第4章レッスン その7ゆいちゃんの事
「それでは、息をズバッと入れます。さっきと音が変わりますよ。こっちの方がはっきりとした音になります。何を言いたいかといいますと口先だけで吹くなって事です。 やってみてください。」
武田先生は、俊をチラッと見た。
「良い音になりましたね。その調子ですね。音が生きてます。」
武田先生は、笑顔になった。手をはたいて喜んだ。
「息の入れ方次第でいろんな音が楽しめますよ。そのニュアンスを感じとってください。」
武田先生は、笑顔でこの男の顔をチラリと見た。
「もう一度、いろんな息を入れてみます。よく聞いてください。何パターンかやります。」
武田先生は、俊の目をじっと見た。
「何パターンありましたか?」
武田先生は、俊に答えを求めた。
「2パターンです。」
俊は、武田先生の顔を見た。
「当たりです。よくわかりましたね。簡単でしたか?」
武田先生は、手を叩いてニコニコしながら俊を見た。
「お疲れ様でした。来週は休みです。」
武田先生は、教室のドアを開けると俊に聴こえるように叫んだ。
俊は、教室を出ると待ち合い室に先程レッスンを終えたゆいちゃんとありさが会話していた。
「学校でブラバンしてるの?」
ありさがゆいちゃんを覗きこむように、話声が聞こえて来た。
「集団行動きらいだからやってませんよ。」
ゆいちゃんがありさの問いかけに答えていた。あい変わらず無表情だった。
「ヘヘエ。そうなんだ?」
ありさも口を尖らせて、頭を縦に上下にふった。ゆいちゃんから予想外の答えが返ってきた。その後、ふたり沈黙が続いた。
「あのう。私の後にレッスンをうける男性の奥さんなんですか?さっき、武田先生との会話が聞こえてしまって。」
ゆいちゃんが、突然口を開いた。
「そうだよ。あっ!さっき聴こえた?ね。ちょっと恥ずかしい話もしたけどね。」
ありさは、ゆいちゃんから意外な質問がきたので、驚きながら答えた。
「2回だけチラッとしかお会いしていませんが、見た感じ素敵な旦那様ですよね。」
ゆいちゃんが、また、無表情でありさの顔を見た。
「あら。ありがとう。見た感じも中身も素敵だよ。ウフフ。まあ、本人に言ってあげてよ。喜ぶから。あなたみたいな可愛い女の子に言われると特に。ほら、教室から出てきたから。」
ありさは、笑顔でゆいちやんを見つめた。
「いえ。そんな。」
ゆいちゃんは、そう言うと一瞬、笑ったように見えた。
俊は、ふたりのやりとりを遠目でみていた。
ありさは、心の中で「ガキがお世辞を使いやがって。」と思って、ゆいちやんの顔をマジマジと見ていた。「私にはない。若さと肌艶感」があるのに気付いた。ガラスに映り込む自分の顔を見てチェックを入れた。ゆいちゃんは、サックスをかたずけも終わり、ありさに一言の挨拶を交わして音楽教室を出ていった。
しばらくすると化粧っけのない女性が音楽教室に入って来た、
「こんばんは。」
紀子さんが、ありさに近付いて挨拶をかわした。




