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ふわふわっとした物語?

作者: ぺんぺん草

春は良い。特に恋人たちにとっては素晴らしい季節だと思うね。確かに浜辺で浮かれる夏や、Xmasでホクホクできる冬も素晴らしい。しかし春だね。桜の花びらが舞い散る公園なんぞを恋人と闊歩できるもんなら、そこはもう桃源郷。幸せでドバっと鼻血が出ちゃうよね。



「もう鼻血は止まった?純くん」


「ああ無事に出血はおさまった!高梨に詰めてもらったティッシュのお陰だ。こいつは効くぜ」


「手を繋いだだけなのに鼻から突然に血を吹き出たしたから、私びっくりしちゃった」



愛しき我がモナミは、桜並木を見上げる。俺は鼻にティッシュを詰めながらしみじみと、夕日に照らされる彼女の横顔を見つめる。そりゃもうルノワールの描く絵画の少女ような美しさだ。伊達に彼女は読者モデルやってねえぜ。マジ綺麗だよベイベー!



「そ〜言えばっ!私と純くんが出会った時も、去年の今頃なんだよね。あの時のこと覚えてるかな?忘れてないよね?」


「もちろんだよ。そこの小さな鯛焼き屋の前だったな。あの時は腰抜かしたぜ」



桜並木の側には小さな鯛焼き屋があるのだが、俺達はここで出会ったのさ。それも衝撃的な出会いさ。なにしろ俺はぶっ倒れたんだから・・・。



「あの時、私達は出会い頭にマンガの登場人物みたいにぶつかっちゃってさ〜」


「よく思い出せハニー。俺は立ち止まってただけだぞ。お前が俺を一方的に跳ね飛ばしたんだよ」


「そうだったかしら?」


「そうだよ!あの時のお前はダンプカーみたいだった。あの時は何故にそんな力が•••」


「やだもうっ。ダンプカーだなんて!冗談言わないでっ」



ポンッと軽〜く俺の体を叩いた彼女。だがその勢いでオレは2メートル近くふっとばされて桜の木の幹に激突した。俺の体は発泡スチロールで出来ているのか?信じられんぞ。



「だ・・・大丈夫!?純くん!ごめんなさいっ!」


「あがががっ・・・」



心配して駆け寄る彼女。しかし桜の木の下で倒れ込んでいた俺はスクっと起き上がってみせる。野性味溢れる男たるもの、悶絶してる姿を彼女には見せてはらなんのだ。



「し・・・心配いらんぜ!毎日牛乳飲んでるから俺の骨は鋼鉄のように固いのさ。鼻の軟骨以外は・・・あだだだっ」


「ああ、純くんの鼻から血がまた出てきた。ごめんなさいっ!痛かった?」



そう言いながら俺の鼻に詰めたティッシュを新しく取り替えてくれた彼女。なんて優しいんだろう。もうフォーリンラブ待ったなし。



でも気になるな。彼女は普段はごく普通の女子なのに、時たま超絶怪力娘になるのが不思議で仕方がない。火事場の馬鹿力を自由自在にコントロールできるタイプなんだろうか?まあいい、今日は念願のデートなんだ。そんなくだらない事よりも愛を育むことに先決すべきなんだぜ。



「でもお前が早く来てくれて良かったよ。今日は仕事がキャンセルになったのか?」


「仕事?私って何か仕事してたかしら」



彼女は本気で考え込み始めた。おいおい・・・読者モデル云々の話はどうなってるんだ?



「あっ!思い出したっ。私って仕事してたんだよねっ」


「どうした高梨。大丈夫かお前」


「そうそう読者モデルだったよね。あ、うん。あんなのいいの。すぐにキャンセルになっちゃったから」



へ・・・へええ。嬉しいけど結構いい加減な業界なんだなモデルって。



「ところで読者モデルの仕事ってどんな事するんだ?」


「読モの仕事?えっと。何って言われると・・・」




返答に困る質問だったかな。確かに俺の如きド素人に説明するには色々と面倒な仕事なのだろう。



「あ!もうそろそろ時間ね。ちょっと・・・トイレに行ってくるから待ってて」


「え!?またトイレ?焦らすな~!そんなお前にフォーリンラブだよ」



フッ。マジたどり着いてるね桃源郷。齢16歳にはまだ早いぐらいの幸せさ。もはや彼女のトイレを待ってる時間すら幸せだ。4月の風がめっちゃ冷たいけど。


しかし振り返ってみると彼女とここまで近しい関係に達するのには随分と苦労したものだ。何しろ違う学校だったし、おまけに彼女は女子校に通ってるものだから、出会って以降まるで接点がなかったのさ。


一年前の春に、鯛焼屋の前で俺を跳ね飛ばした彼女に一目惚れしたはいいものの、その後は3ヶ月は名前を知ることすら叶わなかった。だが夏の浜辺で偶然の再会。浅い海辺で溺れた俺を助けくれたのが、彼女だった。運命を感じざるを得なかったね。できれば助ける側として再会したかったが。



