出逢い
面接が終わった後、料理センス皆無の吉秋は夕食のおかずを買うために、食欲をそそる香りが漂う惣菜店の並ぶ一角を訪れた。
時間が時間なだけにどの店にも主婦達が押し寄せていた。
「うぇー、人多過ぎだろ……」
群衆慣れしていない吉秋はつい内心のぼやきを口に出す。
それでもなんとか夕飯をゲットした。だが、帰る途中の交差点でそれは起こった。
吉秋がが群集に混じって交差点を通過していた時のことだった。
突然、交差点を歩いていた人々が悲鳴を上げてなにかを避けるように真っ二つに分かれ始めた。
何事かと周りを見回すと大型トラックが赤信号にも関わらずこちらに突っ込んで来ていた。
吉秋も慌てて後ろに下がったが、気がつくと、前を歩いている女性がすぐ横まで来ているトラックに気付かない様子でぼんやりと歩いていた。
「危ない!!」
吉秋が叫ぶと女性はやっと気付いたようで、弾かれるようにトラックを見た。
しかし、もう時間がない。
吉秋はほぼ反射的に片足を前に出して、女性の腕を掴んで思いっきり自分の方に引っ張った。
彼女の体は思ったよりずっと軽く、簡単に吉秋の方に倒れた。
吉秋は彼女の身体に負担がかからないように抱き止め、片足を軸に後ろに下がってすれすれの所でトラックを遣り過ごした。
その後トラックはガードレールに衝突してようやく止まった。
今になって冷や汗が首筋を伝う。
「…あっぶねぇ……大丈夫?」
すぐ隣で吉秋の服の裾を握っていた女性に聞いてみる。
しかし彼女は聞いておらず長い髪の間から蒼白な顔で煙を上げるトラックを茫然と見つめていた。
「居眠り運転ですかね?」
「え?」
彼女はようやく吉秋に気付いたようで吉秋の顔を見上げた。
すると彼女は顔を赤らめるなど女性らしい反応はせず、対象的に蒼い顔をして、何事もなかったように吉秋の服を放した。
別に他の反応を期待していた訳ではないが、あまりにも想像に反していて正直驚いた。
「…ありがとう…ございました………」
生気の無い顔でそれだけ告げると、彼女はふらふらと群集の中に消えて行った。
彼女の瞳はずっと陰ったままだった。