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面倒事はいつでもやって来る   作者: TO~KU
第二章 召喚した国―――リオン国―――
12/26

04 話し合いは難航

遅くなりました・・・。

そっと投稿(;・ω・)


少しして、メイドさんがお茶とお菓子を持ってきてくれたので、セティングは奥のリビングしてもらった。

その後、「いつでもお入りください」と風呂の使い方を教えられた。

これまた、馴染みのある形状や使い方で、絶対昔の勇者が関係してるだろう?! と心の中で突っ込んでしまった。


脱衣場から風呂場に入ると、手前にシャワーブース、奥にバスタブがあり、間に仕切りがしてあった。

シャワーヘッドは壁に固定してあり、高さが二メートル五十センチほど。シャワーの下―――高さ百七十センチ辺り―――に石が埋め込まれており、それに魔力を流すとお湯が出る仕組みになっていた。

この石が所謂魔石で、魔道具になっているとの事。


そして、バスタブの所には蛇口ではなく、温泉のお湯出口のような形の所に、魔石が埋め込まれていた。

お風呂場を出る前に、メイドさんに促されて、皆お湯が出せるか試してみた。

出ました。じゃんじゃん。

最後に脱衣場の備品の説明を終えると、「では、五つ鐘が鳴りましたら夕食をお持ちいたします」と言ってメイドさんは部屋を出て行った。


説明の間中、高校生三人は『魔石』『魔物』というファンタジー溢れる単語に興奮していた。

その様子から、私はこの世界の知識を貰ったから当たり前に思ってたけど、彼等は知らないんだ、と感じた。


「ねえ、ごめんだけど、大事な話があるんだ」


ウキウキと楽しそうな高校生三人を強引に、彼等がさっきまで座っていたソファーに移動させた。

ごめんよ。楽しそうな所。

でも、本当はそんなキャピキャピしてる場合じゃないんだよね。


途中、手前のリビングと奥のリビングの間にある開けっ放しの扉を閉め、私も榊君も一人掛けソファーを自分の手で運んで、テーブルを囲うように設置する。


「あっちの三人掛けのソファーの方が良いんじゃないですか?」


と徳田君に言われるが、「ここがいいの」と返して、ドサリと腰を掛ける。

すると高校生三人は首を傾げて、少し不思議そうな顔をしたが、すぐにテーブルの上に載っているお菓子に視線が釘付けになっていた。

その間に、さっさと結界を張って、口を開く。


「あのね、食べながらでもいいから聴いてね」


すぐさまお菓子に手を伸ばす三人。


「実は、私は皆とは違う理由でこの世界に来てるのよ」


そう言うと、三人はお菓子をかじろうと口を開けたまま、固まった。

それに構わずに、榊君に話したように私に起こった召喚を始めから話していった。

ただ、報酬内容、榊君が本来召喚されし子である事、使命、については話さなかった。

そして、さっき神託が下りたことも話すと、三人はパニックになった。


「え? なに? この国って悪い国?!」

「私達、神様に逢ってないよね?!」

「なあ、俺等帰れるのか?!」

「この国出た方が良いんですか?!」

「私達の召喚はおかしいの?!」

「帰還用の魔法陣も一緒に消えないよな?!」


三人とも私に縋りつくように訊いてくるが、口々に違う事を言うので答えようがない。

違う質問をこれでもかと何度も何度もぶつけてこられても、口を挟む暇がまずない。

つうか、私に訊くんじゃなくて、この国の人に訊く事だよね?

困った顔で何も言わない私に段々と怒り出す三人。


「あんた!! 自分だけ知ってて何で黙ってるわけ?! ずるいわよ!!」

「なんでもっと早く教えてくれなかったんだ!!」

「そうだ!!」


怒りが頂点に達したのか、三人はソファーから立ち上がり掴みかかろうとしてくる。

ああ、やっぱりこうなったか。

許容範囲外の出来事を受け止める冷静さや思考力は無いか。


「やめろ!!!」


空気をビリビリ震わせ榊君が怒鳴った。


「お前等、この人に散々助けてもらっておいて、よく言うな。お前等だけだったら、交渉の余地も無く、強制的に勇者にされて、即刻使い潰されてるぞ」


低い声で恫喝する。

三人はカチンと固まり、顔を青くしていた。

もう、私が何を言おうと、彼等からすると悪印象しかないから信用は無いな。これは。

ま、それは別にいいんだけど。

ただ、突っ走って自滅されても後味悪いからねぇ……。

キッパリスッパリ彼等の立場を突きつけて、大人としてアドバイスもくらいはしときますか。


「はあ~~~。とりあえず座ったら?」


三人はギクシャクとソファーに腰を下ろした。


「あのねえ、私、地球での存在まで消されて、強制的に働かされたの。これ以上面倒事に関わりたくないのよ。それに、早く教えろと言うけど、そもそも話す話さないは私が決める事。貴方達に話さなくても私は何も困らないのに、わざわざ教えてあげたのよ?」

