第七章 降魔 2
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剣が突き刺さる直前に、サヴァスは腕を伸ばしていた。爪が剣と入れ違いになり、造作なくダスティの胸へと突き刺さる。
「愚かな。これが死してまで行う事ですか」
サヴァスの言葉に、ダスティは血を噴出しながら笑った。
「死……? ハッ! 死、なんてな、信仰を奪われ、ただ命だけを残された、この俺に……!」
言いながら、ダスティは剣をえぐる様にして押し込む。剣がサヴァスの胸に食い込んでいくのと同じくして、ダスティの胸にもまた、サヴァスの爪が食い込んでいく。
「たかが魔人の一人と相打ちになり、その命を終えるのですか。神を滅ぼすと言いましたが、大言壮語とは良く言ったものだ」
ダスティは何かを言い返そうとして、多量の血を吐き出した。
「ダスティ!」
誰かが、彼の名を呼んでいる。
「だが、死ねば、自由に、なれる」
途切れ途切れに彼は言う。そして声に出し切れない思いを頭で浮かべる。
(死ねば、神の意思なんかに従わずにすむ)
「死しても、自由などない。地獄にあるのは荒廃した世界と、生命への渇望だ。ましてや、パットンの居るこの世界では地獄へ行く事も許されないでしょう」
それを聞いたダスティは顔を歪め、涙を浮かべた。
「……メイ、エリン。……何故だ。何故、俺を、捨て……たんだ」
ダスティの身体が前のめりに倒れた。サヴァスがそれを受け止める形になり、彼は事切れたダスティを抱え、星空を見上げた。
瞬く星々と、その星々の間を時折流れる流れ星。
「神よ……。たとえこの世の全てを操ろうとも、定められた未来は変えられない」
呟くサヴァスの首が、吹き飛んだ。曲刀を振り下ろしたギルフェウスが背後に立っていた。
弓矢に射られ、神々の力でその身を潰され、魔人の敗北で戦いは終わった。
そうして、ただ一人の犠牲者、死した男の下に神々と人々は集う。
彼を抱き抱えた慈愛の女神が言う。
「海と安らぎの神メイエリンよ。どうかこの者に永遠の安らぎを与えん事を。この者の魂が、パットンではなく、あなたの元へ漂わんことを」




