第八章 女王と魔人 2
2
「輝きの女王と称される不遜な女が、ブルレックへと進軍しているようだ。彼女が率いる輝きの軍勢には、ヴァルターの騎士達が徐々に合流し、ブルレックへと到達する頃合には相当の軍量が備わっている事だろう。それにその軍団の背後には神々の影がある」
ハーバートのその言葉に、ダスティはひとつ頷いた。
「自業自得、だな」
「……どういう意味だ」
「魔人などと手を組まなければ、神も亡国の王女を担いで国を再興させて対抗しよう、なんて考えなかったろうよ。主神の中でもリーダー各だったパットンが神々の方針を定めていた。奴は魔人との戦いに人間を巻き込もうとしなかった。だが、それに火をつけたのはお前らさ」
全ては仕組まれていたのだ。戦争の影に蠢いていた魔人の暗躍に、それに対抗した神々の策。
ダスティは小さな椅子から立ち上がった。
そこはブルレック城の一室だった。部屋には高価な調度品が並べられ、小柄な人間が一人納まるだけのレース付きベッドが優雅に納まっている。そのどれもが、花柄の模様が施してある。
どこか、女性が住んでいた事を連想させるその部屋から一歩外へでると、バルコニーからかつてのブルレック王都の光景が一望できた。
吹き寄せる爽やかな風を感じて、ダスティは思う。
(城から外を眺めるのが趣味だ、と言ったか)
緑の農場と、白い壁と赤い屋根の家々。のどかで、のんびりとした街並み。しかし、戦争の荒廃でか、緑には茶が差し、家々は焼け焦げているものもある。
(いい、景色だったのだろうな)
ダスティの感慨など知らぬハーバートが、無遠慮に言葉を紡ぐ。
「貴様には働いてもらわねばならない。サヴァス様の魂を宿した貴様であれば、この地に迫る軍勢にも十分対応できるはずだ」
「……勘違いしているようだが、俺はこのくだらん戦争には参加しない」
「なに?」
「むしろアニーが国を取り返すというのなら、加勢してやらねばならないくらいだ」
「……!」
今にも飛び掛ってきそうな険しい表情のハーバートを涼やかに無視して、ダスティは続ける。
「輝きの軍勢とやらの背後には、手引きしている神が何柱か居るのだろう? 俺は、それを殺す。その間、お前らにはその輝きの軍勢の注意を引いてもらわないとな」
「貴様こそ、何か勘違いをしているようだが――」
「――サヴァス」
怒りが見え隠れするハーバートの言葉は、ダスティの一言で蹴散らされた。
「お前らは知識の神サヴァスに従うのだろう?」
ハーバートが憤怒の形相でダスティを睨み付けている。
ダスティは構わず自分の胸を親指で指差した。
「ならば、俺に従え」
その部屋を悠々と立ち去るダスティの胸に、言葉が湧き出る。
(まったく。苦労して築き上げた我の成果が……)
「バルトロメオの事か? 代わりに神を殺してやるんだ。喜んで俺に差し出せよ」
ダスティは誰も居ない廊下を歩きながら、見る人が居れば立ち竦むような、凄惨な笑みを浮かべていた。




