番外編 side ????(榊) 03
奥のリビングの二人掛けソファーにいた三人組がこちらへやって来て、大きなダイニングテーブルに座る。
席順は話し合いの時と同じで、この人の隣。
すぐにメイドがやって来て、テーブルに料理を並べていく。
見た事あるような料理。
異世界だからって、ゲテモノが出てくる訳じゃないんだな。
メイドの料理説明も、どこか聞いた事があるような料理名。
それに安心すると、美味そうでごくりと喉が鳴る。
「うまそっ!」
「おいしそう!」
「食べようぜ!」
三人組は声を上げて喜び、すぐに食べ始める。
横のこの人もすぐさま食べているのかと横目で確認すると、この人はじっと料理を見つめていた。
ん? なんだ? 食べないのか?
すると、この人の目の辺りに何かを感じピンと来た。
……鑑定でもしてんのか?
思わず、目の前にある料理を見る。
そして、既に食べ始めている三人組を見てしまう。
なんか変なモンでも入ってんのか?
いや、入っているかもしれないと警戒したのか?
そう考えて、今までのこの人の言動を振り返ってみると、全てに当てはまる気がした。
……この人、全部に警戒してんのか……マジでスゲェ。
この人独りでも十分に生きていけるな。
と感心していると、この人も食事を始めたので、俺も食べ始める。
特に警戒するものは入ってなかったんだろう。
しかし、警戒もせず料理を口に入れた三人組の行動に浅はかさを感じる。
コイツ等は何も考えてないのか?
俺も人の事は言えないが……。
まあ、日本は安全な国だからな。思い付かないのかもしれないな。俺も含めて。
だが、これから俺はこの異世界で生きていく。
魔法があって、魔物がいるんだ。
日本の常識なんか一つも通用しねぇだろう。
その事を忘れちゃいけねぇな。
そう気持ちを引き締めながら食べた昼食は、文句なしに美味かった。
食事が終わると、茶髪……徳田がこの人に声をかけた。
相談したいことがあるようで、三人掛けソファーで一緒に聴く。
「僕達、日本に帰りたいです。でも、魔族領に行かないと帰られないなんて不安で……」
「旅に耐えられるように、怪我とかしないように、ここで訓練してから帰った方がいいのかと思ってるんです。だからその間だけ【勇者】をしてもいいかなって」
徳田は少し瞳を揺らして、森本はどこか楽しそうに言う。
「それで、【勇者】をするなら衣食住はかなりいいものにしてもらえるだろうし、給料もかなりの金額貰えるはずだろう、って思ってるんですがよくわからなくて……」
困った顔で言う高橋。
……コイツ等、【勇者】したいのか?
この人みたいに頭の回転も思慮深さも無いのに【勇者】なんて出来るのか?
呆れていると、
「ねえ、そもそも、本当に魔族領に帰還用の魔法陣? があるのかな?」
「「「あっ!!」」」
この人が根本的な問題を三人組に突きつける。
そうなんだよな。この国の奴らは有るって言ってるが、事実は証明されていない。
「それに、いつ帰ろうと思ってる? すぐ? 一年後? すぐなら、【勇者】として国に貢献しても無いのに【勇者】扱いしてくれるかな? 一年後とか、【勇者】をしばらくしてから帰ろうと思うなら、その期間を向こうに言わないとズルズル引き伸ばされる可能性がないかな?」
「「「確かに!」」」
「衣食住に関しては、私達とこの世界では価値観が違うから、色んな物を見せてもらって具体的に指定しないと通じないんじゃない? 例えば、王様並みなのか、重役並みなのか、小金持ち並みなのか」
「「「なるほど!」」」
「給料は、普通働いた分だけ貰う物だから、貴方達がどんなことが出来るかによって変わるんじゃない? それに、この国の人達は国を守る方法を言わなかった。なら、自分達の出来る仕事範囲とそれに対する給料を考えたら?」
「「「はい!」」」
三人組が考えてきた事に対して、改善点を解りやすく指摘する。
だが、考える事は三人組にさせる。その話術が俺には無理だなと、感心する。
三人組は躾けられた犬のように、この人のアドバイスに勢いよく揃って返事をする。
