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ザ コース オブ ライフ TEARS OF THE SUN  作者: やましたゆずる
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第2章 トラウマ その2 同窓会にて

この男が、40歳の時に小学校の同窓会に初めて出席をした。この男は、ある人に会いたくてここに立っていた。


この男が、受付を済ませると会場の中に入った。少し遅れて来たのですでにたくさんの人でざわざわしていた。この男に気づいた旧友からすぐ声をかけられて話をしていると、前から見たことがある二人の女性がこの男に微笑みながら近づいて来た。


「赤間川さん。お久しぶりです。今やスーパースターですね。テレビとかで活躍を拝見してますよ。CD買いました。」

ひとりの女性が笑顔で声をかけてきた。


「裕子さんと真理さんですね。お久しぶりです。お二人とも面影が残ってますね。あの頃と変わらずカワイイですね。」

この男は、二人の顔を見てにっこり微笑んだ。


「いいえ。ババアになりました。」

裕子が、最後に大きな声をあげて笑った。そして、三人はお互いの顔を見合わせて釣られて笑った。


「あっ、お二人には、お礼を言わずに卒業してしまった事、謝らなくては。申し訳ありませんでした。この場をかりて、あの時のお礼を。ありがとうございました。約30年たったけど今でも感謝しております。」

この男は、二人の目を見ると深々と頭を下げた。


「今では、サックスホーン奏者になりました。もう、音符を見ないでも大丈夫なくらいに。あの時の二人のおかげですよ。本当にありがとうございました。」

この男は、二人を見つめて微笑んだ。


「いいえ。あの時は、教えたけど結果が出なくてこちらこそ、謝らなくてならないですね。もっと、教え方を考えればと後で思ったりもしたけど。すいませんでした。」

真理が、この男の目をじっと見つめた。


「赤間川さん。今日は、前島さんは?」

裕子が、回りを見た。


前島さんは、精神病を患って病院の入退院を繰り返している事をふたりに話した。二人りともショックを隠しきれずこの男の話を聞いていた。


「ねぇ。あの時は、二人で真剣にリコーダーを教えたね。でも、その甲斐もなく最後まで吹けなかったね。」

裕子が、二人の顔を見つめつた。


「あの時は、音楽そのものを理解出来てなかったんだ。今思うとね。音符やリズムを覚えるのって、すごく簡単な事だったんだよね。笑っちゃう。それに音楽の塚本先生、好きじゃなかった。」

この男は、二人を見つめた。


「そうね。私も塚本先生好きじゃなかった。エコヒイキの天才だった。赤間川さんが歌の時はその片の入れよう半端かなったよね。赤間川さん、歌、うまかったから。それに、声が素敵だったね。」

真理が、この男の顔を見た。


「今は、こんな声だけど。歌は今でもいけますよ。」

この男は、二人の顔を見てニヤリとした。


「ねぇ。本当の事、言っちゃうね。もう時効だし。あの時、ふたりにリコーダーを教える事、塚本先生にいわれたからじゃなくて、私たちで志願した事だったのよ。」

裕子が、上目遣いで少し照れた。


「えっ?何で?」

この男は、ビックリして、言葉に詰まった。


「ええい。この際だから言うけど、あの時、二人りともあなたが好きだったのよ。あああ。言っちゃった。恥ずかしいなぁ。」

裕子が、顔を赤く染めた。


「ええ?本当?」

この男は、また、ビックリして後退りした。


「ああ。やっぱり気づいていなかったんだね。私たちの気持ち。あの頃のあなたに好意を持っていた女の子は多かったのよ。今日だって、あなたに声をかけてくる女性の多い事に気づかない?あなた、女性に興味ないの?それも昔のまま?」

裕子が、この男の顔を睨んだ。


「、、、、、、。」

この男は、何も言えずに二人の顔見た。


「でもね。あの時は、楽しい時間を過ごさせてもらたね。前島さんには、悪いけど。教えている時にあなたの指に触れたとか、あなたの吹いていたリコーダーを吹いちゃったとか。そう。裕子が間接キスしちゃった。って喜んじゃって。その晩、眠れなかったって。言ってたよね。」

