さあな……」


高校生には厳し過ぎたようで、ちょっと反省。

でも、私達と一緒に明日城を出るなんて、無理でしょうよ。きっと。

日本とは、生活水準も生活様式も常識も違うのだ。

こんな納得してない様子でついて来られても迷惑だと思う私は、冷たいのかもしれない。

混乱したまま城を出ても、今の調子で反抗しながら縋り付かれる気がしてならないんだもん。

未成年だから責任もって大人が面倒見ろとか言い出しかねないしねぇ……。

はぁ……。面倒。

知り合いでも身内でも無いし、可愛くもない他人を何故面倒看にゃならんのよ。

とにかく、大人として陰ながらちょびっと支える事はするけど、勝手にやってもらおう。

どうせ、その手助けにも気付かないだろうしね、あの子達。

さじを手で遊ばせながら難しい顔をしていると、榊君から、


「ここを出たら一緒に行動しないか?」


と言われた。

そういえば、一緒に城を出る事は話したけど、その後の事お互いにどうするか話してない。

一人で異世界を旅する不安は私もあるし、榊君はネウリピュア様の言ってた通りいい子だから一緒に旅をしてもお互い助け合えると思う。

だけど、ステータスが人に見せられないくらいすんごい事になってたし、それを極力他人に知られたくないから、ずっとは無理かな。

それに、彼には【使命】がある。

私は気ままな旅行みたいに、その時の気分で行き先を決めたいから、召喚陣破壊に付き合う気は無い。


「この国を出て初めてのダンジョンを踏破するまでならいいよ」

「……それでもいい。この世界の事とかあんたのスキルとか教えて貰いたいしな」

「知識とかはいいけど、持ってるスキルは教えないわよ」

「……ケチ臭いな。どうせ鑑定スキルとか持ってんだろう? 俺のステータスとか知ってんじゃないか?」

「……なんで?」

「食事の時に警戒してたからな。それに、あんたの事だから神様からたんまり報酬ブン獲ってそうだしな」


……バレてる。

ついっと視線を外すと、小さな笑い声が聞こえてくる。


「くくく。まあ、無理にとは言わねぇよ。代わりに何か要求されたらかなわねぇし」

「……勝手に視たから、お詫びに……全部は無理だけどある程度ならいいよ」


一緒に旅をするならお互いの能力を知っておいた方が良いと思って、教えても構わないスキルを言っていく。

【固定スキル】とか【称号】とか、言えないスキルの方が多いな……。

そう思いながらポツポツと言うと、詳細を聞かれたり質問されたりしてグイグイと食いつかれた。


そして、ステータスの話題になると、高校生三人のステータスを質問される。

解析スキルで覗いたから知ってるけど、他人の事を告げ口するようなマネは……と思って、「榊君の方が高い」とだけ伝えた。


すると、ちょっと嬉しそうな表情になった榊君だったが、すぐに渋い顔になった。

あ~、何となく榊君の考えが読める。

あの子達より強いと分かって嬉しいけど、反面【勇者】と違う使い勝手のいい人材だと目を付けられる可能性に気付いたんだろう。

私もそう思うよ。

たぶん、榊君もしがらみや面倒事が嫌なんだろう。


そう思って、旅の仲間への手助けとして、教えたくはなかったが【隠蔽】スキルの所持をバラし、彼のステータスをちょこっといじっておいた。


「あんた、どこまで先を見越して、どんな画策してんだ? 味方としちゃあ心強いが騙されそうで怖ぇ」


失礼な! 騙しはしないよ!

