第5章 発表会 その5はじまった発表会。
「二番手は、先週からレッスンに来てくれてる。水野洋さんです。ソプラノサックスでの演奏です。ケニーGの曲名は、センチメンタルです。」
武田先生は、この教室で、一番年上の水野さんを紹介した。水野さんの顔を見てニヤリと笑った。
水野さんは、マウスピースを咥えてソプラノサックスをかかまえた。セルラーのクラシックモデルで渋い音で遠慮する人であった。演奏が終わり、会場から拍手がとまらなかった。
「なかなかの演奏でしたね。」
武田先生が拍手を遮るように、声をはっした。
武田先生が、この男を呼んだ、話があるらしい。少し焦った顔をしていた。
「新人さん。ごめんなさい。ゆいちゃんの使っていた。サックスが昨晩、壊れて、新人さんのサックス借りられないですか?ゆいちやんは、、先週、借りた時にフィーリングが良かったから。是非、お願いいたしますと言うことで。」
武田先生が、この男に状況を説明した。
「喜んで使ってください。ゆいちやんは、、パニックっていませんか?これから、本番なのに。だいじょうぶかな?」
この男は、武田先生の目を見つめニヤリと笑った。
しばらくするとゆいちやんがこの男のサックスを借りに来た。
「頑張れよ。」
この男は、一言だけ。告げて、サックスを手渡した。
「三番手は、田尾さんです。演奏曲は、ジュピターです。テナーサックスでの演奏です。」
マウスピースを咥えて大きく息を吸い込んだ。息を静かにサックスに入れて、音を出した。演奏が終わり拍手でみんなが迎えた。
練習室にゆいちゃんを見に行ったところ、良い音を出していたので、心配はいらなかった。
ドアを開けて、「いいぞ。」一言だけ告げてゆいちゃんの目を見た。」
「そうですか?楽器が良いので。ありがとうございます。」
そんな二人を見ていた、男が声をかけてきた。
「ふたりは、いつも仲がいいなぁ?デキテル?」
前からゆいちゃんに気がある五島君だった。彼は、優衣ちゃんに惚れていた。
「いつもうるさいわね。あっち行ってよ。このスケベ!」
あのおとなしい、ゆいちやんが、五島君を睨み付けた。
「ああ、図星だな。」
五島君は、ニヤなから、ゆいちゃんを見た。
「次は、演奏、がんはれよ。。」
五島君が、ゆいちゃんの目を見た。
「次の演奏は、最年少の白石ゆいさんです。演奏曲は、渡瀬橋です。」
ピアノの伴奏がはじまった。ゆいちやんは、大きく息を吸い込んで、マウスピースに静かに息を入れた。最初からアドリブを入れて来た。先日、この男と武田先生の三人で練習したものだった。
「ゆいちやんは、、腕を上げてますね。よくなってます。音。」
武田先生は、隣に座っていた、この男の耳元でつぶやいた。
この男も、頭を縦に動かした。
その後、平田さん。島野さん。吉井さん。秋元さん。高橋夫妻ど演奏は、続いた。ラストは、この男が本日、二回目の登場です。曲は、雪の華です。
昨日の話でね。河川敷で、いつものように車の中で練習していた。車の窓をノックする音がした。見ると初老のご夫婦が立っていたのが見えた。
この男が窓を開けると、旦那さんが声をかけてきた。
「いつも、この車から、素敵な音が聞こえてくるから、今日は、勇気を出して、声をかけさせてもらいました。練習の途中すいません。」
初老の旦那さんは、この男の目を見てニコリて微笑んだ。
「いいですよ。是非、聞いてください。外に出ますね。」
この男は、初老のご夫婦に向かって笑顔で微笑んだ。
「雪の華と言う曲です。明日、発表会があります。」
この男は、息を大きく吸い込んだ。静かにマウスピースに息を入れた。発表会仕様のアドリブから曲を演奏はじめた。
夕暮れの河川敷にサックスの音が響いた。オレンジの空の下、いつの間にか、ギャラリーが増えていた。演奏を終えた、この男に拍手の嵐が吹き荒れた。
「なんか、私、涙が出てきちゃった。素晴らしいわ。」
初老のご夫婦の奥さんが涙をハンカチでふきながらこの男の目を見た。
「妻を泣かせたな。素晴らしかったよ。また、聞かせてな。」
初老の旦那さんがこの男の目を見てニヤリとした。
この男は、ご夫婦の姿が見えなくなるまでふたりを見送って、手を振った。




