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4時間目


「明菜ちゅわーん!」

「秋蘭ちゅわーん!」

 一組にひしと抱き合う二人の姿がありました。

「いつもご苦労様」

 禾が優しく囁きました。

 学級内はいつもの様に賑やかで、まあ一人二人は机に座って一時間目の用意をしている人もいますが、全体的には笑いの絶えない授業開始二十分前です。

「二人はいつも元気ね」

 机の上に教科書を整えながら禾が言いました。白いコートは膝の上にかけていて、椅子にきちんと腰掛けています。クリーム色の上品なセーターが何ともお姉さんです。

「だって授業が始まったら別れが待ってるねんで!今この二十分を楽しまな!」

 明菜の言葉に秋蘭もふんふん頷いています。明菜は網目の粗いセーター生地のカーデガンを着ています。暖かそうです。秋蘭は……結構ラフな格好をしています。

「いやその描写がラフすぎる」

 いいコト言うー。

「別れって、秋蘭が二つ隣のクラスに移動するだけじゃない?」

 禾はくすくす笑います。

「二つも隣のクラスに移動するねんで!」

 人さし指を立てる秋蘭。黒い石のついたブレスレッドが揺れます。

「教室の縦幅が20mとして明菜の席が一番前、あたしの席が真ん中やから、二人の距離はざっと見積って50m、2mメジャー25個分、30cmものさしなら166個と半分、10円玉なら1,786個分やで!」

「い…いつ調べたの……」

 スマホの電卓機能って便利ですよね。

「でもどれだけ離れていたって心はいつも傍にいるわ、オスカル」

「ア…アンドレ……」

 明菜の言葉にゑ頭を2時50分する秋蘭ちゃん。

「それを言うなら、目頭を熱くするよね」

 禾は天才です。

「オスカール!」「アンドレー!」

 二人が再びひしと抱きあわむとしたその時。

「タンタタタタンタタタタンタタタタタタタタタ♪」

 どこからか黄問様のオープニングテーマが流れ出しました。

「こらー秋蘭―!」

 そして一組のドアを勢いよく開けて入ってきたのは美稀でした。

「秋蘭!また私のアラームを勝手に持って行きよったなー!?」

 秋蘭のブレスレッドからは、人生楽ありゃ苦もあるさという名ゼリフが流れています。

「ああこれ印籠やったんや」

 大きさは親指くらいしかありませんが、秋蘭の右手首についているブレスレッドは、印籠をかたどった美稀のアラームでした。秋蘭は印籠アラームを手に取り、まじまじと見つめています。

「もー何で毎日あたしのアラームを持っていくねん」

「いや何で毎日アラーム持ってきてんねん」

 息も切れ切れのつっこみ担当にボケ担当がつっこみます。

「ややこしいわね」

 と一言禾。

「とにかく、もう教室帰るぞ」

 美稀が秋蘭の腕を掴みます。

「んーそうやな、アラームも鳴ったし」

 そのためだったんですか。

「それでは格さん、行きますか」

 印籠を美稀に見せながら秋蘭が言いました。

「はい、黄問様」

 明菜、禾、バイビーと秋蘭が手を振りながら、二人はタンタタタタンのリズムに合わせて三組へと帰って行きました。

「って私が黄門様ちゃうんかい――」

 遠くの方で聞こえた美稀の声は、授業開始五分前のチャイムに溶けて行きました。

「美稀も毎朝大変ねえ」

「ほんまやな!二人のやりとりは見てて飽きへんから楽しいけど」

 明菜も禾の隣に着席しました。

「ん?」

 禾の机に乗っている一冊の本を取り上げる明菜ちゃん。

「今日こんな教科書いるっけ?」

 それは明らかに教科書ではない、茶色いブックカバーのついた文庫本でした。

「ああ、それはかおるの新作よ」

「え?ああそうなんや」

 ブックカバーをはずし、表紙を見た明菜が一言。

「“100%のレアになれ”」

 どこかで聞いたような――明菜が呟きます。

「これ面白いのよ?もうすぐアニメ化されるみたいだし。声優はなんと」

 その時、本ベルが鳴りました。

「みちるとジーン♪」

「はーい席に着けー」

 一組の担任が出席簿を抱えて教室に入ってきました。

「ちょっとその話詳しく聞かせて!」

 明菜の頭には、ミニスカとフリフリ衣装がよぎりました。


「っとまあこういうことやねん」

「なるほどー」

「なるほどー、ってだから」

 禾がteaをすする音が響きました。

「なんであたしの部屋やねん」

 ソファーに座る禾の両サイドで、明菜と美稀がクッションを投げ合っています。

「たまにはさあ、禾の部屋とかいいと思うよ?」

 禾の隣に駆け寄り、秋蘭は提案を持ちかけます。

「だめよ、私の部屋は今紅茶切らしてるから」

「いや、そこかい」

 美稀がつっこみます。

「でも知らなかったわー。“みんな”がみちるとダンスコンテストに出るなんて」

「オホン」

 美稀が咳払いをします。が流されます。じゃぁー

「やっぱり美少女は一緒に踊る人をちゃんと選んでいるのね」

「ぅオホン」

 美稀が咳払いをします。が流されます。炊飯じゃぁー

「やっぱり一流の人間に相応しいのは」

「あのーわざと言ってます?」

 コンテストには出ない美稀が、腕を組んで禾を見つめます。

「あら、危ないわよ」

「え?」

 ぼふん――という音と共に、美稀はクッションを顔面に受けて倒れました。

「まあ」

 禾は悲しげに美稀を見つめています。

「んーってことは、かおるも自分の本のキャラをみちるが演じてるとは気付いてないってことやな?」

 ソファーの上であぐらをかきながら、秋蘭が言いました。

「うん、どうやらそうらしい」

 ライバルがいなくなった明菜が答えました。

「かおるは基本的に本しか興味ないから。いつもアニメ化にはあまり関わってないそうよ」

 桃が言ってたわ――と加える禾。

「そういえば桃、本当は二人とも仲がいいのにって落ち込んでたよな」

 倒れたままの美稀が言いました。

「ほんとに、二人とも意地っ張りよねえ」

 カップを受け皿に戻す禾。

「幼なじみやのに」

 視線を天井にやる明菜。

「んー、よっしゃ。じゃあ二人のために一肌脱ぐか」

 秋蘭の言葉に、わーい脱皮脱皮!と喜ぶ明菜ちゃん。

「そうと決まれば作戦開始やな。とりあえず、そのかおるの本の内容を共有せな」

 むくっと起き上がって美稀が言いました。

「大まかに言えば、夢を追う二人の若者の話よ」

 鞄から例の本を取り出して禾が言いました。

「よし、じゃあ『かおるとみちるの仲違い修復作戦』会議スタート!」

「おう!」「おう!」「おう!」

 秋蘭の言葉にみんなが腕を突き上げます。

「あ、でも桃には内緒ね。彼女は極秘任務には向いていないから♡」

 禾がウィンクしながら私に言いました。

「気のせいー by美稀」

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