「ゲホッゲホッ。君は•••たい焼き屋の前で出会った•••君の名前を•••電話番号を•••せめて学校名だけでも教えて•••」


「意識が朦朧となって幻覚を見てるようね。ライフセーバーさん早く救急車を!彼はとても危険な状態です!」


「だ・・・大丈夫だから。君が人工呼吸してくれるなら・・・」



あの時は彼女にパシリと頭を叩かれたっけなあ。その後も砂浜の上に寝かされながら、彼女に色々と尋ねたことを記憶している。向こうは全然、俺の事を覚えてなかったけど。でも相変わらず可愛くて眩しかったぜ。あの時の彼女の水着姿の美しときたら、日本海の磯の海をハイアムズビーチにしてしまう程さ。ああ、今年も早く夏が来ないだろうか。さっきは春が良いと言ってた俺だけど、さっそく取り消そう。


とにかく浜辺で彼女の苗字と学校名を聞き出すことに成功した俺。秋になって、彼女の学校の文化祭に乗り込みそこで、売店の売り子をやっていた彼女とようやくフレンドになったのだ。まるで初めて出会った時のように素敵な時間だった。そして今の俺は彼女のボーイフレンド。ああ自分を褒めてあげたい。いい子いい子。


今は制服のままデートしちゃうような爽やかな俺たちだけど、きっといつか結婚しちゃうんだぜ。素敵じゃないか、フフン!おっとトイレから彼女が戻ってきたようだ。ず••随分と早くね?



「遅れてごめんなさ〜い。あれ?鼻にティッシュなんか詰めてどうしたの」


「どうしたのだって?お前と手を握ったら興奮して鼻血が出たんじゃないか」


「あははっ。何それ〜!私の手を握りたいってこと?いいよ」



彼女は急に俺の手を握ってきたもんだから、再び鼻血が出た。お陰で俺達はしばらくベンチで休憩することになった。



「ふは〜。ふは〜」


「本当に大丈夫?ちゃんと呼吸できてる?」



スゲーだせぇ事になってしまったが、やるならばこのタイミングしかない。ここで昨日一晩かかって考え抜いた台詞を彼女にぶっこむぜ。




「フッ。落ちてくる桜の花びらってのは綺麗だな。でも高梨。お前の方がよほど綺麗だぜ」


「もう純くんってば!鼻にティッシュ詰めながら、そんなバカな事を言う純くんがたまらなく好き•••!」



そう言うと彼女は頭を俺の肩に乗せてきたんだ。全くなんて可愛いんだよ彼女は。可愛くて鼻血が止まらないぜ。死にそうだぜ。



「本当に俺はラッキーな野郎だよ。思えばあの鯛焼き屋の前でお前が俺に体当たりしてこなければ••」


「うふふ。何度も言うけれど、私たちは秋の文化祭で出会ったの。めっ」



そう言うと彼女は人差し指の先で俺のおでこをツンと軽く突いた。



「そ、そう言えば出会いは文化祭だったかな?ウン、もちろんジョークさ。こいつめ〜」



俺も人差し指で彼女のおでこをツンと突き返す。ちょっとヒヤリとしたぜ、フフフのフ。でもおかしいな〜さっきは会話があってたのにな。



「思い出した!その後、浜辺で再会したんだよな〜俺たち。あれは運命だと思うぜ。あの時はお前に助けられて••」


「そ•れ•か•ら!私は泳げないからね。海で溺れた純くんを助けたこともないの」


「え。マジで言ってる?人工呼吸をせがんで叩かれなかったっけ俺?」


「何度も言ってるでしょ?そんな格好悪い人と私は付き合いませんから」



俺の情けない記憶は一体なんなんだ!?冷や汗がドッと出てきたぞ。確かにあんな情けない事実は存在しない方が良いのだが、これではまるで彼女との出会いすら忘れてる男じゃないか。下手すると彼女から「それ誰との話?どこの女と勘違いしてるの」と浮気男扱いされかねん。しかし真に熱々な恋人たるもの、こんな頓珍漢な会話でも心地よいものだ。 すぐに普段通りの会話に戻るのさ。



「ねえ見て見て。川の向こうの夜店の灯りが綺麗よ」



そう言うと彼女は両手で俺の腕にガシッと抱きついた。ノスタルジックな夜店の灯りは、俺達の燃える愛にガソリンをぶっかけるような効果をもたらす。色々とアクシデントがあったけれど、ここまでの流れはだいたい完璧だね。これならスムーズにRHP計画を実行できるだろう・・・。



「俺、ちょっと向こうの夜店に行ってくるわ。高梨、このベンチで待っててくれ」


「え?一人で行っちゃうの。私も一緒に行くよ」


「しばしアディオス!俺はすぐに帰ってくるぜ」


「もうっ!勝手なんだから」



そう言い残して俺は立ち上がり、花見客をかき分け全力で桜並木の下を疾走した。りんご飴を扱う夜店を探しだし、鮮やかにりんご飴を1個だけ購入すると再び大急ぎでベンチに戻った。



