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3時間目


 それからの翠園若学院はもうダンスコンテスト一色で、(われ)が優勝せむとばかりに生徒たちはダンシングの日々を送っていました。

「じゃっ、隆也さん頑張ってください」

 パイプ椅子に腰かけ、そう言ったのはかおるです。

「い……いや、あなたは何をするんですか?」

 頭を掻きながら隆也は目を丸くします。

「私が踊らんでもあんたが踊ってれば優勝まちがいなしやろ」

 かおるは体育館の壁をちらっと見ました。そこには在寺院ファンとおぼしめす女子たちの顔が、足元の通気口いっぱいに覗いていました。

「ホラーです」

 そうかも知れません、隆也くん。

「このダンスコンテストは観客が審査員や。我が学院トップクラスのあんたのカッコよさで、女子どもの清き一票を全部あたしのモンにするんや!」

「“あたしのモン”って……」

 隆也はその場に座り込みました。

「でもさあ、女の子の票を集めたところで全体の半分くらいじゃん。それに……」

 隆也も体育館の壁を見ました。ジーン様ぁという女子たちの溜息混じりの声が聞こえます。

「それに何やねん」

「いやね、女の子全員の票を獲得するのは無理だと思うよ。秋蘭に票を入れる子もいっぱいいると思う」

「そう……問題はそこや」

 かおるは腕を組みます。

「それに秋蘭なら男子の票もいっぱい獲得できると思うな。彼女は男女関係なく人気があるからね」

「むぅ……」

 かおるは黙り込みました。

「でも秋蘭はみちると組むみたいだから仕方ないよ。俺たちは俺たちでやるしかないよね」

 そう言って微笑む隆也に、少し頬を赤らめるかおりちゃん。

「それはお茶です」

 あ、すみませんゆかりちゃん。

「それはふりかけです」

 あ、申し訳ないです、かおるさん。

「……うん、そうやんな!じゃあ早速練習」

「じゃあ早速、僕は仕事へ行ってきまーす!」

 ビシッと立ち上がり、敬礼をする隆也くん。

「はぁ!?」

「いやぁ実はこの後大事な声優の会見があるんだよねぇー。新しく始まるアニメの歌の振り付けを初お披露目する機会なんだけどー、これがまたいい曲でさぁー、あっみちるも一緒なんだけど、彼女の衣装がこれまたちょーかわいくってぇぇー!こんな時にしか見れないよあんな姿は!かおるも一緒に来る!?……かおる?」

 かおるの姿は体育館の入口にぽつっと小さくありました。

「お疲れっしたー」

 体育館に彼女の声が小さく響きました。


「絶対に。嫌」

「えー」「えー」

 小さな子供のように明菜と秋蘭はふくれました。

「絶対に優勝まちがいなしやのに!」

「ほんまやで!もったいなー」

「誰がこんな衣装着るか!!」

 そう吠えたのはみちるです。怖いよぉーと呟いて二人は抱き合います。

「この学院トップクラスの美女がこんなミニスカはいてフリフリ衣装でプリプリ踊ったら、絶対全男子はメロメロパンヌのメロメロパンツやのにぃー!」

「明菜、ちょっと意味わからんよ」

 秋蘭がなだめます。

「これは仕事やからしゃーなしでほんまにしゃーなしでほんまにほんまにしゃーなしで着てあげる衣装やねん」

 みちるは衣装をトランクに無理やり詰め込みました。

「だから今度のダンスコンテストでこれ着て踊るなんて言語道断!そんなことせんでもワシらは勝てるねんから」

 トランクのチャックを閉めて、みちるはふぅっと息をつきました。

「何でそんなに自信あるん?」

 秋蘭が問いかけます。

「そんなん自分がおるからに決まってるやろ」

「えっ!みちる自信過剰!」

「ちーがーうー!自分っていうのは秋蘭のこと!」

 明菜は秋蘭の背後に隠れました。ぶるぶる。

「何であたしがおったら優勝できるん?」

「あのねー……」

 みちるは長机に腰掛けました。足も腕も組んでいます。

「この学院で一、二を争う人気者がよう言うわ。秋蘭のファンが全生徒三百人の中にどんだけおると思ってんねん」

 頭を抱えるみちるさん。

「そりゃそーやんな!秋蘭はおもしろいし、優しいし、ほんでもって寝ぐせすごいし!」

「ずこっ、……それはどうなん?」

 秋蘭は髪の毛を撫でつけました。

「まあそれは置いといたとしても、ダンスコンテストで秋蘭に投票する奴は相当多いこと請け合いやな」

 みちるは多目的室のドアをちらっと見ました。そこには秋蘭ファンとおぼしめす女子たちの顔が、小窓のすりガラスいっぱいに以下略。

「ホラー以下略」

 そうかも以下略。

「いや、いっそのこと全部略そうよ」

 そうですね、秋蘭さん。

「じゃあ、そういうことで二人ともダンスの練習がんばってね。私は仕事行くから」

「えー!?」「えー!?」

 明菜と秋蘭の声が長三度の音程で響きました。

「きれいー」「きれいー」

 二人の声が長六度の音程で響きました。

「ハーモニー」「ハーモニー」

 二人の声が増八度の音程で響きました。

「不協和音!」「不協和音!」

「あのー、よくわからないしもう行ってもいいですか……?」

 トランクを担いだみちるが言いました。

「あーだめだめ!だってまだなんにも決めてないのに!」

 明菜がみちるの服を引っ張ります。

「だって今から声優の会見があるんやもん。行かんでいいんやったら喜んで行かんよ。こんな衣装着させられて……」

 しかも隆也の前で……――みちるの顔はなまはげのようです。怖ぇー。

「何で衣装着るん?」

「新しいアニメのオープニング曲の振り付けを発表するんやと。ワシどんなアニメなんかもまだ全然わかっとらんがな。振りもよくわかってないし」

 いやそんなことでいいんかい。秋蘭の問いにみちるが答えました。

「会見ってそんな無知識でいいの?」

 明菜が尋ねます。

「いいのいいの。アニメのポイントはマネージャーから教わってるから。“君はウェルダムでもミディアムでもない、100%のレアだよ”」

「は?」

 とても真剣な顔の秋蘭ちゃん。

「まっ、そういうことやから。じゃっ期待してまっせお二人さん!」

 そう言ってみちるは部屋を出て行きました。

「何やあのフレーズは」

「ところで作者さん」

 あ、はい何でしょうか明菜さん。

「“不協和音!”の時の音程はどうだったんですか?」

 んー、あれは増四度ですね。

「微妙ー!」「微妙ー!」

……きりがない。


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