「「「はあ?!」」」

「黙れ!!」


キツイ言い方をすると三人は反論しようとする。

榊君が止めてなかったら、ほんと殴り合いの喧嘩になってたかも。

まあ、私の言動は、彼等にとっては『いけ好かない大人』『自分勝手な大人』『未成年を守らない大人』だと捉えられているだろう

しかし、彼等に召喚の裏事情を話す話さないは、本当に私の好意に他ならない。

話さなくても彼等の【勇者】という立場は変わらないし、二日後には神託が下るのだから、結果的に神罰については知る事になる。

その情報を前倒しで教えたのだから、文句を言われる筋合いはない。

異世界崩壊の危機や私の召喚理由についても、異世界人を召喚する仕組みや意味を知る事が出来るし、召喚手順改造や神罰についても、この国の召喚や【勇者】に対する考え方を推察する情報源だ。


確かに、私の言い方は上から目線で彼等にとってはカチンと頭にくる言い方だっただろう。

でも、アドバイスもしたし、彼等よりも多くの情報を持っていたし、なにより私は年長者だ。

『大人の在り方』を持ち出すなら敬ってもらいたい。

こんだけ頼っておいて、気に入らない事があれば人のせいにするなら、頼るなと言いたい。


それに、赤の他人のために命を削る程の博愛は持ち合わせてないし、すでに私は一度この世界を救うために命を落としている。

いや、命取られたんだよ!

それなのに、もう一回他人の為に命を懸けろと言うなら、まずは自分の命を懸けてから言えと言いたい。

また、ここは日本じゃない。【ファイ】という異世界。

魔法が使え、魔物が闊歩して、命の価値が低い。

郷に入れば郷に従えじゃないけど、日本の常識を持ち出されても、はっきり言ってこの世界じゃ通用しない。

つうか、私あんた達の保護者じゃないし。


もう面倒くさいので、伝家の宝刀「じゃあ、アドバイスも相談も選択肢の提示もしないし、明日の交渉は自分の分だけするから、貴方達は自分達で勝手にすれば?」を出すと途端に三人は大人しくなった。

変わり身早ぇな。

そんだけ他人頼りなの分かってんのかな?


そんな彼等に、人のせいにはしない事、各々が自分で決める事、自己責任である事を、じっくりねっとり説教し、約束させた。

そして、私達は明日城を出るつもりである事、賠償は全て金銭にしてもらう事、を話して、彼等がとれる選択肢を提示した。


「一つ目は、すぐに帰る。二つ目は、この国でずっと勇者をする。三つ目は、他国でずっと勇者をする。四つ目は、この国で何年か勇者をして帰る。五つ目は、他国で何年か勇者をして帰る。六つ目は、勇者をせずにこの世界で生きる。くらいね。ただ、本当に帰れるのかは私も知らないし、勇者するならさっきまで報酬内容を考えてたんだから自分達で交渉しなさい。」

「……本当に帰られるか知らないんですか?」

「知らないわ。私は地球に戻れないから訊いてない」

「……本当に?」

「はぁ。くどい! 消されるってね、親にも兄弟にも友達にも認識してもらえないし、戸籍も職も学歴も財産も一切合切無くなってる状態なの。そんなんで、どうやって地球で生きて行けばいいのよ。だから、私は帰れる事に興味が無いのよ。知りたきゃ自分で調べな!」


突き放すような私の態度とこれからどうしたらいいのか分からない不安で、三人は目に涙をにじませてイライラした様子で私を見つめてくる。

知らんがな。あんだけ文句言ったんだ。自分で何とかしろや。

お茶とお菓子を食べて、話し合いに参加するつもりはない事を態度で示すと、ボソボソと三人で相談し始めた。

チラリと見た榊君は、しかめっ面で腕を組んで、話している三人を睥睨していた。


時折三人から質問を受ける。

この国の人は良くないのかって? あんたはどう思うの?