ギブ&テイク、持ちつ持たれつが成立してるなら、真摯で誠実な態度を取るわ。

ただ、縋ってくるだけ助けてもらうだけで、迷惑とか面倒だけを押し付けてくる輩が嫌なだけよ。

と、心情を伝えていると、個室から出てくる気配に気付き、話を止める。

ホカホカな高校生三人が、さっきよりもすっきりした様子で風呂から出てきた。


入れ替わりで私達もお風呂に入ると、風呂から出た時にちょうど五つ鐘が鳴った。


話がしたそうな高校生三人だったが、昼食と同じようにメイドさんが夕食を持ってきてくれたので、手前のリビングに移動する。

お互い声をかけることなく席に着くと、メイドさんが食事のセッティングしてくれ、灯りの説明と就寝の挨拶をして出て行った。


気まずい雰囲気の中、皆無言で夕食を食べる。

メニューは、シュリプのサラダ、ジャガのスープ、ヒオドンのムニエル、丸パン。

言い換えると、エビのサラダ、ジャガイモのスープ、白身魚のムニエルだった。

流石に今度は味わいました。

色彩は地球の物とは違うが味はほぼ同じ。

唯一知らないヒオドンは、どんな姿か分からないが、脳内調べで高級魚であることが分かった。これは、本当に美味しかった。


食事を終え、奥のリビングに移動しながら、サッサと寝るかと榊君と喋り、どの個室を使うか相談を始める。

すると、高橋君が他の二人を従えて、声をかけてきた。


「すみません。話を聴いてもらえませんか?」


嫌~な予感がするから聴きたくない。

でも、私の方が年上だし、無下に扱うのもな……。

と葛藤して、ちょっと渋い顔をして了承する。

そして、さっきまで使っていたソファーへ渋々座ると、彼等は立ったままで、


「「「すいませんでした」」」


と頭を下げた。

高橋君によると、「交渉とかアドバイスとか色々して貰ったのに、文句言って申し訳なかった」「自分達の知らない情報を教えて貰って感謝してる」と。

だけど、「自分達の力じゃ城から出られそうにないから、一緒に連れ出してくれ」だあ?!

おいおい、どこまで他力本願なんだよ。

そりゃ、連れて行ってくれと言われれば連れて行ってもいいけど、あんだけ私に文句言ったよね?

自分で何とかしろって言ったよね?


さっきの言い合いは客観的に見ても、連れて行ってもらえる態度では無かったし、今も連れて行こうという気にさせるような「文句は言いません」とか「キチンと従います」とかいう反省と今後の自分達の態度を示してないし。

だって、後ろの徳田君と森本さんの顔が納得いってない感じなんだけど。

嫌なら、頼まなきゃいいのに。


それに、高橋君の言っている事がどんなことを引き起こすのか分かってるんだろうか?


「……ねえ、それって私に犯罪者になれって言ってるって理解してる?」


冷たい口調で言うと、唖然とする三人。

そもそも、この国が勇者を手放すはずがないだろう。

出て行くって言っても、きっと無理やり引き止められる。

そこを邪魔すれば、私はこの国から勇者を連れ去ろうとする敵認定される。

そしたら、私を排除するために武力行使に出られてもおかしくはない。

それに負けはしないけど、その後この国では、いや人族領の国々から、最後の勇者を連れ去った者として私は指名手配されるんじゃなかろうか。


そんな事になったら、私は一生顔を晒して外を歩けなくなる。

マジ嫌だ!!

だから、城を出るのなら自力でしろ!

と、彼等を連れ去った場合に予想されるシナリオと私の気持ちを伝える。


すると、高橋君は瞳に理解の色を示し、諦めの表情を浮かべた。

しかし、挑むような瞳をした森本さんと縋るような顔をした徳田君が言ってくる。


「未成年が助けてくれって言ってるんだから、大人は助けるのが当たり前じゃないの?!」

「大人なのに僕等を見捨てるんですか?!」

「知らない小学生に美術館に展示されてる国宝を盗んできてって言われて、森本さん盗むの? 徳田君、見捨てるなら情報あげたりアドバイスしたりなんてしないわよ、普通。だって、言わなければいいんだもの」