「ゼェ〜ゼェ。甘い甘いりんご飴を買ってきたぜハニー!」



りんご飴を一つ、バラの花を渡すように差し出すと、ベンチに座っていた彼女はポカンとしている。だがその顔もめっちゃ可愛いぜダーリン!さすがモデルだよ。



「それを私に?でも一つだけで、純さんのりんご飴が見当たらないのですが・・・」


「いや~財布に金がなくてね。こりゃウッカリ」


「純さんってばウッカリ過ぎませんか・・・?」


「でも平気じゃん?これを二人で食べればいいじゃないか。恋人らしく仲良く半分個さ」


「でも、りんご飴は二人で食べるものじゃありません」



おおうっ。意外にも正論で拒絶されてしまった。ど•••どうやら早くも計画が狂ってきたらしい。これは焦る。



「衛生的な問題もあります。言ってくだされば私もお金出しましたのに」



衛生的な問題て、俺はなんなんだ。意外に彼女はそういうタイプなのか?知らなかったぜ反省!だがここでくじけるわけにはいけない。粘れ、粘るんだ俺!



「実のところ売り切れで一個しか売ってくれなくてさ〜。これマジ。マジマジマジだからっ‼」


「でしたら純さんがそれを全部食べてもよろしいんです」


「いや、俺は知覚過敏で•••」



ここで俺が一体何をしているのかを説明しよう。「RHP計画」とは「りんご飴一個を二人交代でペロペロ舐めよう計画」の略である。ようするに彼女と間接キッスがしたいんだねこの俺は。今時の男子とは到底思えぬ純朴さを持つ俺って素敵じゃないか。「何それ。クソ気持ち悪い」と言われてしまう可能性も確かにあった。しかし彼女ならばこのギャグを••



「もう、やだっ。そんな純くんの不純なところも最高っ!」



なんて暖かく受け入れてくれるに違いないと信じていた俺のピュアさ加減たるや救いようがないぜ•••と後悔しかけたその時。



「フフフ。仕方ないですね、甘えん坊の純さん。それでは二人で食べましょうね」



彼女は大人びた表情で、このりんご飴を受け取ってくれた。去年の俺ならば、彼女のその表情だけで鼻血を流していたことだろう。ああ、なんてセクシーな顔するんだいハニー。



「いい香りですね。こんな甘いスウィーツを純さんと二人で舐め合うなんて、なんて背徳的なのかしら」



フッ。俺の予想通り高梨はあっさりと艶めくりんご飴を受け入れてくれた。さすがマイ・プリティ・ラバー。


ところで、さっきから彼女はテンション低めというか、キャラが若干変わってしまっているのが気になるが、これは致し方がないというものだ。やはりRHP計画は16歳の女子高生には刺激が強すぎたようだ。手っ取り早く言えば引かせてしまったらしい。しかし俺もいまさら引き返せん。



「やっぱりやだ・・・これを舐めてるところを見られてるのは恥かしいもの」



彼女は頬を赤らめる。照れてるからなのか彼氏の阿呆さ加減を恥じているためなのか分からないけれど。



「え!?じゃあ見ない。俺は星を見ているから安心しろ。ああ冥王星って綺麗だぜ。いつか行ってみたいな」


「ねえ。純さんも一緒に同時に食べませんか?」



お•••おおぅ。その刺激的な発想はなかった。交代で舐めるという阿呆な提案をした俺はとんだお子ちゃまだったぜグラッチェ!しかし刺激的すぎないか?花見客が行き交うトワイライトで、やるべきことではないように思えるが・・・。それに彼女はちょっとした有名人だからなあ・・。パパラッチされちゃマズイぜ。だがここで尻込みして彼女に恥をかかせてはいけない。俺は覚悟を決めてベンチに座った。ドキドキ••。



「い、いいかな?本当にいいの?」


「男は一度言い出した事を引っ込めてはいけませんよ?それじゃ参りましょう。いざ」



ペロペロ。ペロペーロ。


俺たちはとてつもなく顔を近づけて一つのりんご飴を舐めあった。あまりにエロティック過ぎて鼻血を押さえ込むのに苦心したぜ!そもそも彼女とこんなに顔を近づけあったのは初めてだ。感動!へぇ。高梨の泣きぼくろって顔の右側にあったんだな。反対だと思ってた。



「ペロペロ。実は私。ずっと前から貴方のことが、だ•い•す•き•••」


「ペロペロ。そんなの前から分かってるぜベイベー」


「違うんです。浜辺で出会った時から・・・もう誰にも・・・ペロペロ・・渡したくない・・・」



驚いたことに、そのままブチュッという音とともに俺と高梨の唇は、物理的接触を遂げてしまっていた。平たく言えばキスだ。間接キッスをすっ飛ばしてファーストキッスになってしまい俺の頭は真っ白。おおなんてスキャンダラスな事態。何故こうなったんだ?彼女も驚いた表情で、俺から顔を離した。



