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1時間目


 お昼時の翠園若学院。学生はみんな校舎内の掲示板に群がっていました。

「ダンスコンテストかぁ」

 苦虫の様な顔をして言ったのは、運動おんちの(ささ)(じょう)さんでした。

「私は苦虫ではありません、アイム ノット ニガムシィ」

 そう言いながら彼女は黒いカーデガンの前をかき合わせます。

「苦虫は噛み潰すものよね」

 白のロングコートを着た山内(やまうち)さんが言いました。

「そうやで、苦虫の顔とかわからんし」

 腕を組んで笹城さんは賛成しました。

「あのー、苦虫ひきずりすぎてませんか?」

 人間がひしめき合う中で埋もれそうになりながら黒崎さんが言いました。

「おう、桃来てたんか」

 黒い肩までの髪に低音ボイス。そしていつもと同じ黒いジーパンをはいている彼女こそ、翠園若学院のスパイと疑われている笹城美稀(みき)です。

「はい、なんとかお二人の元までやって参りました」

 くノ一のような台詞の後で、桃は美稀のカーデガンにしがみつきました。

「人混みに流されないようにね。ところで……いつもの二人は?」

 さらっときれいなこげ茶髪をなびかせ、黒のストッキングに丈がコートに隠れる程度のフワフワスカートをまとった彼女こそ、翠園若学院の天使と云われている山内(ひいず)です。

「ああ……。お二人はまた……その」

「あー、またけんかしとんねんな」

 伸びますと美稀が呟くと桃は謝ってカーデガンから手を放しました。

「本当にけんか好きよねえ、二人とも」

「別に好きな訳じゃないでしょう」

 いやそうかもな――美稀が自分の意見に疑いの声を漏らしました。

「まあ……けんかする程仲がいいって言いますしね」

 こけそうになりながら桃が言いました。

「まあね」「まあね」

 美稀と禾は顔を見合せてひとつ溜息を漏らしました。

「意地っ張りはかなわんわ」

 およそ三百人の学生の先頭、掲示板の真ん前で美稀が呟きました。


所変わりまして学院内の食堂。

「いやぁー今日はえらい空いてるやん」

 彼女たちの他にはひとっ子一人見当たりません。

「どうしたんやろなぁ、今日は断食の日やったかなぁ」

 彼女たちの前には二つのカツ丼がありました。

 注文した食べ物を受け取るカウンターではいつもの様におばちゃんたちが動き回っている姿が見えました。沢山ある長テーブルには、硬すぎず柔らかすぎない椅子が均等に並べられています。その一番カウンターに近い椅子に、二人はテーブルを挟んで座っていました。

「断食の日?この学校ってイスラム教やったん?」

 カツを一切れ口にした明菜が言いました。

「いや、豚がメニューにあるから違うかな」

 カツを見つめて秋蘭が言いました。

「まあたまにめっちゃ空いてる日あるもんなっ、ラッキーラッキー」

 明菜が呟いた直後、食堂の戸を勢いよく開けて誰かが入ってきました。

「よお!お二人さん!」

「ああ、どうもお二方お揃いで」

 食堂に入ってきた二人は競う様に食事中の二人の前に駆けつけました。

「はあはあ……やっと見つけたで、明菜、秋蘭。あんたたちに頼みがあるんや」

 息を切らしながら手を机に突きながらこの冬のさなかに汗をも輝かせながらみちるが言いました。その隣ではカツ丼の湯気で、見た目は子ども頭脳は大人みたいな眼鏡になったかおるがぜえぜえ呼吸をしています。

「あ……はい。何でしょうか」

 突然押しかけてきた二人の気迫に押されっぱなしの二人が言いました。

「ぜえぜえ……私とダンスのグループを組んでくれ!」

「は?」「は?」

「いやいや、このみちる様と組むべきやで!」

「え?」「え?」

「あんたには隆也がおるやろ」

「いや、奴とは組まん」

「何でやねん」

「何でもじゃ」

 何でもじゃって何でもじゃもじゃ?二人は口論を始めました。

「あのー、最終的に私たちはどうしたら……」

 しばらく口論を眺めていた明菜が言いました。

「よしっ、決まり!隆也はお前にくれてやる。だから明菜と秋蘭はワシと組んでくれ」

 人指し指を名前通り二人に向けてみちるが言いました。

「いや、勝手に決めんなよ」

 かおるがつっこみました。

「じゃあ、何の話か分からないですけど、私たちはみちる側に付きます」

 カツ丼を平らげた秋蘭が言いました。ナフキンで口を拭いています。

「ちょっと待てよ秋蘭」

 白い眼鏡のままでかおるが言いました。

「じゃっそういうことで!隆也にもよろしくー」

 その時、遠くの方で声がしました。

「ハニー、ハニー、こっちを向いてよハニー」

「……あんな奴とは組みたくない」

 眼鏡を拭くかおるでした。

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