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十始族 ネオ=サピエンス  作者: 天照童子(サン・キッド)
第一部 第一章 神亀導師 ウラジ編
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5 地図 

 俺はミゼールの過去を知らない。彼女は俺よりも10年以上は長く生きている人間だ。どのような過去や経験を持ってして、あのように俺を引き止めたのか。ただ分かることは1つ。それも彼女の優しさだったのだろう。同居人と言う以外にない関係だった俺を、彼女は心から心配してくれたのだ。見た目からは考えられない慈悲に、俺は感謝していた。


「じゃあ、まずちずをみせて」

「地図?」

俺はアタルがある地点を示そうとしているのを汲み取った。だが、この家の中に地図はあっただろうか。

「地図ってどこの地図だ? この辺りの地図ならあるぜ」

「せかい」

世界地図。そんなものは無い。俺が知る限りこの土地にも世界全てを示した地図はない。とは言え、俺の記憶の中には世界地図の形が残っていた。

 世界の北半球には大きな大陸が2つあり、その間を2つの海洋が隔てている。南半球は3つの大陸があり、3つの海洋が隔てている。それを絵で示そうと思うと、実物に比べて記号的になってしまう。アタルが世界地図を必要としたのは、それほど遠くを目指しているからだろう。

「世界地図は無い。もしどこかを示すなら簡単にでも絵を描くが」

「それでもダイジョウブ」

 俺は道具入れの木箱から1枚の紙と鉛筆を取り出した。テーブルの上に紙を置き、その上に世界の地図を描こうとした。

「わたしが」

鉛筆が浮き上がった。またしてもアタルの念力が発動した。鉛筆は紙の上に線を引いていった。黒い線が精密に図形を描いている。やがてそれは世界地図になった。俺が知っている世界地図に、ほとんど相違ないものが描かれた。

「す、すっげえ。鉛筆が浮いているのもすげえが、世界地図を覚えているのがすげえ」

ミゼールの感嘆に対して、アタルは当然と言わんばかりに無反応であった。

「わたしがいたのはここ」

アタルは紙に描かれた地図の右側を鉛筆で示した。そこは北方の大陸の2つ目だった。

「……テキサス」

俺は突如頭の中に思い浮かんだ言葉を口にした。アタルが指した国は確かアメリカ合衆国で、テキサスという地はその中央部にあったはずだ。

「ここからシュンカンイドウした。わたしはそこからせかいのはてをめざしてきた。ここはどこ?」

アタルはこの土地が世界のどこかは分かっていないようだった。

「ここだ。まあ確かに世界の果てかもな」

ミゼールが指したのは俺の記憶の中にある、ユーラシア大陸、ロシア連邦、東部ウラジオストクであった。だが今はウラジになっている。

「わたしのほかにあとふたりのジュウシゾクが、せかいのはてにきているはず。まずかれらにあうといい」

アタルは空中に浮いたペンをくるくると回している。どうやら、彼女なりに計画や段取りがあるようだ。

「まずはその2人を探すのだな。どこにいるか目星は付いているのか?」

俺はアタルに尋ねた。アタルは何も答えず目を瞑った。

「おい。アタル。導師が聞いてんだろ。返事しろよなあ」

「えっと、ネンワツウシンでイバショをおしえてもらう。それにはすこしじかんがかかる」

「ネンワツウシンとは?」

またアタルの口から新しい言葉が発せられた。アタルはそのネンワツウシンとやらで、残りの2人の居場所を知るらしい。そんなことが出来るのだろうか。もし出来るのだとしたら、彼女の計画も不毛ではない。

「時間とはどのくらいだよ?」

「ふたりがほんとうにせかいのはてにきていたなら、はやくていちじかん。おそくてさんじかん」

「そうか。思いのほか早いのだな。よし、そうと分かれば、俺は早速準備にかかるよ」

俺は紙袋から紙幣の百枚の一束を取り出した。紙袋はベッドの上に置いた。

「わたしはここでネンワツウシンをおこなうから、じっとしていなくてはならない。イバショがわかったらそこまでいくホウホウをかんがえる」

「わかった。それじゃあ、ミゼール。俺は出かけてくる」

「おう。金、盗られねえようにだけ気をつけろよ」


 俺はやや分厚い白の外套を身に付け、その内側にあるポケットに紙幣の束を入れた。そして1人で家を出た。具体的な計画は帰ってきてから分かることだ。

 俺はまず、旅に必要な物品を買いに出かけることにした。



次回 6 提案

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