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第一章 二人の物語 4


 4


 ろくな距離を歩けない。食べられる木の実を与えれば味が薄い、と言い、川を見れば水浴びをしたい、と言う。

 アンヌフローラのそんな様子を、ダスティはどこか不安な気持ちで見守っていた。

 彼は木にもたれ、川で水浴びするアンヌフローラを背に、独り言を呟いた。

「まずいな……」

 "それは"、もう近くまで、来ているようだ。

「ちょっといいかな、お姫様」

「はーい?」

 木に押し付けた背中越しに声を掛けると、どこか間の抜けた声が返ってくる。

「そろそろ出発したいんだが」

「まだだめー」

 これだよ。と、ダスティは静かにため息を吐き出した。

 腹が満たされ、水浴びをしていることでか、アンヌフローラの言動には随分と余裕が見られるようになっていた。しかし……。

(追っ手は徐々にその探索範囲を広げているだろう。それに……)

 ダスティはアンヌフローラに悟られぬように、静かに剣を抜いた。そして、川とは反対の方向へと僅かに歩くと、それは居た。

 地に四本の脚を立て、巨大な体躯に血の様に赤い毛皮を纏い、尻尾には一本の剣のような針。魔獣、マンティコアだ。

 どこか人のそれに見えなくも無いその顔は、怒りに満ち溢れ、喉元から低い唸り声を上げていた。

 ダスティは無言でそれに相対すると、剣の切っ先で地面に素早く神の文字を描いた。

「――――」

 ダスティが何事か唱え始めるのと同時に、マンティコアがダスティの側に瞬時に肉薄し、既に振り上げられていた尾が振り下ろされた。

 それを辛うじて剣で受けると、激しい金属音が鳴り響き、剣越しにダスティの腕に衝撃が加わった。

 その勢いはダスティを軽々と吹き飛ばし、彼は川のある開けた場所に転がり出た。

 地面を転がりながらもすぐさま起き上がった彼は、唱えていた呪文の続きを叫んだ。

「――パットンよ! そいつを飲み込め!」

 鈍い地響きが大地を伝わり、木々の間から見えていた巨大な影は消失した。

(間に合ったか)

 やれやれ、と安堵をの吐息を吐くダスティの背に、黄色い悲鳴が突き刺さった。

(しまった! まだ仲間が居たか!)

 ダスティが目を尖らせて悲鳴のした方を振り返ると、川にさらさらの金髪が浮かんでいた。いや金髪だけではなく、その下に顔半分が見え隠れしている。

「あ」

「な、なんなんですか! 剣まで持って! や、やっぱりそういう魂胆だったんですね!」

「え、あ、あぁ……」

 なんとなく罰が悪そうに水で歪む白い物体を眺め、そしてそっぽを向いた。

「いや、魔獣に襲われてると思って助けに着たんだけど、気のせいだったらしい」

「な……、襲いに来たのはあなたのほうじゃないですか! ちょっと、逃げんな。この、変態!」

(どうやら、呪文の事は気がついてないな)

 安堵の溜め息を吐きながら、鳴り止まない罵倒を背中で受け流しながら、元居た場所に戻る。マンティコアは、もう影も形もない。

(さて、この事態をどう収拾したもんか)

 喚き立てる彼女をどうなだめるか。彼は頭を抑え、座り込んだ。

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