そこへ、眉をさげてこの人の頭の中で予想される事が伝えられた。
「あー、明日、この国の人達も意見を言ってくるから、交渉出来る様に最低ラインを作っておいた方がいいよ。たぶん【勇者】でない私達は口を挟めないから」
「「「え?」」」
「だって立場が違う。向こうが国を守ってほしいと言っているのは【勇者】によ。【巻き込まれた異世界人】には言ってない。だから、拉致・誘拐に関することは私が交渉してもいいけど、【勇者】じゃない私は、【勇者】に関する交渉のテーブルには着けないと思う」
「「「―――っ!!!」」」
三人組は顔を青白く染めるが、俺はこの人の予想はあり得る事だと思う。
そう、コイツ等は【勇者】だ。
この国の奴らは【勇者】を何としても獲得しようとするに違いない。
今日、あれだけこの人にコテンパンに言い負かされたんだ。
交渉では、極力この人を排除しようとするに決まってる。
内心この人の予想に頷いていると、
「……でもね、時間を稼ぐ事は出来るよ」
「「「ホントですか!」」」
「うん。交渉するのは貴方達だけど、交渉する日を明日じゃなくて一か月後には出来ると思う。拉致・誘拐の責任を取ってもらってからでないと信用できませんとか言えば、向こうも納得するんじゃない? その間【勇者】待遇じゃなくて【巻き込まれた異世界人】待遇なら、報酬が発生してないんだから【勇者】の仕事はしなくてもいいはず。それに教育期間中に、ここの人達がどんな対応をするのか、この国がどんな国なのか、知ってから考えた方が貴方達も判断材料が沢山出来ていいんじゃない?」
「「「はい!!」」」
時間を稼ぐ手段をコイツ等に伝えていた。
確かに、報酬がねぇんだから仕事しなくていいだろう。
ホントここまで、よく頭が回るな……。
それに疑問を一つも抱かずに返事をする三人組の頭の悪さと言動に、笑いがこみ上げてくる。
……洗脳されてんじゃねぇか?
「……くくっ……」
気が付くと、三人組は不思議そうに、この人は据わった眼をして俺を見ていた。
あ、マジィ……。
ただ、コイツ等の頭の悪さを考えると、後々文句を言い出しかねない気がする。
俺等は【巻き込まれた異世界人】で【勇者】じゃねぇ。
【勇者】のコイツ等に巻き込まれてもめんどくせぇ。
俺は召喚陣破壊のために旅に出ないといけないしな。
この人も、たぶんそれを考えての突き放すような言動なんだろう。
なら、釘でも刺しとくか。
この人には「悪い」とつぶやき、三人組をまっすぐ見て口を開く。
「お前らも不安だろうが、俺等も不安なんだ。人に頼りたくなるのは解るが、自分の事は自分で何とかするのが当たり前だ。アドバイスを貰っても、ちゃんと自分達で考えろ。人のせいにはするなよ」
「「「はい!」」」
……コイツ等解ってんのか?
イマイチ信用できないが、この人はどう思っているのかと視線を向ける。
ああ、三人組を見る目が信用してねぇ。
ただ、俺と目が合うと小さな苦笑いをした。
話が終わると、三人組は明るい表情で奥のリビングに話しながら移動して行った。
それを何となしに眺めていると、隣からポツリと聞こえる。
「ありがと」
「……いや」
さっきよりも気を抜いた様子でソファーに寄りかかり、少し疲れた様子だった。
そんな時、メイドが昼食の片づけにやって来て、お茶を新しい物に取り換えた。
そのメイドに、この人は興味津々に話しかける
「あの、お話しする時間ありますか?」
「はい。大丈夫です」
「昼食のメイン料理のフレグエリってどんな動物ですか?」
「フレグエリは体長三メートルの大型魔物で、トカゲを大きくしたような姿で獰猛な性格をしています。爪や噛み付き、尻尾などで直接攻撃したり風魔法で攻撃を飛ばしたりするので、とても討伐しにくい魔物です。魔物ランクSで、Aランクパーティーがやっと討伐出来るくらい強いです。ですので、かなり高級なお肉になります。勇者の皆様にお出しするので、これくらいが妥当かと判断されて調理されました」
おお! スゲェ! ランクSの魔物とか強ぇんだろうな!
