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面倒事はいつでもやって来る   作者: TO~KU
第一章 突然の異世界召喚
1/26

01 玄関出たら一歩で異世界

読んで下さりありがとうございます。

主人公に都合よく物語が進み、主人公の口が悪く性格も辛辣です(笑)

その点をご理解して読んでいただけるとありがたいです。

玄関に落ちた帽子と玄関先に駐車してあった愛車が、存在していなかったかのようにスーッと消えていく。

その様子を彼女は呆けた顔をして見送った。




***



冬も半ばを過ぎ、ダウンコートが手放せない二月。

高校卒業から一心不乱に働き倒し、気が付けばアラサーからアラフォーへと呼び名が変わる年齢にもかかわらず、結婚どころか彼氏の『彼』の字すら見当たらないほど、お一人様に慣れに慣れた、所謂『涸れた女』が、貯めに貯めてきた貯金を使って、海外で豪遊しようと計画を立てていた。


『涸れた女』こと丹羽未和(35)は、同類の親友に話を持っていき、


「マジで? あんた、お金貯めとくっていつも言うのに、どういう心境の変化?」


という言葉とともに、親友から快く海外旅行をオッケーしてもらった。

以前から、この親友に今まで何度も旅行に誘われていたが、仕事と貯金を理由に断っていた未和だった。


しかし、アラサーからアラフォーへと年を重ねた時にふと、

―――あれ?ここ七年近く、彼氏の記憶も無けりゃ、友達ともパーッと遊んだ記憶が無くね?

と、楽しみのない日々に気が付き、ここらで一丁豪遊でもするか、という気持ちになったのだ。


いつもは上がらないテンションはうなぎ登りで、未和と親友はきゃあきゃあと旅行の話で盛り上がった。

寒い日本を飛び出して、暖かいグアムにでも行くかと行き先が決まり、その日のために美和は仕事に励んだ。


会社で、旅行のために多めの有休をゴリ押しで申請してみればすんなりと認可が下りる。

しかも有給休暇消化のためにもっと長期間にしろと言われ、予定よりも数日長い休みが取れたので、未和は親友に相談して海外旅行の前々日から親友の家に泊まりこむことにした。


昼間は仕事、夜はちまちまと荷造りをする未和。

二十五歳からお肌は下り坂というが、三十歳からは健康が下り坂。


クーラーで体調を崩してはいかん、と着替えに悩み、飲み水や料理で当たったらいかん、と常備薬に悩み、日差しと海水で肌が荒れてはいかん、とスキンケアで悩み、未和の荷造りは遅々として進まなかった。


海外旅行用の大きなスーツケースと親友の家に泊まる用のキャリーバック。

初めて海外に行く未和は、己の独断と偏見に満ちたチョイスで荷物を埋めていった。


「じゃあ、行ってきます♪」


実家暮らしの未和は、リビングでくつろいでいた家族に挨拶をし、足にすり寄ってくる飼い猫をひと撫でして、玄関で靴を履く。

右手にスーツケース、左手にはキャリーバック、肩掛けバックを斜め掛けして、今日からバカンスだ! と、意気揚々と玄関から一歩足を踏み出した。


瞬間、身体がふわりと浮いたような気がして、未和は立ちくらみかと荷物をしっかりと握り、

ギュッと目を閉じた。

立ちくらみや貧血の時に起こる、頭がクラクラする症状も無く、気のせいかと目を開くと、未和は真っ白な空間にポツンと一人で立っていた。


「……はあ? え? なに? はああああああ?」


未和はしばらく唖然と立ちすくんでいたが、ここがどこで、なんで自分がこんな所にいるのか、なんでこんなことになっているのか、訳が分からなかった。

そこで未和がとった行動は、右手にはスーツケース、左手にはキャリーバック、体側には肩掛けバック、と自分の持ち物を見て確認し、間違いなく自分は親友の家に泊まりに行きそのまま海外旅行をしようとしていたはずだと確信した。


