5時間目
来たるダンスコンテスト当日。空はきれいに澄み渡り、まだ風は少し冷たいですが、でも微かに春の予感さえ感じられそうな太陽の光が翠園若学院に降り注いでいます。そして本棟の前の中庭に、大きな舞台が設営されています。舞台の周りには早くも、学生たちやカメラを持った報道部員がたくさん群がっています。みんなは芝生の上にゴザをひいて座ったり、噴水の縁に腰かけたり、木の枝にぶら下がったりして、ダンスコンテストの開幕を今か今かと待ち詫びています。そしてとうとう、
「レディースエンジェントルメーン!さあとうとうこの日がやって来たぜ!この晴れ渡る寒空の下、みんなを熱くしておくれ!地球温暖化よりも急速に、さあたった今からココが地球で一番熱い場所だぜいえいえいえいえいえいえーい!」
マサルタウンに~という歌が大音量で続く中、さっき熱唱していた司会者が舞台からはけ、一組目のダンスグループが檀上へと上がってきました。
ところ変わりましてこちら出演者控室。
「何番?」
「23。そっちは?」
「24」
みちるとかおるはそっぽ向いたまま椅子に座って、最初で最後と思われるやり取りを終わらせました。
「はあ、こんな大人しいグループ今までにあったんかいな」
それぞれ熱心に打ち合わせや練習をしている学生たちを見て、秋蘭が呟きました。
「ま、初めてやろ」
にっこり笑いながら明菜が言いました。
「ってゆうか、明菜、もこもこだね……」
隆也がそう言うのもムリはありません。白のブラウスに黒いタキシードを着ている明菜は、彼女の体型からは想像できない盛り上がりが体のあちこちにありました。
「仕方ないやん。いっぱい着てんねん」
明菜は腰の盛り上がりをポフポフ叩きます。
「でもありがとう隆也。どんな苦労があったかは計り知れんけど、これで二人も仲直りしてくれると思うわ」
同じく白ブラウスに黒のタキシードを着ている秋蘭は、椅子にあぐらをかいて座っています。
「うん、俺も命の危機かとは思ったけど、案外すんなり渡してくれたよ」
理由を聞かれた時の目は凄かったけど――隆也は笑顔のまま身震いしました。
「そっか、そりゃ良かった。あとはあたしらの芝居にかかってんで、明菜」
「おう!任しとけアニキ!」
それより――秋蘭が白い目で隆也の方を見ます。
「ジーンは何をするん?」
「え?ダンスだよ?」
椅子に座っている隆也は、バーコードのかつらを被り、一本の長剣を片手に持ち、白いシャツに黒い燕尾服をまとい、つけ鼻髭と黒いシルクハットを空いた手に持っていました。
「ちぐはぐな格好やなあ」
明菜が首を傾げました。
「さあ~ついに残すところあと二組となりました!続いてのグループは、翠園若学院が誇る小説家とイケメンコンビ!彼女の最新本は最近アニメ化もされました~みんなもう読んだよねぇ~♪」
「いらんこと言わんでええねん」
舞台下でかおるが独りごちました。
「そしてイケメンくんも声優としてバリバリ活躍しています!それでは登場していただきましょう!神ノ崎かおるさんと在寺院隆也くんペアでぇーす!」
わあーっという拍手と共に、晴天の下、隆也が舞台上に現れました。その瞬間、拍手は奇声へと変わり、ジーン様ぁーきゃーぐわぁーあちょー三千年の歴史ぃーという声が響き渡ります。
「客は獣やったんか」
タキシードに身を包んだかおるが、舞台下で悟りました。
そうしているうちにも、ダンスの音楽が流れ始めました。旋律は無く、リズムだけのアップテンポの曲です。隆也は黒いシルクハットを被り、全身黒ずくめで舞台の中央にひざまずいています。上着の燕尾部分は彼の両脇から左右へと伸び、怪盗を思わせる様な体裁です。右手でハットの頂きを押さえ、左手は足元に置いた長剣の柄を掴んでいます。
「りゅ・う・や!りゅ・う・や!」
隆也コールが起こり始めたその時、彼は操り人形の様に立ち上がり、華麗なロボットダンスを踊り始めました。
「きゃあぁぁいやあぁ#$%㈱㍑㌶!!」
会場の女子たちのボルテージは一気に上昇します。
「怖いなー」
かおるは腕をさすります。すると会場が急にどっと湧きました。隆也がバク転を披露したのです。
「はう~ん」
その場に倒れ、次々と担架で運ばれる女子たち。
「さっ、そろそろ私の出番やな」
そんな中、かおるが舞台上へと上がって行きました。