めっっちゃ美味かったのも頷ける!
それに、Aランクパーティーってことは討伐する奴らの強さの事だろう。
……あれか?! 冒険者ギルドか?!
三人組に対して下がっていたテンションが上がる。
その間にも、この人は質問を続ける。
「あの、これらの食材って、今まで召喚された勇者の方々と関係ありますか?」
「他国から仕入れられている物もありますのではっきりとは申し上げられませんが、皆様がそう思われるならそうかもしれません。新しいお茶のご要望など何かありましたら、扉の外に待機している者にお声かけ下さい。すぐに持ってまいります。四の鐘の際には再度お茶とお菓子をお持ちいたします。では、失礼いたします」
曖昧な笑みを浮かべて言うと、そそくさとメイドは部屋を出て行った。
確かに、ベーコンなんて地球と同じじゃねぇか?
「……なあ。あの食事、勇者関係だよな?」
「……そうだと思うよ」
この人に話しかけると、お茶を飲みながら肯定された。
勇者か……。
そういえば、王太子が今までは一人だったって言ってたよな?
そこら辺もこの人は知っているのか?
「古来から勇者召喚してんだよな。この国」
「……そう言ってたね」
「……なんで今回五人なんだろうな」
「……」
返事がない。言いにくい事なんだろうか?
夜に話すってこの人言ったから、待った方がいいのか?
……だが訊きたくてヤキモキする。
そんな時に、
「……暇だよね……。向かいのソファーで寝ようかな……」
「おい……」
つい、突っ込んだ。
こっちは気になって仕方がないってのに、放置かよ。
しかし、俺の突っ込みなんか気にせず向かいのソファーに移動して、この人はそのままソファーに寝転んだ。
顔を背凭れの方に向けて、すーすー言いながら。
これは、話す気が無いって事だよな。
この人結構やりたい放題だな。
そう思ったら、ため息が出た。
目の前にあるお茶を飲んでいると、ふとまた何かを感じる。
「……ねえ。結界張ったから、そのままソファーに深く沈んで、顔を下に向けて、寝たふりして。特に口の動きが外から見て分からないように」
寝たものだと思っていた所に話かけられて、思わず持っていたカップをソーサーに勢いよく置いてしまった。
……ああ、寝たふりか。
小さく返事をして、指示通りに体勢を変える。
ついでだ。あくびもしてみた。
「……いいぞ」
「暇だから、私が知ってる召喚の裏事情を話しておこうと思って。夜まで待てなさそうだしね」
「教えてくれ」
この人からの提案にすぐさま頷く。
ここまで偽装して話すことなのかと疑問に思ったが、余程この国の奴らに知られたくない事なのかもしれないと思い直した。
俺も召喚陣破壊頼まれてるし。
……この国の奴らにバレたら……俺殺されるな!
今更ながら、自分の危険な立場を実感した。
そんな中で聴かされた『事情』は胸糞悪くなる内容だった。
玄関出たら召喚された事、創造神に召喚された事をポツリポツリと話すこの人。
他人の召喚状況に、「へぇ~」「そうか」と相づちをする。
そして、「世界の崩壊を救うため、他人の尻拭いのために召喚された」と召喚理由を嫌そうに言うこの人に、驚愕した。
世界の崩壊って……いや、本当にこの人崩壊を止めたのか?!
ってか、他人の尻拭い?!
かなりハードな召喚理由だと愕然としていると、この人はその原因を口にした。
「この国の人が、召喚手順をどうやら改造したらしくてね」
「ナンだよ、それ」
手順改造によって従来とは違う形で召喚を発動したから、その衝撃で世界に亀裂が入った?!