「ってか、ここどこよ! 私、玄関から一歩出たよね! マジで、ココどこ~!!」


どこかの誰かが答えてくれないかと、声を張り上げて叫んでみるが返事は無い。

何かないかと、未和がキョロキョロと周りを見渡してみると、右手の奥にいつの間にかドアが現れていた。


「さっきは何にも無かったのに……。まあ、行ってみるしかないよね! よし!」


何がどうなっているのか現状が何一つ解らない状態で、現状を打開するため、気合を入れて未和はドアの向こうへと進んだ。


未和が進んだドアの向こうは、真っ白な空間は変わらなかったが、大小様々な大きさのモニターらしき物が所狭しに並んでいた。

中央が通路になっていて、左右に大きさが不揃いのモニターらしき物が二~三列になって奥までびっちりと並び、全ての画面が中央を向いている光景に、未和は寒気がした。


「え? なにここ。何見んのよ。何が見えんのよ」


モニターらしき物の画面は、テレビとは違い灰色だったが、映し出されるものが気になった未和は、必死に無数にある画面を見渡した。


…………ジ……ジジ……

低音とともに、全てのモニターらしき物の画面が一斉に白くなる。

もしかしたら画面に映る映像が自分に関係あることかもしれないと、未和は静かに見守った。


そこに映し出されたのは、玄関から踏み出した足元の土が幾何学模様に光って未和を飲み込む様子だった。

いつもは被らない帽子を海外だからとはしゃいだ気持ちで未和は頭に乗せていたが、しっかりと被っていなかったためか、未和が光に包まれた後に帽子だけがその場に残り、ふわりと宙を舞って地面に落ちた。


そして、玄関の向かいに駐車してあった三台の車の中で未和の車だけが、地面に落ちた帽子とともに消えて行った。

―――何で私の物が消えてんの! 何なの! 何が言いたいの!


自分で稼いで買った愛車が跡形もなく消えたことに、未和は唖然とした。

訳が分からない現状への恐怖で喉の奥からも熱いものがこみ上げてくるが、泣いたって現状は変わらない、と未和は歯を食いしばって涙を耐えた。

それよりも、どういう事態が起こっているのか知らなければと、ギッと近くの画面を睨み付けながら、未和は目を爛々とギラつかせた。


未和の眼光がヤバイものになっていたからか、それとも計画通りかはわからないが、未和の帽子と愛車が消えて、空から粉雪がちらつき始めた映像が流れた後、モニターらしき物の画面がまた一斉に白くなった。


「今度は何よ」


消えてしまった自分の物が帽子と車だけならいいが、もしかしたら、今ここにない全ての自分の物が同じように消えてしまっていたら、と未和は不安な気持ちに襲われる。

だが、車が消え失せるくらいなら他の物だってあり得る、と諦めに似た達観もしていた。


『ごめんなさい。貴女しかいなかったのです。助けてください。お願いします』


何処からともなく聞こえてきた、清涼感ある透き通った中性的な声。

未和は声の主を探そうとキョロキョロと辺りを見渡すが、それらしき人影はない。


―――誰こいつ。つーか、貴女しかいないとか知らねぇし。

やさぐれモードの未和は、誰とも解らない声に反応するものバカらしいと、だんまりを決め込んだ。


―――助けてくださいって、誘拐して、人の物を消して言うことじゃないよね~。

今手元にある物まで消されては困ると、スーツケースとキャリーバックを抱え込む未和。

そうしながらも、頭の中では予想される展開を何通りにも推理し、声の主からの続きを待った。


『……本当にごめんなさい。…………どうしよう……』


何やら声の主が困惑しているが、未和はそんなもの知るか! と気にする様子はない。


―――ごめんなさいって言葉だけで済むのは小学生までよ! 謝罪するなら賠償とかお詫びの品とか必要でしょうよ! 驚かせて迷惑かけておいて、挙句の果ては助けてくださいだぁぁぁ? 寝言は寝て言え!!

