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2時間目


「ほんとに今日の険悪なムードといったらないですよ」

 桃がソファーにちょこんと座りながらうつむきました。

「桃は気にしすぎやねんて。二人のけんかなんか日常茶飯事やねんからほっといたらええねん」

 その隣に腰かけた美稀が彼女の肩を優しく叩きました。

「そうよ、時間が経てばまたすぐ仲直りするんだから」

 美稀の隣から禾が桃を覗き込みます。

「だって……だって……」

「あのー皆様お取り込み中悪いんですが」

 発言した秋蘭の上を、黄色のクッションが弧を描きました。

「私の部屋はネットカフェでも漫画喫茶でもきんぴらのたまり場でもありません」

 そして黄色のクッション顔面に激突。

「そりゃきんぴらのたまり場じゃないやろ」

 と、漫画片手に美稀。もう三冊目。

「それを言うならちんぴらよねー」

 と、teaを片手に禾。一口すすり、前にあるテーブルにカップを置きます。

「どうでもいいんですけど勝手に人のもの利用するのやめて下さい」

 黄色のクッションが顔面に当たった秋蘭の顔は心なしか黄色く見えました。

「それは黄色人種だからです」

 だそうです。

「このクッション好きやねん!もっといっぱい投げたいー」

「ここは修学旅行の枕投げ大会の会場でもありませんよ明菜さん」

「えっそうなんですか!」

 明菜はクッションを振りかざしながら驚いた顔をしてみせました。

「ってか……何でいっつもあたしの部屋やねん」

 ジャイアニズムな一同を見回しながらささやかな疑問をぶつける秋蘭。明菜はフローリングに座っていて、机を挟んだ反対側のソファーに他に三人が腰かけています。

「だって秋蘭の部屋は他の部屋より一回り広いねんもん」

 三冊目の漫画を読み終えた美稀が、本棚へと歩を進めながら言いました。

「そうそう!吹き抜けで二階もあるしね」

 明菜の言葉通り、みんなが今いる一階には、二階へと続くはしごが架けてあります。しかし階は離れているものの、吹き抜けのために一階と二階を仕切るものは何もありません。一階からは二階が、二階からは一階がきれいに見渡せます。

「これは本来二人用の部屋やからみんなより広いだけであって、部屋の数より学生が増えたら誰かと一緒に住まなあかんねんで」

 ほらっと秋蘭はその浮いた空間にある二階のベッドを指さしました。他にも使われていないタンスなどの家具があります。

「部屋が広いっていいわねー」

「禾の部屋は殺伐としてるから広く見えるよ」

 本の背表紙を次々指でなぞりながら美稀がつっこみます。

「あらそうかしら」

 最後の一杯を飲み終え、首をかしげる禾。

「そういう美稀も部屋広く見えるやん」

「明菜は所狭しと物置いてるもんな」

 大掃除したくなるわと美稀が呟きます。すると桃がぴょこんと立ち上がりました。

「ちょっと皆さん!かおるとみちるのことで相談しに集まったのにっちゃんと二人のこと話しましょうよ!」

 みんなが一斉にしんとなりました。初めに口を開いたのは禾です。

「そういえば……」

 神妙な面持ちであごをつまみます。

「そういえば?」「そういえば?」「そういえば?」「そういえば?」

「かおるとみちるの部屋って入ったことないわよね」

 ぽかんとする桃。美稀がドントマインドと声をかけます。

「確かに!二人の私生活は謎やなー」

 秋蘭がソファー後ろのベッドに座ります。

「いや、でもかおるの部屋は本ばっかやろー」

 クッションを抱きしめながら明菜が言いました。

「みちるの部屋の机には隆也君との写真が置いてあったりするのかしら」

 それはないないと一同禾に反論します。

「隆也は20枚でも30枚でも飾って欲しいって言うやろうけど、絶対みちるは承諾せえへんな」

 美稀の意見にみんなが首を縦に振りました。

「明菜は彼との写真飾ってる?」

「えぇーもう禾は恥ずかしいこと聞いてくるなー」

 優しくクッションを投げつけた後、ほっぺに両手を合わせます。

「んー飾ってはないけど、ドア開けてCDの山を越えて洗濯竿をかいくぐった先のフローリングに置いてる」

 え?床?――心の中で一同呟きます。

「そこくらいしか置くスペースないの……また今度整理しないと」

 彼女の部屋には物質が溢れ返っているようです。

「みちるも素直になればいいのにね」

 禾が呆れ口調で言いました。

「あの二人も仲いいんか悪いんかわからんよな」

 お目当ての漫画を小脇に抱え、美稀がソファーに戻ってきました。

「でも今みちると隆也は同じアニメの声優してるって言ってましたよ」

 桃がまたちょこんとソファーに腰掛けて言いました。

「みちる……表情には出さないけど、声が嬉しそうでした。二人とも、ほんとは仲良しなのに」

「大丈夫、わかってるよ」

 秋蘭が薄く微笑みました。

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