「やだっ・・・。キスしちゃうなんて。はしたない」



そんな彼女を見て俺も仰天した。俺は知らぬ間に、劣情に支配されて彼女の唇を強引に奪ったのだろうか?記憶に全くないが、RHP計画を立てる阿呆だからその可能性は十分にありえる。とりあえず頭を下げとこう。



「面目ない!」


「私とのキス、嫌でしたか?」


「そんなわけがないだろ。ウェルカムに決まってる」


「じゃあもう一度!」



と言うと、彼女は俺の頭を腕で包んでガッツリ態勢で再びキス。



「実はさきほども私の方からしたのです。驚きました?うふふ」



やっぱりそうだったのか。なんて大胆なんだハニー。半年ぐらいの付き合いじゃ、ガールフレンドの秘められし大胆さなんて分からないもんだな。今日、彼女の深い部分まで知ることができてサイコー‼



「純さん大好きです!」



ああ、夢心地。やっぱり春は良いね。夏でも冬でもなく春が恋人達の季節なのサ。 以上、俺のファーストキッス物語を拝聴していただき、ありがとう。 全世界から祝福を受けて俺達は幸せな家庭を築きます!



(完結)



てな感じでこの素晴らしい物語を終わらせたかった俺。だが事態は急変する。不気味な影が愛し合う俺たちを包むのだ。



「な・・・・・・。なにをしちゃってるのアンタ達」



何故か背後から女性の声がしたので後ろを向いた。驚いたことに俺の後ろに彼女が立っているではないか。何故に!?彼女は俺とディープなキスをしてるはずだよね。ほら目の前にいるじゃないかハニー!



「え〝⁉じゃあ君は誰?」


「私よ‼高梨美樹よ。純くん分からないの!?」



高梨美樹と言えば彼女の本名。てことは後ろに立っている彼女は本物。そして俺の隣に座っているのも彼女も本物。首を右に左に回転させまくりながら、俺はこのりんご飴に危険なドラッグが塗られてたのかと疑った。


俺とファーストキスしたベンチの彼女が、背後で怒ってる彼女に向かって笑ってみせる。



「フフ。恋人を待たせて、悠長に何度もトイレに行ってるからですわ。姉さん」


「亜紀•••アンタって••」


「ふん。私の物は姉さん物。姉さんの物は私の物。私たち姉妹はずっとそうしてきたじゃないですか?ボーイフレンドだってそうあるべきです。フレンドは多いほうが良いのです!」



低スペックな自前CPUをフル回転させて俺は事態を理解しようと試みた。彼女が分身の術の使い手である可能性を真面目に検討してみたが、これはさすがに阿呆すぎる。さっそく自前CPUはハングアップしてしまったので、俺は理解を諦めた。分からん!何が起きたのか誰か優しく簡潔に教えてプリーズ。



「いい加減にしてよ亜紀!」



と叫ぶと、彼女が彼女をパシッと平手打ちした。ええっと。正確に言えば、背後の怒れる高梨が、ベンチに座っていた高梨を平手打ちしたのだ。ああ、いちいちややこしい!



「ひどい••何をするんですか!いくら姉さんでも手を上げるなんて許せませんわ」



そのまま彼女達による激しい取っ組み合いが始まる。花見客の存在など気にせずに豪快に。



「ええ‼何だこれ!ちょっと君たち、喧嘩する前に俺に説明してくれ」



すると彼女達は俺に怒鳴る。



「これは私達の問題なの!引っ込んでて!」


「はいっ!!」



彼女達の凄まじい剣幕を前にして思わず下がってしまった俺。猛烈に家に帰りたくなってきたぜ。やっぱり健全たる高校生たるもの、この時間は家で漫画でも読んでるべきだったな••。


にしても・・・花見客の中には彼女の正体に気づく女子高生達もいるので困った。



「マジ!?あそこで喧嘩してるのって、モデルの高梨美樹ちゃんじゃない?」



スマートフォンでパシャリと撮影しようとした女子校生達の前に俺は飛び出し、ダブルピースで視界を遮って無事にスキャンダルを封殺してやったぜ。



「な・・・なに今の!?もの凄い速さで何かがカメラの前を横切ったよ!?」



俺のダブルピース画像で満足してくれ女子達よ。(こういう時の俺はヒョウのような俊敏性を見せるのだ)だがこんな俺の陰の気苦労も虚しく、おなご同士の喧嘩は激しくなるばかりだ。さすがにこれは止めないとマズイ。