口に出して答えることはしないが、心の中で未和は盛大に突っ込みを入れていた。


―――お願い事も、詳細を伝えずに了承を得ようとするなんざ、詐欺だよ! 詐欺! 無理難題を押し付けて、報酬は一つもないとかいうパターンじゃないの? ざけんじゃないわよ!


『……っはぅ……』


―――助けてもらいたいなら、それなりの対応があるでしょうよ! なに、この助けてもらえて当たり前な感じ! こっちをバカにしすぎでしょう! 誠意ある態度を取って、一からちゃんと説明して、快く引き受けてもらえるように仕向けるのが当たり前じゃないの!


『……うぅ……』


いつの間にか未和の心の突っ込みに答えるように、声が聞こえていた。

そのことに気付いていたが、鬱憤を晴らすのが先とばかりに、悔しさも情けなさも恐怖も不安も、お前のせいだろうが! と未和は心の中で思いの丈を吐露していた。


そして、そろそろ鬱憤も晴れたというところで、最後に未和は声の主に対して叫んだ。


「ってか、私の現状ってどうなってんのよーーー!!!」


未和は、ゼイはぁと息を切らせながら声の主の回答を待った。


『……本当にすみません。賠償もお詫びも報酬も説明も全てきちんとします。どうか、どうか、話を聞いて頂けないでしょうか』


切羽詰まった様子で話し始めた声の主に、かなり鬱憤が晴れた未和は、まずは話を聞かなければどうにもこうにも進まないことを思い出し、声の主の言う「話」の続きを促した。


声の主曰く、

『異世界人召喚の手順を現地人が変えたために、世界が崩壊しそうである』

『その崩壊は地球にも影響を及ぼしてしまう』

『崩壊を止めるために必要な人材を急きょ召喚した』

『急だったため、召喚された人材の存在を元の世界で消した』

ということだった。


これまた突っ込みどころ満載である。

もちろん未和も心の中で大いに突っ込んだ。


―――全く関係のない世界の知りもしない奴の尻拭いで召喚されたってことぉ!!


『……すみません』


―――自分のケツは自分で拭くもんでしょ! 自分とこの世界で何とかしなさいよ!


『……それが、無理で……』


―――何で他人頼りなんだよ! しっかりしろよ!


『……はい……すみません……』


―――元の世界の存在を消すってどういうことよ!


『……勇者召喚にもかかわることなのですが……』


―――説明プリーズ! 詳細求む!


『……元々、この世界の召喚は死んだ方の魂を召喚するものでしたが、現地人の手順改造で生身の方を召喚してしまいました。【魂だけ】と【魂を含む生身】では、世界を渡る衝撃が違います。その衝撃は召喚されし者ではなく、この世界にもたらされます。そのためにこの世界に亀裂が入りました。徐々に亀裂は大きくなり、自然災害も酷くなっていきます。この世界の住民・現地人では修復できる規模ではありません』


―――ん? 貴方や神様とかは?


『……存在の消滅を賭ければ修復できるかもしれませんが、神の存在が消滅すると他の世界にも影響を与えてしまうので、結局、私やこの世界の神では修復できないのです』


―――だから、修復できる人材を召喚したのか……。


『――っすみません。で、【魂を含む生身】を召喚したのは初めてで、召喚されし者の元の世界での詳細について決められていなかったので、必然的に【存在しなかった者】と貴女の世界では処理されたのです』


未和にとって、声の主が言ったことは、帰れず任務を遂行するしかない、という残念なお知らせでしかなかった。

他人の尻拭いのために異世界に召喚され、地球では存在が無かったことになっている、という説明に考え込む。


自分の存在自体が無くなったのなら、自分で買った物も、家族や他人の中にあるはずの自分の記憶も存在しない。

―――覚えているのは自分だけ?


