3話
「えっと、じゃあ私が説明するね。そのために呼ばれたようなものだし……」
話題を切り出した馨か途中から割り込んできた奏が説明をするものだと思われたが、意外な人物が名乗りを上げた。
「あ、長話になっちゃうかもしれないから座ってリラックスして聞いて。質問したいことがあれば言ってね」
クラスで話し合いを仕切るときのような、手慣れた様子で柚は前置きをする。リラックスと言っても一面に広がる白い床相手にどうくつろげというのか、槙夫は疑問に感じたが、渋々その場に座ろうとした瞬間、馨がどこからともなく座布団を取り出し無言で差し出してくる。同じように柚にも差し出していた。いつのまにどこから持ってきたのかかなり気になったがそれを聞くことは叶わなかった。
差し出された座布団に座ると、ようやく柚が説明を開始した。
「一言でまとめて現状を言うと、あなた、超能力者集団の争いに巻き込まれているのよ!」
案外簡単そうに、そして突拍子もないことを言われた。しかし槙夫の感覚としては、あまり衝撃的な告白ではなかった。普段と違う、理屈で説明のつかない状況。彼が数十分体験した非日常は、現状の選択肢にそれを含めるのに十分な出来事だった。もちろん第一希望は「夢」だったが、起きてしまったことは仕方がない。とりあえず気をしっかり持って話を最後まで聞こうと槙夫は誓う。
「あれ、驚かないの?」
「いや、現実感が無さすぎて驚けなかったっていうか、漫画とかではよくある展開な気がするから逆に予想がついたっていうか」
「そう。……よかった。あまりびっくりされて倒れられたりでもしたらどうしようかと思ったから!」
その割にはズバッと言ったような、と言いかけてやめた。
「超能力者集団……魔法使い集団? 異能力者集団? まあなんでもいいんだけど、とにかく普通じゃありえない力を持ってる人の、組織同士の抗争に巻き込まれちゃったのよ。ここまでが前提ね」
「まあ、うん。言われてることは理解したよ」
「じゃあ次ね。なぜあなたがその争いに巻き込まれたか」
やけにもったいぶった言い方をしてくる柚に耐えかねて、槙夫はつい思っていることを口に出してしまう。
「俺が、その超能力的な力に目覚めたから?」
正解は言われなくても分かった。なぜ知っているとでも言わんばかりの表情で槙夫を凝視する柚。数秒の沈黙後、聞こえてきた正解を意味する声は非常にか細かった。
「何よもう! せっかく西原君がびっくりするような順序を考えてきたのに……あなたは争いに巻き込まれているのよ! えー! どうしてぼくが!? フフフ、それはあなたが特別な能力に目覚めてしまったからなのよー! な、なんだってー! ってなる予定だったのに!」
「委員長ってそんなキャラだったっけ……?」
ひとり芝居まで始めた柚を若干憐れんだ目で見る槙夫。学校では見ないテンションの高さに圧倒されている。普通そんなベタベタな反応はしないとか、自分のことをぼくと言ったりはしないとか、言いたいことが山ほどあったがやはり飲み込む。これではどちらがどちらに気を遣っているのか分からなかった。いや、そこまで考えているのも、彼女が真面目ゆえの事なのかもしれない。
「ほら見ろ。それじゃ駄目だって言ったろ」
少し離れたところからやりとりを見守っていた奏が静かに、しかし確実に耳に届く声で言う。
「シミュレーションしてたんだ?」
「も、もういいです。西原君のリアクションには期待しません。次に行きますよ」
ニヤついた視線を見ぬ振りしながら、柚は強引に話を進め始めた。自分の計画通りに行かなかったことが恥ずかしかったのか、顔が赤くなっている。指摘すると泣きそうだったのでこれまた言うのをやめた。
「さきほど、組織同士の争いと言ったでしょ? 文字通り、異能力を持った人間が二つの集団に分かれて争っているの。私や旭ヶ丘部隊長や井東さんが所属する組織と、敵対している組織」
それも、最初の発言で言われた時に大方予想がついていた。ついさっきまで槙夫を追いかけていたセーラー服の少女が、その敵対組織というものなのだろうと予測立てる。
「なぜ争っているかというと……ここはちょっと長くなるからまた後で説明するね。それより先にあなたが追いかけられていた理由が大事なの」
やっと槙夫が一番知りたかった題目に突入する。彼にとっては、この世に超能力が存在するとか、超能力者が集団になって組織を作っているとか、そんな背景よりよっぽど重要なことだった。何も知らないまま突然深夜につきまわされ命を奪われそうになったのは本当に堪えたらしい。
「あなたが持っている能力が原因よ」
「……うーん、心当たりが全くないんだけど。俺、手から火も水も出ないし、空も飛べないし、まだありえない力を体験してないんだよね」
「無理ないかもしれないわ。火とか水とかのはっきりした能力じゃないから」
頑張ればビームの一つや二つ出るかもしれないとはりきって空中に念を飛ばしていたら、思わぬ答えが返ってきた。
「じゃあどんな?」
「あなたが持っているのは、運命を操る力よ」