「お••落ち着け!やめろ!互いに髪を引っ張るなってバカ」



俺が割って入ってようやく収まる。がしかし。彼女の片方が俺に怒る怒る。



「はぁっ、はぁっ。なんで妹って分からないの純くん!?なんでアタシじゃないのにキスしちゃうの!?」


「お前こそ何を言ってんだ!?俺はお前とキスしたんだよ。妹って何だよ?お前が急に二人に分裂したんだろ」


「ああっもうっ!だいたい分かるでしょ」



何やら「じれったい」と言わんばかりの態度を爆発させる彼女だが、完全に説明不足だっての。




「じゃあ何が起こったのか説明するから、純くんこっちに来て!アンタもよっ!」



そう叫ぶと彼女が、俺と、もう一人の彼女の腕を掴んで、強引にグイグイと引っ張っていく。



「ごめんなさいね〜純さん。姉さんったら、本当にバカな人で!」



謝る彼女と怒ってる彼女。二人の顔を見比べる内に、今更ながら当然の結論に達する。



「これってまさか一卵性双生児•••」



そこに気づいた瞬間に、顔が青ざめた。つまり俺がキスした相手は彼女の妹だったわけか。こいつはややこしい事態になってしまったぞ・・・。



・・・とここで修羅場な俺たちに突然の横槍が入る。桜の下で飲んでいた酔っぱらいである。



「ヒック。おっ!そこの元気な女子高生ちゃんは野郎を引っ張って何をしてるのかな〜。うらましいね〜俺も引っ張って〜」


「どいてっ!」



突然にカラんできた酔っぱらいサラリーマンの体を、無言のまま掌底気味のドンッで払いのける彼女の迫力たるや凄まじい。



「わわっ。お前、何すんだ。大人を舐めるんじゃないぞ〜ヒック」


「見せ物じゃないんだからっ!ちょっと道を開けなさいよっ!」


「・・・はいっ!どうぞ」



相手は厳つい体育系のサラリーマンだったが、彼女は一喝してどかせてしまった。なんたる迫力。あんなに優しかった彼女が、今や暴れる大魔神のようだ。


愛しいマイ・スウィート・ハニー。俺は帰っちゃだめ?


○○○


花見客と酔っ払いでごった返す桜並木を避け、高梨は、俺たち二人を人気の少ない城址公園内へと移動させた。ここは薄暗くて不気味なのだが有無を言わせないんだねこれが。この公園のベンチに俺たち三人が並んで座ることになったのだが、左に高梨、真ん中に俺、そして右に高梨そっくり娘という地獄のような席順となった。ドストライクの美少女二人に挟まれてるというのに全く嬉しくないぜ。



「まだ頭が混乱しているぜ。えっと・・・つまりこの子はお前の妹だっての?その一卵性・・ナントカっていう」


「そうなの。やっと分かってくれた純くん?良かった・・・」



改めて二人の顔を見比べてみる。薄暗いこともあるが、見た目は完全に同一人物なんだよな。だいたい服装と髪型まで同じじゃないか。こんなのただのトラップだぞ。



「なんでお前達は姉妹でここに来ちゃうわけ?絶対に間違えちゃうじゃないか」


「だからそれが狙いだったのよ!コイツは私とすり変わろうと画策して、私の跡をつけてきてたの‼」




彼女と話してる内に、段々事情が分かってきたぜ。俺が夜店に向かってる間に、双子の妹がちゃっかりベンチに座ってしまっていたというわけだな。ってそんなの違いに気づくわけないだろ!右隣にいる彼女の妹を見ると、屈託のない笑顔でこちらを見てくる。だがそんな彼女の妹に俺は怒りを覚えた。



「笑って誤魔化してもダメだ!お前は俺を罠にかけたわけだな。お陰でせっかくの楽しいデートがこのザマだよ。どうしてくれるんだ!」


「でも前向きに考えるべきです純さん。キスした関係となった以上、私を純さんの正式な愛人として認めるべきです」



彼女の妹が俺の手をとって見つめてきたお陰で、再び鼻血が出そうだ。なんて阿呆なんだ俺は。ここは死んでも堪えろ純。それにしても愛人・・・。なんだか素敵な響きじゃないか!



「なにをー‼」



怒った高梨が立ち上がり、姉妹は再び掴み合い始めた。グルグル回ってしまうと、もうどっちがどっちか分からない。とりあえず俺は一人を捕まえて、引き離して抱きしめた。



「どうどう。落ち着けマイ・ダーリン!安心しろ。俺はお前しか愛していない。だから俺を信じるんだ」


「分かったわ。姉さんのことはもう忘れるのね純さん」


「純くんが抱きしめてるの私じゃないのよっ!もう信じらんないっ」




このややこしい状況は、会話文として記すにはあまりに複雑であった。そこで議論の結果判明した事実のいくつかをここで簡潔に述べたい。


まず俺がキスしてしまったのは、彼女の一卵性の妹で高梨亜紀という。厄介なことに姉妹揃って同じ高校なので、制服も同じ。もはや俺では全く見分けがつかない。若干、髪が長めなのと、泣きぼくろの位置が右側にあるというのが、姉との違いらしい。しかしそう言われてもな••。



「高梨に双子の妹がいるなんて、なんで今まで教えてくれなかったんだよ」


「ごめんなさい。純くんには隠したかった••」



便宜上、これから彼女の妹を亜紀と呼ぶ。決して下の名前で呼び合う男女の関係になりたいわけではない!たぶん。きっと。ここで亜紀は何故こんな破滅的なマネをしたのかについて説明したい。彼女の理屈では、俺は姉との共有財産であるべきだそうで、隠れて付き合って、男を独り占めしてる姉が許せなかったという。ウン。全く理解できないね。