自分の存在が消えるという孤独感に、未和は押しつぶされそう……にはならなかった。

だって、アラフォー。

人生に三度や四度や五度は、孤独感や絶望感に飲み込まれそうな事も起こる。

未和ももちろん経験済み。


むしろ、他人よりも中々深い絶望感に飲み込まれたこともある未和は思った。

―――家族や友達につらい思いをさせることも無いから、召喚のやり方としちゃあ、アリだな。ただ、私には多大な迷惑が掛かってるけど!!

と。


結構なメンタルの強さに、声の主も言葉が出ないのか、話が途切れてしまった。


「ねえ、続き」


『……あ……えっと、なんでしたっけ?』


盛大に突っ込まれるだろうと構えていたのに、あっさりと納得した未和に拍子抜けした声の主は、どこまで話したのか忘れていた。


「あー、貴方は私に何をして欲しいの?」

『そうでした! この世界に入ってしまった亀裂を修復する手伝いをして欲しいのです。もちろん、こちらの勝手で貴女を召喚したことに対するお詫びや賠償、お手伝いの報酬やお礼は必ずします! お手伝いも簡単で、貴女の魂氣を亀裂に張り付けて頂くだけです』

「魂氣?」

『ええ、馴染みがないかもしれませんが、魔力と精神力と魂の輝きが混ざった物です』

「……」

『貴女は、地球人にしては魔力が多く、精神力も高い。何より召喚時の魂の輝きが素晴らしかったのです』

「……」

『よほど嬉しい事か楽しい事か幸せな事があったのでしょうね』

―――ええ、その予定だったんですがね!


軽快な調子で話す声の主だが、話している内容は意外にデリカシーがない。

初の海外旅行という幸せの絶頂とも言える状態の未和を、わざわざ選んだと言っているのだから。


未和も呆れて返す言葉が無く、こいつ人の感情に疎いな、と評価していた。

声の主からしたら、亀裂を修復できる人材を確保するための条件だったので、悪気があったわけではない。ただ、未和の気持ちよりも、守っている世界を優先しただけの事。


『……あ、すみません……』


未和の突っ込みで、幸せの絶頂から異世界へ召喚という事態を起こしたのが他ならぬ自分だったことに声の主はやっと気づいた。


『あの、賠償やお詫び、報酬やお礼は、貴女の希望とか願いとかを出来る限り叶えようと思っています。この世界を救っていただくのですから』

「マジで?」


願いを叶えるという言葉に、未和のテンションが上がる。

人生で一度は言われてみたい言葉だから。


「じゃあ、お手伝いしたら召喚前の状態で地球に帰して」


召喚したんだから元の場所に戻すことも出来るだろうと思って、未和はお願いしたが、声の主の答えは、『出来ません』だった。

所謂【世界の法則】で、地球では一度消した存在を蘇らせる事はできないのだ。


―――チッ。使えねえ。

一番の願いが叶えてもらえない事に、未和は悪態をつく。心の中で。


未和は、海外旅行を諦めていなかった。

初の海外旅行を未和はマジで楽しみにしていたのだ。


実は、すんなりと、声の主の存在を受け入れている未和だが、冷静さは忘れていない。

声の主の話を鵜呑みにしたわけではなく、話の内容に突っ込みを入れていただけ。


この真っ白な空間も、モニターらしき物も画像も、文明の利器を駆使すればどうにか作れる。

「実はドッキリでした」と言われても、「手の込んだ嫌がらせだな」で済ませられる範囲だと、未和は思っていた。


しかし、さっきから声の主が『この世界』『貴女の世界』と言葉を変えて言っている事から、ここが地球ではなく違う世界なのではないか、と感じ始めていた。

なにより、自宅の玄関先から今いる空間への移動手段が、説明できない。


ちょっとの希望を抱いて、未和はこそっと携帯を確認してみたが圏外。

「親友の家にも行けない」「海外旅行にも行けない」「家族と連絡も取れない」「異世界に居るかもしれない」「地球での自分の存在が無いものになっているかもしれない」「世界を助けてください」という現状に、マジで【異世界移転】かもしれないと未和は考え始めていた。

