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朝の学活

 日本の何処かにあるという幻の学校――翠園若(みえわか)学院。そこは、とびきりのエンターテイナーを目指す若者が集う、YKW(夢と希望と笑い)に溢れた緑豊かな学園である。


 まるでジャングル、熱帯雨林と思われるような森の中に、それこそベルサイユ宮殿を思わせるような大きな建造物がありました。広大な庭を構えたその敷地には、細く長い小道が続いています。その小道を急いで走っていく姿がいくつも見えました。彼らは皆授業開始のチャイムを聞きながら、「最後の音が鳴り終わるまでがセーフだぜ!」と心の中で豪語し、ベルサイユ宮殿に吸い込まれていきました。

 その二十分前。

明菜(はるな)ちゅわーん!」

秋蘭(あきら)ちゅわーん!」

いつもの様に大きな声が廊下中に響きました。

「こらー秋蘭待たんかーい」

続いて性別不詳の声が聞こえました。

「いつもご苦労様」

続いて女神の様な小さな声が聞こえました。

「相変わらず元気やなぁ」

 机に頬杖を突きながらそう呟いたのは、世界三大美女は無理でも日本三百大美女にはランクイン出来そうな美少女でした。

「元気が一番ですよ」

 美少女の後ろの机に姿勢正しく座っている女の子が言いました。

「まあ限度があるが」

 姿勢正しく座っている女の子の隣で、目線を本ばかりに落としている眼鏡のショートカットが言いました。

 この三人が所属しているのは、翠園若学院の五組です。この学園に学年という概念はありません。誰でも何歳でも、入学が認められれば通うことが出来るのが、私立翠園若学院の美点です。ちなみにここの奨学金制度には目を見張るものがあります。それぞれが立派なエンターテイナーとしての功績を残せば、それに応じての授業料免除が許されています。完全寮制、食堂食べ放題ばっちこーい、決して広き門ではないですがあなたも是非我が翠園若学院へ!――以上、学園PRでした。

「確かに限度はある。でもまぁワシにあんな元気はないわ」

美少女春日浦(かすがうら)みちるは、長いストレートヘアーをなびかせて後ろを振り向きました。

「みちるさんは落ち着きがありますから。大人の女性って感じです」

微笑みながらそう言ったのは、真っ黒な髪が麗しい黒崎(くろさき)(もも)です。

「大人の女性?」

 一言呟いてページをめくったのは、本の虫こと神ノ崎(かみのざき)かおるです。

「なんや何か引っ掛かるんか?」

 みちるは首を傾げて目を細めました。かおるを睨む目はタカのそれそのものです。

「まあまあみちるさん」

 桃は両手をパタパタしながらみちるをなだめます。

「別に何も」

 かおるは口だけを動かし、何の表情も変えずに言いました。

 その時、いつもの様に嵐の男がやってきました。

「みちるちゃーん!!」

 きゃーっと女子たちのスカートが翻るようなつむじ風を起こしながら、学校一のイケメンと称される男がやってきました。

「やべっ」

 みちるは急いでかおるの机の背後に隠れます。

「みちるちゃん!大ニュースだよーん!!」

 彼は五組のドアを勢いよく開けて叫びました。すらっとした八頭身、少し長い襟足に、首にした茶色のネクタイが似合う彼こそ、白馬の王子、在寺院(さじいん)隆也(りゅうや)その人です。そのダイヤモンドの様な輝く笑顔に、クラスにいた女子たちはとろけるチーズです。

「あっ、おはようございます隆也さん」

 やはり微笑みを絶やさずに桃が言いました。

「やあピーチちゃん!僕のマイハニーを知らないかい?」

 彼の甘いマスクに、『僕』と『マイ』が被っているなどと気付く者は誰もいません。女子たちはみんなときめきで胸が張り裂けるチーズです。安心して下さい。作者に、もうチーズネタはありません。

「ああ、あ」

 何を隠そう、桃は嘘をつくのが大の苦手です。

「あああみつる(・・・)さんらら~おトイレじゃないれすかねえ~」

 名前が変わっています。ららって何ですか。ちょっとした歌じゃないですか。

「えートイレか……。何番目に入ってるの?」

 知らん。っていうか知ってどうする。

「ぷぷぷプライバシーの侵害だすよ!」

 すみません、故郷(おくに)はどちらですか。

「大人の女性にはいろいろあるんじゃないか?」

 おお、急にまともな会話が入ってきてびっくりしました。かおるがページをめくりながらそう言いました。

「っておい!やっぱり引っ掛かってたんやんけ!」

 もぐら叩きのもぐらの様に顔を出したみちるがつっこみました。

「みちるちゃーん!!」

 どが。白馬の王子様はあっという間に制裁されました。みちるちゃん恐るべし。

「はあ、全くこんな女の何処がいいんだか」

かおるちゃんそれは言っちゃだめですよ。ってかそのページもう読んだんですか?次のページ行くの速くないですか?

「幼稚園から連れ添っといてワシの魅力がひとつも分からんのか?」

 みちるがかおるの顔を覗き込みました。でもかおるの目には本しか見えていません。

「相も変わらず鈍感やな」

 ページをめくるかおるの手が止まりました。と思ったらパラパラパラパラめくり出して、

「うおお!!お前の良さなんか死んでも分かってたまるかぁー!!」

 かおるちゃん、本を机に叩きつけ、立ち上がると怒鳴りました。

「こちとら願い下げじゃぁー!今日こそお前を退学の刑に処したるからなー!」

 それはこっちの台詞じゃぁー!――言い争う二人の傍らで気を取り戻した隆也がふと呟きました。

「みちるちゃん大ニュース……今度のダンスコンテストで優勝したグループには、ご褒美として校長が何でも願い事聞いてくれるって……だから二人の子供(妄想)のために」

「その話のったー!!」「その話のったー!!」


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