とまあ俺としては状況がだいたい理解できて満足できたのだが、彼女は全く納得していない。一つ屋根の下で暮らす姉妹である故に、他人よりも何かと確執が生まれるようだ。とは言え話し合いは予想通り大揉めとなった。裁定者が存在しないのだから各々が勝手なこと言うしかないのだ。


「でも姉さん。私はたまたまあのベンチに座ってただけですよ?そこに純さんが現れて、誰かさんと間違えて私にりんご飴を勝手に差し出してきたんですよ」


「りんご飴って何の話なの純くん?」


「それは俺のRHP計画が・・・。いやなんでもない」



ここでRHP計画の下りを説明されると、非常に困る。やめてくれ亜紀。



「つまり純くんの方から亜紀に手を出したってことなの?この浮気者っ!裏切り者!二人はもともと愛し合っていたのね」


「それおかしいだろ!結果的にはそうだけど。あれを浮気とは言わん」



こんな調子で長らく続く、不毛で殺伐とした空気。もはや耐えきれなくなった俺は空を見上げた。ああ星が綺麗だ。このままお星様の世界に行きたいな〜と現実逃避しちゃう。


おい俺よ。


もはや狼狽えてる場合か!男としてとして、お前が裁定を下だすべきだろう。いざ結論をば。



「落ち着いてくれ二人とも。姉妹でケンカすることはない。だから俺の話を•••あれ?」



驚いたことに視線を元に戻すと、俺の両隣にいたはずの二人の姿が消えてた。



「おい!おーい‼どこに行ったんだー‼返事してくれ〜。このタイミングで置いてきぼりなんて、いくらなんでもあんまりだぞ〜‼」



まさか優柔不断な俺に愛想を尽かして、二人で仲良く帰ったのだろうか。一瞬、涙を零しかけた俺はベンチに置き手紙紙が残されていることに気づいた。



「なんだこれは」



街灯の下で、よく目を凝らすと


『そこのお空見上げてる浪漫ちっく野郎。女どもは連れ去った。返して欲しくば城址公園のジャングルジムにこい。5分以内にこなくては女達の命は保証しないぜ』



と書いてある。なんだこれ。



「二人が誘拐されただと!?何故に」



一体犯人は誰なんだ?俺に恨みを持つ者の犯行なのか!?狂気の犯罪に巻き込まれて、俺の足がプルプルと震える。だが愛しき彼女が酷い目にあってると思うと立ち止まってはいられない。待ってろ!今すぐ救出に向かうぜ。


○○○


俺は走った。全く無駄に。



「城址公園!城址公園!城址公園•••ってここじゃないか!」



呼び出し場所である城址公園が、この公園であることに気づくのに、三分も浪費してしまった阿呆な俺。犯人の奴め!無駄に常識の裏を書くんじゃない。そもそも二人が捕らえられているというジャングルジムは目の前に聳えていた。



「ハァハァ。子ども用ジャングジムとは••。ここだったのか」



月光が、ジャングルジムのテッペンに座らされてる二人を照らした。



「高梨!」


「ムグウウ!」



二人は手を縛られ猿轡をかまされているではないか。しかしながら猿轡をかまされても絵になる美しさ。マジ綺麗だぜお前たち・・・じゃなかった。女子高生に対して、なんてセクハラを!犯人はド変態野郎だな〜許さんぞ。



「来てやったぞバカ野郎!出て来〜い!」



すると闇の中からヌウッと人が現れる。俺はその不気味な姿に驚いた。覆面マスクを被り、ジャージ姿で、右手に竹刀という、変態悪役プロレスラーの如きファッションだったからだ。



「き•••貴様が犯人か。もし彼女達が怪我してたら許さんぞ」



だがコイツはなんの反応も示さない。この不気味な変態を前にして、さしもの俺も怯んでしまう。体格はかなり細身で身長は俺より小さいと見受けるが、あの一瞬で二人を連れ去ったところをみるとかなりの剛腕の持ち主とみられる。しかも竹刀で武装しているから警戒は解けない。



ジャングルジムのテッペンから彼女が叫ぶ。どうやら猿轡が緩んだらしい。



「にっ•••逃げて!そいつは危険すぎるわ純くん」



おお愛しき君よ。見捨てるわけがないだろう。君が見守ってくれるだけで俺は勇気18億7000万倍だぜ。



「心配いらないぜダーリン!俺は小学生の頃から、真剣白刃取りの修練を積んできたから。こんな竹刀なんぞ怖くない」


「やだっ!頼もしすぎるっ。真剣白刃取りの修練ってバカ丸出しだけど、そんな純くんカッコいい!」



タタタタッ


二人の熱々の会話など御構い無しとばかりに、暴漢は俺との距離を縮めて襲ってきた。しかし今の俺に怖いものなどない。勝負で大事なのは胆力だ。恐怖に打ち克ち、どこまで剣を見極められるかで勝負は決まる。俺はギリギリまで竹刀から目を逸らさなかった。