しかし、判断する材料が少なすぎて、未和はイマイチ信じることができない。


『……すみません。あの、他の……』


声の主が話しかけるが、自分の世界に入り込んでしまっている未和には聞こえていない。

何度目かの声掛けで、声の主の自己紹介を聞いていないから現実味を帯びていないのかもしれないと思い、未和は口を開いた。


「あ、ごめんなさい。そういえば貴方誰ですか? 聞くのを忘れてた。ついでに、ここってどこ?」


未和は話題をぶった切った。

今まで声の主が話していたのは、召喚の理由。

召喚の理由も聞きたい事の一つだったので、声の主の話に耳を傾けていた未和だが、声の主の立場や現在地、自分の存在状態が判明していないことに今更ながら気付いたのだ。


『あ、私はこの世界【ファイ】の創造神【ファイ】です。ここは』

「ちょちょちょちょちょ! この世界と創造神は同じなの?」


自分の知りたいことや疑問を解決するには即座に質問した方が早いと、未和は焦って口を挟んだ。


『? いえ、この世界は私が作った世界で、私は創造神です』

「この世界と創造神は違うモノというか違う存在なのね?」

『そうですね。繋がってはいますが……』

「……」


未和は、繋がっているってナンだ? と引っかかったが、自分にはあんまり関係ない事だと踏んで気にしないことにした。


『えっと、私は世界を守っている存在で、この場所は私が作った異空間です。貴女を召喚するために作った空間で、時間の流れもほぼ止まっている状態です』


突っ込みたかったが、神様それも創造神のすることだからと無理やり自分を納得させる未和。

世界に名前があって、声の主の立場も現在地も解った。

だが、確証が一つもない。


「あー……。貴方の言ってる事が本当の事だと判断できないんだよね。姿だけでも見せてくれない?」


と未和は首を傾けて言った。

すると、モニターらしき物達が一斉に消え、一メートルほどの光の玉が未和の前方に現れた。


『これでいいですか? 私は形がありません。この世界の【意思】といった方が解りやすいかもしれませんね』


光の玉から声が聞こえるという初めてのスピリチュアル体験に、未和の目が点になる。

生まれてこのかた霊的な体験なんぞ一回もしたことがない未和は、不思議現象を目の当たりにしたことで、異世界召喚が自分の身に、今、まさに降りかかっているのだと実感した。


そして、今後の自分の人生をどこで送るのか気になって、未和は尋ねた。


「えーっとファイ様? の言ってることが本当だとして、私って今、生きてるんですかね? 死んでるんですかね? あと、お願い事を叶えて下さるって言ってましたけど、今後の私の生活ってどうなるんですかね?」


結構な口の悪さを披露した後だが、相手は神様。

形式だけでも敬わないとマズかろうと、未和は言葉遣いを丁寧にした。


現状が「手の込んだイタズラ」のせいであることを願っていた未和だが、その期待も潰れてしまったので、気持ちを切り替えて未来を切り開く事に気を向けた。


『貴女は仮死状態といったところですね。私が貴女の今までの人生を奪ったのですから、亀裂の修復をお手伝い頂いた後は、この世界【ファイ】での人生を責任もってご用意します。そして、賠償やお礼等で【ファイ】で生活を送る上でのお願い事を叶えます』


優しい口調で答えた創造神の言葉に、異世界で新しい人生を送る妄想がちらっと頭によぎり、海外旅行も異世界旅行も本質は変わんないよね? とちょっとウキウキした未和だった。


しかし、普通に考えて、現在進行形で身に降りかかっている理不尽な状態を思い出すと、ため息が出た。

せめてもの救いは、家族友人が哀しむ事が無いことだろう。


「はあ……。家族の記憶からも消されて、地球にも戻れない、ファイで今後の生活を送る、って、今後の人生を続けたかったらお手伝い必須って事で、はっきり言って拒否できない選択じゃないですか」