どれが一番良い選択肢ですかって? あんたはどれがいいの?

一緒に帰れる方法を探してもらえますかって? 私は帰れないのに?

淡々と返事をすると、彼等は私に尋ねてこなくなった。


この子達、あんだけ私にクソみそ文句言っといて、快い返事がもらえると本気で思ってんの?

赤の他人と仲良くなるには、趣味が合うだとか性格が合うだとか色々あるけど、一番は言動から感じられる好意的な印象がとっかかりじゃない?

いくら小さな幼児でも、会ったその日に「ばばあ」だの「ブス」だの「嫌い」だの言う子を好きになれんだろう。

思考力があって、高校という社会で少しは人間関係に揉まれてるはずなのに、それくらい分かろうよ。

好意には好意、嫌意には嫌意が返ってくるのが普通だよ。

子供というよりも大人に近い自分の意思・思考を持っているけれど、大人になり切れない自律心や自立度の、子供と大人の境にいる彼等はとても扱いにくい。


だがしかし、思考力と自律心はあるんだ。

悪いが、自分の事は自分で責任を持ってくれ。

何より、他人の命を背負えるほど私の背中は広くない。


視線を手に持ったカップに向けて考えながら、三人の話し合いを何となしに聞き流す。

そして、三人の選択肢が決まりそうなタイミングで口を挟む。


「今、この部屋には遮音の結界を張っているの。だから、世界を崩壊させそうになったとか明後日に神託が下りるとか三日後に罰が下るとか、この部屋で話した内容はこの国の人には知られてない。だけど、知られたら私達は間違いなく監禁されるでしょうね。だって、最後の勇者と最後の異世界人だもの。そこら辺をよく考えて、明日発言してね」


情報を知ったからこそ湧いた危機的状況を教えると、不安で顔色が悪かった三人が、顔をくしゃくしゃにして堰を切ったように泣き出した。

ありゃ、パンクした?


……まあ、親の庇護下でぬくぬくしてたのに、いきなり自分で自分の命守れって言われりゃしょうがないか。

でも、厳しいかもしれないけどこの子達より私達の方が立場的に危ういのだ。

【勇者】が三人もいるのならば、【巻き込まれた異世界人】は必要ないと判断される可能性だってある。

素直に私の意見や策に乗ってくれるなら、この子達のしたい事に協力する気はあるけど、流石に反骨心満載で傍に居られても邪魔なだけだし、身の危険が増す。


だから、嫌いな人の意見を聴く気は無いけど、未成年ならば庇護されて当たり前だという考え方でいるのならば、私は身勝手だろうとも自分を守るために、この子達を突き放す。


「……泣いても誰も助けに来てくれねぇぞ」


榊君の冷たい口調に、三人は余計に泣き喚く。

なんで? どうして? と不満と不安を口にする三人。


確かに私と三人には、ものすっっっっっごい理不尽な事が降りかかってきている。

あ、榊君は別。元々死者だから転生? 転移? 出来てラッキーだと思うよ。

でも私は、存在すら消されて誘拐&強制労働&巻き込まれとして再召喚。

そして三人は、誘拐&勇者業務強制。


あ。なんだろう。自分の境遇に今更ながらイラッとする。

憤慨して怒り狂ってもおかしくない程の理不尽さだと思う。

だけど、私と三人はその理不尽からはどう足掻いても逃げられない。

だって、すでに起こってしまった事だから。


それを受け止めるには、この子達の精神力は足りないかもしれない。

けれど、これから先はこの理不尽な状況の中で生活していかなければならないのだ。

それを理解して、少しでも心を落ち着けてくれればいいのだけど……。

まあ、ただ泣くだけでも多少は気分がすっきりするだろう。

そう思って、しばらく泣いている三人を見守った。


十分もすれば涙を出し切ったのか、鼻水をすする音だけになる。

三人の瞳には不安・焦燥・絶望が映し出され、表情がごっそり抜け落ちていた。

焦点がぼんやりとし、何を考えているのか予想できない。

こりゃ、何しでかすか分からんな。


気分を変えるためにも、頭をスッキリさせるためにも、三人にお風呂を勧めた。

フラフラとした足取りでお風呂場へ向かう三人を見送って、ギシリと背凭れに寄りかかる。


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