そりゃあ、この人が他人の尻拭いって憤るはずだぜ。
命取られて存在消されて異世界に無理矢理召喚されて尻拭いさせられた挙句、原因作ったこの国に飛ばされるなんて、この人がこの国を信用していないのも無理はない。
掛ける言葉が無いくらい理不尽すぎるこの人の召喚状況に、マジで同情した。
だが、崩壊を修正する代わりに創造神に交渉した事は、なんかこの人やりそうだなと思ってしまった。
しかも、女神だけでなく他の神と一緒に報酬相談なんて、普通あり得るのか?
……なんだかこの人ならヤり兼ねない気がする。
つうか、やったんだろうな……だから、ここにいるんだろう。
「あんた、すげえな」
かなりやり手なこの人の度胸の良さ、図太さに口から称賛が出た。
王様にあれだけ交渉したんだ。神だろうが、同じようにしてんじゃねぇか?
なら、報酬はかなりのモンじぇねえのか?
気になって報酬内容を尋ねるが口が堅くて教えてくれない。
チッ。教えてくれてもいいじぇねえか……。
結構食い下がったが、言葉を濁されてのらりくらりと躱された。
不機嫌な俺をもろともせず、この人は続けて本来の召喚されし子について話し出した。
……これ、俺の事だよな?
でも、俺【称号】に【勇者】はないぞ。
あ? 改造した召喚魔法の対象が『本物』とされて、俺の召喚は本来なら本物だが今回は『違う物』と認識された?
……要は、この国の奴らにとって【勇者】は三人組、世界にとっての【勇者】は俺って事か?
……そうか……。
まあ、どっちでもいいがな。
複雑な心境になったが、今更現状が変わる訳でもねぇ。
【勇者】するより、自由気ままに生活する方がマシだな。
知らなかった裏事情を知って、どこかスッキリとした気分になっていると、この人今度はダンジョンについて話し出した。
!! 報酬貰えんのか?!
俺そんな事言われて無いぞ?!
「なあ。それって俺もご褒美? 貰えんのか?」
「……う~ん……たぶん貰えるんじゃない?」
「……本当か?」
「確実とは言えないけど、同じ【巻き込まれた異世界人】だもん。適用されるんじゃないかと思うけど」
「……はっきりとは分かんねぇか」
「……初めのダンジョン踏破の時に、お願いしておこうか?」
「頼む!」
俺は神と交渉せずにホイホイ返事をして、貰える物だけで満足してしまっていた。
だが、交渉すれば報酬アップなんて、普通考えつかねぇぞ?
不満はねぇが、この人の話を聴けば聴くほど、なんで俺は交渉しなかったのかと後悔が出てくる。
ダンジョンなんて、テンション上がるじゃねぇか!
しかも、ダンジョン攻略後に報酬貰えるなんて最高じゃねぇか!
この人が交渉してくれるって言ってんだ。間違いないだろう。
……召喚陣破壊も別途報酬ねぇのかな……。
……いや……交渉してみる価値ありか……。
くくくくく。
心の中で小躍りしていると、
「ねえ、一応確認しとくんだけど、地球に帰る気ないよね?」
「あ? 俺はトラックか何かに轢かれたからな。まず身体がねえ」
「そうよね~」
「……もしかして帰れるのか?」
「いいや。無理。今回初めてこんな事になってるんだから、もちろん送還召喚陣なんて有る訳ないよ」
俺が死人だって恐らく知っていただろうに、訊く必要があったのか?
送還魔法陣の存在は確かにあやふやだったが、こうも言い切られると無いんだろうと思ってしまう。
「……この国の奴ら嘘言ってんのか……」
「それがね、嘘とも言い切れないんだよね」
「あぁ?」
「魔族ってどんな種族か神様に教えてもらった?」
「いや」
意味深な言葉に、頭が混乱する。
嘘ではないかもしれない?