『すみません……』

「……わかりました。起こってしまったことは取り返しがつきませんし、お手伝いします。元々海外旅行に行く予定でしたので、行き先が異世界に変更になった事にします。ただ! 結構口悪く突っ込んだりしましたが、私が喜んでお手伝いしたくなるような、お詫びやその他諸々を提示してください」

『っ! ありがとうございます!』


未和の頭の中では、召喚=誘拐、現在地=監禁場所、神様からお願い事=脅迫、と変換され、どうあがいてもやるしかないのだと結論が出た。

それに、地球に戻れず、家族・友人の記憶にも残っていないという、死んだも同然……いや、存在を消されたのだと心にストンと落ちてきて、納得と共に自分のこれからを考えるべきだと思ったのだ。


ならば、これ以上駄々をこねて創造神の気分を害するよりも、今後の異世界生活に影響がある賠償・お詫び・報酬・お礼の確約を取っておくべきだと考え、未和は異世界生活を快適にするための交渉を始めた。

……哀しみと家族への想いを心の奥に秘匿して……。


『先ほども言いましたが、貴女の願いを出来るだけ叶えるようにしますので……』

「それって、賠償・お詫び・報酬・お礼、それぞれ分けて考えてもいいですか?」

『もちろんです』

「なら、上限って――――――――――」


創造神が言うには、願いの上限は『亀裂を直せるくらいの価値分』という事だったが、未和にはよく解らなかった。


とりあえず、見知らぬ土地で生態系も生活水準も価値観も違う事を踏まえて、

・賠償=異世界での人生・私財の復活・異世界の知識

・お詫び=異世界生活で役に立つ物品

・報酬=異世界生活が快適に送れるような事

・お礼=おまかせ

でどうかと、未和は提案した。


『はい、大丈夫です。細かい調整は後でしましょう』


少し弾んだ声で了承する創造神。

そして、お手伝いの承諾を取り消されないうちに! とばかりに、


『では、早速亀裂の修復を……』


と、未和を急かした。

実は、【急を要する世界崩壊の危機】という事態で【未和以外に危機を救える者が居ない】【他の手段を取る術が無い】という状況のため、創造神も焦っていて、未和の協力を何としてでも早く得たかったのだ。


亀裂の修復と言っていたが、未和がしたのは、「治れ~治れ~」と念じながら光の玉に手をかざしただけ。

かざした手から、光の玉に何かが吸い取られている感覚はしたが、かなり大変な重労働だろうと構えていた未和は拍子抜けした。


未和は知らない事だが、光の玉に注いだ魂氣は、創造神の予想をはるかに超えて上質なものだった。

そのため、創造神にとって心地良いものであり、魂氣を注がれながらうっとりとしていた。


また、質の良さで魂氣の必要量が少なくて済んだので、未和にとってあまり負担にならず、手をかざしただけという、簡単な作業になったのだ。


十分なのか一時間なのか、かかった時間は解らないが、もう十分だと言うように光の玉が一層輝く。


『あぁ。もう大丈夫です。治りました』


と、気持ちよさそうにファイは言い、


『では、願い事の調整のために、三柱のもとへ送りますね』


の言葉とともに、強烈な光を放った。

ーーーっちょ!


光に包まれた未和は、言葉を発する時間も貰えずその場から姿を消した。



心地好い魂氣で恍惚な気分になっている創造神は、未和に散々突っ込まれた事に対して焦ったりどもったりはしたが、気分を害する事はなかった。


それよりも、未和の機嫌を損ねて、折角注いでもらった魂氣を返せと言われる方がマズいと判断し、話も早々に今居る場所から飛ばした、確信犯だった。


そして、強制的に未和を三柱のもとへ送った創造神が『予定とは違ったけど彼女なら大丈夫だよね』と、不審な言葉をこぼしていた事を未和は知らない。




読んで下さりありがとうございます。


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