「こいっ!」



勇気を振り絞って最後まで竹刀から目を逸らさなかった。それが失敗だった。奴は俺の想像を遥かに超えた攻撃をやってのけやがったのである。簡潔に言えばただのパンチを。あろうことか暴漢の正拳突きが俺の鳩尾にグリグリとめり込む。ていうか竹刀は使わんのかい••。



「ぐ••。貴様••フェイントか」



マジで卑劣な野郎だ!こんな下劣野郎が相手とあらば、俺も本気にならねばならない。ついに俺の黄金の右腕を解放する時がきたようだな。3歳の時以来、13年近く封印してきた全力右フックを、コイツにお見舞いしてやることに決めた。死んじゃっても知らねえぞ。俺は全力で暴漢に向かって疾走したぜ。



「今度はこっちの番だっ!死にさらせぇっボケがぁぁ」


「フフン。バカだけど二人が惚れるだけはあるじゃねぇか。見込んだ通りだ」



暴漢が突如覆面マスクを脱ぐ。



「バカが隙あり!太平洋の果てまで吹っ飛びやがれ••」と喜び勇んだ俺であったが、暴漢の顔に当たる寸前で、パンチを止めた。止めざるを得なかった。覆面マスクの下から現れた犯人の顔はなんと女だったのだ。っていうか、覆面の下の顔は高梨そのもの。こ、これは一体!?なんで彼女がこんなマネをしたんだ。



「お前は•••高梨!?いや、もしや亜紀の方なのか?じゃあジャングルジムの上の二人は誰なんだ!?説明しろ」



混乱してる俺を優しく諭すように、ジャージ娘は語り始める。



「まあ落ち着けよ。アタシは一卵性三つ子の末っ子、高梨早希ってんだ。縛った二人は私の一卵性の姉達さ」


「えぇぇ三つ子て!?嘘だろオイ!本日二回目の大ショック!!」



一卵性双生児でもビックリ仰天だったのに、まさかの一卵性三つ子だったとは。後で知ったことだが、世の中には同じ遺伝子を持つ三人の姉妹が稀に存在するという。高梨姉妹は、その極稀な一卵性三姉妹だったのだ。オーマイガー!ていうか、高梨のヤツ、なんでまた黙ってたぁ!



「すまんな純。悪ぃとは思ったんだが、オメーの人間性を試させてもらった。姉達に見合う男かどうかをな」



ジャングルジムの上にいる姉達の顔と、目の前のジャージ娘の顔を何度も見比べる俺。だが相変わらず全く区別がつかない。ただただジャージを着た高梨にしか見えん。でも胸はないな・・・サラシでも巻いてるのかな。


しかし姿は一緒でも、その態度に大きな違いがある。姉達とは違って随分と口調が男っぽいし、そして半端なく強い。正直言って、こういう女子は嫌いじゃないぜ。というか密かにタイプだぜ。街で出会って、出会い頭に跳ね飛ばさようもんなら一目惚れしそうだ。つくづく思うが俺は紛れもない変態なのかもしれんな・・・。



「面倒なことしやがって・・・。それで俺は合格でいいのか?」


「アタシが見込んだ通り、お前は立派な漢だった・・ってことにしといてやるよ。ただし、一つだけ条件がある」


「なんだ。言ってみろ」


「このアタシもお前の恋人として認めろ。さもないとぶっ飛ばす。いやぶっ殺す。絶対に息の根止める。私一人だけ仲間外れなんて許さないからな」



ん?日本語が良く理解できない。文章の前後で激しく意味が変わってるな。



「この素敵な鈍感野郎め!まだ分かんねえのかよ。このアタシは、お前にずっと前からベタ惚れなんだ」


「も・・・もう俺は騙されないぞ。ようするにこれはドッキリなんだろ。お前たち3人で俺を引っ掛けてるんだな。きっとそうなんだ!もしやこれが読モの仕事ってやつか!?」


「バカッ!バカバカバカッ!」



そう叫ぶと、このジャージ娘はビシッと俺を平手打ちした。それも8発ぐらい。何故に!?



「いだだだっ!何すんだお前!いい加減にしろっ」


「去年の春、そこの鯛焼き屋の前で私とお前はぶつかっただろ。思い出して・・・。お願いだから」



末っ子は何を言ってるんだ?よし、いったん記憶を整理しよう。だいたい鯛焼き屋でぶつかったのは俺と高梨美樹のはず。彼女は否定しちゃったけど。あれは高梨の記憶違いのはず••。