真理は、二人の顔を見た。


「ごめん。あれ、狙っていたの!」

裕子は、二人を見て笑った。真理は、目を細くして裕子を睨んだ。


「そうそう、放課後の帰り道は、ふたりの会話はあなたの事ばかりで。私、あの時の胸の痛み忘れない。たぶん、あれが私の初恋だったと思う。またね、私たちどっちがあなたに選ばれるかなんて、給食のメインのおかずを賭けたりしたりして。」

裕子は、笑顔で、二人の瞳をじっと見つめた。


この男は、ふたりの話に驚かされていた。この頃の女の子には、興味がなかったし、恋愛なんて皆無に等しかった。だから、女の子からの視線なんて全然わからなかった。そう、女の子を好きになる事なんてなかった。


「ありがとう。ちょっとした、私たちの恋愛話に付き合わせてしまって。」

裕子が、この男の目を見た。少し、瞳に光るものが見えた。


「泣かなくてもいいよ。今、その話を聞けてよかったよ。ありがとう。ふたりにそう思われてたなんて、光栄だし幸せだよ。」

この男は、二人の目を見て微笑んだ。


「赤間川君。ありがとう。ああ。あの時の気持ち、いまでも思い出すと涙が出てきちゃう。」

裕子は、カバンからハンカチを出して目頭を押さえた。


「あなた、あの頃とちっとも変わってないわ。歳はとったけど、渋くて、若く見えるわよ。惚れ直してもいいかしら。」

裕子は、この男の目をじっと見つめた。


「裕子ばっかりズルい! 私、今、独身だから。」

真理が、ドヤ顔で裕子を睨んだ。


真理は、3年前に離婚していた。子供もいなかった。今、独身生活を満喫していた。


「それでは、今度、三人で食事でも。ご馳走します。小学生の時のお礼に。」

この男は、二人の潤んだ瞳を見て微笑んだ。


40歳になった、裕子と真理は、あの秋の放課後に時間が戻った瞬間だった。


「赤間川君。結婚は?」

真理が、この男の目を見た。この男は、微笑みながら左手の薬指を自分の顔の前に出して見せた。二人の顔が少しだけ曇った気がした。


「話は変わるけど、小学校を卒業して、すぐ私たち別々の中学校になったよね。赤間川君の事は、うちの中学校でもウワサになっていたくらいだったのよ。イケメンで可愛いって。卒業アルバムの中ではダントツ一番人気だったよね。あなたの中学校まで赤間川君の事、見に行った女の子は多かったはずよ。もちろん、あなた気づかなかったよね。」

真理が、この男の顔を見た。


「中学3年の時、赤間川君、ゆかりと同じクラスになったよね。覚えている?ゆかりは、あなたに、惚れたってあちらこちらで公言していたのよ。あの人、当時スケバンだったから。他の女の子は、誰もあなたに告白できなかったって。一年の時の美沙子や二年の時の奈緒もあなたに好意を持っていた為、それが、ゆかりにバレて酷い目にあったらしいよ。噂だけど、本当みたい。」

真理が、この男の顔を見た後、ゆかりが今日出席しているのを知ってか、ゆかりと思われる人物をチラチラ見た。


「、、、、。」

この男は、それを黙って聞いていた。


ゆかりの事は良く知っていた。今日、この場に来ている事も知っていた。この男が、今、ここに立っているのは、ゆかりに会いに来ていたのは事実だから。でも、どのタイミングでゆかりと顔を突き合わせるか考えていた。それに、あの頃のこの男にかかわる女の子達が、怖い思いをしていた事、今の今まで知らずにいた。そこまでして、自分と付き合いたかった、ゆかりの気持ちも今、知ることが出来た。


そして、あの夏休みのふたりの事件の事は、裕子と真理も知らないでいた。また、この男とゆかりが付き合っていた事も誰も知らない。



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