魔族は……アレだろ? ゲームで言う所のラスボス的な。
そう思っていると、この人が教えてくれた。
「魔族はね、魔石を体内に所有する、魔物と魔人をひっくるめて指すの。正式名称は魔動族。時代の流れで『動』が省かれたみたいだけど。魔物は一部例外アリだげど、ほぼ全ての動物の事を指して、魔人は大昔に人族と種族が枝分かれした、魔力保有量が多く褐色の肌をした人達の事を指すの。どうやら、元々人族と魔人の先祖は一緒みたいなのよね。魔人は魔力保有量や身体能力が優秀だったみたいで、嫉妬や妬みで人族に迫害されて、魔人っていう括りにされちゃって、今は人族とは別の種族にされてるみたいなの」
「……マジか……ゲームみたいに悪いイメージの魔人の事だと思ってた。まさか先祖が人族と同じって、アジア人とアフリカ人の違い……って事か?」
「やっぱそう思うよね……。魔人って、要は肌の色や魔力量が違う人族なんだよね。もしかしたら、空間魔法とか移転魔法が使える魔人に頼めば出来るかもしれないんだよ」
「……なあ、そもそも魔人って人族に友好的なのか?」
「それは分かんない。神様達が言うには、魔人って穏やかな性格でこの世界の摂理を正しく理解してるって事だけど、人の性格って人それぞれでしょ? 良い奴もいれば悪い奴もいるし。魔人も一緒じゃないかと私は思ってる」
「……まあそうだな」
「ただ、好戦的ではないって聞いたから礼を尽くせば礼を返してくれるんじゃない?」
「なら、一概に嘘を言っていたわけじゃないのか……」
俺は帰れないからいいが、三人組は帰りたいと言っていた。
魔族領に行って、魔人に頼み込んで送還魔法陣を作動して貰えば……本当に帰れるのか?
この人の話からすると、今まで誰も帰ってないんだよな?
やる価値はあるかもしれないが、失敗の可能性だってあるだろう。
三人組にとっちゃ、ハイリスクだな……。
「あんた、あいつ等には教えてやらないのか?」
「あー……。迷ってる。榊君みたいに冷静に話を聞いてくれると思えないから」
「あぁー、無理だろ。若ぇし、俺等とは違って神から説明聴いてないから喚くだろうな」
「そうよね~。……それに考えも甘いし。……ただ、話すんなら一か月後かな。出て行く前に、大人の置き土産としてプレゼントしようかと」
「……そうか。……もしかして、あいつ等に時間を稼ぐ手段を教えたのは……」
「もしかしてよ」
「あんた、あいつ等に意思決定猶予時間を与えたわけか。ホントにすげえな」
「……勝手に召喚されたのは同じだけど、立場も状況も目的も違うし、何より身内でも何でもないんだから、あの子達の面倒を見る気はサラサラ無い。けど、後味が悪くならないように情報は教える気ではいるわよ。今のところは。ただ、面倒事はホント他所でやってほしいから、その情報を基にどんな行動を起こすかは勝手にやってほしいと思ってる」
この人の本音をやっと聴けた。
そうだ。かなり理不尽な召喚での仕事を、この人は既に終えている。
それ以上は、この人にとって面倒で仕方がないだろう。
だから、突き放した態度を崩さないんだな。
そうか。あれだ。
「……自己責任か……」
ポツリと呟く。
社会人になって一人暮らししてから、親にどんだけ世話になっていたのか実感した。
食事が出てくるのも、洗われた綺麗な服が出てくるのも、部屋が綺麗に保たれているのも、食費や光熱費を払ってくれていたのも、全て親がやってくれていた事。
自分以外の誰かに世話をされている事が当たり前で、そこに想いが及ばなかった頃を思い出すと、なんて恵まれていたんだと今は呆れるが。
だが、一人の人間として自覚すべきことではある。
自分のケツは自分で拭く。
他人にべっとりくっつかれても確かに困るだけだしな。
俺もキチンと自分で身を守れるように気を付けなきゃな。
考えに没頭していると、気の抜けた声が聴こえてきた。
「あ……。言い忘れてた……。あー、今回世界崩壊の危機だったでしょ? さすがに女神様も怒ってて、罰として人族領の国にある召喚陣を一斉に消すんだって。だけど、力の及ぶ範囲が教会らしくて、教会の無い国や、昔国があった所、遺跡なんかは消せないんだって。そこを榊君にお願いしたみたいよ」
「あぁ、それでか……。俺は女神に、巻き込まれた事と悪さをされないように召喚陣を破壊する事、その召喚陣は神が神託で知らせるってくらいしか説明されてないんだよ。まあ、俺は死んでるからな。生き返らせてもらえてラッキーくらいにしか思ってなかったから、深くは訊かなかった。……なあ、いつ罰は決行されるんだ?」
「っ! 訊くの忘れてた……」
「はぁ?!」
大事なところをまさか訊いてないとは!
