第八章 女王と魔人 6
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人知を超えた戦乱は、そう長くは続かなかった。
一人の魔人が斃れる事で、その全てが幕を閉じる。
「ダスティ!」
アンヌフローラとエリックが、悲鳴を載せてそう呼んでいた。
「馬鹿やろう……。なんでそんな所にいるんだ……」
無数の刃の生えたその背中が、喉を詰まらせた苦しげな声で彼女らに語りかけていた。
「どうしてって……、わたしはダスティが……!」
「愚かな。人間風情を救うために己の身体を盾にするとは。貴様の神殺しの念とはその程度のものだったのか」
神々の一人のその発言に、ダスティは目を尖らせて睨み付けた。
「愚か、だと? 元は人間に過ぎない神々が、人間"風情"だと?」
「そうだ。我らは我らにしか成せぬ事をする為に、神となった。だが貴様はどうだ。目先の事柄に囚われて、親しき者達の為に命を落とす。所詮は、人間だ」
「……そうか、ならば、なってやる」
「なに?」
「神に。神にしか成せぬというのなら、なってやる。神殺しを司る神にな!」
ダスティが目を見開いた。同時に彼の足元に赤と黒の闇が現れ出る。
「まずい! 逃げられるぞ! 追え!」
神々は各々に、ダスティへと武器を構え、しかし、近づきはしなかった。
「どうした? 来いよ。そうすりゃ地獄へ引きずり込んでやるのになぁ」
足踏みする神々の合間を駆ける女が一人。
アンヌフローラは叫んだ。
「ダスティ!」
「アニーか。無事ヴァルテックに辿り付けたんだってな」
「ダスティ。……どうしてこんな事に」
「どうもこうもない。俺が望んでこうなった」
「ダスティ。わたしね……」
「――時間だ」
闇が、ダスティとその周辺を飲み込んで、地下へと落ちていく。
「ダスティ! 待って!」
ダスティはただ、見上げていた。頭上へ遠ざかる少女の姿をただ見つめ続けていた。