「……っ。榊さんは! 助けてくれますよね?!」

「だったら! 僕等も連れて行ってくれてもいいじゃないですか?!」


ありゃ、榊君に飛び火した。ごめん。

徳田君は説明聴いても、私に犯罪者になれって言うのねぇ……。

はあ~、うんざりする。


榊君に視線を向けると、眉間にしわを寄せて嫌そうな表情をして森本さんを見ていた。

そして、一瞬私をチラ見すると、低~い口調で森本さんに返事をした。


「……俺に犯罪者になれって言うのか?」


榊君から冷たい空気が発せられ、森本さんだけでなく徳田君と高橋君もピキリと固まった。

そして、いち早く我に返った高橋君が二人を後ろに引っ張り、嫌がる二人の頭を押さえて三人で頭を下げる。


「すいません! 自分達で何とかしてみます! ただ、これだけ教えてください! 小畠さんが俺達の立場だったら、どうされますか?」

「……参考にするのは構わないけど、上手くいく保証なんてないし、私のせいにしないでよ」

「もちろんです!」

「……はぁ。護衛とか監視が緩い今すぐに城を出るか、明日の交渉でこの国の態度を見て決める」

「……この国の態度を見て決める……って?」

「城を出てもいいって言われたら儲けもの。引き止められたら神託が下りる二日後に混乱に乗じて城を出る」

「……そうですか……ありがとうございました」


高橋君は二人の腕を引っ張って一つの個室に二人を突っ込んだ後、自分もその個室に入って行った。

視線を感じて榊君を見ると、目が合った瞬間、お互い深いため息が出た。


「……ギブ&テイクって大事だな。あいつ等面倒くせぇ……」

「……誰しも自分の身が可愛いのは当然よ。そもそも人ってお互いに利がないと協力なんてしないと思う。だから、私はその辺の釣り合いを大事にしてる」

「……あんたが厳しいけど優しい性格で良かった。……だけど、あいつ等……」

「……うん。あの子達たぶんやらかすと思う……」

「……だよな? はあ……」


彼等は助けてくれるはずの大人から突き放されて、私達に敵対心を持っているだろう。

だけど、そもそも「連れ出してくれ」って、「自分達は何もしないけど守ってくれ」って聞こえる。

そこに「従う」とか「文句を言わない」とか付けられてたり、「一緒について行ってもいいか」なら最低限の事は従う感じには聞こえる。


あの彼等の言動は、自分達の気持ちを優先しているような印象を受けた。

それは、逃げる時に気に入らないとまた反抗したり文句を言ったりしてくるんじゃないだろうか。

高橋君はそんな事ないような感じがしたけど、他の二人は確実だと思う。

それに、「勇者だった場合、日にちは違えど城から逃げる」一択の私の意見に、彼等も逃げる選択肢を選ぶんじゃないかな。

それが、今日なのか明日なのか……。

しかもたぶん、私達の事なんて考えずに行動しそう……。

一応こんなでも、私としては彼等の事を考えて行動してるんだけどなぁ……。


ひたひたと面倒事が近寄ってきてくる気配がして、頭をフル回転して対策を考える。

両腕を組んでうんうん唸っていると、榊君から対策会議の申し込みがあった。


私達には、高校生三人がいつどんな行動を起こすか分からないので、お互い予想できるパターンを挙げて対策を練っていった。


結局、武力行使もアリで、

・今から明日の交渉前の間に逃げたら、気付いた時点で私達も別でとんずらする

・神託やら神罰をバラされたら、その時点で即刻とんずらする

 ・私達の滞在が伸びたら、二日後の神託受諾時の混乱に紛れてとんずらする

という話になった。


また、彼等の行動の察知方法は、各個室に繋がっているここ『奥のリビング』で就寝して【気配感知】【魔力感知】スキルに頼ろうという事になった。

本当は結界魔法で結界接触時に警告音が出せるんだけど、その警戒音が私にしか聴こえないし、寝てたら聴こえないかもしれないので、交代で起きて番をしなきゃいけない。


……アラフォーの体力のなさ嘗めんなよ。

次の日、絶対目の下にクマが出来て、頭がボーッとなるわ。こりゃあ。

ため息が出そうになるが、交代なのでまだマシか。


対策が決まると、いつでも動けるように着替え、空いている個室から枕や毛布を運び出し、二人掛けソファーを簡易ベッドにする。

榊君の身長からすると、足がソファーから出るんだけど、いいのかな?


