4話
「な…………なんだってー!」
「い、今言うの!? もうちょっと前に言ってほしかった!」
口から出たのは、自分が散々言うわけないと考えていたベタなセリフだった。しかし決して、槙夫は冷やかしで言ったわけではない。心の底から、本心から驚いた結果、つい出てきてしまったのだ。
「そ、それって、どういう能力なわけ? 驚いてみたはいいもののいまいちパッとしない……」
「言葉通りよ。簡単に言うと願ったことが叶うとか、事実を自分の都合のいいように変えられるとか。過去にも未来にも現在にも干渉しうる力なの。もっとも、本当はそんなに簡単なわけではないんだけど」
「……それは、やばいな」
「やばいでしょう。自分がどういう状況に置かれているか分かってきた?」
「ああ。あんな必死に追いかけまわされたのにもなんか納得というか」
一つ謎が解明し素直に感心し始めた槙夫を見て、柚は溜息をつく。
「西原君、ちょっと他人事すぎるんじゃない? 冷静に現状分析なんかしちゃって……。そんな大層な力持っちゃってどうしようー、とか無いの?」
「いや、ていうか、俺本当にそんな力持ってるの? いつそんな力に目覚めたかも分かんないし、そんなことが起きたような覚えもない!」
「……それらしき力が作用していないのは言う通りなんだけど、あなたが運命を操る力を持っているのは確かなの。目覚めた日にちも確定しているのよ」
真相を知れば知るほど次の疑問を出してくる槙夫にうんざりしているのか、柚の口調は少し尖っていた。それに気づいたのか、槙夫もあまり次から次へと思ったことを声に出すまいと口を塞ぐ。質問をしてもいいとは言われたが、話の流れが逸れてしまっては本末転倒である。気を取り直して説明に戻ってもらうよう柚に促した。
「ごめん、つい。能力って、便利そうに見えたりするかもしれないけどそうじゃないの。結構危険なのよ。だからちょっとピリピリしちゃって。……ち、違うのよ! 今のは掛けたわけじゃないの! 部隊長ッ! 笑わないでください!」
「え? どういうこと?」
何かに反応して突然笑い出した奏と、恥ずかしがり始める柚。槙夫はよく事態が呑み込めておらず、おろおろと両者を見ることしかできなかった。
「柚っちはいわゆる雷属性なんだよ、なあ!」
ずっと黙っていた――否、馨に大人しくしているよう指示されていた奏が、もう我慢の限界だとでもいうように打ち明ける。
「雷属性?」
「攻撃として分類すればな。ハラマキ目の前で見ただろぉ? 木村才加の指がバチッ! って焼き切れる瞬間!」
そういわれて、槙夫はあまり思い出したくない記憶をよみがえらせる。とはいえつい数分前の話。混乱していたとはいえよく覚えている。なにせ、自分の窮地を救ってくれたのはあの時起きた不可思議な現象だったからだ。
「ああ……じゃあ、あれは委員長が?」
「そうだぞお前! お礼言っとけ!」
駆け寄ってきた奏がガッチリと槙夫と肩を組む。
「あ、そ、そうっすよね、命の恩人ってことになるんだもんな……ありがとう委員長!」
「いや、ていうかあなたを助けるのが目的だったわけだし、たまたま私が攻撃しただけだし、お礼なんて言われても……旭ヶ丘部隊長、口挟まないでくださいって言いましたよね」
「え? いやもう飽きたし! 見てるだけとか疲れるし! 俺が五分間も黙ってあげたこと感謝してほしいよね」
「成人男性なんですから五分以上黙っていてください!」
「成人してるしてないは今関係ないだろお前! なんだ? 歳の割に落ち着きがないとか背が小さいとか言いたい訳? 馬鹿野郎! 身体的な悪口は傷つくから聞こえないところでやってくれ!」
そういう自覚があったのかと苦笑いしながら、それとなく奏と距離を取る槙夫。ふと横を見ると、申し訳なさそうなオーラを出して無表情で突っ立っている馨が目に入った。恐らく奏が突撃していくのを止められなかったのだろう。
「もう……話逸れまくっちゃったじゃないですか。いてもいいですけどこれ以上邪魔しないでくださいよ」
「俺がいなくても逸れてたじゃんかなあハラマキ?」
「ずっと言おうと思ってたんすけどあだ名はそれで決定なんすね……?」
槙夫がなんとか絞り出した一言には特に反応せず、奏は無視を決め込む。呼び方を変えるつもりはないようだった。
「ええと、どこまで話したっけ。忘れちゃった……。じゃあ、話題を変えて私たちの組織について話しましょうか」