いや待て!ここで一卵性三つ子ということはだな。



「まさか••。あの時、鯛焼き屋の前で俺をダンプカーのように跳ね飛ばした怪力娘は••」


「そう。実はアタシなの。あの時はセーラー服を着てたから、こんなアタシでも女の子っぽかったよね?」



そしてジャージ娘は俺に抱きついてきた。死ぬかと思うほどにギュウウッっと締め付けてきたね。



「いだだだだっ!力が強い強いっ!なんだこれプロレス技か!?」


「今日、お前がはじめにデートしてた相手もアタシなんだよ。姉貴のフリしてさ。ゴメンな」


「おいおい冗談だろ!」



バカな。

そんなバカな。


記憶を辿れ純よ!えっと。いつだ??そう言えば、彼女と最初は話が合ったんだ。そして何よりも片手で軽くふっとばされて桜の木に激突したんだ。



「まさか••鯛焼き屋の件で、会話が噛み合ってたのは•••」



末っ子は涙目でコクンと頷く。ああちょっと可愛い。じゃなかった、なんてこったい一卵性トラップ。俺は今日、コイツとデートしてたのかよ!すると突然、末っ子を制止する叫び声が響く。どうやら亜紀の猿轡も解けてきたようだ。



「やめなさい!純さんから離れて早希さん!」


「いやだ!」


「駄目ですそんなの!だいたい純さんの居所は私が教えてあげたんじゃないですか!そんなガチ告白なんて約束が違います」


「抜け駆けして彼とキスするような卑劣な姉を相手に果たす義理などねえっ!」



そうか••。この二人は組んでたのか。そして最初から二人で高梨と入れ替わる計画だったのか。



「聞いてください純さん!海で溺れた貴方を助けたのは私なんですよ!他の二人は泳げませんから!」


「え!あれ君だったの⁉どうりで話が合わなかったはずだ・・・」


「そうです。海辺でスウィートな語らいをして、学校の名前まで教えたじゃありませんか!」


「うるさいうるさいうるさい!この人と最初に出会ったのはアタシなんだ亜紀!」



妹達二人が喧嘩をはじめたお陰で、俺はジャージ娘の熱い抱擁から解放された。しかし•••夏の海辺で俺を助けてくれたのは、実は亜紀の方だったという衝撃の事実も判明。もう彼女との記憶がゲシュタルト崩壊起こしてるぜ。ちょっと待てよ。それじゃあ俺は一体誰に恋してたんだ??誰に一目惚れして、誰と付き合ったんだ?



「よいしょっと」



二人が言い争ってる隙に長女の高梨がジャングルジムからトンッと降りてきた。そして自由になった口で手首を縛っている縄を鮮やかに解いていった。



「ごめんね〜。一卵性三姉妹は、男のタイプが同じなの。子供の時からいっつもそう。三人で熾烈な奪い合い」


「う••奪い合いなの?」


「アイツら放って、もう帰ろ純くん」



と言うと高梨は俺と腕を組んだ。そして口論する二人の妹を置いてさっさと歩き出す。高梨に引っ張られるように、夜の浪漫ティックな桜並木の中を歩む俺。しかし頭の中は混乱したまま。



「純くん?元気ないよ•••」



妹達による入れ替わりって前にもあったんだよな?なんか俺は不安で仕方ないんだけど。


色々と彼女が話かけてくれるんだが、俺は上の空だぜ。これじゃイカン。そうさ、勘違いも恋のうち。結局、俺はお前に惚れたんだよ。明るく元気な高梨に!



「もうっ。返事してよ!」



でも三つ子だし。先に知り合ってるし。二人とも可愛いかったし。付き合ってあげるのも男としての甲斐性なのでは・・。その時、下衆極まるロクでもない俺の心中を察知したかのように、不意に俺の前に出た高梨。そして振り返るなり、右手の指を俺のアゴに当てた。



「まさか妹達に心変わりしたんじゃねえだろうな?」



突然に今まで見せたことのない表情で俺を睨む高梨は、あの武闘派の末っ娘よりずっと迫力があったんだぜ。どゆーことなのお!?実は不良だったのお前?



「私、分かるんだ。こんなことは何度もあったから」



夜桜をバッグに、俺をジッと睨む彼女。だけど、よく見ればその瞳は潤んでいた。涙を堪えて俯くお前ときたら、この世のものとは思えない美しさ。



「でも純くんが一番似合うのは私だけ」



俺は・・。


俺は今頃になって本当に気づいたんだぜ。いつも一緒にいたコイツの事が無茶苦茶好きってことを。




俺は彼女の右手をグッと握る。そして彼女の手を振り払うようにした。



「バカじゃねえの」


「えっ•••」



俺はニッコリと微笑む。



「そんなの当たり前だろ?」


「純くん••」



そう言うと俺は目を瞑り、高梨の唇にキスをした。内心ド緊張で、プルプルと震えながら。



「えへへ。嬉しいよ。鯛焼き屋で出会った時からずっとこうしたかった」


「•••いつから入れ替わったんだ末っ子」


「お前が目を瞑った時から。姉貴はそこのトイレの個室に監禁してきたから、さあ続きをしようよ」


「高梨!待ってろ助けにいくぞ」



やっぱり春はいい。色んなことを有耶無耶にして、男女がちちくり合うには最適の季節だね。



高梨とのキッスはどうなったのかって?そんなの述べるまでもないさ。俺より高梨に惚れてる奴なんていないんだからな。




終わり。

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