黙々と動いている榊君の様子からは気にする素振りは無く、また戦闘に対する気負いや恐怖は感じられなかった。

私は、『殺すつもりなら殺されても仕方ない』と割り切っているので平気。

……好んで殺そうとはしないけどね。


自分達の寝床が完成し、後から見張り番をする榊君がさっさとソファーに横になり就寝しようとする。

その時、個室から高橋君が出てきた。


「……ここで寝られるんですか?」

「……うん。一人で寝てて襲撃されても嫌だから」

「……そう……ですか……。……さっきは、本当にすいませんでした。徳田と森本はちょっと混乱してて……」

「別に気にしてないよ」

「……それに、アドバイス有難うございました。俺達、今日中に城を出ます。大人と対等に交渉できるとは思えませんし、明日以降は見張りとか監視がキツクなりそうなので……」

「……そう。一応聞くけど、ここに居れば飢える事はないし勇者としてチヤホヤしてもらえるのに、帰れるかどうかもわからなくて命の危険と隣り合わせの中で汗水流して働かなきゃ食べていけない環境を選ぶのね?」

「……はい」

「……そう。なら、教えてくれた代わりに選別をあげるわ」


まさか報告してくれるとは思わなかったので、情報の対価として神様に貰った【防御インナーセット】×三と、金貨十枚×三をアイテムボックスから取り出す。

【防御インナーセット】は、タンクトップ・レギンス・靴下・首巻ぴったりしたネックウォーマー・キャップ(水泳キャップ風)のセットの事で、それぞれ【防御力 20】【通気性】【保温性】が付与されており、全部装備の下に着れば防御力が100も上がる素敵な代物。

この上にちゃんと防具を装備していれば、この国の騎士の攻撃はほぼ効かない。

だから、キャップをダサいという視線で見るな。


この【防御インナーセット】は私の要望で十セットあるので、三つくらいどうってことはない。他にも素敵な【神特製強力防御インナー】持ってるし。

金貨は、地球にあった私財分(500万以上あった)とお詫びとかで見た事ない金額を所持しているので、財布は痛まない。

高橋君は涙をにじませて何度も何度も謝罪と感謝を言いながら、物を受け取った。


「……あ、不公平だから榊君にもあげるわ」


毛布の中から榊君がじっと見ていたので、高橋君に渡すついでに同じ物をあげる。


「榊君、それあげるから今すぐ城から出ようか。高橋君、最後に忠告しとくわね。日本は安全で親切な所だったけど、この世界は命が常に脅かされてる所なの。だから、疑いなさい。誰に利があるのか。相手の立場や第三者目線でも考えて、色んな角度から予測して行動する事をお勧めするわ。じゃあ、私達は出るから」


榊君に戦闘用意を急かして自分もコートを羽織りつつ、お節介な説教をたれてしまった。

急にせかせかと準備をし始めた私達に高橋君はポカンとした顔になった。


「……俺等が先に出れば、お前等逃げやすくなるな。……良かったな。この人が優しい人で……」


扉に向かっていると、通り過ぎざまに榊君が高橋君にポツリと呟くのが聞こえる。

まあ、面倒だから彼等に関わりたくはないが、目の前で死なれるのも後味が悪くなりそうだし、手助けをしなくて後々怨恨を持たれるのも嫌なので、一応『手助けした』事実を目に見える形で彼等に示したかったのだ。


よっ♪ 榊君、ナイスフォロー♪

そう思いながら、奥のリビングの扉を開け放ち、お互いコートを目深にかぶり口元を首巻で隠すと、手前のリビングの扉から飛び出す。


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