呆れて低い声が出た。
だがすぐに胸がカッと熱くなって、驚きの声を上げてしまう。
「ん?!」
「あ?!」
『人族に罰を与えるのは、三日後の夜。二日後に神託を下します』
突然頭の中に声が響いてきた。
なんだよこれ。っつうか、これ神託だよな?
俺には目的地を神託するって言ってなかったか?
よく分からないが、訊きたかった答えが聴けたんだ。
良しとすればいいか。
「……なあ、今聴こえたか?」
「……榊君にも聴こえたんだね。……ねえ、【称号】に神様関連のものがない?」
「……ある」
「私もあるのよ。たぶんそれだと思うんだけど、ステータス開いて、その称号を強く意識してみてくれない? 説明文が出てくるから」
この人の言う通りステータスを開いて【ネウリピュアの守護】を強く意識してみる。
すると、出た。説明文。
こうやってステータスっていじるのか……。
「……なんだこれ。【神託】に【一週間に一回の質疑応答】と【ステータス上昇値、スキル成長値、二倍】の効果……。あんたも同じようなの持ってるのか?」
「……ある。私のは、【神託】【一日一回の質疑応答】【ステータス上昇値、スキル成長値、スキル取得率、二倍】【固有スキル】の効果」
「は? 多くねぇか? 【固有スキル】ってなんだよ? 俺のは【守護】だが、あんたのは?」
「……【恩寵】」
「……」
「……たぶんこれが反応したんじゃないかな……」
「……そうだろうな……」
俺のよりも上の称号のようで、【固有スキル】については話してくれなかった。
だが、いきなり神の声が聴こえてきた理由は解った。
しかも、訊きたかった答えだったので有り難い。
「……ねえ、二日後に神託が下りるって事は、人族の他の国にもきっと下りるのよね? 隣の国とか早馬で確かめに来るんじゃない?」
「……来るだろうな。事情を聴きに」
「しかも三日後に本当に召喚陣が消えたら、私達が最後の召喚人でしょ? 【巻き込まれた異世界人】でも貴重だからって他国からも狙われない?」
「……あり得るな」
うわっ、めんどくせぇ。
さっさとこの国を出たいのに、無理矢理引き止められるのはうぜぇ。
しかも、俺が他の召喚陣も破壊しようとしてるって知られたら、マジでヤバイ事になる。
しかめっ面になっているのは自覚しているが、直らねぇ。
「……めんどくせぇ事になりそうな気がするんだが……」
「だよね。こんな国さっさと出たいんだけど」
「そうだな。教育うんぬん言ってる場合じゃねぇ。出るぞ」
「ならこの際、賠償と魔族領までの移動手段確保、迷惑料は全て金銭にしてもらわない? それで、明日さっさとこの国出ようか」
「そうだな。……流石にあいつ等に言わねぇとマズいんじゃないか?」
「……はあ~。……そうよね~。……あの子達にもさっさと裏事情話して、自分達でどうにかしてもらうしかないよね」
「なら、すぐの方がいいんじゃねぇか?」
「……そうね」
心底面倒そうな声で答えるこの人。
三人組の反応が俺にも予想できて、面倒な事になりそうだとうんざりする。
無理矢理連れて来られたのに、違法な召喚だったと言われるんだ。
それに、あいつ等の【勇者】という存在意義が揺らぐ可能性もある。
混乱して喚くかもしれない。
そんな三人組の姿が頭の中に浮かんでくる。
この人は面倒臭そうにしながらも、ソファーから立ち上がり、三人組の方へ歩いていく。
それについて行っていると、鐘の音がまた聞こえてきた。